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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
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第9話「部活動、コレにきめた!」

 遠き山に陽が落ちし黄昏時。家路を急いで行き交う人々の頭上をカァカァとカラスは鳴いて過ぎてゆく。

 今日も1日学業に勤しんだゆうまと保奈美(ほなみ)の2人もまた、住宅街にのびる道をトボトボと一緒に歩いていた。辺りはどこかの家庭の夕飯であろうカレーの匂いに包まれている。


「ねぇ、ゆうまは何の部活に入るかもう決めた?」


 ふいに保奈美が切り出す。話題は、明日からいよいよ始まる渡良瀬学園高校部活動勧誘&入部期間に沿った話である。

 そしてどうやら彼女は、ゆうまが何の部活に入るのか気になっているらしい。


「うん。俺は軟式テニス部に入ろうかなぁと思ってるよ。前々から決めてたしね」


「へぇー、そう、軟式テニスか~。懐かしいなぁ、私も高校時代の若い頃はテニス部で青春の汗を流したもんだわ」


 そう言って保奈美は昔を懐かしむかのように遠くを見つめる。


「え? そうなの!」


 一方、そんな彼女の意外な過去にゆうまは、思わず声をあげる。


「そうよ。私、こう見えてかつての全盛期は、全国大会に出場するくらいには強かったんだから」


「そ、それじゃあ、もしかして保奈美も軟式テニス部に入る気じゃ……」


 嫌な予感とばかりにゆうまは、震える。

 というのもただでさえ普段から自由奔放な保奈美の言動や行動に振り回されて大変だというのに、部活でもそれに付き合わされなければならないというのは堪ったものではなく、体がいくつあっても足りないと思ったからである。

 しかしその懸念は杞憂に終わる。


「まさか。それは30年以上も前の話なのよ。今じゃゆうまも知っての通り体のいたるところがボロボロだし、もう運動部に入るつもりはないわ」と保奈美は、ハッキリ宣言する。

 その言葉を聞き、ホッと胸を撫で下ろすゆうま。


「そ、そう。それは良かった」


「へ?」


「あ、いや別に。じゃあ何も所属しないつもりなの?」


「うーん、そうねぇ。まぁ文芸部か接待部にでも入ろうかな。放課後は静かに学校の図書館にでもいることにするわ」


 そう言って彼女は、ゆうまの一歩先にひょこっと飛び出し、振り返ってこちらを見つめてくる。その表情は夕焼け色の逆光でよく見えなかったが、確かにウフフと笑っていたようであった。



第9話「部活動、コレにきめた!」



 次の日の放課後、ついに部活動勧誘&入部期間が始まった。表のグラウンドではサッカー部やラグビー部といった部活のコート前に、見学に来た多くの1年生達が集まっている。

 また他の部活では、すでに入部したのか2、3年生に混じってプレーし始めている生徒もちらほらと見受けられる。

 それらコートを後にしてゆうまは、本校舎東側に位置するテニスコートへとやって来る。そこには知り合い数名を含めた20人程度の1年生がすでに集まっていた。

 コートの中では先輩達が男女混合になって簡単な実演をしている。


「あれ、もしかしてゆーまもテニス部に入んの?」


 辺りをキョロキョロと見渡していた所、背後から急に聞き覚えのある明るい声に呼び止められる。

 振り返るとそこには元気いっぱいのポニーテールに水色のシャツを着用し、すでにテニスに興じていたらしい甘美(あまみ)が、女子制服姿の優希(ゆうき)と共に目をまんまるくして立っていた。

 甘美の黒のショートパンツからのびた健康的な白い足が相変わらず美しい。

 普段からよく一緒にいることが多いため、意識していなかったものの、いざ、いつもと違う格好をしている彼女を前にして、ドギマギしてしまう。


「あ! 甘美と優希じゃないか。なんだー、俺たち同じ部なのか」


 そんなドキのムネムネを誤魔化すように2人に言うと、その言葉を聞いた優希は、首を横に振る。


「あ、いいや、ワタシは違うの。ワタシはテニス部のマネージャーになろうかなと思って来てみたんだけど、そしたら甘美ちゃんとバッタリ会って」


「そっか、じゃあ甘美がテニス部なのな」


「ちょっとー、部活まで真似しないでよ! ただでさえ役職や席のせいで、いつも一緒にいんだからたまには離れてよね」


 甘美は腕を組み、ジト目でこちらを見ながら不満そうに言ってくる。

 にしても確かにそう言われるとそうである。保奈美絡みのことや同じ学級委員ということもあってか普段からゆうまは、甘美と一緒にいることが多く、さらにくじ引きで決まった席を始めとしてことあるごとに2人は近くにいるのであった。


「な、しょーがないじゃないか。それに俺は、もとからテニス部にはいるって心に決めてたんだ」


「だいたいあたし達、いつも一緒にいるせいで本当はやっぱり付き合ってるんじゃないかってまた変な噂がたってるんだからね! 分かってるの。まったくゆーまと付き合ってるだなんてジョーダンじゃないわよ」


「俺だってそんなのきんぴらゴボウだよ……じゃなくて、まっぴら御免だよ」


「まぁまぁ2人とも。ここで夫婦喧嘩をしなくても……」


「「誰が夫婦だ!」」


 2人の言い合いに耐え兼ね、その場を見計らって、たしなめようとした優希に2人は、ツッコむ。

 そしてもう一度、はぁというため息をついた甘美は「ま、同じテニス部になったからにはあたしがゆうまに勝ってみせるからね」と、態度を改め、挑戦を突き付ける。


「ふ、やれるもんならやってみな。俺だって負けないぞ」


 ゆうまもそんな彼女の挑戦に真っ向から応え、お互いに熱く燃え盛る。それはさながら長年のライバルのようである。

 そんな2人を見て優希は「うーん、やっぱりこの2人、ホントは仲が良いじゃ……」とつぶやき、首をかしげるのだった。


「やぁ! 君達が新入生だね!」


 と突然、背後から大きな声が轟く。

 そしてその言葉と共に3人の前に、にゅっと現れた人物は見たところ、赤いハチマキを頭に巻き付けたテニス部の顧問の先生であるようだ。瞳に炎が宿っており、まさに熱血教師という感じである。心なしか背中にもぼぼぼっと、燃える炎が浮かんで見える。


「ど、どうも……」


 いきなりの登場に圧倒されるゆうまと甘美、優希の3人。


「いやー、こうして今年も君ら若い者がうちの部活にたくさん入ってくれて先生、感謝感激雨あられだ! さぁ君達も滲むような血の汗を流し、共に目指そう、あの夜空に光り輝く栄光の巨人の星を! さぁ荒波に向かって素振り100回だーっ!」


 そう言って夜にもなっていない空を指差す。


「は、はぁ……、荒波に向かってというのは少し無意味な気もするけど……」


「き、気迫だけは伝わってくるわね……」


 そんなバカでかい熱血教師の声と言葉に周りの1年生達もただただ圧倒されるだけであった。果たしてこんな教師のいるテニス部で大丈夫なのだろうか……。

 ゆうまが呆れていると「そういえば姐さんは?」と、横から甘美が、ふと思い出したようでゆうまに尋ねる。


「え?」


「まさか姐さんまで同じテニス部に入るなんてことじゃないでしょうね」


 どうやら甘美もゆうまと同じ思いを保奈美に対して持っていたようであり、返答次第では最悪の事態もあり得ると想像してか額に汗をかいている。


「あぁ、保奈美ならなんか放課後図書館に行くって言ってたけど。運動部には入らないみたいだし」


「そ、そう」


 その言葉に甘美は、安心し、ホッと胸を撫で下ろすのであった。



           *          *



 翌日のお昼休み。ゆうまは教室で西村、武田と共にお弁当を広げながらおしゃべりに興じていた。


「聞いたぞゆうま。お前、テニス部に入ったんだってな」


 西村が、お弁当の定番、卵焼きを口に運びながら興味津々に話す。


「マジかよ! 甘美ちゃんも確かテニス部だろ。お前らホント仲がいいよなー」


 武田も相づちを打ちながらゆうまに言う。


「そういうお前らは何部に入ったのさ」


 ゆうまがその指摘をすると待ってましたとばかりに、突然キランと西村のメガネが光り輝く。一方武田も急に表情がキリッとし、怪しい雰囲気を纏い出す。


「フフフ、よくぞ聞いてくれた。お前には教えてやるぜ、俺達が入ったのはこれだーーーっ!」と言ってバンッとゆうまに冊子を渡す。


「こ、これは!?」


 ページをめくってみる。

 するとそこに書かれていたのは非公式同好会・女子研究会という文字が。さらにパラパラとめくっていくとクラスの女子はもちろんのこと他クラスや他学年の女子、はたまた隣町の学校の女子の現時点で得られ、蓄積された好きな男性のタイプや食べ物、スリーサイズなどの詳細なるデータが綿密に記されているではないか!


「これが俺達、そして先輩部員の友情、努力、愛という心血を注いで作り上げる活動の賜物だーーっ!」


 みしっ!


 ゆうまのツッコミが雄叫びを上げ、歓喜のあまり涙していた武田にヒットする。


「よーするにただのヘンタイの集まりじゃねーか」


「フフフ、ゆうまは分かってないなぁ。このデータをさらに作り上げていけば女の子を知り、そして仲良くなれるチャンスが生まれてくるじゃないか! ハッハッハッ!」


 西村が開き直る。


「まったく、お前らには呆れるよ……」


 そんな彼らにゆうまは、顔をひきつらせ、苦笑いする。


「なんだよ、そりゃあ、ゆうまはいいじゃないか。甘美ちゃんや保奈美ちゃんとか仲のいい可愛い女子がいっぱいいるんだからな」


「そうだ、そうだ。俺達だってなぁ、可愛い女の子と仲良くなりたいし、今までみたいな惨めな思いはしたくないんだ! だからこの冊子を作り上げ、利用するんだ!」


 そ、それは、余計に惨めな気がするような……。

 そんなツッコミをゆうまが思っていると背後から「ゆ・う・ま❤️」と甘~い声音で名を呼んでくる人物が。その聞き覚えのある声にゆうまは思わずゾクッとする。

 そしてバーンと目の前に現れたのは保奈美である。彼女はそのまま、ゆうまの肩に腕を乗せ、顔を寄せてくる。あまりの近さに、髪の毛のシャンプーのいい香りが漂ってくるほどだ。


「聞いたわよ、ゆうま~。テニス部には優希ちゃんや甘美もいるんだってね」


 その指摘にドキッとするゆうま。どうやら保奈美、どこで情報を手に入れたのか、甘美達がテニス部に所属したことを知っているようである。

 そんな彼女の言いぶりに、もしかして私も入部するなんて言い出さないだろうなと、ゆうまは不安に駆られる。


「そ、そうだけど、それがどうかしたのかい」


「いいなー、楽しそうで❤️」


「で、でも保奈美の体はあの体たらくだし、あまり無理しちゃいけないからテニス部はやめた方がいいんじゃないかな~、アハ、アハハ……」


「んん!? な~にをゆうまは、焦っとるんだ?」


 ゆうまの保奈美に対する不自然な言動とカクカクした動きに西村と武田はツッコむ。


「い、いや、別に。あ! それじゃ、俺、用事思い出したから」と言った刹那、そのままゆうまは、保奈美から逃げるように足を漫画やアニメで見られるようなグルグルにしながらドヒューンと教室を出ていく。

 それはまるで警察(サツ)から逃走するドロボーのようであり、ほんの数秒の出来事であった。

 勢いのあまりその場にぽつねんと残される保奈美。

 彼女は、そんなゆうまの露骨な冷たい態度に「何よぉ~、ゆうまってば……」と口をとんがらせながらポツリとつぶやいた。



           *          *



 夕暮れに染まる放課後、ゆうまと甘美は、学級委員の仕事を終え、お昼にあった保奈美とのやり取りの顛末を話しながら一緒にテニスコートへとやって来る。

 するとコートでは昨日の熱血教師が相変わらず炎を燃やしながら「いけいけーーっ! もっとハートを燃やせーーっ! 熱くなれよ! 気合いだ気合いだ気合いだ!」と叫んでいる。


「お! ゆうま君、甘美ちゃん来たね」


 コートの脇からテニス部の部長が声をかけてくる。


「あ、どうも。あのー、顧問っていつもあんな感じなんですか……」


「ま、まぁね。アレは気にしなくていいよ、アハ、アハハ……。それはそうと部員にお知らせがあるんだ。みんなもう集まってるから2人もおいで」


 ゆうまと甘美はなんだろうと顔を見合わせつつ、言われた通り集合場所へと集まる。


「えー、皆さん、今日は嬉しいお知らせがあります。昨日マネージャーに入ってくれた優希君の他にもう1人、今日マネージャーに入ってくれた子がいるんで紹介します。おいで」


 その合図と共に影から静かに制服を着た黒髪の少女が出てくる。その少女はとても見覚えのある、まさかまさかの人物であった。


「な……、ほ、保奈美!?」


 瞬間、ゆうまは声をあげてしまう。そう目の前に現れたのはどこからどう見ても保奈美であったのだ!

 でも……、だってありえない、もう他の部に入部したはずじゃ……。

 ゆうまの思考は混乱する。


「皆さん、どうも。私、風間 保奈美でーす。他の部と兼部する形でマネージャーに入ることになりました。これからどうぞよろしくね!」


 そう言ってニコッと微笑む保奈美。

 そんな可愛らしい彼女にパチパチパチ、ヒューヒューヒューと男子達から歓声があがり、場が沸き立つ。

 しかし、甘美はというと、目の前のリアルタイムで起こっている最悪の事態に「ハ、ハハハ……、あたし知ーらない」と言って目を背ける。

 一方のゆうまもまた、う~んと頭を抱える。

 やっぱり保奈美からは逃げられそうもないみたい……。



TO BE CONTINUED

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