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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
1章・親衛隊という危険地帯
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親衛隊という危険地帯・4

 むぅ、俺は調理で、寧ろ調理が良いというのに。

「アレな訳ですよ、調理を選ぶ人らっつーのは」

「……アレ、と言いますのは?」

「まぁ、ホラ、一般論は置いといて、男は胃袋から落とせっちゅーでしょ」

「ああ、ラジャラジャ……凄ぇ判った」

 そんな判りたくなかった。本音。

 つまり片思いの上にまだまだ諦めてない、強いと言えば聞こえの良い、執念深いだれそれさんたちが選ぶ科目だと。

 俺みたいに、1年の人気者、シルトとテウと仲良くしている奴が入ると、妬まれるって事だろう。

 もっと言えば、まだ2人を諦めてない人らにいじめられたりするかも知れない。

 ―――まぁ、いじめられる程甘くないけど、俺。

「大丈夫だって。俺、なかなか世渡り上手」

「……判るけどさ」

 今朝の事を思い出しているのだろう。

 普通なら逆境にしかならない人気者との同室を利用し、ある程度の地位を確立しているのだ。

 もっと言えば、好みは理事長とか宣言済で、シルトファンにはドン引きされている―――いや、ドン引きしたのはクラスメイト全員だったが。

「あ、そう言えばテウはどれを選択してるんだ?」

「俺は生徒会役員で免除されてる」

「……せいとかい?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 聞いてねぇよ!?

 ていうか、まだテウは1年だから生徒会には入れないと思い込んでた。

「俺は書記やってるんだ。中学からの持ち上がりでさ」

「ふ、ふぅん? 生徒会役員は選択授業中、何してる訳?」

「生徒会の仕事。結構忙しいから普通の授業も抜けるよ」

「へぇ……」

 大変なのは、よっく判った。

 判ったついでに距離取っていいかな、え、ダメ? そんなあからさまな地雷を踏みに行きたくないんですけど、ダメ?

「つか……ゼレカが調理、かぁ」

「似合わないって言いたいのか?」

 自覚はあるよ、根暗が料理なんかするなって言いたいんだろ、判ってるよ。

「いや、似合う似合わないは置いといて、一つ頼みがあるんだよね」

「何? 出来る事ならするぜ?」

「選択って火曜と木曜の3、4時間目なんだけど、生徒会の仕事してると食事しに行くの忘れるんだよ」

「おいおい……」

「だからさ、調理で多目に作って、俺に餌を与えなさい」

「なんだその言い方?」

 思わず苦笑が漏れた。

 ……しかし、似合わないを否定はしないのね……畜生。

「ま、いいよ。作れそうなら作る。この学園の規模から思えば、食べられない量、作らされそうだし?」

「あー……それは、有り得るかな……」

「勿体無いな……」

 食物は大事に!

 金持ちってそういう大切な部分がなってない気がするんだよなぁ……

「じゃあ、生徒会室の場所を教えてくれ」

「……迷うなよ?」

「まっ、ま迷うかっ!!」

 どもったのは図星だからじゃ無いんだからなっ!

「スマホがあるのに迷う訳無いだろ? 充電器だって持ってるし」

「……迷ったら、俺かシルトに連絡しろ」

「なんで迷う前提なんだよ……!」

 くぅ、何度か迷った前歴があるだけ強く反抗できない……

 そんな下らない事を話ながら、ノンビリと一日が進んでいった。








 携帯に生徒会のある棟への道筋を転送してもらい、放課後、その方角へと歩く。

 勿論ショートカットとか、そんな無謀な事は、今度はしない。迷うの怖い。

 生徒会室があるのは特別棟と言われる、案内板に名称が書いてなかった建物だそうだ。

 名称が書いてないのは、小・中・高、大学の生徒会棟の集まりだからで、役員はそちらにも部屋があるんだとか。何その至れり尽くせり。

 ふぅ、とため息をつき、もう一度スマホを覗き込んだ。

 大丈夫。この道を真っ直ぐ行けば着く筈。

 ふと、地図にはない枝道があるのに気付いた。

 え、地図に無いって事は、まさかこの携帯地図古いの!?

 訳の分からない道は―――一度確認しないとな! 好奇心に負けた訳じゃない!

 いそいそと道を曲がって、並木道を歩く。

 シルトには遅くなるかも知れないとメールしてあるから、心配させる事もない。

 暫く進むと、温室の様なモノが見えてくる。

 当然、カードキーで鍵が掛かっているが、むぅ、中を見てみたいぞ……

「……開く、かなぁ……?」

 地図に無い道の先にある温室だ。きっと普通のカードキーでは開かないんだろう。

 ―――そ、普通のカードキーなら、ね。

 ふふふ、と悪い笑いを浮かべながら自分のカードキーを取り出す。

 姉上特製、どんなヒミツの扉も開けられる魔法のカードキーに魔改造されていることなど、誰も予想すまい。

 そっとカードキーを通すと、ぴっ、と高い音が聞こえた。

 おぉ、流石姉さん。

 実は皇国、姉さんに任せておけば何とかなるんじゃなかろうか―――いや、それはそれで結末が怖いな。

「お邪魔、します」

 人の気配がしないから、誰も居ないだろうけれど。

「……っうゎ」

 精霊が濃い。

 こんなに濃いのは、帝国にきて初めてだ。

 しかし……コレは精霊球が多く配置されているからの濃さだと判る。自然に濃くなった皇国とは本質が違う。

 ルクトヅィアから帝国に近付くにつれ薄くなっていった精霊には、本当に驚いた。

 確かに、こんなに日常的に精霊が薄いなら、作物は育ちにくいし、自然災害は起きやすい。だからこそ皇国の土地や、教会が保持している媛達を必要としていて、科学力でその人力ではどうしようもない精霊密度の差を何とかしようとしたのだろう。

 しかしまぁ、どんな理屈があるにせよ、このハウスに精霊が多い事には間違い無く、その分俺への誘いも大きく……

 うー、舞いたい舞いたい舞ーいーたーいー。

 そんな俺を更に誘う様に、樹木の精霊が髪を引く。

「っ、こら、駄目だってば……」

 こんな所で舞ったらそれこそアルリタ全開でバレるぞ!?

「何が駄目、なのかな?」

「うぉぅっ!」

 いきなり背後から声を掛けられ、俺は小さく飛び上がった。マズい、人に見つかる事は考えてなかった。

 入って来た人のネクタイは銀地に紫―――3年か。緩くウェーブした金髪に、澄んだ青色の瞳。これぞエナクメラ人と言う容姿だ。

 オマケに超の5つ位付く美形。

 ……この学園で知り合うの美形が多くて慣れてきたな! 良家の子息っていうのはアレか、顔面偏差値が高い遺伝子をしてるのか! 皇国ではそんなのなかったぞ! 顔面格差か?! どうなってる!!

「ここは生徒会役員しか入れない様になっているのだけれど?」

「そっ、そうなんですか!? スイマセン編入生なんで……」

「編入生……? それこそ編入生が、ここまで何をしに? ここへ来る道はスマホには表示されていないし、別れ道の先は特別棟しかない。そもそもここのロックは一般生徒には開けられないよ」

 矢継ぎ早、とはこういうのを言うんだろう。

 うぐ、と一瞬詰まった。

 何とか巧く説明しないと―――姉さんの事は伏せて。

「その特別棟まで行こうと思ってたんです。テウに今度差し入れ持ってきてくれって頼まれて、今日は場所の確認に」

「テウ―――テハイラ?」

「そう。今まで自覚無かったんですがどうも俺、方向感覚弱いみたいで。一度行かないと覚えられないんです。で、地図に無い道が有ったんで、何かなー、と」

「辿り着いた温室にロックが掛かってたから、更に好奇心に負けてカードキーを通した訳だね?」

「はい。そしたら開いちゃったんですよ。まさか生徒会の人しか入れないとは知りませんでした。……俺のカードキー、故障してんのかな……?」

 半分以上、いや、9割がた真実だ。

 残り1割を見抜かれるかどうかに、俺の命運は掛かっている。

 うん、この温室の精霊の濃さが味方になりそうだ。

「君のカードキー、貸して貰えるかな?」

「どうぞ」

 貴方が使うのでは、おそらく―――

 すたすたと先輩が外に出るのについて行き、俺のカードキーを通すのを見守る。

 びー、と言う拒絶音。

 何度か通すが、その度に拒絶音しか鳴らない。よし、精霊達は理解している様だ。

 此処でロックが外れると俺が疑われる、って事を。

「……偶然、かな?」

 先輩が呟く。

「……さぁ……?」

 殊勝らしく首を傾げ、先輩を見た。

 極まれに起きる現象だからか、腑に落ちない雰囲気の彼も反論しかねている。

 そう、偶にあるのだ。

 人工的に無理矢理精霊を集めて置くと、許容量を超えた時に不安定な力場が生じ、その結果周りの電子機器に影響を及ぼす事が。

 全く有り得ない現象ならこれ以上に疑われてたな、きっと。

「まぁ、いいか。もう開かない訳だしね、クォンテラ君」

「はい有難うございます……って、え、俺の名前?」

 返されたカードキーを受け取りつつ、彼の言った単語に驚く。

 確かまだ名乗っては居ない筈―――シルトかテウ繋がりか?

「結構有名だよ、生徒会の内ではね」

「え、ぇえ!? いやいや、そんな皆様が注目する様な特技も無いんですけどっ」

「その髪型自体が目立ってるじゃないか」

「―――あぁ」

「数少ない編入生、加えて黒髪長髪なら、まず一目を引くよ」

「……そぉ、ですね……」

 これは本当に、無理を承知でショートカットに挑戦すべきだったかも知れない。

 せめて、セミロング位にまで。

 もしそんなことが可能だとしても、おそらく媛たち全員に羽交い絞めにされてハサミを持たせてもらえないだろうけど。

「って、先輩、生徒会の方なんですか?」

「そうだよ。って編入生だから当然僕を知らないか」

 慌ててこくこくと頷く。

 編入生は学園内の右も左も(慣用句的な意味ではなく)判っていないのだ。アナタが知ってても俺は知りません。

「僕は高等部生徒会長、アーキジット・シロル・エナクメラ」

「シロル―――エナクメラ!?」

「ああ、一応第3帝位継承者」

「いちっ、いちおうって……」

 しまったヤベェのに見つかっちまった!

 エナクメラ姓を名乗るのは、当然帝族の証だ。しかし直系第3帝位継承者? その上、生徒会長? 関わり合いになってはいけない。

 個人的なお知り合いなんて以ての外。

 道ですれ違ったアラコンニチハも許されない―――主に姉さんの動向故。

「それではお騒がせ致しました。今後こちらには立ち寄りませんので」

 HA・HA・HA☆と朗らかに笑い、その場を去ろうとする賢明な俺。

「待ちなさい」

「うぁぃっ」

 そんな健気な俺の努力を嘲笑う様に、先輩の声が飛ぶ。

 返事がおかしいのは、勿論わざとだ。

 ビビった訳じゃない。

「特別棟に行くのかな?」

「今日は特別棟に続く道が判ったので帰ろうかと……」

「行って欲しいんだけど、な?」

 キラキラキラキラ。

 後光指す笑顔が、何故だろう、なんという迫力。

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