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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
15/21

第12話「激突!! 無差別格闘プール掃除対決!」

新年一発目です!

「んー、今日は絶好の掃除日和だな~」


 雲一つない青空に、暖かな陽気を感じるポカポカの日光を浴びながら、ここ、渡良瀬学園高校ではそれぞれのクラスの代表である学級委員達によるプール清掃作業が行われようとしていた。


「おまたせー。ごめーん、下に着る水着に手間取っちゃって遅れちゃった」


 準備万端で、はりきるゆうまに声を掛けてくるのは、同じ学級委員の甘美である。彼女の着ているハーフパンツと白のシャツは、渡良瀬学園高校の公式体操服であり、ゆうまも先程着用したばかりだ。


「よし! それじゃあ行こう。もうみんな集まってるから」



第12話「激突!! 無差別格闘プール掃除対決!」



 ゆうまと甘美は急いでプールサイドへと向かう。するとそこには他のクラスや他の学年の学級委員達がすでに並んで隊列を組んでおり、ゆうまと甘美も急いで混じる。

 その後数分を経ずして現生徒会会長がみんなの前に登場する。


「えー、本日は学級委員によるプール清掃に集まってくれてありがとう、感謝する。数週間後に始まるプールの授業のためにもしっかりと掃除をお願いしますね。では次に教頭先生からの挨拶です」


 そう言って生徒会会長は引き下がるが、周りの学級委員達は突然ざわざわとざわめき始める。


「きょ、教頭ってあの……」

「まさか見れるのか……」

「つ、ついに会えるなんて……」


 ざわめきの最中、聴衆の前に現れたのはブロンドに染め上げられたロングヘアーをなびかせるピシッとした凛々しく、麗しい女教頭であった。見た所40代中頃ぐらいだろうか。周りが輝いて見えるほどのオーラをまとっている。


「どうも、渡良瀬学園高校教頭のあやめです。皆さん、お疲れ様。貴方達の働きには期待しています」と言ってニッコリと微笑む。

 そんな彼女の美しき姿にゆうまの隣で聞いていた甘美も「あぁ! あやめさんに激励されるなんてあたし、感激❤️」と、目を煌めかせている。

 そんな彼女に「ねぇねぇ、なんか周りも騒いでるけど、あの教頭、そんなに凄い人なの?」と思わず尋ねるゆうま。


「な、ゆ、ゆーま、し、知らないの!? もっー、渡良瀬学園高校を志望したんならそれくらい知っときなさいよ!」


 甘美は、やれやれと呆れ果てる。


「頼むよ~、一体何者なんだよ、教えてくれよ~」


「あのね、あやめさんはね、文科省出身の元官僚という超エリートで、官僚を辞めた後は、その類い稀なる人心掌握能力や実務能力を見込まれてある有力政治家から政界進出を薦められたこともある人なのよ! ま、あやめさんはそれを蹴って校長先生と一緒にこの高校を立ち上げた訳だけど、教育業界じゃ今や有名人だし、未だに政界とも太いパイプを持ってるし、とにかく凄い伝説の人なんだから」


「そ、そうだったんだ……、凄いね……」


「そう! この学校を卒業後、政治家を志す人が多いのもあやめさんの影響だし、あやめさん目当てでこの学校を志望する熱狂的な子だっているだから! しかもあの40代の見た目で実年齢56歳っていう……もう驚異だわ」


ゆうまは、そこまで凄い人が教頭であったのか、と改めて自分の高校のことを見直す。そしてもう一度、激励を終えて壇上の脇に下がっていたあやめを見ると、うっかり彼女と目が合ってしまう。するとあやめは、こちらを見てニコリと笑い返してくれた、……ような気がゆうまは、するのであった。



「……ということでプール清掃開始です」


 司会者の合図と共にいよいよプール掃除が始まる。ゆうまと甘美は浴槽担当のため、まずデッキブラシを取りに向かおうとした、その時「これはこれは、君達は、かの有名なゆうま・甘美カップルじゃないか」という謎の声に急に呼び止められる。


「な、なんだ!?」


 瞬時に警戒の態勢をとるゆうまと甘美、そんな2人の目の前にゆっくりと現れたのは、ピッタリと、くっつき合ったイチャイチャカップルであった。


「いや~、まさかこんなとこで会えるとは思いませんでしたわ~」


 女の方がそう発すると男の方も「そうだね、みっちゃん❤️ でもボク達の方がラブラブぶりは上だよね~」と同調し、「そうよね~、もんちゃ~ん❤️」と言って2人はひしっと抱き合う。


「……な、なぁに、この人達……」


 S極とN極の磁石のくっつき具合を思わせる、あまりの密着度とラブラブ具合に甘美が若干引いていると男が再びゆうまと甘美に向けて語り出す。


「あ、紹介が遅れたね、ボクの名前は土門(ドモン)、そして世界一美しい彼女の名は三日村(ミカムラ)。見ての通りの美男美女ラブラブカップルさ」


 そう言って前髪をサッと整える。確かに言葉通り土門と三日村は、キレ目のクールなカッコいい&ゆるふわウェーブで二重のお目目パッチリな可愛らしい美男美女であった。

 しかしそのラブラブっぷりは、常軌を逸している。


「……あのなぁ、俺達に何の用だよ……」


 一方的に絡んでくる2人にゆうまも若干呆れて引きつつ、とりあえず尋ねる。

 すると土門が「フ、いやぁ、君達2人の噂を常々聞いていたんでね。どうやら1年3組の学級委員にとっても仲のいいゆうま&甘美カップルがいるという噂を。で、実際に会ってみたいと思っていたんだが、こうして実際に会ってみると君達全然ラブラブじゃないね」と嘲笑いながら答える。


「ったり前じゃない。誰よ、勝手にそんな噂流したの!」


 甘美が顔を真っ赤にしながら噛みつく。

 すると今度は三日村が「はぁ……、まったく残念でしたわ~。私達と張り合えるカップルがやっといたのだと思ってましたのに。これじゃあ今回のプール掃除もアナタ達、どうせダメダメでしょうね~」と残念そうに落胆しながら言う。

 しかし、その言葉にゆうまは、少しばかりイラッとする。


「どういうことだよ、それ……」


「どういうことって今回の掃除は学級委員の男女がペアを組んで掃除するコンビ形式による掃除のやり方ですのよ~。でもアナタ達みたいなズッコケコンビじゃみんなの足手まといになるだけですわよ~」


 そう話す三日村の目は、こちらを蔑むような冷たい目をしている。


「ま、浴槽はボク達も担当だからボク達に任せて、キミ達は指でも咥えて見ていてくれたまえ。ワッハッハッハッハ」


 土門もゆうまと甘美を見限ったようで、そのまま見向きもせずにデッキブラシを置き場から取り、ひっつき合ったまま、排水されて藻やコケだらけの浴槽に入っていく。

 そんな2人を尻目に煽られたゆうまと甘美は、燃えていた。


「……ねぇ、ゆうま。あたし達、あんなポッと出のゲストキャラになんか負けてらんないわよね……!」


「……おぅよ! ラブラブカップルだかブラブラカップルだかバカップルだか知らないがよ、俺達レギュラーコンビを敵に回したらどうなるか……教えてやろうぜ、いくぞ!」


 完全に目の色を変え、背中を情熱の炎で燃え上がらせた2人は、すぐさまデッキブラシを手に取り、土門&三日村カップルに勝負を挑む。


「準備はいいか、甘美!」


「OK! ゆうま!」


 浴槽に降り立った2人は土門&三日村カップルを尻目に一気に「おりゃおりゃおりゃおりゃーっ!」と雄叫びを上げながらデッキブラシで浴槽の汚れを荒々しく、かつ正確無比に削り落とし始める。その早さ弾丸列車級、神速とも言うべき速さ。辺りには水しぶきがたち、太陽の光を受けてまるでイルミネーションのように煌めき出す。


―――――カンッ!


 突如、木と木のぶつかり合った硬質な音が響き、同時に火花が散る。そこには浴槽でデッキブラシをまるで刀のようにしてつばぜり合い、ぶつかり合うゆうまと土門の姿が。


「何すんだよ、土門。掃除の邪魔だ!」


「フフ、どうやら君達2人もようやくやる気になったようだね。どうだい、ボク達2人とキミ達2人、それぞれのペアのコンビネーションによる無差別格闘プール掃除対決。最後までリング、つまり浴槽に立っていた方のペアが勝ちだ」


「その勝負、受けて立つわ!」


 土門の提案に即、甘美が受けることを宣言し、ゆうまもこくりと頷いて同調する。これよりゆうま&甘美VS土門&三日村による無差別格闘プール掃除対決が始まる!

 その異様なピリつく緊張感に周りで掃除を始めていた他の人々もリングとなる汚れに覆われた浴槽を見守り始め、息を飲む。そんなオーディエンスのうちの1人がレフェリーを買って出て、リング中央に降り立つ。


「よぉい! 始め!」


「いくぞ、甘美! カーリング方式だ!」


 先手必勝、始めに動き出したのはゆうまと甘美ペアである。甘美が洗剤を取り出し、ジョロジョロと浴槽を進みながらまいていく。そのすぐ後ろをゆうまは、デッキブラシでゴシゴシと力強く磨いてゆく! その姿まるでストーンのために氷のリングをブラシで掃くカーリングの如し! みるみるうちに浴槽の底が綺麗になってゆく。

 一方土門・三日村ペアも動き始める。土門は、なんと三日村を抱えあげ、肩車する。そして三日村は浴槽の壁を、土門は底を、移動しながらデッキブラシでゴシゴシと華麗に磨き始める。その姿、まるで六の手を持つ阿修羅の如し! 底と壁を一気に綺麗にしていく高度な技である。

 と、そのまま土門・三日村ペアは、ゆうま・甘美ペアに接近していく。


「くらえ~! デッキブラシ居合い一閃!」


 土門の上に立った三日村がデッキブラシを大きく振りかぶってくる。


――ガキンッ!


「くっ!」


 なんとかデッキブラシの柄でガードし、攻撃を受け止めたゆうま。と、甘美が「今だ!」と、叫んで背後に回り込み、土門の背中をポンと押す。

 瞬間、土門は「あわわっ!」とバランスを崩し、三日村もろともバタンと床に倒れ込む。


「フフフ、ハマったわね。ゆうまの周辺はあたしがまいた洗剤でいっぱい、そんな複雑な体勢で近づけば少しの衝撃でスベって転んじゃうのよっ!」


 甘美は決まった! とばかりに得意げに解説する。


「くっ……、してやられたってワケか……」


「でも、勝負はまだまだこれからよ~」


 倒れていた土門・三日村は再び立ち上がる。一方ゆうまと甘美も再び臨戦態勢に入る。


「やるじゃないか、ようやく身体(からだ)が暖まってきたぜ!」


 すると土門と三日村は着ていた体操服の上を脱ぎ、土門は上半身裸に、三日村は上半身、中に着ていた黒の水着姿になる。


「俺だって強くて硬い意志の男!」


 一方、ゆうまと甘美もそれに応え、彼ら同様、体操服の上を脱ぎ、同じ状態へと移行する。

 ここから戦いは聴衆の熱意も巻き込みながらさらに白熱していく。

 まずは再びゆうまが先陣を切る。


「くらえ、デッキブラシトルネード!」


 説明しよう! デッキブラシトルネードとは読んで字のごとく、デッキブラシを振り回して、汚れと敵をまとめて吹き飛ばす程のトルネードを発生させる大技である!


「いっけーっ!」


 ゴゴゴゴという音を立てる暴風と共に放たれたトルネードは、土門・三日村ペアめがけて近づいてくる。が、しかし三日村がデッキブラシを構え、前に出る。


「いくわよぅ~、トルネード返し~、からのデッキブラシスコ~ル!」


 その言葉と共に三日村は、底に溜まっていたわずかな水をデッキブラシで巻き上げ、トルネードに含ませつつ、さらにもう一方の手にある、土門から受け取ったデッキブラシを逆回転させながらトルネードにぶつけ、ゆうま達の方へと押し返す。驚異のカウンター技である!

 この荒技にはゆうまも想定外だったようで「ウ、ウソだろ!?」と度肝を抜かれる。が、時すでに遅し、よりパワーアップして返ってきたトルネードもといスコールに為す術なく2人は巻き込まれ、やられてしまう。

 空中に身を投げ出され、そのまま落下し、床にドサッと叩きつけられるゆうまと甘美。全身に鈍い痛みが走る。

 今のうちに土門と三日村はスパートをかける。


「さぁ、最後の仕上げだぁっ!」

「えぇ!」

「2人のこの手が真っ赤に燃える!」

「幸せ掴めと!」

「轟き叫ぶ!」

「爆熱……ゴッドフィンガァァァーーーッ!」

「水っ!」

「破っ!」

「「ラァァァッブラブゥゥゥッ❤️ 水驚ぉぉぉ拳っっっ!!!!」」


 土門と三日村は手を重ね合わせる。その時、まばゆいばかりの閃光が溢れだし、水と共にゆうまと甘美めがけて一気に光線が繰り出される。


「うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 もろに直撃をくらったゆうまと甘美は、断末魔の悲鳴を上げてしまう。そのままドガァァァンという大地をも揺らす大爆発が。


「終わったな……」


 土門はモクモクと昇る爆煙を背に勝利を確信し、三日村と共にその場を去ろうとする。


「ま、待ちな……」


 その消え入りそうになりながらも芯の通った声は、先程の攻撃による爆煙の中から聞こえてきた。


「な、なに!?」


 思いがけない声に土門は驚き、振り返る。

 そこに、その煙の中にいたのは、血を流し、傷だらけで満身創痍になりながらも肩を組み、浴槽にしっかりと立つゆうまと甘美の姿であった。彼らの姿に、周りの聴衆もまだ分からぬ戦いの行方に息を飲むことすらも忘れてしまい、ただただ見守っている。


「……まだ勝負は終わっちゃいないわ……、ゆうま、あたし達が最後に勝利を掴むわよ!」


「……あぁ! おい、お前らいいか! このなー、デッキブラシでデッキ(出来)ないことは何も無いんだ!」


――ヒュー…………


 熱いセリフからの突然のダジャレに冷たい風が吹き、聴衆は、カチコチと固まってしまう。それは、勝利の余韻に浸っていた土門と三日村をも思わず真顔にしてしまうほどであった。

 しかし、これが思わぬ効力を発揮する。

 なんとあまりの場の寒さに、浴槽もといフィールドの足首まで溜まっていた水が一気に凍り、土門と三日村を捕らえる。


「な、なんだとぉ!?」


「し、しまったわ~!!」


 焦る2人。だがゆうまと甘美は、その一瞬の隙を逃さない。


「今だ甘美、準備はいいか!」

「えぇ、大丈夫よ! いきましょ!」

「驚き!」

「桃の木、山椒の木!」

「ブリキにタヌキに!」

「洗濯機!」

「「やって来い来い大水柱!」」


 2人が呪文を唱えた瞬間、辺りの凍てつく氷の下から水がザバンと大きな音を立てながら現れ、そのまま3本の大きな水柱を作り出す。


「「はぁ~」」


 さらに2人が気を溜め始めると、その3本の水柱はぐるぐると辺りを回転し出す。


「コペルニクスもガリレオも!」

「2人の前では天動説!」

「この世界はっ!」

「2人を中心に回っている!」

「「くらえ! 爆裂鳳水破ーーーっ!!!!」」


 ゆうまと甘美は、手を繋ぎ合わせる。その時、激しい風圧と共に一気に3本の水柱は1本の水流となり、土門と三日村めがけて繰り出される。


「ぐわぁぁぁぁぁっ!」


 その攻撃をもろにくらった土門・三日村は悶え苦しみ、悲痛な叫びを上げてしまう。そのままドバシャァァァンという空気を震撼させる程の大爆発が起き、辺りは爆風と煙に包まれる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 全力を振り絞り、息も絶え絶えのゆうまと甘美。しばらくして爆煙の中、見えてきたのは血を流しながら底に倒れ込んで目を真っ白にし、気絶している土門と三日村の姿であった。


「こ、これは~、勝者! ゆうまと甘美ペアだぁ~!」


 試合を見守っていたレフェリーが声を上げ、勝者を告げる。瞬間、周りの聴衆も「ワァァ!」と歓声を上げる。

 しかし一番この事を喜んでいたのは他でもないゆうまと甘美の2人である。


「……やったぁ~~!! 勝った! 勝ったんだよ、ゆうま~!」


 嬉しさのあまりひしっとゆうまに抱きつく甘美。

 そんな彼女の笑顔にゆうまも「あぁ! 俺達の勝利さ!」と勝利の喜びを噛み締める。

 そんな中、しばらくして「う、うぅ……」と、ズキズキする頭を抱えて土門・三日村ペアが起き上がる。そしてゆうまと甘美を見るや否や「きょ、今日はこの辺にしておこう。次は必ず勝ってみせるからな!」「そうよ~、次こそ絶対に勝利を掴みますからね~」という負け惜しみを残しつつ、相変わらずラブラブにくっつきながらリングを去ってゆく。



 その後、ゆうま、甘美、土門、三日村の4人は、デッキブラシ破壊と戦闘しながらの掃除をした罰により、夜まで居残り掃除をやらされたのであった。



TO BE CONTINUED

今回はパロディーを盛りだくさん詰め込み過ぎました(笑)!

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