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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
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第7話「ショッピング・ショッキング」

激突、優希(ゆうき)VSすみれ!

 ――キーンコーンカーンコーン!


 馴染みの鐘の()が放課後を知らせる。


「気をつけ! 礼! ありがとーございましたー」


 それを合図に各々の教室から終礼の挨拶が響き渡り、生徒達はみな、それぞれ思い思いに教室に残ってお喋りしたり、下校を始めたりしている。

 そしてゆうまもまた、荷物をまとめ、帰りの支度をしていた。


「さぁーて、今日は放課後何にもすることないし、家に帰って何をやろうかな~。ドキドキワクワク」


 調子良く、声にならない声で独り言を言いながらゆうまは、妄想を膨らませている。


「ねぇ、ゆうま。放課後ちょっと付き合ってくれないかな?」


 ふいに声がかかる。ゆうまは突然のことにビクッとし、帰り支度の手を止める。振り返って見るとそこに佇んでいたのはご存知、幼馴染みの優希(ゆうき)であった。


「あれ、優希! 俺を誘ってくるなんて珍しいじゃん、どうかしたの?」


「いや、ちょっと買い物、手伝ってもらいたいんだ。お願い❤️」


 そう言って優希は、スカートのすそをぎゅっと握り、長い髪を耳にかけて、にこりと笑う。その表情は、相変わらず男とはまるで思えない可愛さであった。

 そもそも優希は、ちゃらんぽらんな保奈美や明るく元気いっぱいな甘美に比べておしとやかで大人しいタイプであった。そのため幼馴染みの仲とはいえ、優希自らが誘ってくるのは珍しいことである。

 一体なんの買い物だろう。そうゆうまは、思考を巡らせつつ、付き合ってあげることにするのだった。



第7話「ショッピング・ショッキング」



 ここは、とあるショッピングモール。夕方という時間帯もあり、晩御飯の支度のためか主婦や主夫、お年寄りなどの姿がちらほらと見える。そんな様子の1階を後にして、2人は2階洋服売り場のコーナーへと来ていた。


「あ、あのなーっ! 優希、買い物ってここ女性物の下着売り場じゃないかー!」


 大きな叫び声が突然、静寂を裂き、大音量でその場に響く。

 というのもゆうまが優希に連れられて来た場所の目の前には、赤やピンク、ブルーといった色とりどりの女性物の下着がところ狭しと並べられているからである。そう叫んでしまうのも無理はない。


「そう! ワタシもね、今1人暮らしなんだけど下着が全然足りてなかったから、ゆうまに手伝ってもらって新しいの買っておこうと思って」


「でも、ま、まずいよ、さすがに俺が、気軽に中に入るのは! 俺は食品とか小物の類いの買い物だと思って付いて来たのに、まさか女性物の下着購入が目的だったなんて知らなかったし!」


 大体、年頃の男の子ならば、このようなコーナーの前を通るだけでも変に緊張してしまうというのに、まして己が買いもしないのに、気軽に中に入ろうなどというのは"そうは問屋が卸さない"である。

 しかし優希は、そんなゆうまの考えと言葉にまったく聞く耳をもたず「何よ、ワタシとゆうまの仲じゃない。今さら気にすることもないでしょ! さ、いーからいーから!」と、ゆうまをズザズザ引きずりながら、無理やりコーナーの中に連れていく。


「い、嫌だ~、勘弁してくれ~」



           *          *



 ちゃらりら、ちゃらりら~と、店内のBGMが鳴り響いている。


「ふんふんふん~♪」


 そのBGMに合わせながら、優希は調子良さげに可愛らしい女性用の下着を選んでいた。

 一方無理やり連れ込まれたゆうまはというと、顔を真っ赤にしながら隣で黙り込んでいた。


「ムムム、マズイ……、こんなの、もし同じ学校の生徒に見られたりでもしたら、どうなることやら……」


 不安に駆られ、辺りをキョロキョロと見渡しながら警戒する。


「ねぇ、ゆうま! これとこれ、迷ってるんだけど、どっちの方がいいと思う?」


 ふいに優希は、可愛らしいフリルのついたピンク色の下着と水玉模様が描かれた黒色の下着2つをバッと、目の前に出してきて、わざわざ尋ねてくる。


「あ、あのなーっ! そ、そんなの、ど、どっちでもいいよ!」


 そんな下着を見て思わず、投げやりに答えるだけ答え、目を背けるゆうま。

 しかし、優希は「ねぇってばぁ❤️」と、なおも目を背けた方へ下着を執拗に近づけてくる。

 そんなイチャつく2人を見て周囲の客は「嫌ねぇ、堂々と見せつけてくれちゃって」「こんなとこでイチャつくことないのにねぇ~」「最近の若者はこんなに不埒なのかしら……」と、ヒソヒソしながら通り過ぎていく。

 そんな状況にますます、ゆうまは、顔を赤らめてしまう。


「アハハ、ゆうまったら照れちゃって可愛い❤️ 純情なんだっ❤️」


「あのねーっ! 人をか、からかうのもいい加減にしろよっ!」


 さすがにオツムがちゅどーんと大噴火したようで、ゆうまは、憤怒し、ツッコむ。

 しかしそんなツッコミを優希は軽く流し、「ウフフ、ま、いいやどっちも買っちゃおっと!」と、言って笑顔で2つの下着を持ってレジへと向かって行ってしまう。

 ぽつねんとその場に取り残されるゆうま。


「はぁー、まったく優希にも困ったもんだ。女性用の下着を買うのに俺を手伝わせるなんて……。とりあえず神に贖罪の祈りを捧げなければ。あぁ神様、ボクは決して不純な気持ちなどないのです……、ハイ。清き身に免じ、どうか許したもう……」


「あら? ゆうまじゃないですの」


 ゆうまが天によく分からない祈りを捧げていると、突然何者かがそのような声をかけてくる。

 声のした方向を振り向くと、そこにはお馴染み、同クラスメートの悪女、松坂 すみれの姿があった。相変わらず容姿端麗で、右目の下にある泣きぼくろがセクシーさを際立たせている。また彼女のセミロングの茶髪がなびくたびにすみれの花の高貴な香りが辺りに漂う。

 そんな彼女、どうやらゆうまの存在に怪しんでいるようで、ジト目でこちらを見てくる。


「うちのクラスの学級委員ともあろう者が、どーして女性の下着売り場にいるのかしら?」


 まさかの登場に焦るゆうま。


「ぎくりっ! な、な、こ、これにはちょっとした事情が……」


 ひ、ひぃ~~。ど、どうしてこんな時に限ってすみれが。今週の今、会いたくない人物ランキングトップ10! には入るであろう彼女と、まさかこんな所でたまたま会うことになるなんて……。きっと俺の言い分なんて分かってくれないだろうし、もうダメだ……、おしまいだぁ……。

 ゆうまは己の運命を恨む。


「お待たせ……、ってあれ? ゆうまどーしたの?」


 そんな緊張状態の中、買い物を済ませた優希がその場にやってくる。

 それを見たすみれは「あら? どうも、これはこれは優希さんも一緒だったとは……」と、不敵な笑みを浮かべながら言う。


「ん? あぁ! あなたは……! 誰だっけ?」


 優希のその言葉に瞬間、ズコーーッ! と、すみれは顔面からズッコける。


「もうっ! 優希ってば、ほら、うちのクラスにいるでしょ! 保奈美とコンビを組んでる漫才師の小さい方、松坂 すみれだよ!」


「だぁれが漫才師やねん!」


 ゆうまは優希に説明してあげるが、そのセリフが当のすみれ本人に聞こえており、ノリツッコミされる。


「あれ? 違った? アハハ……」


 ヘラヘラと誤魔化すように笑うゆうま。


「まったく……。にしてもあなたが女性物の下着売り場にいたなんてことを学校中に知らせたら学級委員としての立場はどーなるのかしらねぇ、変態ゆうま」


 すみれは再び不敵な笑みを浮かべる。


「な!? ヘ、ヘンタイ!?」


 そんな彼女の言葉がゆうまの胸にグサッと刺さり、その衝撃が脳にまでグワングワンと波紋のように響いていく。

ヘンタイ……、ヘンタイ!? ヘンタイ? ヘンタイ……、タイヘン……、俺ってイッタイ……。

 ゆうまは、ヘンタイという烙印に深く傷つき、ボーゼンとしてしまう。

 一方それを聞いていた優希は、ムッとしたようですみれに「ちょっと、何よその言い方、ゆうまはワタシの買い物を手伝ってくれてただけなんだから!」と、言ってゆうまのことを擁護する。


「ふーん、ホントに手伝いだけなのかしらね……」


 しかしすみれは、何かまだ言いたそうで卑下するような目でこちらを見てくる。


「これ以上、ゆうまのことを悪く言うとワタシが許さないわよ」


 そんなすみれに対して忠告する優希。すると今度は形勢逆転とばかりに、すみれが優希の方向を見てしゃべり始める。


「フン! 優希さん。あなた、少し自分の立場を誤解しているんじゃないかしら? ちょっと自分が可愛いくて、周りにチヤホヤされているからといって、調子に乗って何でも自分の意見がまかり通るとでも思ってらしたら大間違い、甘いですわよ?」と、まるで喧嘩を売るように語りかけてくる。


「別に調子になんか乗ってないわ。それにいくらワタシの方があんたより魅力的で可愛いからって嫉妬は見苦しいわよ」


 一方優希は上手く切り返してすみれを煽る。


「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ! 大笑い(大洗)海水浴場ですわーっ! 誰が嫉妬なんかするものですか。あなたにはこの整ったおフェイスと妖艶なボデーが目にはいらないのかしらーっ!」


「妖艶じゃなくて妖怪の間違いじゃないのー。自惚れもいいとこね」


 すみれの挑発に優希も噛みつき、話題がお互いの容姿のことにどんどん逸れていく。


「言ってくれますわね、もーっ、カンカンですわ!! 口で言って分からない人は体で教えるしかないですわね!」


「何よ、やる気!? いい加減ボクだって怒ったぞ」


 突然、優希の一人称がまるで男の子に戻ったかのようにボクに変わる。というのも彼女がそのような状態になるのは本気でキレている証、つまり頭に血が上り、怒っている状態なのである。

 それを知っているゆうまは、ま、まずい……と考えつつも、出る幕もなく、そのまま醜い争いは、さらにヒートアップする。


「それにボクの方がスタイルもいいしねー」


「キーッ! 何ですってぇ! このガキャ!」


 その刹那、 ビュンッと怒りに任せてすみれは、優希の頬めがけ、ムチのように手のひらを勢い良く出す!


「こっちだって!」


 一方優希も負けじと、手のひらをすみれの頬、めがけて繰り出した!


「2人とも、これ以上ケンカはやめるんだ!」


 ――パンッ!


 ゆうまの叫びの後、店内に破裂したかのような音が鳴り響く。


「ぐわっ!」


 手の形状をした真っ赤な腫れが右の頬と左の頬にクッキリと浮かび上がり、よろめくゆうま。彼はとっさに2人の間に飛び出したため、ビンタのサンドイッチを食らったのだ。


「ゆ、ゆーま! だ、大丈夫!?」


「ゆうま!?」


 ゆうまの行動に目を丸める2人。なぜそのような行動に出たのか理解できないといった具合である。そんな2人にゆうまは、口を開く。


「痛ってぇー、……まったく2人ともケンカはやめるんだ。同じ学校の同じクラスメートじゃないか。これから同じ空間でやっていく仲間だってのに小さな争いはよしなよ! もっとチームワークを大切にしようよ。だからさ、ケンカは……やめよう」


「ご、ごめんなさい……、ゆうま」


 優希は頭に血が上ったが故の自分の言動と行動を省み、しょんぼりする。

 一方すみれもその言葉に動揺したようで、一瞬思わず目を逸らす。

 しかし「……フン! ま、今日はゆうまに免じてこの辺にしておいてあげるわ。さようなら」とだけ言い残し、すみれはそのままスタスタと行ってしまう。


「あ、すみれ! ……なんて奴なの!」


 そんなすみれの反省のない態度に優希は、再びムッとする。

 しかし、ゆうまが「いいんだよ、優希。すみれだってきっと元々は、俺をただ、からかいたかっただけなんだろうし」と言ってたしなめる。


「そうかもしれないけどさ! ……ふーん、相変わらずゆうまは、甘いのねー。ま、そんなところがワタシは好きなんだけれど」


 何かまだ言いたげであったものの、ゆうまの人の良さと甘さに優希は折れたようで口をつぐむ。

 そして、ひとまずゆうまは、忘れかけていたここに来た本題に話題を移す。


「そういえば買い物は終わったの?」


 その問いに、思い出したようでハッとする優希。


「あ、それなら、うん、バッチリ! 下着もちゃんと買ったしね。そうねぇ、次はブラが欲しいなぁ……」


 そう言ってチラリとゆうまの方を見る。その目は何かを期待しているようでキラキラと輝いている。


「え?」


 そんな優希の態度にスーっと顔が青ざめていくゆうま。

 い、嫌~な予感……。


「ねぇ、これから買うの手伝ってくれない?❤️」


「で、でもさ、優希は、その、ペッタンコだからブラはさすがに必要ないんじゃ……」


「でもやっぱり欲しいのよ! ねぇゆうま、買うの手伝って……ってあれー!? い、いない~!」


 優希が、もう一度お願いとばかりにゆうまの方を向くとすでにこつぜんと姿を消した後であった。辺りをキョロキョロと見渡すと遠くにゆうまの逃げる姿がある。どうやら一目離した隙に逃亡を謀ったらしい。


「じょ、ジョーダンじゃない、これ以上買い物に付き合うのは御免だ~」


 そう叫んで店内を駆け抜けるゆうま。


「待ちなさ~い! ゆうまってば~❤️」


 そんなゆうまを追いかける優希。人混みの喧騒に包まれながら、2人の追いかけっこは続いていく。



TO BE CONTINUED

今回、メインヒロイン保奈美(ほなみ)は出番なし!(笑)

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