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騎士

「なぁなぁ、姫!おれ今日も格好いいだろ?」


昼休みになると騎士達は訓練所に設置してある休憩所で身体を休めている。朝から夜まで激しく動くので腹も空く。

エフレシアはメイド達と一緒に昼食を運んでいた。姫の仕事では無いのだが彼女は進んで行っている。


「ノルンはいつ見ても格好いいぞ。手合わせしてるの見てたよ」

「本当?やばっ、嬉しい……!」


ノルンは自他共に認めるナルシストでエフレシアが来る度にその整った顔立ちを見せに来る。本当に綺麗な出で立ちをしているので否定する者はいない。


「結構長めにやってたね」

「あぁ……ククルとしてたからさ。あいつ、容赦ねぇ」

「ランもこの間やったって言ってた」

「もうこの国の騎士団の中じゃ、あいつより強い奴居ないよ」


他の騎士達もガッツリやられたらしく、魂が抜けたみたいな表情をしていた。


「今は誰とやってるの?」

「ローズかな?その前はヴァイラスとやって多少疲れたんじゃねぇ?」


休憩所はガラス張りになっているので外から丸見えだ。なのでサボったりするとすぐにバレる。

二人が外の様子を眺めると剣を交えているククルとローズの姿があった。


「二人とも格好いいね」

「ククルの体力はバケモンだよ。どんだけ相手しても息一つ乱さないしさ」

「ローズも負けてないよ」

「……あいつ、元盗賊だけあって腕は相当なものだな。あ、この間聞いたよ。あそこの我儘姫に虐められたんだってな」

「えっ……いや、別にイジメでは……」

「嫌な思いしたんだろ?」

「……でも、あたしにも非はあるし……」

「姫がそんな事する訳ないと思うけどね。キャロライナ嬢って本当にロキ以外興味無いんだよ。以前、護衛として行った時に挨拶しても無視されたわ」

「そうだったんだ……」

「自分の国の騎士達にも声掛けないって聞くし。どんだけプライド高いの」

「一人娘だから重宝されてるんだよ。悪い虫が付かないようにそうしてるだけかも知れないよ」

「……姫は優しいなぁ」

「ありがとう、ノルン」


彼女の笑った顔が愛らしく、ノルンは穏やかな表情を浮かべた。


──キィィン、と金属音が鳴り響き、休んでいた騎士達も意識を取り戻した。


「うわ、また勝ちやがった」


ローズは剣を飛ばされ、尻もちをついていた。


「……テメェ……っ……!」


スッと喉元に剣先を突き付けられ、後の言葉が続かない。見上げるとククルの眼光が畏怖の様に感じた。


「本当の敵だったら死んでるよ、ローズ」

「……そうだな」

「でも、筋は良くなってるんじゃない?剣の使い方もマシになってきてるし」

「……貴方のお陰ですよ。強い者がいるとつい倒したくなってしまって」

「そういう威勢もいいね」

「ローズ!」


エフレシアが駆け寄るとローズはいつもの様に微笑んだ。


「見ていたのですか」

「うん」

「すみません……格好悪い所をお見せして」

「ローズ、格好良かったよ」

「……ありがとうございます」

「立てる?」

「はい」


ローズは平然と立ち上がり、服に着いた汚れを払った。


「ククルもお疲れ様」

「暇なの?」

「そうだね。皆の勇姿を見たくて」

「そう。気楽でいいね」

「ククルは休まないの?」

「これからロキと手合わせ。まだ来ないけど」

「お兄ちゃん、忘れてないかな……?」

「……どっかにいた?」

「書庫に居るって言ってたような……」

「完全忘れてる勢いだな。また籠って勉強パターンでしょ」

「没頭するとずっとやってるからね……」

「……予定狂ったんだけど」

「お詫び……じゃないけど、あたしと手合わせする?」

「……やる気じゃん。どしたの?」

「身体、動かさないと」

「太るもんね?」

「まぁ、大敵だね」

「よし。手加減しないから」

「どんとこい」


意気込む彼女にローズが剣を渡した。

ギャラリーが増える中、二人は対峙する。


「姫って剣とか使えるの?」


ノルンは隣にいたローズに聞いた。


「ククルが一通り教えたそうですよ」

「へぇ……。一国の姫が武器を手にするとか、あんまり穏やかじゃねぇな」

「平穏なんていつまで続くか解りませんからね。戦える力を身に付けるのは今後の役に立ちます」

「確かに」


エフレシアは剣の持ち方を探りながら構える。


「ちゃんと持たないと吹き飛ばすよ」

「大丈夫」


ククルは例え相手が女だろうが容赦はしない。手を抜いて勝たせてもそれは糠喜びにしかならず、本人の為にはならない。


「あいつに挑むなんて、姫様は勇者だな」


他の騎士達も珍しそうに様子を見ている。

ククルが剣を構えたのと同時にエフレシアは動いていた。

眼前に現れた彼女にククルは少し遅れたが、振り上げらた剣を顔面スレスレで避けた。


「おぉ……!」

「その剣、大き過ぎなんじゃない?」

「大丈夫。ククルの剣より重くないよ」

「普通の姫は剣なんて扱わないけどね」

「嗜みだよ」


エフレシアはニッコリしながら再び剣を構える。

今度はククルも気を抜かなかった。

騎士達との手合わせよりも彼女との対戦の方が迫力のある金属音が響き渡っていた。

ククルの繰り出す剣術をエフレシアは何食わぬ顔で受け止めていく。彼女の細い腕では相当な重圧だろう。観戦している騎士達も見た事のない彼女の動きに釘付けになっていた。


「そんな頑張って、明日死ぬんじゃない?」

「筋肉痛ヤバいかもね。でも、楽しいよ」


ククルの剣を払い除け、エフレシアが攻めに入る。技らしい動きをしている訳ではないのだが、彼女の動きには無駄が無い。


「姫様……」


見守っているローズは段々と不安に感じていた。

明日、ちゃんと起きてくれるだろうかと。


「……ぅわっ……!」


踏み出しが甘かったのか、エフレシアはそのままつんのめってしまった。派手に倒れたのでククルも心配になってしまった。


「……なにやってんの」

「ちょっとバランスが……」


差し出されたククルの手を取り、彼女は立ち上がった。服の汚れなど気にする様子もなく、剣が折れていないかの心配をしている。


「続きする?」

「ちょっと休憩。喉乾いた」

「ありがとう、付き合ってくれて」

「……気分転換」


ククルは全く疲れを感じさせずに休憩所へと向かった。

入れ替わりにローズがエフレシアに駆け寄っていった。


「お怪我は無いですか?」

「大丈夫。転んだだけ」

「……そうですか」

「剣、ありがとう。貸してくれて」

「いえ」

「ローズ、ちゃんと休憩した?」

「えぇ。姫様も休息取って下さいね」

「うん。この後もまた訓練だよね。先に部屋戻るね」

「一人で大丈夫ですか?」

「戻るだけだから」


心配するローズに安堵の笑みを浮かべながらエフレシアは自室へと戻った。

後になって手が震えていた。久々に剣を握った事もあり、感覚も鈍っていた。






それから数日後。

モルガ王国が攻め入ってきた。

陛下と妃は真っ先に殺され、側近の騎士達も命を奪われた。

そして、ロキとエフレシアも国を追われた。



「行け!おれ達が足止めになる。お前と姫さんには生きて貰わなきゃ困るからな!」

「ヴァイラス……」

「生き延びろよ、ロキ。妹を守れ」


騎士達の中でもククルに次いで腕の立つヴァイラス。ロキはいつも彼の世話になっていた。優しくて強い彼に憧憬を抱いた。だから、別れは嫌だった。


「ローズ……!」

「姫様。ご武運を祈っています」

「嫌……一緒に……」

「姫様、ローズは貴方と共に過ごせてとても幸せでした。だからどうか生きて、生き延びて下さい。私の最後の願いです」

「……ローズ……」

「行って下さい!」


騎士達に守られながら出ていく二人をヴァイラスとローズは優しい笑みで見送った。

辺りには敵の騎士達が多勢。二人相手では到底敵わない。


「まぁ、大切なもん守れるならこの命も役に立った訳だ」

「守りたいものがあると強くなれるというのは嘘でも無かったみたいですね」


二人は背中合わせに敵と対峙する。


「確実に死ぬ状況だけどな」

「十分な位の幸せを貰った。例えここで朽ち果てても後悔はありません」

「あの二人には幸せになって貰わねぇとな」

「その願いだけは叶って欲しいですね」

「地獄で祈るか」

「───上等じゃねぇか。こいつら全員倒してな」


敵が一斉に動き出し、ヴァイラスとローズは共に剣を構えた。


「じゃあな、相棒」

「……バイバイ」


命の終わりは呆気なく、二人は激戦の末に散った。


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