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私がオバさんであっても 序章  作者: 五味
序章 始まりの君へ
1/21

第1話「昭和生まれの彼女は16!?」

 ――平成が終わりをつげ、時代は新時代"令和"へと移り変わる。

 それは昭和がまた1つ遠い記憶となったことをも意味していた。

 恐慌から始まり、先の大戦とそのどん底から高度経済成長を経て栄光のバブルの入り口までを経験した激動の時代"昭和"。

 あれから30年以上が過ぎた今、バブル崩壊、リーマンショック、いくつもの天災、そして新型コロナウィルス騒動と日本は多くの危機に見舞われ、幾つもの変革を迫られてきた。

 あの頃とは何もかもが変わった現在(いま)、しかしそれでも彼女はあの頃のままここにいる。



第1話「昭和生まれの彼女は16!?」



 春爛漫、暖かな陽気が都会の喧騒を忘れされる、その日、愛野(あいの) ゆうまは泣いていた――。


「ではクラスの男女学級委員長は、それぞれ愛野(あいの) 悠馬(ゆうま)くんと風間(かざま) 甘美(あまみ)ちゃんに決定しました!」


 先生の口から声高らかにその宣言が下るとすぐに、パチパチパチパチと拍手によって奏でられる祝福の音色が教室中に溢れた。

 一方、ゆうまの目には涙が溢れている。

 ――おぉ神よ、神はどうしてこのような試練を(わたくし)めに課すのでしょうか。理想は、何の役職にも縛られることなく『あつ森』のようなハッピースローライフを送るつもりだったというのにっ!

 よりによってクジで男子学級委員長に選ばれてしまうとは……。

 そう心の中でつぶやくゆうま。

 彼は、望まない男子学級委員の地位を1/21の確率で引き当てた運に見放された哀れな男であった。そもそもゆうま自身は、委員会の地位につく気など毛頭なく、しがらみに縛られず、悠々自適なスクールライフを目指していたのである。

 しかし、先ほどのくじ引きの結果とそれに伴う宣告をもって彼の野望は(つい)え、負け犬へと成り下がったのであった。

 その心を知らずして教室のクラスメート達は涙を流すゆうまの姿に「おぉ! ゆうま君が喜びのあまり嬉し泣きしている……!」と、勝手に勘違いしている。

そんな彼らを横目に見ながら「こんなことになるのならあらかじめ工作しておくか、先生を買収しておくべきだったか……、いや、今からでもまだ遅くはないか」と、ゆうまは、悪魔に魂を売る覚悟で買収計画の思案に暮れている。


「――っていつまでいじいじしてんのっ!」


 ふいに、ぺしっ! と頭をひっぱたかれる!

 そのツッコミは脳天を直撃し、脳内にグワングワンと響く。


「痛ってぇっー!」


 それによって正気を取り戻すゆうま。


「ったく、何するんだよー!」


 少しばかりムカッとし、ツッコまれた方向に顔を向けるとそこにはまばゆい笑顔を浮かべた1人の少女がいた。

 彼女は風間(かざま) 甘美(あまみ)、女子学級委員長の方に就任した人物である。


「もうっ、ゆうまったらいい加減元気だしなよっ! これから同じ学級委員長なんだし、よろしく!」


 彼女のフレンドリーで底抜けに明るく、透き通った声は、ゆうまの右耳から左耳へと突き抜ける。


「よ、よろしく……」という挨拶を発したものの、ゆうまは彼女の姿に目を見張った。

 彼女は流れるように美しい栗色の髪をみかん色の小リボンでポニーテールにまとめ上げ、目をキラキラさせた、まさに元気ハツラツオロナミンCといった感じの美少女であった。しかも爽やかな柑橘系の香りと共にその美しく潤った瞳でこちらを見つめてくる。

 瞬間、暗いどん底の掃き溜めにいたゆうまの心は、キラキラキラと一気に照らされ、そのまま昇天していく。

 あぁっ女神さまっ……! あなたはどうして女神様なの……?

 思わずそう思ってしまった。そのくらいの衝撃的な可愛さである。

 ……うん、なんだかんだいってもこんな可愛い子と同じ学級委員なら悪くないかも。

 頬を赤らめ、手のひら返しで先程とは打って変わったことを考えてしまう。


「お、俺の名前は愛野(あいの) 悠馬(ゆうま)。こちらこそ」


 そんなこんなで緊張しつつもやっとの思いで自己紹介を交わしていたところ横から「あー、ちなみに2人とも。さっそくの仕事だが近いうちに歓迎会&クラス会があるだろ? それの事前の流れを放課後なんかの暇な時間を使ってでいいから打ち合わせしといてくれないか?」と、先生がオマケをつける。

こうしてその日の授業は終わった。



「ってなワケだけど、どーする?」


 放課後、甘美は真っ先にゆうまに話しかける。


「どうするったって学級委員になったからにはやらないワケにはいかないよ」


「そーよねー。そこで提案なんだけどさ、わざわざ放課後にまで学校に残ってやりたくないし、あたし達どちらかの家で話し合わない?」


 それは意外な提案だった。

 確かにゆうま自身、入学してまだ3日早々で放課後にまで学校に残るのは中々ツラいものがあると思っていたし、その考えには大賛成であった。

 しかし1つの懸念がある。


「いやぁ、それがさ、俺1人暮らしなもんでアパートについ最近引っ越してきたばかりだから、うちはちょっと……」


 そう、実をいうとゆうまは、遠路はるばる県外から上京してこの私立渡良瀬学園高校しりつわたらせがくえんこうこうへ入学した身であった。そのため、まだアパートでは肩身の狭い思いをしており、体裁的に女の子を連れ込める余裕などないのである。


「そっか、それじゃお邪魔出来ないね……。ならさ、うちに来る? あたしの家でやろーよ」


 これまた意外な提案であった。


「え? そんな急にいいの?」


 思わずゆうまは聞き返す。


「もち! 全然OKだよ。学校よりか全然居心地もいいし」


 な、なんというチャンス……! まさかまさか学校が始まって3日目で女の子の家に行けるなんてっ……!!

 瞬間、ゆうまの周りの世界はまるで開き直ったかのごとく、その装いを変えてしまった。辺り一面そこら中にサクラの甘く、豊潤な香りが広がり、花びらが舞っている。

 それはひとえにかつていかなる先人達もが探し求めた桃源郷と見紛うことなきといった具合であろう。

 あぁ天使様、ありがとうございます! これは役得、意外に俺はラッキーなのかもしれない……!

 そう内心熱き血潮が滾り、胸を踊らせ、喜び、感謝の祈りを天に捧げるゆうま。

 しかしこの後自らの運命を大きくねじ曲げる出会いが待っていることをこの時のゆうまは、まだ知る由もなかった……。



           *          *



 昼下がりの午後、ゆうまと甘美は風間家の前にいた。周りはどこにでもある普通の閑静な住宅街といった感じだ。


「さ、どーぞ」


「お邪魔しまーす!」


 ガチャリと音を立て、いよいよ絶対不可侵領域(アンタッチャブル)への扉は開いた。あとはこのまま秘密の花園である部屋へと突入するだけ! ユウマ、行きまーす!

 心の中で一世一代の決心をする。


「母さんは長期出張中だし今日は、お父さんと弟もまだいないから安心して。まぁ1人だけ厄介な者がいるけど……」


「やっかいなモノ?」


「ううん、気にしないで」


 そう言いつつ甘美は、苦笑いをする。

 何か隠している……?

 ゆうまはそう思ったものの、ひとまず気にしないことにして甘美についていく。すると程なく甘美は立ち止まる。


「あ、そうだ! 喉渇くだろうし、ちょっと冷蔵庫からお茶をコップに注いで持ってくるから先に行ってて。あたしの部屋は二階……」と、言い終わる前にゆうまは率先して「あ、俺も手伝うよ」と引き受け、そう言って甘美の後に続いてリビングへのドアを開けた時、その少女はいた。


 絹のように美しく、長い濡羽色ぬればいろのワンレンヘアがドアを開けたことで入ってきた風によってなびく。その肌は透き通るように白く、華奢でまるで花も恥じらう大和撫子といった感じの少女である。

 ――――目と目が合い、思わずその宝石のように美しい瞳に吸い込まれそうになる。そのまま幾分経ったであろうか、しばらくして彼女は微笑み、そしてこう言った。


「あら、いらっしゃい」


 ゆうまは思わず固まってしまう。甘美とはまた別の美しさを持った顔立ちの少女に見とれてしまったのだ。

 そんなゆうまを気にすることなく、甘美はその少女に話しかける。


「あぁ、やっぱりいたんだ。今日は友達を連れてきたの。同じクラスで学級委員長の愛野 ゆうま」


 どこかめんどくさそうに説明すると、その少女は大体を理解したようで改めてゆうまに向き直り「はじめまして、ゆうま君。よろしく! 君、中々いい男の子だね❤️」と、改めてあいさつしてくる。


「エ、エヘヘ……。こ、こちらこそどうも」


 ゆうまは、照れ隠しに儀礼的な挨拶を交わしつつコップにお茶を注いでいた甘美に思わず尋ねる。


「彼女は甘美のお姉さんか何か?」


 見たところ年上っぽくはあるものの、甘美とそこまで離れていないように見える。とすればおそらく姉であろうとゆうまは考え出した。

 しかし甘美からは予想だにしない返答が返ってくる。


「ん? ……あぁ、彼女はね、オバさん」


「え?」


 その言葉をゆうまは理解出来なかった。その思いは自然と顔に出ていたらしく、もう一度甘美は言う。


「だ・か・ら! オバさんだって」


 同じように繰り返される言葉にゆうまの脳内CPUは処理が追い付かない。

 一体なんだ、甘美はギャグを言っているのか? そんなキャラだったっけ?

 ゆうまは内心ツッコミつつ「え、もう! イヤだなぁ。急にオバさんだなんて、冗談でも彼女に失礼じゃないかー」と、笑いながら甘美に言う。

 しかし当の甘美本人の顔は、とてもギャグを言っているようには見えない。すると甘美からオバさんと評された彼女が、今度は口を開く。


「そうよねー、ゆうま君。まったくオバさんだなんて甘美はチョーひどいんだから。私はこの子の姉でぴっちぴちのJK、風間かざま 保奈美ほなみと言います!」と、妙にキャピキャピしてみせる。が、甘美は今のにイラッときたらしい。


「まーた嘘ついて! ゆーま、騙されちゃダメよ」


 してこのジト目である。


「な、何がなんだか……」


「いい? 彼女はね、あたしのお父さんの姉、つまりあたしからして叔母おばさんにあたる人なの!」


 瞬間甘美の言う"オバさん"という言葉が繋がると共にゆうまに衝撃が走る。ハッキリ言って信じられない。

 だって甘美のお父さんの姉ってことは一体どれ程の……。


「んなこと言ったって……。だってこんなに綺麗で若々しく見えるのに叔母さんだなんて信じられっこないよ」


「もぅ❤️ ゆうま君ったら綺麗だなんて。私、マンモスうれピー❤️」


「コラ! どぉこのJKがノリピー語を使こうとるか!」


 すかさず甘美がツッコミを入れる。

 ゆうまは、そんな2人の絶妙なやり取りをよそに混乱するしかなかったのであった。



           *          *



「はいコレ!」


 甘美の部屋に3人は舞台を移し、ゆうまは甘美から保険証を手渡される。

 そこには風間かざま 保奈美ほなみという名前と共に生年月日に昭和47年という文字が。


「信じられない、ってことは実年齢47歳ってこと……?」


 こうして証拠を見せつけられると改めて驚きを隠せない。


「まぁ、正確に言えば今年48になるけどね。にしても、うーん、何から話せばいいのやら……。なにしろ保奈美叔母ほなみおばさん、もとい保奈美姐ほなみねえさんは、あたしが乳飲ちのの頃からずっとこんな感じの見た目のまんまだったの」


 そう言って甘美は、保奈美を見る。すると張本人の保奈美がティーをすすりつつ、ゆっくりと語り出す。


「私自身もよく分からないのよ。16歳、高校生くらいまでは年相応に成長していたんだけど、いつの間にかそこから時が止まったかのようになっちゃってね。私は、あの頃のままずっと何一つ変わらず現代(いま)にいるけど、周りはみんなみるみる年を取っていったわ。そして時代も幾月と流れた。なんだか奇妙よね、私ったら」


 そう語る保奈美の表情は、どこか嬉しそうでも寂しそうでもあり……。


「ふーん、世の中には不思議なこともあるもんだね。俺、正直まだ驚いてるよ」


「ま、それだけなら別にいいんだけどさ。問題はまだあるのよ」


 甘美はもう1つの懸念を示す。


「え?」


「と、いうことでゆうま君、明日から同じ渡良瀬学園高等学校わたらせがくえんこうとうがっこう1年3組クラスメートとしてよろしくね!」


 てっきり事件はこのまま収束していく流れだと思っていたゆうまは、保奈美のその言葉に鳩が豆鉄砲を食ったような表情かおになる。


「え、それってつまり……」


「私もキミと同じ高校に通うってことよ」


「いいのかよ!」


 思わずゆうまは、そうツッコむと甘美が代わりに答える。


「ま、うち私立だし。なーんか校長先生が昔からの知り合いらしくて"面白そうだから"って理由で許可も貰ったらしいわよ」


 いや、確かにあの見た目なら制服を着て高校に通ってもまったく違和感はない。

 だけど……、こんなことがあっていいものなのか……!?

 甘美はそのことが心底嫌らしく「ハァ……」と、深いため息をつく。

 一方保奈美はというとワクワクしていた。


「ウフフ、明日から楽しくなりそ……❤️ ね? ゆーま❤️」


 そう言って保奈美は、いきなりムギューッとゆうまに抱きついてくる。


「ちょ、あの……ちょっと……!」


 ゆうまは突然のことに顔を赤らめ、戸惑ってしまう。


「あ~あ、照れちゃって。ゆーまってもしかして熟女好き?」


 甘美はゆうまの戸惑いように対して小バカにしたような表情を浮かべてからかってくる。


「なっ!? ち、違うよ!!」


「どーだか」


「だから違うって言ってるだろ!!」


 そう言い合っているそばで「ゆーーまーー❤️」と、なおも抱きついてくる保奈美。


「か、勘弁してくれ~~~」と、言って逃げるゆうま。

 こうして苦労の連続の日々は始まったのであった……。



TO BE CONTINUED


これからマイペースに週一回投稿でやっていこうと思います。

つづきが気になる方は、毎週金曜日更新予定ですので、ぜひブックマークに登録をお願いします!


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