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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
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第5話「ライバルは変態イケメン! トオルが通る」

恋のライバル!? あらわる!!

 キーンコーンカーンコーンという午後の授業開始の合図である鐘の()が、鳴り響く。


「オーライ、オーライ!」


「それっ! 何やってんだよ~」


 ここピカピカの体育館からは、西日に照らされながら元気に動き回る生徒達のふざけ合うはしゃぎ声、そしてポンポンというバスケットボールの弾む音が聞こえてくる。

 その体育館の片隅でゆうまと西村、武田のズッコケ3人組は、練習をサボりがてら駄弁(だべ)っていた。彼らの視線は、自分達の男子コートではなく、どういうことか向かい側の女子コートの方を向いている。

 その目線の先には絹のように美しく、長い髪をなびかせ、色白い肌に頬を紅潮させながら仲良く友達と笑い合っている保奈美(ほなみ)の姿が。そんな彼女を見て、ゆうまは考え込んでいた。


 というのも以前『そこでキミを見込んでのお願いだ。保奈美姉さんのこと、学校でもよろしく頼むよ、キミに託す。きっとゆうま君なら保奈美姉さんを、彼女の思いを受け止めることが出来るはずだ』という、保奈美の弟で甘美(あまみ)の父に当たる、おやっさんにかけられた言葉を思い出していたからである。


「俺は本当に保奈美の思いを受け止めきることが出来るのだろうか。そもそもそれだけの資格や技量がこの俺にあるのかな……」



第5話「ライバルは変態イケメン! トオルが通る」



 そんなゆうまの悩みを知らずして、西村と武田は脇で、はしゃいでいる。


「いやー、それにしてもバスケをしてる保奈美ちゃんもめちゃくちゃ可愛いよなー!」


「うんうん、スタイル良し、顔良し、性格もちょっと変で変わってる所が、これまた可愛いくて、うちの学年でも甘美ちゃんに並ぶ人気の女だからなー!」


 そう言いながら2人は、保奈美を目で追いかけている。


「ただあともうちょっと胸が欲しいけどな」


「確かに! 保奈美ちゃん、胸の方はおとなしめだからな~、せめて甘美ちゃんぐらいあればいいんだけど……。そういえば保奈美ちゃんと甘美ちゃんって親戚同士なんだよな、どんな関係なんだろ」


「そりゃあ、あんまり年離れてなさそうだし、いとこぐらいなんじゃねーの」


 楽しげに会話を続ける2人を前にゆうまは、思いっきり「ハァ……」というため息をつく。


「ったくお前らは幸せ者だな……」


 知らぬが仏とはまさにこういうことを言い表すのだろう。ゆうまは真実を知らぬ2人に対して、達観したような目付きで言う。


「なんだよ、ゆうま。そういうお前は、あの2人と仲がいいじゃねーか!! ったくお前こそ幸せ者だぞ!」


「ホント、ホント。あんなに可愛い子達と早々に仲良くなりおって。ニブそうな見た目でやることやって手が速いんだからもー、月に代わっておしおきだぞっ! このやろっ! おらっ!」


「うわぁ! や、やめろよぉ~」


 少しばかりムッとした西村がこれでもかとゆうまにドラゴン・スープレックスをかける。


「どうだー、まいったかー! 可愛い子とイチャイチャしてる罰だ~」


「確かに彼女達は可愛い……!」


 突然、ふざけ合っていたところ、そのようなセリフが3人の耳に降ってかかる。


「ん?」


 ふざけ合いを止めて、声のした方向を見てみると、そこには薔薇の花を持ち、カッコ良く壁に寄りかかっている体操着姿の金髪イケメン男子が。


「お、お前は三上(みかみ)!」


 その青年を見るやいなや、武田が声をあげる。


「やあ、君達。元気そうじゃないか」


 そのキザったらしい男は、持っていた薔薇の花をポケットに入れ、気さくに手をあげて声をかけながら3人に近づいてくる。

 漂う薔薇のいい香りが鼻をつく。


「クラスのイケメンが俺達に何のようさ」


 西村が問う。

 その男の名は、三上 トオル。見た目通りのイケメン男子である。そのイチゴのショートケーキのように甘い瞳と端正で整ったクールな顔立ち、艶のあるブロンドの髪は、同学年のイケメンの中でも1位、2位を争う実力者だ。


「いやぁ、君達が女の子の話をしていたんでつい混ざりたくてね」


「何だよ、トオルも保奈美ちゃんか甘美ちゃんでも狙ってんのか?」


 武田もトオルに問いかける。


「もちろんさ、彼女達はボクに相応しい美しさだからね。まぁ、もっともボクは、全世界、全ての美しき女性を狙っているけど。してゆうま、前々から聞きたかったんだが、キミはあの2人、どちらとも仲が良いけど一体どっちを狙っているんだい?」と、言って今度はトオルが、ゆうまに問いかける。

 その顔はお手並み拝見と言わんばかりに微かに笑っている。


「え? バ、バカ、何言ってんだよ。そ、そんなの考えたことないよ」


 思わぬ質問がトオルから飛んできたことにゆうまは、動揺してしまう。実際そんなことを考えたこともなかったゆうまにとって答えに窮するのも無理はない。

 一方トオルは、そんなことをお構いなしにゆうまの答えを聞いて、フムフムと考え込み、結論を出したようで口を開く。


「ふーん、じゃあ決まりだな。ゆうま、君には甘美さんを譲ってあげよう。そしてこのボクが保奈美さんをもらい受けることにしようか。ボクなら彼女を絶対に口説き落としてみせるよ」


「そ、それはゼッッッタイやめた方がいいよ!!」


 ズイッとゆうまは、トオルの視界にドアップで入ってくる。


「な、急に必死になってどうしたんだい、ゆうま君」


「い、いやぁ、ほ、ほら保奈美はちょっと変わってるというか特殊だからさー……、そのね、やめた方がよろしいかと……」


 というのも俺達とは30歳以上も年が離れている。それは決して埋めることのできないものだ。それを知らずして彼女を口説こうなどということになると少々まずい。もしかしたら後々詐欺で訴えられることも……。

 ゆうまはそのようなことを懸念していた。

 しかしそんなことがトオルに分かるはずもなく……。


「ハハハ、もしかしてボクがフラれるかもと心配してくれているのかい? 大丈夫さ、きちんと彼女はボクが落として幸せにしてみせるよ」


「い、いや、そういう問題じゃなくて……」


 そんなこんなで言い合っていると突然「キャーー!」という声が女子コートの方から響く。


「な、なんだ!?」


 驚いてコートの方を見てみるとそこには腰をおさえて倒れ込む保奈美の姿が。どうやらまたまた腰を痛めたらしい。

 甘美や周りの女子が「だ、大丈夫?」と、声かけをしている。


「あちゃ~、またやっちゃったのか……」


 ゆうまはその光景を呆れながら見ているとトオルが「どうやらさっそくチャンスが回ってきたらしい」と、つぶやく。

 ――チャンス……? どういうことだ?

 ゆうまは、トオルのその言葉の真意がよく分からない。

 すると程なくして体育の先生が保奈美に駆け寄り、状態を確認し、周りの生徒に聞く。


「おーい、保健委員はいるかー? 保奈美を保健室まで連れて行ってやってくれ!」


「はい! ボクが保健委員です。ぜひともおまかせください」


 そう言って出てきたのはまさかのトオルであった。


「いや、お前が保健委員だったんかいっ!!」


 ゆうまはトオルにツッコむ。


「そうさ、ゆうま。ボクにまかせたまえ、保奈美さんの腰は治してみせる」と、どこから湧くのか知らないが自信満々の表情と言葉を放つトオル。


「男子にまかせるのはなぁ……。女子保健委員はいないのか? 相方はどうした?」


 先生はトオルに尋ねる。


「彼女なら邪魔なのでさっきボクが監禁してき……じゃなくて、休みです」


「い、今、監禁って言わなかっ……」


「休みです」


 キッパリと宣言するトオル。


「そ、そうか……、じゃあ行ってこい!」


「ありがとう。よろしくね、トオル君」


 保奈美は自分を運んでくれるトオルに感謝する。

 一方そんな流れを見ていたゆうまは、不安を感じずにはいられなかった。

 ――トオルのことだ。もしかしたら何か企んでいるに違いないはず。2人きりにするのは絶対にマズい……!

 そう考えたゆうまは「先生、男子1人で行かせるのは危ないと思うので学級委員長のボクもついていきます!」と名乗り出る。

 こんな時こそクラスの長、学級委員特権の使用である。そんなゆうまに保奈美は「ゆ、ゆーま!」と、驚きを隠せない様子。


「そ、そうだな。じゃあゆうまも運ぶのを手伝いに行ってこい」



 ということで腰を痛めた保奈美に肩を貸しながら保健室へと向かうための廊下を通るゆうま、保奈美、トオルの一行。


「ったく、ゆうま、キミがついて来なくてもボク1人で運べるというのに」


「一応だよ、一応」


 その言葉にトオルは心外とばかりに、やれやれという表情をする。


「フ、さてはボクが上手く運べず、ひいては保奈美さんの痛めた腰をさらに悪化させてしまうとでも思っているのか? 安心したまえ、心配しなくてもボクの愛のヴェーゼの力で、保奈美さんの腰の痛みなんぞ治してみせるっ!」


 そう言った瞬間、突如トオルは保奈美を自分の体の方に持っていき、抱きかかえてそのまま顔を近づけ、キスを迫る。


「そーいうトコが心配だからだよ!!」


 みしっ!


 ゆうまのツッコミパンチがトオルの顔面にヒットする。


「ゆ、ゆ~ま、ツッコミが痛いぞ……。フン! どうしてもボクの治療を邪魔するというのならいいだろう、ボクは全力で保奈美さんに愛のヴェーゼをしてみせる!」


「は、はぁ!? 何言って……」


 ドカッ! と、瞬間、トオルは、抱えていた保奈美をゆうまに投げつける。それによって体制を崩され、倒れ込むゆうま。

 そのスキにトオルはもう一度、保奈美を抱えあげ「さぁ! 保奈美さん、いざボクのヴェーゼをーっ!」と、一気に畳み掛ける。


「させるかーー!!」


 みしっ!


「ぐおっ!」


 倒れこんでいたものの、なんとか足でトオルの顔面をげしっ! と蹴り上げ、阻止するゆうま。それは、手に汗握る一瞬の攻防であった。

 その後、ゆうまは倒れた体を起こし、なんとか立ち上がる。


「まったく、油断もスキもねーんだから! お前はそーいうことしか頭にないのか!?」


「フ、ボクの頭はそーいうことでいっぱいさっ!✨」


 キリッとカッコ良くトオルは決めてみせる。言っていることはまったくカッコ良くないが。

 そんなやりとりをする2人を見ていた保奈美は「やめて、2人とも! 私のために争わないでっ!!」と、目をうるうるさせながら言う。

 その表情はいかにも心配そうにしている。


「2人が私のために争うっていうのならいいわ、私が決める。ゆうま、あなたに私からヴェーゼをしてあげるわ」


「えぇ!? そ、そんなこと……」


 突然の予想だにしない言葉にゆうまは、ドギマギ。


「なーんてね、ウソよ。ジョーダンでしたー! テヘペロ❤️」


「……あのなっー! 人が本気で心配してやってんのにっ!」


 そうこう取り乱しているうちに一行は、保健室へとたどり着く。

 ガラガラガラッという音をたてて、ドアを開けるとそこには丸眼鏡をかけ、優しそうな白衣の中年男性保健担当の先生がいた。


「すいません、うちのクラスの風間 保奈美が体育の際に腰を痛めまして」


 ゆうまは気を取り直して事情を説明する。

 するとその先生は、キリッとベテランの目付きで瞬時に状況を判断し、「フムフム、そうですか。ではとりあえず、そこのベットに寝かせてあげてください、治療しますから」と、指示する。

 さすがはこの道を極めし中年の風格と渋みである。それに従い、トオルは保奈美をベットに寝かせる。


「あ、ありがと、トオル君」


「いえいえ、保奈美さん。もう安心してください、後はボクのヴェーゼで腰を……」


「おどれは、まだ諦めとらんのかっ!!」


 どんがらがっしゃーん!


 ゆうま渾身の一発が炸裂! トオルは「がぴょーーん」と言いながら部屋からぶっ飛ばされ、空に飛んでいき、キランと星になる。

 それを見届けたゆうまは、ホッとして先生に向き直り「先生、ちゃんとした治療をよろしくお願いします」と、頼む。

 すると先生はウムと頷き、ベットに寝かせられている保奈美の方へ。


「はいはい、この道30年、保健のプロと呼ばれたこの私にまかせなさい。保奈美さん、あなたの腰の痛みはすぐにこの私のヴェーゼで取り除きますからねーーーっ!!」


 チューーーッ!


「ってお前もかーーっ!!」


 バシッ!


 保健の先生はゆうまに殴られ、無惨にも床に散る。


「はぁはぁ、ったく、揃いも揃ってボケまくりやがって、ツッコミが疲れるわ……。それはそうと保奈美、腰の方は大丈夫かい?」


 パンパンと手を払い、変態共を片付けたゆうまは、保奈美を心配する。


「う、うん。ベットで寝たらだいぶ良くなったよ」


「なら良かった」


「ねぇ、ゆうま、その……ありがとう。こんな、過去に何人もの男と重ねてきた私の唇なんかを今さらでも守ろうとしてくれて……こんなの初めてで、とっても嬉しい❤️」


「え?」


 ドキッ


 その時の保奈美の顔は、いつものふざけている時とは違う真剣な、それでいて甘い幸せそうな女としての表情(かお)であった。ゆうまは思わず吸い込まれそうになる。

 ふいに窓からそよ風が吹いてきた。お互い風に乱れた髪が、優しく頬を撫でる。

 ……前もそうだった、いつもは子供っぽく、ちゃらんぽらんでいて、それなのに急に素直に、そして本来の大人になる。そんな彼女の気持ちがゆうまにはまだ、よく分からなくて……。

 少しの()の後、ふと保奈美が口を開く。


「あのさ、お願いなんだけど、ちょっと腰をさすってくれない? まだほんの少しだけ痛くってさ」


 そう言って起き上がり、ベットの上でゆうまに腰を向ける。


「分かったよ、でもさ、歳なんだからこれからはあんまし、無理をするなよな」


 そう言いつつ、体操服の上から腰をさすってあげるゆうま。


「エヘヘ……、ついつい熱中すると私ったら無理をしちゃうのよね~」


 ――ガラガラガラッ


「でね、それで……って……」


 突如、保健室のドアが開き、喋りながら甘美を含めた女子達数人が入ってくる。どうやら保奈美のことが心配でお見舞いに来てくれたらしい。

 しかしゆうまと保奈美の姿を見て喋りが止まり、場がカチカチに凍る。


「あ、い、いや、これはその……深いワケが……」


 言い訳をしようとするゆうまを女子達は、生ゴミを見るような目でジトッと見てくる。


「ゆ~~~~ま~~~……」


 声を震わす女子達。どうやらゆうまが保奈美に変なことをしようとしていたと勘違いされたらしい。


「い、いや、ちょっと……、これは誤解なんだって……」


「こっの、ケダモノ~~~~~っ!!」


 べしっ!


「なんでぇ~~~~~」


 そう叫びながらゆうまは、女子達渾身の一撃で飛ばされ、キランと星になる。

 そんなゆうまを目に保奈美は「ちょっとマズかったかな、テヘペロリン❤️」と、舌を出して笑っていた。



           *          *



 ここは渡良瀬学園高校から数十メートル離れた場所にある緑豊かな公園である。


「お母さーん、どーして男の人が2人も木に引っ掛かっているの~?」


「コラッ! 見ちゃいけませんっ!!」


 吹っ飛ばされたトオルとゆうまは、この公園の木の枝に引っ掛かって宙吊りになっていた。


「吹っ飛ばされて来るなんてどうやらゆうま、君はフラたのかな~」


「しくしくしく……、どうして俺までこんな目に……」



TO BE CONTINUED

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