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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
1章・親衛隊という危険地帯
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親衛隊という危険地帯・2

 



 ―――alea side.




「……どういうつもりか、説明して貰おうかしら」

 僅かに尖った口調で、アレアは受話器の向こうに問い掛けた。

『質問の意味を掴みかねる』

 冷静な、淡々とした対応に、ふつりと沸いていただけだった怒りが育ち始める。

 この男が取り乱す様など一度も見たことがないとはいえ、感情がないと表現すらできる声音に腹が立つ。

 こちらの要望はきちんと伝えたし、それが巧く伝わらない相手でもないだろうに―――はぐらかす、つもりか?

「ゼレカの寮よ、目立たない様に、って言ったわよね、私」

『要望通りの筈だが』

「あら、同室の坊やは親衛隊付きすこぶるつきの美少年だそうだけれど?」

『尖るな。レキサーヌを選んだのにはきちんと理由がある』

 宥める調子でさえ無い声色に、苛々が募った。

 この男だけは御しきれない、読み切れないという苦い確信があった。昔から、一切アレアの思い通りに動いたことがないというのも、余計に確信を強めてしまう原因かもしれない。

 しかし、彼を利用しなくては、ゼレカを守れないのだ。

『一つ、彼の持つ情報源の広さ。人脈と言い換えてもいいだろうが、レキサーヌは顔が利く。学園生活を円満にする意味において、ある程度良好な人間関係は必須条件と判断した』

「次は?」

『二つ、レキサーヌは家業上皇国に対する偏見がない。むしろ好意的であるとさえ言える。最悪皇国出身とバレたとしても、レキサーヌなら庇う事が予想できる』

「……」

『次に三つ。彼の性格に起因するが、隠すことに深く詮索しない。他の生徒の様に、ゼレカ様の男、黒髪の長髪、エレメンタ教徒の三拍子に対し余計な口出しをしないだろう。以上だ』

「それでも、まだ納得いかないわね。確かにそれだけの好条件が揃った生徒は珍しいのかもしれないけれど、他にももっと目立たないのが居た筈だわ」

『確かに居る。それは認めるが、目立たない人間と並んで、君の弟が目立たないと思うか?』

 すぅ、とアレアは目を細めた。

 漸く相手の意味するところが理解できた気がしたからだ。

 ―――成る程、それなら。

『確かに今の彼の雰囲気なら、そこまで奇抜に目立つ事はない。しかし、顔立ちまでは隠しきれない』

「……精霊のお陰だと思ってるのよ、あの子」

『自分の容姿をか?』

「そう。容姿は平々凡々、ごく普通だと思ってるわ」

 アレアの言葉を掴みかねるのか、僅かな沈黙。

「平々凡々だと思いこんでるから、モテるのは精霊のお陰、自分がアルリタだから、周りが美人に見るのは精霊のお陰、そう思ってるの。

 でも―――確かに今なら、雰囲気から何から、最初から目立つのが近くにいれば、若干影薄くなるわね」

 皇国でのゼレカ単体の目立ちっぷりは凄まじいものがあった。

 メガネを掛ける事によって、精霊も目立ちたくない意志を察したのだろう、雰囲気を抑えてくれる。

 おそらくそれも、メガネを掛けると精霊が俺から離れて本来の俺になるんだ、位に勘違いしているに違いないが。

『まぁそう言うことだ。木を隠すなら森の中、だな』

「……一応、理由は判った。また何かあったらかけるから、そのつもりで」

 相手の返事は聞かずに通話終了のキーを押す。

 隠れ込むのは相手の方が巧い。ある程度は任せきりにしていいのかもしれない。

 勿論、今まで通り監視はするとして。

「アレア? 誰かと話してた?」

 ひょい、と隣の給湯室からノギスが顔を出した。

「別に何でもないのよ。ちょっとした野暮用だから」

 そう答えを返し、アレアはふとゼレカは今何をしているだろうか、と考えた。

 裏の手回しなど全く想像もしていない、呑気で、鋭いようで肝心なところでは天然な、手のかかる弟を。





 ―――zeleca side.





「……えー、と?」

 迷った。

 2日目にして早や迷った!

 何処此処!? えっと俺今右から来たんだっけ左から来たんだっけ!?

 こんな事になった原因は判りきっている。

 職員室に教材を受け取りに行こうとして、放課後一人で教室を旅立ってしまった事だ。

 俺のバカ、旅立ちの町では準備をしっかりとが基本だろ!? RPGじゃないけど!

 しかも間の悪い事に、支給の携帯は充電が切れている。何かの国家的な罠だとしか思えない。

 迂闊だった。

 広すぎる。

 あっちいきうろうろ、こっちいきうろうろしてみるが、目的の教師棟に辿り着く気がしない。

「……シルトかテウに着いてきて貰うんだったな……」

 あんなに一人では迷う自信が有ったのに。

「……あ、すいませーん」

 森―――間違っても庭なんて可愛いものじゃない―――の向こうに人影が見えて、俺は声を掛けた。

 後ろ姿しか見えないが、黒いスーツを着ている点からして、きっと先生だろう。

「はっ、はィ!?」

 びくぅ、と俺の声に大袈裟な位ビビる先生。

 うん何でだろう振り向かれても居ないのに誰か判った。

「教師棟までの道を教えて欲しいんですが、理事長」

「……道? 私に?」

 ビクビクとネズミか何かのように、そう聞き返す理事長。名前は未だに覚えられないままだけど。

「はい、支給のスマホ、充電切れちゃって」

 答えながら、間近でじっくりと理事長の顔を観察する。

 ストレートの、ルクトラーヅでもなかなか見掛けない様な漆黒の髪。

 深い紫眼は、暗がりでも美しく見えるに違いない。

 抜ける様に白い肌に、彫りの深い顔立ちは、正に絶世の、と冠して許される位整っている。縁なしメガネが邪魔な位だ。

「……私で良ければ、案内するが」

「え、道教えてくれるだけでいいですよ。お忙しいでしょう」

「今から戻る所だ、も、勿論一緒に行くのが嫌なら暫く時間を置いて戻る」

「嫌じゃありませんって。それなら、案内して貰えます?」

 ふわり、と首を傾げて問い掛けた。

 無言で何度か頷く理事長。あんた美形なのに何でそんなビビり屋なんだ。

 なんかどっか、嘘くさいんだよなぁ……?

「此処って一体どの辺りなんですか?」

 無言で案内して貰うのも何だし、気になった事を聞いた。俺何処まで迷子さんになったの?

「大体……初等・大学棟との中間点、かな」

「あれ? 教師棟は高等部側と大学側の中間にあるんですよね?」

 って事は、俺意外とイイ線きてた?

「確かに中間だが―――こちらとは反対側で……」

「ありゃ……?」

「実は、方向音痴だろう」

「……まぁ、地図がないと現在地を間違い易いですね」

 今まで方向音痴なんて思った事も無かったが、そうか……俺は方向感覚が弱かったのか。

「理事長は何でこんな所にいらっしゃるんです? 御多忙だと伺いましたが」

「……大した用でも。敢えて言うなら」

「言うなら?」

「さ、散歩?」

 あっからさまに怪しい答えだが、俺はにっこりと笑った。

「そうですか」

 詮索されたくないなら詮索しないまでだ。

 それに、実はエナクメラの上層部にアルリタの所在地判りましたコールです、なんて言われても困るし。

 森を抜けると、ちらほらと人影が見えだした。どうやら主流な道に戻って来れたらしい。

 ……ん? まずは俺がショートカットを狙って森の中へ足を突っ込まなければ、迷子になることもなかったのか? いや、そんなまさかな。ありえないありえない。

「そういえば、何故教師棟に向かうんだ?」

「一部の教科書をまだ受け取ってなくて。放課後来る様に言われたんです」

「……………………そ、そう、か」

 チラッと腕時計を確認するのが見えましたよ、理事長?

 ふっと黒い笑いが漏れた。

 放課後入ってからざっと2時間経ってますからね! 判ってますよ掛かりすぎ迷いすぎですよね!

「あ、理事長、一つ聞きたいんですけど」

「はっ? ……わた、私に?」

「ええ、貴方に」

 実は前に見た時から聞きたかったんだけど。




「シャンプー、何使ってます?」




「……………………………え?」




 たっぷり5秒ほど、沈黙が落ちた。

 あれ、俺何かおかしいこと聞いた?

「と、特に拘りは無いが……備え付けのものだし、恐らく君の部屋のも同じだと思う」

「ぇえ? それは無いでしょう」

「いや、本当に。と言うか、何故、そんな事を?」

「……何故って……」

 定期的に精霊が通り抜ける為に栄養状態完璧パーフェクトキューティクルの俺でも無いのに、貴方のその髪の艶やかさ美しさは何事かな、と。

 そう思っただけなんですが……あ、周りの目線。





「理事長がどんな人か知りたいから、じゃダメですか?」





 キラッキラの後光が差す位の笑顔をイメージして。

 げふっ、と面白いくらいイイ反応を返してくれる理事長。有難う判ってるねー。

 そしてちらほら居た人々の共通した感情。

 曰く(マニアック……!!)。

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