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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
20/21

第17話「リモート授業は大変だ」

桜舞い踊る春に贈るスペシャルエピソード!

今作初の一人称視点で進みます!

「皆さん、聞こえてますかー? ちゃんと入ることが出来ましたかー?」


 パソコンの画面上、真っ黒な背景にワタシの発した言葉が音声となって流れる。とほぼ同時にワタシの顔が画面にポツリと映し出された。その姿はひどく痩せこけ、目尻には黒いクマが浮かんでおり、生気のない表情が否が応にも分かる。自分で思うのも何だかきっと相当疲れているに違いない。

 ワタシはこの私立渡良瀬学園高校1-3組の担任教師だ。ひとまず自己紹介でもしたいところだが、しかしこの物語のカケラにおいて一介の脇役ですらなく、あくまで傍観者に過ぎないワタシだ、名乗る程でもない……か。


「先生、大丈夫です!」


 先程の問いかけにポツポツと映りだす生徒達のうちの1人が元気に返事を返してくれた。その返事を聞き、ワタシはパソコンから接続出来たことが確認出来たので、ウンウンと頷き返してあげる。

 実は今日はというと、生徒達にそれぞれ自宅からパソコンを使って、カメラをオンにして、リモートで参加してもらう形式の土曜オンライン授業の日であったのだ。その内容は、いよいよ来週に迫った渡良瀬学園高校研修旅行の説明会のため。ワタシ自身生徒達に対し、このようなリモートを用いた授業の試みは初めてであり、少しばかり不安でもあった。


「みんな、今日はいよいよ来週から始まる、渡良瀬学園高校チキチキGO TO 新入生研修旅行へ行くための説明会だからよーく聞いていてねー」


 とりあえずワタシは教師として事務的な声掛けをする。が相手の生徒達はリモート経由だ。どれだけの人がちゃんとワタシの説明を聞いてくれるのだろうか。

 その時ちょうどウチのクラスの生徒、風間 保奈美と甘美の顔が表示され、オンラインのグループへと入ってくる。どうやらこれにてめでたく我がクラスメート全員集合のようである。


「おっ! 保奈美さんと甘美さんも来たね。これで全員オンライン上に参加完了です。ちなみに保奈美さんと甘美さんはそれぞれ別の部屋からやってるのかな? ハウリングとかネット環境は大丈夫かい?」


「ハイ、保奈美姐さんとあたしはそれぞれ自分の部屋からやってます。今のところお互い正常に参加出来ているので大丈夫でーす」


 画面上から甘美がそう答えてくれたことでワタシの確認作業も完了する。


「そうですか。では、時間にもなりましたのでそろそろ始めます。いやー、先生、君達にリモートでやるの初めてだからどんな感じが楽しみだな〜」


 これにていよいよオンラインでの授業開始だ。疲れは癒えないが、ここが頑張りどき、ワタシは眠い目をこすりながらも、気合を入れ直す。画面を介し、ワタシは話を始めることで本格的に授業をスタートさせるのだった。



第17話「リモート授業は大変だ」



「では始めたいと思います。まずはですね……、事前に配ったしおりの1ページ目を確認してください。そこに今回の研修旅行の意義・目的が書いてあるのですが……」


 手始めの内容としてワタシがしおりについて説明を話し出したその刹那だった。

 ピーンポーンと突然画面上にインターホンが鳴り響く。ワタシはあまりに急であったため、てっきり自分の家のものが鳴ったのかと一瞬逡巡するのだったが、すぐにそれが自分の家の音とは違うことに気づく。であるとすれば……


「ちょっと、誰かさんの家のインターホンが今鳴りませんでしたか?」


 ワタシは画面上の生徒達に問いかける。すると案の定、「あ! すみませーん。ワタシです〜、ちょっと待っててください」とうちのクラスの生徒、八乙女 優希が名乗りを上げる。

 正直、授業を中断されてワタシとしては心持ちが良くないのだが、大事な時に郵便などでインターホンが鳴るというハプニングはままあることだ。ここはグッと堪えることにする。

 しばらくして優希が「すみません」と言いながら画面に戻ってくる。しかしその姿にどこか違和感が。なんと彼女、どんぶりを抱えながらパソコンの画面に向き合っているではないか。


「ゆ、優希さん? そのどんぶりはいったい……」


「ホントにすみませんです〜。今日はオンライン授業だったんでちょっとU○berイーツ頼んでまして、それが今来たみたいです。ワタシ、食べながら全然聞くんで気にしないでください〜」


「あ、あのですね、優希さん。授業中にU○berしてそれを食べるのは……」とワタシが注意しようとするものの、それを聞く間もないまま、彼女はムシャムシャとどんぶりを食べ始める。


「ちょ、ちょっと優希さん! ……まったく、皆さん、今後は勝手にパソコンの前から消えないようにしてください、ワタシが説明するんですから!」


 ワタシは叱ることを諦め、今後優希のようなことがないよう生徒達にすぐさま釘を刺す。やはり今日も始まってしまったか……。


 冒頭、ワタシの疲れとやつれについて述べさせてもらったのだが、ではそもそもなぜ一介の脇役に過ぎない教師であるワタシがここまで疲弊した状態に陥ってしまっているのか。気になるところであろう。そこで、その端的な原因について忌憚なき説明をここに述べさせてもらう。

 実はワタシの疲れの要因――――というのはこの1年3組クラスの生徒達にあるのだ。そう、この苦しみ、それはひとえにクセのある、いや、一言クセのあるなんて言い表せるものじゃないほどクセの強い、アクの強いうちのクラスの生徒達のせいに他ならない! ワタシは彼らにことごとく頭を悩ませ続けられているのだ。

 それは時に彼らが悪夢の中に現れることで、うなされノイローゼになってしまうほど重症だ。

 彼ら1年3組の生徒達のクセの強さによる悪行っぷりと手の焼きようには、ほとほと困り果てており、それは(みな)も前回のエピソード、第16話から分かるであろう。

 そんな中でも特に注意すべき生徒、いわゆる危険人物はワタシが独自にマークし、丸秘ブラックリストに載せている。

 たった今、問題行動を行った八乙女 優希もそのブラックリストに記載される危険人物の1人だ。彼女は根は常識人キャラであり、危険度としてはC級と低い方ではあるのだが、過去、男としての自分を捨て、女として生きる道を選び、自らの意志で人生を切り開いてきた経験もあってか物事に縛られることを嫌う。何モノにも縛られたくないし、そもそも意識していないのだ。これはひとえに本人の自由な気質ゆえであり、勝手な行動を取ることも少なくない。

 それもあってかワタシのような体制側の人間にとっては扱いにくい生徒である。

 おまけに準レギュラーであり、ワタシのような脇役にはそもそも目がないに違いない。


「おっほん。とりあえず授業を再開します」


 ワタシはブラックリスト人物への対処法に則り、優希への追及をやめ、気を取り直して授業を続けることにする。


「えー、それでは旅のしおりの1ページ目についてですけども……」


 ワタシが再び言葉を発した途端、今度はいきなりプツンと画面が切り替わる。そして先程まで映し出されていた生徒達の顔と共有していた研修旅行の資料が消え、『既婚男性を奪う方法&寝取り・捕まえ方』という不純な記事が勝手に映し出される。これにはワタシも唖然とする。


「ンンーッ! おい! 今度は誰だ⁉ 誰が勝手に画面共有始めてるんだ、授業どころじゃないんだが!」


 ワタシは二度目の中断に流石に生徒相手とはいえイライラを隠しきることは出来ない。すると「あ、すみません。ボタン押し間違えちゃって共有しちゃいましたー」と今度は天童 さくらが名乗り出てくる。チッ、今度は天童のガキか!

 彼女もまた、ワタシのブラックリストの1人である。彼女、天童 さくらは危険度が特A級と高く、ワタシの宿敵の1人、教師泣かせの人物だ。ここ地元で知らない人はいないと言われる某神社の家系であるが、しかしてその実態は、毎朝の遅刻は当たり前、それに悪びれる様子もない健康優良不良少女だ。しかも彼女、常日頃イケメンを捕まえるために当たり屋を行っているらしく、何件もの苦情が学校へ入っていて迷惑しているのだ。おまけに本人は天然バカであるため、我々教師のノリや常識が通じない。何度これまで彼女に悩まされ、教師人生を脅かされてきたことか。


「ちょっとさくらさん! “人妻”のかたは魅力的ですけど、既婚男性の方をNTRで狙おうとするのは興奮しませ……、じゃなくて、ちゃんと集中して授業を受けてくださいよ!! まったく」


「すみませーん、反省反省❤」


 そう言ってさくらは、画面越しに頭をポコポコ叩く仕草をするがそこから微塵も反省を感じられないのはワタシだけであろうか。


「とりあえず、共有解除しときま……」


「あれー! 姉ーちゃん、何やってんのーー!」


 さくらが共有を解除したとほぼ同時に、今度は耳が痛くなるほどの無神経な男の子の大声が画面上に流れてくる。そのあまりにクソガキ感漂うセリフと声量はワタシの神経を逆なでする。


「こ、今度は何だい……‼」


「ちょっと甘太(かんた)! 邪魔しないで! 今オンライン授業やってるのにうるさい!」


 どうやらその発生源は風間 甘美からのものであるらしく、彼女の注意が聞こえてくる。


「ア、ハハハ……、すいません、うちの弟が騒がしいもんで……」


 甘美が画面越しに謝ってくるが、その後ろで彼女の弟……らしいクソガキんちょは、反省もせずこちらを小バカにする表情で笑っている。

 風間 甘美……、危険度C級、こう見えて彼女も実はワタシのブラックリストに入っている。クラスの女子学級委員長であり、日頃は統率力に優れ、強い責任感とリーダーシップでクラスを纏めるまさに学生の鏡のような頼れる人物なのだが、ひとたびスイッチが入ると厄介な相手なのだ。特に風間 保奈美、松坂 すみれ、愛野 ゆうま、この3人と絡みだすとどこか彼女はおかしくなる。また彼女は利口ゆえ今作をギャグ作品だと早くから理解しており、撮れ高や盛り上がりになるならば自ら悪乗りすることや暴走をすることも厭わない。やはり個性が強く一筋縄ではいかないのだ。

 とにかくこれ以上邪魔されないよう早く落ち着いて授業を続けなくては。ワタシは混沌としてきたオンライン授業を戻そうと「まぁ、いいですけど、気をつけてくださいよ。とにかく授業を……」と、仕切り直しかけた――――ところで、プルルルルル、プルルルルル!


「だぁーっ! 今度は何ですか!?」


「すみません、わたくしの家の電話が鳴ってしまいました。謹んでお詫びいたします」


 またブラックリストの人間か! 邪魔しやがって! 画面に現れた古式 薫の姿を見てワタシは理解する。

 古式 薫、一見人畜無害に見える三編みのおっとり少女だが、そのマイペースぶりは侮れない危険度B級の女。何度ワタシも彼女に振り回されてきたことか。今の反省する気のない儀礼的な謝罪からも彼女のマイペースぶりが伺える。

 ワタシはここまでハプニング、いや、厄災が立て続けに起こったことへ危機感を募らせる。もうこれ以上、ブラックリストの人間達に絶対運命である授業を荒らしてもらうわけにはいかない、ひとたび均衡が崩れると悪いことは連鎖するのだ。決心する。ワタシは強い意志、揺るがない心を持ち、抜け出さねばならない、この悲し過ぎる運命から。


「えー、皆さん、聞いてください。改めてこれ以上くれぐれも授業を阻害しないようにしてください! これ以上邪魔をするのであれば容赦はしませんからね……! それでは授業を続けます」


 ワタシは半ば脅し文句のような言葉を生徒達に突きつける。仕方のないことだが、負の連鎖を断ち切り、平穏を取り戻すためにはこうするしかないのだ。そう、何かを変えることのできる人間がいるとすれば、それはきっと大事なものを捨てることができる人間。何も捨てることができない人間には何も変えることはできないだろう。

 ひとまずワタシは強権を発動させ、制裁をちらつかせたことで、緩み始めていたその場の空気を引き締めることに成功した。

 しかし、安心と同時にワタシの心の奥底には、嫌な予感が湧き始めてもいた。こういう時の嫌な予感というものはたいていの場合当たる。

 ワタシが支配し直し、軌道修整したかに見えていた運命の歯車はすでに乱れ、“ソレ”を呼び寄せていたのだ。それは例えるならば受け継がれる遺志、時代のうねり、人の夢、これらがすべて止めることのできないものであるのと同じ、人々が自由の答えを求める限り、それらは決してとどまることは無いのだ。崩壊の時は突如として訪れる。


「あれ⁉ あれれれぇ〜――――」


 急に間の抜けた叫び声が画面上を覆ったかと思うと、保奈美の姿が画面にデカデカと映し出される。どうやら声の主、発言者は風間 保奈美のようであり、彼女は、画面上で慌てふためき、ジタバタしている。


「ど、どうしましたか、保奈美さん⁉ 保奈美さん!」


 ワタシが釘を刺したそばから大声をあげて叫び出すあたり、よほどただならぬことが彼女の身に起きたのであろう。ワタシは必死に呼びかける……が、健闘むなしくプッツンとそのまま保奈美との通信が途絶え、彼女の画面はフェードアウトしていく。


「保奈美さん! 保奈美さーん! 応答せよ! 大丈夫ですか〜!」


 なおも呼びかけるものの応答はない。一体何が彼女の身に起こったというのか。

 するとそんな状況を見兼ねたのか保奈美と同じ家に住んでいる甘美が「まったくもー、姐さんってば。どうせあの慌てようから察するとこ、変なボタン押しちゃったんでしょ、ホント機械に弱いんだから……。先生! あたしが様子を見てきます」と名乗りを上げ、彼女も画面外に消え、保奈美の部屋の方へ出ていく。


「よ、よろしく、甘美さん。では、とりあえず授業の方を……」


「ちょっと香貫花さん、個人チャットでわたくしに悪口を送りつけてこないでくださる⁉」


 矢継ぎ早に今度は松坂 すみれが激昂した表情で画面に現れ、ワタシの言葉はあっさりと遮られる。彼女の矛先はどうやら藤井 香貫花に向いているらしい。


「ん? 何のことかしら、すみれ」


 激昂した表情のすみれと対称的に相変わらずのクールな眼差しでとぼけた表情をしてみせる香貫花。そんな彼女にすみれはワタシの授業そっちのけで続ける。


「とぼけないでいただきたいですわ! さっきからずっと送ってきてるじゃありませんか!」


「そういうアナタだって私に悪口を送ってきてるじゃないの」


「元はと言えばあなたの方から……」


 そのまま2人はガヤガヤガミガミと口論を始めてしまう。そのあまりの剣幕にワタシは口を挟むことができず、そのうちに彼女達はさらにヒートアップし、画面上を呑み込んでいく。

 その騒動・混乱に乗じてなのか三上 トオルが「ねぇー、キミキミ、さっきから画面で見てたんだけど可愛いね。オンライン授業の後にボクと一緒にお茶でもどうだい? 乱暴はしないさ、画面上からでもキミは魅力が伝わってきていて素敵だ」「えぇ、そ、そんな……、トオル様❤」とリモート上でクラスの女の子をナンパし始める。


 保奈美をきっかけにかろうじて保たれていた授業の秩序が一気に崩壊し、大混乱に陥るさまにワタシは戦慄を覚える。ここに来て恐れていたことが起きてしまった。

 ワタシのブラックリストに記載される人物の中で特に危険度の高い注意すべき人物、いうなれば特級呪霊と言う名の問題児達が続々と暴れ出したのだ。

 風間 保奈美――――危険度特A級、風間 甘美とは親戚の関係。その見た目の美しさは国宝級だが、性格に難あり。すぐに調子やおだてに乗っては危険に陥ってしまうこともしばしばあるトラブルメーカー。また常に何を考え、そして行動しているのか読み取ることができずミステリアスな雰囲気も持ち合わせていて掴みどころがない謎多き少女。ワタシは彼女に戸惑わされてばかりだ。

 次に松坂 すみれ――――危険度S級、その性格は高飛車で傲慢ドSかつ腹黒、自らの紡ぎ出す絶対の意志の元に生きており、常に他人を見下し、ワタシのような教師といった目上の者に対しても尊敬の念も何も持っておらず、むしろ軽蔑すらしているまさに典型的な悪女。

 そして藤井香貫花――――すみれと同様危険度S級、性格はすみれと似て高圧的でプライドが高く、それでいて頭脳明晰、頭が良い分、より扱いが厄介。おまけにいちいち余計な一言が多く、ワタシは彼女にストレスをかけられられっぱなしである。

 最後に三上トオル――――同じく危険度S級、見た目は甘いマスクのイケメンだが、その正体は度を超えた変態。素行も悪く、可愛い人を見つけると所構わずすぐにセクハラ&口説こうとする。また自分が異常だという自覚も乏しく、自信過剰なナルシストである。

 この4人がほぼ同時に動き始めた状況下、こうなっては手を付けられない。そのまままるで廃墟が年月を経て徐々に朽ち果てていくかのように……、オンライン授業と言う名の秩序は崩壊していく。


「あのぅー、実は今度売店のお弁当に新商品を入荷したんですけど、誰か買いませんか⁉ 今ならとってもお得で先着50名限定100円引き! お買い得なんですよー!」


「へぇー! 気になるー!」「私も欲しい!」とクラスメートに新商品の宣伝をちゃっかり行い始めるまどか。


「おい、ゆうま、この前見た隣町の女の子、可愛かったと思わねぇか?」


「そうそう、我が女子研究会でも一目置いてる地域のマドンナちゃんだからな」


「そ、それは確かにそうだね」


 そう言って授業と何ら関係のない女の子の話を始める西村、武田、ゆうまのズッコケ3人組。


「さくらちゃん、ここのうな重めちゃめちゃおいひ〜、頼んで正解だったよ〜」


「えー、いいなー、アタシもU○berで頼もうかな」


 食べ物トークに花を咲かせる優希とさくら。

 もはやワタシのオンライン授業は完全に徒労に帰し、生徒達の自由なお喋り場へと化した。


「もーっ、わたくし、カンカンですわ‼ すみませんじゃ済みませんことよ‼」

「すみれ、怒るとシワが増えるわよ」


「姐さんてば何やってんの、ここをこうしてこうして……」

「あぁ! そうやるのね! さっすが甘美!」


「あぁ、早くキミのような美しき女神にお会いしたいよ」

「いや~ん、ト・オ・ル様~❤」


「こっちの商品も今すごくお得で早期購入に限り、オリジナルストラップが付いてくるんですよ!」

「買います買います~!」


「隣のクラスのあの子も可愛いよな〜」

「あぁ、あの子か、俺もぜひとも彼女にしたいぜ〜」

「お前らなぁ、最初はもうちょっと節度を……」


「食べるといえばさくらちゃん、今は既婚男性のイケメンを食おうとしているの?」

「そうなの、やっぱり既婚者って魅力的でしょ? 絶対に越えられない壁を攻略してみせるって燃えることができるあの感覚、堪んない〜❤」


 始めから真面目に授業を聞こうなどという考えはなかったのであろう。彼ら彼女らのお喋りは延々と続きそうな気配を帯びている。

 そうだ、なぜワタシはこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。オンライン授業ならばどんなにクセの強い我がクラスの生徒でも工夫次第で上手く扱うことができるという身の程知らずの愚かな思い上がりで甘く見積もっていたことがそもそもの間違いだったのだ。

 ワタシの心は今やポッキリと根元から折れた。そこで理解する。このクラスでのリモートオンライン授業は悪手だったのだ。そしてワタシは結局主役にも脇役すらにもなることのできない、ただの傍観者に過ぎなかったのだ……。ワタシには物語を何一つ変えることも進めることもできないのだから――――。


「もーっ、みんな先生の授業をちゃんと聞いてくれーー‼ しくしくしく……、オンライン授業なんて懲り懲りだーーっ‼」


 喋りまくる生徒達をパソコンの前にしてワタシは叫び、涙を流し続けていたのだった。



TO BE CONTINUED

いよいよ次回から新入生研修旅行編スタート!

序章は最高潮クライマックスへ!

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