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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
1章・親衛隊という危険地帯
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親衛隊という危険地帯・3

 ……いや、いやいやいや、別にね、俺への感情を全てそこに集約させたい訳では決して無くてね!?

 気付けばそんな言動ばかり繰り返しているというか、そんな感じでね!?

「……変わった動機だな、クォンテラ」

「そうですか? 俺、気になった人は知りたくなるタイプなんです。あ、勿論つっこんだ事は聞きませんけど」

「…………そうか」

 なぁに、その間。

 俺の答えを完全に信用していない雰囲気がありありと見える。

 いいけどね、別に。

「今ふと思ったんですけど、理事長って動物占いでトラとか竜とかって言われません?」

「ざ、残念ながら全く」

「ふぅん? 絶対どっちかだと思うのになぁ……」

 俺がそう呟くと、理事長は少し驚いた様に目を見開き、次の瞬間ふわりと笑った。

 こちらの度肝を抜く様な、笑顔。

「トラが当たりだ。私も意外だったんだが」

「ぉぉっ、当たった」

 先程の笑顔にまだインパクトを奪われながら、漸く反応を返す。

 反則だろ、美形の微笑。

「少なくともネズミやウサギじゃないのは確実かなーと」

 しかしトラか……

 キッパリ似合わないな!

 と、そんな事を話す内に、目前には教師棟が見えてくる。

「教科書を受け取ったら、先ずスマホの充電をするといい」

「ふぇ?」

 何故に?

「……真っ直ぐ、帰れる……のか?」

「……………………………ぅぐ」

 自信、無いかな☆

 いや、☆、じゃないんだけれど。

「電話してレキサーヌに迎えに来て貰うといい。そろそろ……心配している頃だろう」

「……デスネ」

 だからチラチラ時計見るの止めてくれる!?

 判った、俺の方向感覚の弱さは判ったから!

「有難うございました、理事長」

「……い、いや、そんな大した事は……」

「でも俺一人なら野垂れ死にしてましたよね?」

「……」

「有難うございました」

 うん、でも野垂れ死には否定して欲しかったな。

 ぺこりと頭を下げ、理事長と別れた。

 その後ろ姿をみながら、あの山ほどひっ被ったネズミちゃん達を剥がしたいなぁとか、思ってみたり。






「っもう! 心配したんだよ!?」

「あ、あはは……ごめんって、シルト」

 迎えに来てくれたシルトの第一声に、俺は苦笑を返した。

 膨れてみせるシルトも可愛い。

 子犬みたいだ、と改めて思う。本人に言ったら怒られるだろうけど。

「まさか俺も、方向感覚死滅してるとは思ってなかっだんよ」

 本当に。心底。

「これからちゃんと充電するんだよ? ていうか常に充電器も持ち歩く事!」

「え、荷物増える……」

「ゼレカ!」

「はィっ」

 あまりの剣幕に、反射的に頷く俺。ちょっと立場弱いぞ。

 まぁ、こんなに真剣に心配して貰うのも久し振りで、少しくすぐったい。

 そもそも何が悪いって、方向感覚の弱い俺だ。

「取り敢えず寮に戻ったら食事に行こうね」

「ああ。でも食堂って混みだしてるんじゃないか?」

 既に太陽は沈み出し、ゆっくりと夕暮れの色へと辺りを染めている。

 ……16時半に授業が終わり、其処から2時間弱迷い、迷った挙げ句理事長に教師棟まで案内して貰い辿り着くのに30分。

 現在の時刻、既に20時。

 ああ、真剣に方向感覚直そう。

「ちょっとは混んでると思うけど―――今から向かえば、逆にすき始めるんじゃないかな」

「そっかぁ……てっきりフルコース食べる生徒ばっかりかと」

「あはは、皆じゃないよー」

「へ、へぇ」

 居るんだ、学校の食堂でフルコースなんて食べちゃう人。

 というかフルコースなんてあるんだ、学校の食堂に。俺には理解できない世界だ。

 いや、そこで3年は過ごす予定らしいんだけど。

「あ、でも、ここまで誰に案内して貰ったの? 電話だと、真逆の中間にまで行っちゃったんでしょ」

「理事長だよ。たまたま見掛けて、丁度戻るところだったんだってさ」

「ふぅん……そんな事してる暇、あったのかなぁ……?」

「え、俺の案内ってこと?」

「違う違う、そんな遠くまで出歩く暇、有ったのかなって」

 流石に息抜きはするだろう、と思った俺の心が読めたのか、歩き出しながらシルトは説明してくれる。

「理事長ってね、ロックスアースの理事長じゃない」

「うん」

「決めなきゃいけない案件とか、目を通す書類とか、それこそ食事に行く暇も無いくらいだって聞いてるの」

「……ぇえ?」

 確かに食堂は一つしかなくて、出前とかもないから食べに行くなら食堂しか無いし、教師棟から行くには時間も掛かるけど、その時間もないって―――

 嘘だろう。誇張だろう。

 だって、高々、理事長だし。

「ゼレカ、今、高々理事長って思ったでしょ」

「うわシルト凄いな。思いました」

「やっぱりね。甘いよ、理事長って、高等部の理事じゃないんだよ」

「……? っと、どういう意味?」

 そりゃ、寧ろ判ってるんですが。

「だからさ、初等部中等部高等部大学、4つの学校のトップって事」

「はい」

「仕事もつまり、単純計算普通の校長の4倍ですね。そして更に、ロックスアースは帝国一の規模の上、厄介な良家の子息とかも、預かってるわけで」

「はあ……ってマジっすか……」

 校長の仕事4倍―――全く想像がつかない。そもそも校長の仕事をよく判ってない。

「ちょっと想像できた?」

「ちょっとだけ。少なくとも1年が365日じゃあ足りないんじゃないかって事は判ったよ」

「うん。だから何で、そんな暇あったのかなぁって」

「だぁねぇ……つか、あれ? 俺の記憶違いかな」

「何?」

「食堂って、ラストオーダー10時までじゃないか?」

「そうだよ」

 ……理事長、さっき後3時間は仕事あるって言ってたよ。食堂閉まるよ。

 夕飯、作るのか?

「……謎だ……」

「だよねー」

 どうやら俺の疑問は学園中の疑問らしい。

 その後、今日のの授業とかを話ながら、結構楽しく時間は過ぎていった。







「おっはよぅ!!」

 ゴッ、と音を立てて、俺のこめかみにテウの鞄がめり込んだ。

 殺意を、明確に感じる。

「おっはようテウ、それ以外に何か言う事ないか?」

「別に無いとお」

「そうかそれならHI・MH・TSU☆のシルト写メはやれんな」

「申し訳ありませんゼレカ様調子乗りすぎました」

 フッ、判ればいいのだ判れば。

 秘密の写メという彼にとっては魅惑の響きに、土下座しかねない勢いのテウに昨日の戦利品を見せ付ける事にした。

「こっ……コレおまっ……」

 お風呂あがりだ。

 髪を吹きながらコップを傾けるシルトは、やはり非常に絵の様に映えた。

「……と、とぉさつ?」

「人聞きの悪い」

 かちっと次の写真に移動する。

 もうテウからは何の反応も無かった。

 写っているのは、俺が携帯を向けているのに気付いたシルトが、慌てて止めようとしてきている姿。

 若干頬が染まって手を伸ばしてきている姿は、絶妙に宜しい。

「ちょっ、ちょっおま、いや神!!」

「はっ? 神!?」

 何事かと目を白黒させている俺の肩を強く掴む。

 目が真剣すぎてビビるぞ。

「是非、俺にも下さい」

「……どうしようかなぁ」

 にたり、と笑う。

 そう来るのなんて予想済み。

「いやもう寧ろゼレカを守らせて下さいそしてシルトを守って下さいついでに俺の印象をあげて下さい」

「ラストが本音だな。まぁいいよ、俺がいいと思ったんなら、渡してもいいって言われてるし」

 俺がいいなら、がミソです。

 俺が赦さないと、今後この様な写メは貰えないっつー、我ながらイヤな性格の作戦ですね。

「もぅ、是非っ!!」

 しゃぁっとスマホを取り出すテウに混じり、知らないクラスメイトが居る。

 しん、と一瞬彼を見詰める俺とテウ。

「……スイマセンでした」

「や、いい、けどね……? こっちなら」

 シルトはファンが多いな。

 言いながら、俺はまた別の写真を表示させる。

 それは食堂でパスタを口に運ぶシルトのやつ。寸前で気付かれてしまい、少し恥ずかしそうに苦笑していたり。

「……神……っ」

 彼もやはり何かにノックアウトされ、感極まった呟きを漏らす。

 しかし、その“神”とか、帝国で流行ってるの?

 そしてその後暫く授業が始まるまで、俺はシルトファンのクラスメイトに神呼ばわりされ続けました。

 ……俺は、神の美酒なんだけどさ……?








 今気付いた、というように、休み時間にテウが話しかけてくる。

「そう言えば、選択は何を取るんだ?」

「へ? 選択?」

「あれ、昨日説明されに言ったんだろ、教師棟」

「教師棟行ったけど……結局時間遅くなっちゃってさ。説明殆ど何も聞いてないんだよ」

「……へぇ……」

 今時計見たな……?

 教室出た時間と逆算して、そして今方向音痴って思ったな……!?

 仕方ないだろ迷ったんだから!! 広い学校が悪いの!!

「まぁ、いっか。あのさ、選択授業ってのがあるんだよ。音楽、書道、美術、調理から選ぶ訳」

「了解、調理。決定」

「ちょっとは迷えって。3年間変えれないんだぞ? しかも全クラス合同だし……」

「俺、歌うと窓割れる位音痴」

「ぇ……」

 マジかい、と言う呟きに、しっかりと頷く。

 俺が歌うと精霊が窓を割りまくってくれるよ☆ 俺が願えばだけどっ☆

 ……勿論、音痴ではありません。

「書道はもう必要無い」

 す、と写していたノートを見せた。流麗な文字は、我が姉上に鍛えられたものだ。もちろん皇国と帝国では使う文字が違うわけだが、音声言語さえ同じなら、表記言語の違いなど簡単に覚えられた。

「美術は視覚テロだから何も描くなって前の学校で言われた」

「それ、どんだけだよ」

「いや、真面目に。俺が犬描いても皆判ってくれないんだよなぁ……?」

 不思議だな、本当に。

 酷い時はオウム? って聞かれた事もある。何で哺乳類が鳥類になるんだよ。

「な、消去法で調理しかないだろ」

「無いけど……でもさ」

 むぅ、と口を尖らせるテウ。

 何か問題があるのか、歯切れが悪い。

 もごもごと口の中で何か呟く。

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