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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
序章・バレたらマズいアレやコレ
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バレたらマズいアレやコレ・4

 平常心、平常心っ。

 今精霊印の事を考えても無駄だ、姉さんと話ができるまで、他の生徒が持っている精霊印に触れないことだけを気を付けていれば、多分、大丈夫。

「ゼレカはエレメンタ教徒なの?」

「あー、まぁ……親がね」

 嘘は言っておりません。

 母上は元神殿の巫女です。父上は軍部情報長官だけど。勿論姉さんは嫌がってショートに拘ってるけど。

 それに―――俺も神殿関係者だしな……

「やっぱり! だから髪が長いんだね」

「そ。重いぜー。シルトも伸ばしてみろよ」

「やだやだ、もっと女の子に見られちゃうじゃない?」

「あはは、それはそうかも。ロックスアースって、教徒少ないのか?」

「ううん、結構居る。ただあんまり、髪が長い人は居ないかな?」

「そうか、目立つよな……きっと」

「大丈夫っ、教徒に対する偏見とかはないからさ」

「だと良いんだけど……」

 不安だ……

 だって俺基本オタクがあだ名の根暗君になるみたいです。

 他の生徒の敵意に満ちた視線と共にそんな単語が聞こえていた。

 ああ、俺の問題は教徒じゃなくて容姿でしたか。すいません。

 ふふふと小さく呟いていると、そっとシルトがのぞき込んでくる。

「大丈夫?」

「平気平気、打たれ強いのが長所なんだ」

「危ない事あったら言ってね?」

「うん、有難う」

 俺の人を見る目はいいと自負しているが、シルトは信用できる。

「はい、ここが僕らの部屋だよ」

「ぅ……わぁ」

 シルトが開けてくれたドアの先に、一瞬頭の中が真っ白になった。

 何コレここが学生寮なんですか?

 勿論、そんなにきらきらしているわけじゃない。校舎の信じがたい煌びやかさからみれば全然大人しい。

 大人しいけど、何だろうねこの高級感。

 成る程1年2年3年の学年棟並べた位のスペースが必要な訳だ! 広すぎる! 何なのこの高級マンションみたいな内装!?

 共有スペースが広く取られ、個室はこじんまりと、とパンフレットに書かれてたらしいが、充分に広い。

 これは、二人で使うには、大分スペースが余りに余りまくるんじゃないだろうか。

「んじゃ、まずは荷物を片付けますかね」

「僕も手伝うよ」

「大丈夫大丈夫、そんな量もないし」

 見つかると不味いモンゴロゴロあるし☆

 ……いや、あるし☆じゃないけど。まずスマホを何とかして姉さんに連絡しないといけないしな。

「そう? 何かあったら言ってね―――その前に、一つだけいい?」

「? ……うん」

「押し倒される方が好きって嘘だよね」

 アラさっぱりバレていらっしゃる。

 やっぱ嘘の厚みが薄かったかしらなどと思いながら、俺は頷いた。

「ノーマルだって言ったら逆に煽りそうだからさ。そっちの趣味はないよ」

「やっぱり―――そんな感じだもの。賢い対処だけど、やりすぎると危ないと思う」

「危ない?」

「うん。親衛隊って、敵に回すと暴力強姦なんでもアリなんだよ!!」

 怖いっ! といった表情で俺の手を掴むシルト。

 今そんな顔がしたいのは俺の方だけどね!!

 すぅっと血の気が失せていくのを自覚しつつ、漸く返事した。

「……マジで?」

「マジですっ。敵にならなければ大丈夫だけどっ」

 うわーその敵に回らない具体的な方法が知りたいですシルト様っ!

「それってでも、取り締まったり出来ないのか?」

「……名家の子息だったりして、難しいみたい。勿論後ろ盾次第では、敵対しても見逃されるみたいだけど」

「それも閉鎖空間だと見落とされがち、ってことだな? ……うん、気をつけるよ」

「ごめん―――でも僕、ゼレカと同室になれて嬉しいんだ!」

「ふぇ?」

 こんなかわいこちゃんに喜ばれる容姿はしてないんだが。

 きらきらとした笑顔を潜め、先を続ける。

「この学園て、同じクラスだと同室になれないって知ってる?」

「ああ、うん。パンフレットで」

 過度の交友関係の膠着を避ける為、だったっけ。

 本当の理由は、もしかしたら親衛隊の存在が関わっているのかもしれなかったが。

「今まで何回か編入はあったのに、同じクラスだったり、他の人と同室になったりで……2人部屋を1人で使うのって寂しくて」

「……うん」

「だから、すっごく嬉しかったんだ! しかもゼレカは優しそうだし!」

「有難う。俺もシルトが同室で嬉しいよ」

「クラスは別だけど、何か困った事あったら聞きにきてね?」

「判った」

 俺はしっかりと頷いた。

 こんな広い部屋に1人は確かに寂しいだろう。部屋割は変わらないと聞いている。ということは、初等部からずっと、こんなバカ広い部屋を一人で使っていたのか……

「……っと、忘れるとこだった」

 しんみりしてしまった空気を切り替えるように、俺は膝を叩いた。

「?」

「一回姉さんに電話してくる。着いたっての連絡しないといけなくてさ」

「あ、そっか。個室で話してくるといいよ。防音だから安心してね」

「ん、有難う」

 丁寧に教えてくれるシルトに笑いかけ、右側の部屋にカードキーを通す。こんなとこにもセキュリティかぁ……

 ぱたんと背後で閉まると同時にかちゃりと鍵がかかった。

 凄い科学力だ。

 ピピピ、と持ち込みのスマホを鳴らす。電話だけなら、このスマホでも使える筈だ。

『アシュレア・クォンテラです。ご用のか……ゼレカね?』

 途中まで続いていた留守録を切り、我が姉上が通話に出る。

「とりあえず部屋に来たから」

『……まさかそんな事の為に電話? もっと遅い時間でもいいでしょう。就寝前とかで』

「んな訳ないです。確認です」

『何よ?』

「姉さん俺貞操の危機!」

『は? ―――ああ、親衛隊? 向こうは何でもアリみたいね』

 やっぱり知ってて黙ってたなアンタ!!

「ちょ、冗談じゃねぇよ!」

『強姦の話なんかしたら絶対嫌がると思って。目立つのに絡まなきゃいいじゃない』

「もう既にどうしようも無い位絡んでるっつーの!」

『……は?』

 俺の言葉に、不思議そうな姉。

『どういう意味よ、それ』

「俺の同室、シェフィルタ・レキサーヌ」

『レキサーヌって、あの、よね』

「そうかの有名なレキサーヌ。そして且つ親衛隊持ち。超かわいこちゃん」

『何ですって……っ!?』

 予想外というのがぴったりの口調だ。

 姉さんにも、そんな瞬間があるのか……

『アイツっ……手抜きかしら……いや、でも……』

「ねーさぁん?」

『ん、あぁ、強姦だっけ? いいんじゃない? 犯されちゃいなさい』

「ぅえぇぇぇええ!?」

 ヒデェ!! ヒデェじゃない!?

 自分でもわかるくらい、随分と情けない声が出た。

『機密を守る為なら貞操の一つや二つ安いものよ』

「マジで言ってらっしゃる!? ねぇマジで!?」

『更にアレもバレちゃ不味いでしょ。貞操と天秤できる?』

「……尋常じゃなく冗談じゃねーですな?」

『ほら、諦めてホられちゃいなさい』

「それ貴女が言って大丈夫!?」

 肉親から言われると全人格否定されてるみたいなんですが!?

 すると、スマホ越しにクスクスと忍び笑いが聞こえた。

「ねーさぁん!?」

『冗談よ。決まってるでしょ』

「……」

 貴女が言うと冗談に聞こえねーです……

『いざとなったら精霊が助けるわ。それに、切り抜けられそうに無かったら逃げればいい』

「逃げる、って?」

『そのまま。逃げなさい、ルクトラーヅにまで。身の危険には代えられないわ。たとえスマホがなくても、精霊を飛ばすことはできるでしょう。本当のギリギリになる前にやりなさい』

「……うん」

『あ、でもちゃんと情報は集めないとダメ』

「……了解」

『支給されたスマホ、見た?』

「まだ俺自身のは……でも、精霊印は見た」

『オーケー、触っても大丈夫よ。回路逆流して無効にしておいたわ』

「有難う」

 良かった……姉さん、やれば出来る人だからなー……

『全ての機器に精霊回路が使われているのだから、私に敵は居ないわ』

「……流石」

 再度礼を言って、通話を切る。

 精霊の流れる力の作用を利用した精霊回路。

 全ての電子機器はそれを使う為、見精―――本来なら可視化されない精霊の流れを見ることができる瞳を持つ姉さんには、ハッキングから何から何まで自由自在だ。

 精霊印を無効にするなど、それこそ書類の確認片手間に出来る筈。

 ふ~、と溜め息をついた。

 ……これでスマホもカードキーも、どちらも無くす訳には行かなくなった、と。






 取り敢えずついでに部屋の片付けをしてしまってから、俺は部屋から出た。

「お姉さん、何だって?」

「ん、頑張れってさ」

 肩をすくめて答える。

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