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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
7章・予想外の泥沼
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予想外の泥沼・2

「……やる」

「……はい?」

 どこまでも不機嫌に、ぶっきらぼうに、アルヴィエ先輩は細長い箱を突き出した。

 いきなり何事だろうと思いつつも箱を開けると、メガネが入っている。

 今かけている銀縁のものとそこまでデザイン的に大きな違いはない。ないが、つるの部分の銀の地金に金色で装飾がされており、その金色は金属ではなく、俺の知らない素材でできているらしかった。何しろ、ガラスのように透けているのに、色ガラスではない。

 アルリタとして様々な宝飾品を身に着けることの多い俺ですら見たことのない、おそらく希少な宝石の加工品だと思うが―――

 正直、こんなに高そうなものを受け取る理由がない。

「……え、えぇと……?」

 まさか高そうなのですが何か裏がありますか、とは聞けず、俺は先輩を窺う。

 シルトは一応俺への用事だから黙って見ているが、やはり不思議そうな顔で見ていることに変わりはなかった。

「度は入れてないぞ。伊達なんだろう?!」

「え、あ、はぁ、そう、です、が」

「歯切れが悪い!」

「いえ、一体何事、かな、と」

「……僕が、壊した、からな。黙って受け取れ」

「……あぁ」

 漸く得心がいった。

 先輩は律儀すぎるところがあるから、しっぽとりの時に俺がレンズに罅が入った、といったのに酷く後ろめたさを覚えてしまったのだろう。

 それで、俺に謝るのもなんかムカつくし、でも借りは返さないと、で、この不機嫌なわけだ。

「今朝見たら、割れたまま使っている、みたいだったから……! それだけだ!」

「それは……わざわざありがとうございます」

 伊達メガネであると同時に、ただの目くらましなので、姉さんが新しいのを送ってくれるまで割れたままでいっか、と、そのまま使っていたのが余計気を遣わせたのか。

 普通の近眼でメガネの必要な人なら代わりのものを持っているのだろうが、俺はその危険性を全く考えていなかった。俺の落ち度でもある。

 しかし……流石に、こんな不機嫌になるまで悩んで、しかも多分、急遽入手して夜中に持って来たというのに、これを突っ返す勇気は、俺にはないなぁ……

 ここで受け取ると、おそらく学園内で調達したのだろうから、明日から俺が使うメガネ=先輩からの贈り物で、先輩のファンクラブに睨まれそうなんだが。

「ありがたく使わせて頂きます、アルヴィエ先輩」

「……で、いい……」

「はい?」

 早速かけ替えながら礼を言うと、何だか物凄く小さい声で、何か言われた。

「アル、で、いい! ……お前は、本気でシルトに邪なことはしないみたいだし!」

「……はぁ……ありがとう、ございます……?」

 いや、そんな当たり前のことで、今更愛称で呼ぶのを許してくれても。

 しかも滅茶苦茶怒りながら。

 釈然としないものを感じたまま返事をしていると、シルトが何故か、天変地異を見る驚愕そのものの目でアルヴィエ先輩―――アル先輩を見ている。

 どうしたの。

「僕の用はこれだけだ!! 遅くに悪かったな!」

 高らかに言い切って、やっぱり怒ったまま、先輩は走るように出て行った。

 おやすみなさい、という暇もない。

 先輩を見送って、茶器を片付けようと手を出しながら、俺はシルトにぽつりと言った。

「……アルヴィ……アル先輩、よっぽど気にしてたんだな……? 高々メガネなのに」

「え゛っ……?」

「……え、って? なんだよ……?」

 シルトが、何故か、絶望的なものを見る目で、俺を見ている。

 物凄く、恐る恐るという風に、言葉を続けた。

「……それだけ?」

「……何が?」

「……えぇ……? 嘘ぉ……」

 今度は俺が天変地異になってしまった。

 何が?

「それ……高い、よ……?」

「あ、あぁ、うん。そのくらい、わかる……けど……?」

「えぇ……」

 先輩が壊したのと同じだから、ありえないくらい気を遣って、前のよりも高いモノを焦って買ってしまったんだろう。

 それにこの学園の販売品だ、きっと高価なものしか置いておらず、似たようなメガネはこれしかなかったのだ。

 ……と、思うのだが、何故、シルトはそんな目で俺を見るのか……?

 しかもなんとなく、思ったことをそのまま言うと、シルトが俺を軽蔑する予感がする。

「先輩も、急にメガネ買わなきゃいけなくて、高いモノしかなくて、仕方なかったん、じゃないのか? 前もって話してくれれば、俺も少しくらい出したんだけど……」

「……」

 こんな高そうなものを貰って何にも感じないほど、俺の金銭感覚は麻痺していない。

 それをきちんと説明したというのに、シルトは最早異星人を見るような目を変えてくれない。

「……そっか……ゼレカって、鈍いんだね……しかも、果てしなく……」

「はい?! 果てしなく?!」

「うん……大丈夫、僕は、友達だからね……」

「ちょっ! シルト?!」

 何もかもの説明を諦めました、と、顔に書いてある。

 俺が一体何を見逃しているというのだろう。しかし、これ以上聞いてもシルトは教えてくれそうにない。失礼な。俺は結構細かいことに気が付くんだぞ。部屋の隅の埃とか、料理の味付けの変化とか。

 ―――でもなんでだろう。それを言ったら余計にダメな気がする。








 翌日、理事室に向かっていると、途中でルディに声をかけられた。

 普段なら生徒会室でしか会わないのだが、学園祭の後始末も終わっているので、少しばかり散歩できる余裕ができているようだ。残念ながらフィンにその暇はないようだったが。

「今、時間ある?」

「うん? 何か用事?」

「……まぁ、そうだけど、生徒会庶務の仕事、なんだよね、本来」

 同じ庶務とはいえ、俺は理事庶務であり、その仕事量は地味に多い。

 詳しく観察していると、フィンが他の職員に仕事を回す手間を惜しんで自分でやっているから、その雑用である理事庶務も仕事量が増加している、というのが判ってきた。これは本格的にフィンの意識改革が必要なんじゃないかと思い始めているところだ。

 そんな俺に生徒会庶務の仕事を頼んでもいいか、少し悩んでいるようだ。

「俺にできることならやるよ。何?」

「んじゃ、ちょっと着いてきて」

 一応フィンに遅れる旨をメールし―――それを彼が見るかどうか微妙なところだ―――、ルディに着いていく。

 ただの散歩だと思ったら、仕事をしに行く途中だったのか。

「メガネ、変えたの? 綺麗」

「ああ……しっぽとりの時、レンズ割れてさ。気を遣ったアル先輩が買ってくれた」

「……。アルが。へぇ、そう……」

 ……あれ? なんかルディも、俺を微妙な目で見てくる……?

 俺はもしかして、よっぽど気付かなきゃいけない何かを見逃しているんだろうか。

「……こんな高いモノ、一方的に貰うのはやっぱり不味いよな。なんかお返しとかした方がいいのか?」

「―――そういう問題じゃない」

 いつもはどこかぼうっとしたルディが、きっぱりと、強い口調で言い切った。

 どうやら、金銭関係の問題ではないようだ。しかしそうなると、俺は一体どうしたらいいんだ……?

 首を傾げながらルディに着いていくと、目的地はどうやら運動場の一画のようである。

 厳重に鍵がかけられており、普通の運動場ではないらしいと思ってはいると、そこは射的場だった。―――え、つまりここ、精霊銃があるんじゃないの……?

 全く予想していない場所の上、先日姉さんに釘を刺されたことも合わさって、俺は気安く受けてしまったことを後悔し始めていた。

「来週、2年に精霊銃の授業、入ってるんだよね。事前に数と傷がないか、確認する」

「……わかった」

 まさか来ておいてやらない訳にもいかない。

 水晶の部分に触らなければ、おそらく、影響はない筈だ。俺自身が直接精霊銃を触ったことがなく、姉さんのように日常的に回路を自在に弄っていないので、本気で気を付けなくてはならない。

 精霊の流れを見れば、どこがどういう働きを担っているのか、理解はできるんだが……

「俺、精霊銃初めてだからさ、数える方でいいか?」

「ああ、そっか。うん。頼む」

 とは言いつつも、全く触らずに数えるのは難しそうだな。

 どこを触れば精霊を刺激しないで数えられるだろう―――あんまり時間をかけては、ルディに怪しまれる。

 緊張しながらも、とにかく数えることに集中する。

 一応は整頓されているらしく、精霊の種類によって置き場所が違う。俺は水晶を見るだけでその中に閉じ込められた精霊が判るが、それは見精と俺だけだ。一般の生徒にも判るように、グリップのところに種類が印字されている。

 ……のだが、やはり使うのは人間だ、違う種類の精霊銃が混じって片付けられていた。

「……オォウ……」

 ルディから渡された紙によると、その整理整頓もしながら、種類別に数を確認しなくてはならない。

 整理整頓には全く苦労しないが、触ってはいけない精霊球に気を付けながらだと、どうしても注意力散漫になる。

「っわ」

「っ!!」

 後ろに下がった瞬間に、ルディとぶつかった。

 しまった、後ろを通ってたのか。

「ごめん。気付かなかった」

「いい。銃に集中してたみたいだし」

 ルディは理由さえあれば腹を立てる性格はしていないから、俺が相当慎重に数えていたのを見ていたんだろう。

 自分でも、異常に見えるくらい慎重になっているのは自覚している。

 チリッ、と小さい気配がして、ルディの持っていた精霊銃のうちの一挺にふとした違和感を感じた。

 それは舞媛として感じたものだ。

 すぐに離れてしまったので彼の持っていたどの銃かは判らなくなってしまったが、なんとなく、嫌な予感がする。

 あの一瞬走った感覚は、精霊からの悲鳴に近い。

 限界まで力を放出した精霊が上げる、最後の悲鳴だ。

 この、書類上は200を超える精霊銃のどれか一つに捕まえられた精霊が、断末魔を上げている。

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