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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
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第6話「俺の幼馴染みがこんなに可愛い」

これまでに登場したレギュラーキャラ、準レギュラーキャラ大集合!

「おはよー!」

「ちゃんと持ってきたー? えーヤバッ!」


 元気な声が聞こえてくるここは通学路。早朝ということもあり、多くの学生諸君がワイワイガヤガヤと歩き、自転車でチャリンチャリンと走行し、ひしめき合っている。

 そんな中でも渡良瀬学園高校1年生の生徒達はみな、ソワソワと浮わついていた。というのも本日は待ちに待った新1年生歓迎会が行われるからである。

 その気持ちはこの男、ゆうまも例外ではない。彼もまた内心ワクワクしながらこの道を通学していたのであった。


「さて、今日は歓迎会だ! 司会の仕事もあるしガンバらなきゃな」


 そう言って、顔をパンパンと叩き、気合いを注入する。と突然背後から肩をポンポンと叩かれる。


「ゆうま、おはよっ!」


「ん? おぉ! おはよっ!」


 ゆうまの前に現れたのは女子制服を着た人物であった。その者の名は、八乙女(やおとめ) 優希(ゆうき)。彼女は、ゆうまと小学校の頃からの付き合いで小中が同じ幼馴染みであった。また現在も同渡良瀬高校に共に通っており、よき親友の1人でもある。


「優希じゃないかーっ! 同じクラスだってのに、何だか久しぶりに会った気がするよー」


「フフ、だってゆうまってば、最近はいつも保奈美(ほなみ)ちゃんや甘美(あまみ)ちゃんと一緒にいるからさ、中々話せないんだもん」


 そう言って優希は頬を朱に染めながら、はにかむ。久しぶりに見たその笑顔は、まるで朝日に照らされ咲くアサガオの花のようにフレッシュで可愛らしかった。

 きっと誰もが思わずドキッとしてしまう笑顔であろう。


「え、そ、そうかな」


 思えば確かに入学してからというもの、ほぼいつも保奈美や甘美に付き合わされ、いつしか行動を共にしていて、それが当たり前になっていたような気がする。

 ゆうまは改めてここまでのことを思い出す。


「それはそうとゆーま、ちゃんと今日のお菓子とジュース持ってきた?」


 優希はガラッと話題を変える。


「あぁ、もちろんバッチリだよ!」


 それにゆうまも答える。今日、開催される歓迎会は、それぞれお菓子とジュースの個人による持ち寄りで行われるのであった。


「へぇー、じゃあ、ゆうまのお菓子楽しみに期待しとくね❤️」


「あぁまかせろよ、なんたって俺が選んだんだからな~。ぜひ食ってみな、飛ぶぞ」


「フフフ❤️ ホントかなー」


 2人は、その後も登校しながらキャッキャウフフと仲良く話し込み、笑い合う。

 そのまま、微笑ましき幸福な時間が過ぎようとしていた時だった。


「いってぇーっ! だ、誰だ! 背中をつねるのは!?」


 突然、ゆうまは背中を何者かにつねられる。

 そしてその背中からあからさまにズイッと顔を出して現れたのは、保奈美であった。その表情は硬く、目付きに至ってはジト目である。


「なんだかずいぶん楽しそうだったね? いいな、恋人みたいで」


「いいっ!? ほ、保奈美、一体いつから……」


 ゆうまは、思わず焦ってしまう。


「さぁ……、それじゃ」


 そう言い残し、保奈美はプイッとして足早にツカツカとその場を去っていく。そのやり取りの時間は、ほんの1分程度であった。


「今のは……? な、なんだか、保奈美ちゃんってずいぶん変わった人なのね」


 その一連のやり取りを隣で見ていた優希は、目を点にして唖然としながらポツリと呟く。どうやら彼女の頭には、はてなマークが浮かんでいるらしい。


「そ、そうだね。まぁ、本当はいつもなら、あれ以上に変わってるんだけど……」


「え?」


「い、いや別に……。それより早く行こう」


 不思議そうにしている優希に、勘づかれないよう誤魔化したゆうまは、そのまま学校への道を急がせる。



第6話「俺の幼馴染みがこんなに可愛い」



 舞台は体育館。辺り一面テーブルが置かれており、その上には生徒達が持参したお菓子やドリンクが並べられている。

 ステージの前の方には1年生の生徒達が集まっており、会の始まりを今か今かと待ちわびている。


「ねぇゆうま、保奈美姐さんと喧嘩でもしたの? 今日、なんだか姐さん、いじけてたけど」


「喧嘩っていうか……、何というか……」


 ゆうまと甘美は、舞台裏で駄弁っている。というのも2人は1年生学級委員代表として、前半の司会を担当しなければならないため、タキシードとピンクの華やかなドレスにそれぞれ身を包みつつ、出番を待っているのであった。

 すると「よし、お前らの出番だ、いきな!」と企画担当の上級生が促す。

 2人はお喋りを中断し、マイクを持って「どうもーっ!!」と言いながらステージへといざ出陣する。


「お集まりの紳士、淑女のみなさま!」


「今日は新1年生全員集合の歓迎会です! ぜひともクラスの垣根を越えた交流を深め、楽しんでください。それではスタートです!」


 最後に甘美の掛け声と共に歓迎会が始まる。

 生徒達は「ウォー!」とすぐにお菓子を食べ始め、盃を交わしていく。まさに飲めや歌えのどんちゃん騒ぎである。

 ちなみに密です! と思われるこの場面、ご安心あれ。なぜならばこの世界は2次元のため、コロナウィルスは効かないのであーる。

 ということで「おーい! ゆーま、甘美ちゃーん、こっちで一杯やろーよ!」と、司会の仕事を終え、ステージから降りてきた2人に先ほどの優希や他の生徒達が声をかける。


「おっ! いいねー、行こっ、ゆうま」


「よしっ! じゃあ乾杯だなーっ!」


 お誘いに甘えて2人も加わり、ますますその輪で盛り上がっていると「おい、ゆーまーっ、俺らもその可愛い子ちゃん達の輪の中に加えさせろぉ~」「そうらぞ、ゆうま~。もう飲めや飲め、じゃんじゃん飲め~!」と言いながら西村と武田も入ってくる。

 しかし2人の顔は妙に赤く、千鳥足でろれつもうまくまわっていない。まるで酔っているかのようである。


「お、お前ら、ホントにジュースを飲んだんだろうな……?」


「おぉ? もちろんだおー、俺たちゃシラフだぜぇ~」


「そうだ、そうだ! 酒は()けようってなぁー、なんちって、ギャハハハハ」


「もっー! 2人ってば、くだらないんだから~、アハハ」


 甘美が西村と武田にツッコむ。

 普段はスベるようなギャグでもこういう会ではウケるというもの、ますます人々の熱気は増していく。



 一方保奈美はそんな楽しそうなゆうま達一行を遠くから見つめていた。というのも彼女は、下心を持った他のクラスの男共に囲まれ、つまらぬ戯れ言に付き合わされていたのだった。


「まったく、ゆうまってば優希ちゃんや他の女の子達と楽しそうに話しちゃって~」


 保奈美は、そう呟きながらメラメラと嫉妬の炎を燃やしている。


「あら保奈美さん、お久しぶりね」


 ふと声がかかる。振り向くとそこにはすみれの花の髪飾りをつけ、自信に溢れた表情の見覚えのある女が。


「あなたは! えーと、えーと、あの、ほら、ねぇ!」


「?」


「だ、誰だっけ?」


ズコッー!


 その瞬間女は、顔面から勢いよくズッコケる。


「あのねーっ! すみれよっ! す・み・れ!」


「あー、そうそう! 松坂 すみれちゃんだ。ごめんね~、最近人の名前が中々覚えられないし、思い出せないのよ」


 そう言いながらヘラヘラと保奈美は笑う。


「まったくもー、困った人ですわ」


「エヘヘ……、それほどでも~」


「褒めてない! それはそうと保奈美さん、わたくしからあなただけに特別にお菓子をあげるわ。気持ちですけど受け取ってちょうだいな、はいどーぞ❤️」


 そう言ってすみれは、なにやらお菓子の入った箱を渡す。しかしその箱は妙に怪しい。


「わぁー、ありがと~すみれちゃ~ん!」


 しかし保奈美は、退屈していただけに、特に怪しいとも考えることなく、すみれからお菓子がもらえたことに、ただただ嬉しさを感じ、満面の笑みを浮かべる。

 そんな彼女を見て一方のすみれは、確信する。


(フフフ、まんまと受け取ったわね。その箱の中に入っているのは大量の"ねるねるねるね"の2番の粉の入った袋。もらっても困るだけの代物ですわ。これであの時の屈辱は返しますわよ、さぁさぁさぁ、箱を開けて嫌がるがいいですわーっ!! おっーほっほっほっ! おっーほっほっほっ!)


「ねぇ、開けてもいい?」


「おっーほっ……ゴホン、どうぞどうぞ」


 保奈美はお言葉に甘え、パカッと箱を開ける。そこにはすみれが仕掛けた通り大量の"ねるねるねるね"の2番の粉の入った袋が。

 しかしそれを見ても保奈美は笑顔を崩さない。


「わぁー❤️ ありがとう! こんなにたくさんの"ねるねるねるね"の2番の粉を。こんなんなんぼあってもいいですからねー」


 そんなことを言って、むしろ嬉々としている保奈美の姿にすみれは、おもいっきり肩透かしを食らう。


「な、なんで嫌がらないのよ! ど、どうして!?」


「え? いやー、私やうちのオカンが好きなんよ~、だからこんなにあるとありがたいのよね~」


「くっ……! 一体どんな変人一家なのかしら……。ま、まぁいいですわ。あなたは、そういうような安っぽいお菓子でも食べていなさい。わたくしはお高ーいブランドチョコレートを食べるから。しょせん、わたくしとあなたとでは、月とすっぽんなのよ」


「うんうん、私が月で」


「わたくしがすっぽん! すっぽんは鍋で食べるのが一番ね! うーん、まさにスッポンポンになるほどの美味しさ――ってバカヤロウ!」と、ノリツッコミを入れるすみれ。


 そんな2人の絶妙なやり取りを見ていた周りの生徒達は「おい! 保奈美ちゃんとすみれが漫才やってるぞ!」「よっ! すみれってばノリツッコミのキレがいいねー! 2人でステージに上がってやれー!」と、熱烈コールを飛ばし、はしゃぎ始める。


 そんな流れにすみれは「こ、こんなハズではなかったのに……、しくしくしく……」と、悔し涙を流すのであった。



 一方こちらは、再びゆうま達のグループ。保奈美とすみれの騒ぎを横目にしつつ、こちらも楽しくお菓子を食べながら話し込んでいた。西村と武田は壁側でグースカと眠ってしまっているが、彼らのことは置いておいてみんなの話の話題は、ゆうまについてのことに移る。


「へぇー、それじゃあ、ゆうまの中学校時代ってどんな感じだったの?」


 甘美は、話の流れで当時を知る優希に聞く。


「そうねー、でも案外今と変わらないかも。ちょっと変わった所やおかしな所がたまに傷だけど、いつも優しくて、面倒見が良くて、いつだってワタシの生き方を誰よりも認めてくれる……とっても素敵な感じの人だったかな」


「おいおい、それほどでもあるけど、照れちゃうな~」


 ゆうまは、照れますね~、照れますね~とばかりに頭をかく。


「ふーん、ちょっと美化され過ぎてる気もするけど……。とりあえず優希ちゃんは、本当にゆうまの事が大好きなのね!」


「そ、そんなぁ❤️」


 甘美の指摘にかかあっと顔を赤くし、照れる優希。


「おいおい甘美ってば何を言ってるんだよ」と、言いつつ、まんざらでもなさそうにゆうまも笑っているとどこからともなく「ボクもキミのことが好きだ」という声が聞こえてくる。

 この声はまさか……。ゆうまの予感通り、案の定、声のした方向から出現したのはイケメン、三上(みかみ) トオルである。


「やぁ! ゆうま、甘美さん、優希さん、盛り上がっているかい?」


「トオル! お前何しに来たのさ」


 ゆうまが問いただす。するとトオルはフッと髪を整え、優希の方を見て口を開く。


「今、言ったじゃないか、ボクはキミのことが好きだってね」


 そのセリフと共にトオルは、優希に一輪の薔薇の花を渡す。


「えぇ?」


 突然のことに優希は、反応に困ってしまう。


「キミは薔薇より美しい……、ぜひボクと恋の逃避行を、優希さん」


 そんな彼女を気にすることなく、口説き文句を並べたトオルは、すぐにお得意のキスを迫ろうとした所で「いい加減にせんかっ!」


 みしっ! と、ゆうまのツッコミパンチをもろ顔面に食らう! あまりに綺麗なクリティカルヒットにトオルは、顔を歪める。


「くっ……、キミはまたボクの邪魔をするのかい、ゆうま……」


「優希は俺の古くからのマブダチだ! そう易々と渡せるか!」


 ゆうまは、俺もキメる時はキメるのさ! とばかりにキリッと決めて見せる。


「ふーん……ゆうまって、結構浮気者なんだね……」


 突然、そのようなセリフが冷たい声色でその場に響く。

 そしてゆうまとトオルの間からひょこっと顔を出したのは保奈美であった。その表情は朝の時以上にぶすっとしている。


「ほ、保奈美ぃ~……!?」


「楽しそうね……」


「ど、どうしたんだよ保奈美、なんだか今日は変だよ?」


「べぇつぅに……! いつもこんな感じですけど」


 ゆうまの指摘にも保奈美は、ツーンとしている。一体どうしたんだろうか……。ゆうまが心配していると甘美が、保奈美の態度の真相に気づく。


「分かった! 姐さんてば、優希ちゃんに嫉妬しているのね」


「えぇ!? ワ、ワタシに……?」


 優希が驚きのあまり声をあげる。


「そ、そうなのか、保奈美?」


「……」


 ゆうまが聞くがなおもツーンとしたままの保奈美。


「あ、あのなぁ、確かに優希は俺の中でも特別な存在だし、大切だけど、それとこれとは話が違うんだよ」


 その言葉を聞き、黙っていた保奈美がやっと口を開く。


「フンッ、何が違うって言うのよ。そりゃあ他の現代の可愛く、若い女の子と比べたら私なんて……、どうせ私は、しょせん古い女なんだわ……」


 そう話す保奈美の瞳はうるうるとしている。

 それはまるで桜〇淳子と志村けんのコントに出てくる妻のような、悲劇のヒロインと言わんばかりのけなげでいじらしい姿であった。きっとこのままだと「私って駄目な女ね……」とでも言い出すに違いない。そして「ごめんよ、愛してる」と言って慰めれば「保奈美、幸せ!」と言って舞い上がる展開が目にありありと浮かぶ。

 しかしゆうまはそうならないよう、なりふり構わず続ける、誤解を解くために。


「だ・か・ら! 優希は違うんだって! 彼女は……、彼女は男の子なんだよ!!」


「ぐすん……え?」


 瞬間、保奈美の目が点になる。どういうことか理解が出来ないらしい。そんな彼女に対してゆうまは、さらに続ける。


「保奈美は、初めのクラスメートの自己紹介の時にまだ学校へ来ていなかったから知らないんだろうけど、優希は男の子なんだよ。高校に入ってからは完全に女の子として生きているけど、それこそ中学時代まで見た目は普通の男の子だったし、俺は幼馴染みとして接していただけなの! ったくこんなこと、優希のためにも何度も言わせないでくれよな」


 確かに勘違いしてしまうのも無理はない。優希は元々短髪美少年だったし、仕草や言動も昔からステレオタイプの女の子そのものだった。だからこそ、いざ女の子の格好をすれば人に間違われたり、女子に嫉妬されたりするくらいに色白でスタイルも良い完璧美少女となることは明白だった。そう幼馴染みのゆうま自身、思っている。


「そうなのよ、保奈美ちゃん。それにワタシ、ゆうまは、まだ恋愛対象外だから心配しないで、これからよろしくね」


 優希は保奈美に、にこっとして声をかける。


「お、幼馴染みの男の子……、な、なんだ、そうだったの! ごめんなさいね」


 誤解が解けたことで保奈美は、元の明るさを取り戻したようである。


「そうとも、ボクはそれを知ってもなお、優希ちゃんのことが好きさ。愛に性別など関係ないしねっ!」


 その横で相変わらずキリッと決めながらトオルは、語っているが誰も聞いていない。


「ゆうまってば、姐さんに振り回されてホントに大変ね」


 一方の甘美は、振り回されたことで疲れて苦笑いしているゆうまを労う。


「まったくだ。ハハ、ハハハ……」


「優希ちゃん、これからよろしくね! よーし、それじゃあ気を取り直して飲むわよーっ! 今日はとことん盛り上がろう」


 そう言って盃を手に取り、グビグビと飲み始める保奈美。なんだかんだでそれに合わせて、再びはしゃぐゆうま達。

 こうして飲む阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら飲まにゃ損損とばかりに、どんちゃん騒ぎはその日の夕方まで続いたのであった。



TO BE CONTINUED

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