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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
6章・地獄のしっぽとり
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地獄のしっぽとり・2

 今回の情報は姉さんからではなくテウからのものなので、確認できるのは姉さんではなくフィンだけだ。

「同じ……筈だ。向こうの奴をよくは知らんが」

「それで何で死闘になるんです?」

「賞品の違いじゃないか?」

「賞品? 学園祭の催し物の一つでしょうに?」

「まぁ、そういってしまえばそうなんだが」

 ばさばさと書類を片付ける俺に目線を上げて、仕方ない、という風に溜息をついた。

 その仕方ない、は俺に向けてなのかそれとも生徒たちに向けてなのかは判らない。





「賞品が学園の人気投票で一位になった王子と姫からのキスだ」





 あー成程よく判ったそりゃ大喧嘩になるわな。

 ……。




「……え?」

 なにその賞品。

 駄目でしょ。

 血が流れるだろ。

 今年の王子は多分アーク会長。血筋と顔で間違いない。あとあの人基本的にはノリで行動してるから、面白そうだと思ったら止めるどころか加速させる。

 姫は多分シルトかアルヴィエ先輩。アルヴィエ先輩は規律に厳しい人だから多分人気投票で決まった事なら従う筈。

「ちょ、それ理事長権限で止めろよ!!」

「その行事だけは生徒主催だから俺は口出しできないんだ。悪いな」

「止めろその胡散臭いくらい爽やかな笑顔は! 俺もみくちゃ!」

「一番安全な逃げ方は開始時にとっととしっぽを誰かに取らせる事だぞ?」

「それでも日々の恨みが篭ってそうで怖いわ!」

 ただでさえ生徒会って言うだけで恨み買ってるのに!

 テウは賞品がシルトだったら本気で怖いし、キャルとかも危険そうだ。

 クラスメイトもシルトファンの多いことは知って居るし、他のクラスメイトからも色々と噂は聞いてるし……

 ヤバい俺その日だけは病欠した方が良いんじゃないかっ!

 一瞬で顔色が悪くなった俺に対して、フィンは無情に一言言った。

「ま、頑張れ」

 ……殴るぞ、このネズミ。







 あがこうが騒ごうが、その運命の日はやってくる。

 賞品は、案の定アーク会長とシルトだった。

 シルトが泣きそうになってて可哀相だったが、ぶっちゃけそれ以上に今日狙われる俺の方が可哀相だ。

 ちなみに、次点にカリル先輩とアルヴィエ先輩。

 ……こんな時じゃないと狙えないギリギリを狙ってきたな、全校生徒。

 学園祭自体は無事に終わり、残る競技はしっぽとり。

 ……ねぇ、こんな危険な競技本気でやめようよ……

 天井を仰いで視線を教室に備え付けの液晶パネルに戻すと、そのとき、偶然にもカメラが保護者席を写した。

 ねっ……!?

『ネ・フェ・ル・ディ・カ』

 唇だけで偽名を告げてくる。

 いやいやいやいや、でも姉さんっ?!

 フィンから実情を聞いた時以上に血の気が失せる。

 ま、負けられない……これ負けられない……

 殺し合いとかそんなレベルじゃない本気で負けられない……っ。

 今まで中間あたりの微妙な成績を狙ってきたけど、姉さんが見ていると判った今となっては全ては無駄。

 勝たなければならない。

 賞品なんて全くイラナイが、そんな事は関係ないのだ。

 だって、目が。

 姉さんの目が一言”勝て”って……!

 俺の開始地点となった3-Bの面々を見渡した。

 敵になりそうな奴は一人も居ない。

 学年違いの人も居るが……敵じゃないな。

 1mのしっぽが何だ……舞媛の衣装はもっと重いわ……!

 フフフと笑い出した俺に、隣の奴が不気味そうにびくっとした。





『スタート!』





 たんっ。

 いきなり予想以上に高くジャンプされ、俺のしっぽを狙いに来ていた敵がばたばたと転んでいく。

 申し訳ないがその転んでいる上に着地し、とっととしっぽを奪う。

 しっぽを無くした以上、周りの数名は動くことも禁止だ。

 わー俺ってこんなに恨まれてたんだすげーただの地味根暗メガネ君を目指してたのにー。

 ざかざかとたかって来る、色んな意味で危ない奴らのしっぽをまとめて奪う。

 その数たるや30人弱―――ってこのクラスに割り当てられた奴殆どじゃねぇか!!

 どうやら地味根暗というだけで運動無理、と思われて居るらしい。

 ……好都合なんだけど、ちょっと悔しいな。

 実はこの競技、物凄く舞媛に有利だったりする。

 舞媛の身体能力は怪力などには向いていない。寧ろ、バネを使うような、こういう競技にこそ本領が発揮されるのだ。

 ―――いや、だからこそ姉さんも勝てって言ってきてるんだろうけど。

 そんなまさか得意種目の癖に負けたりしないわよね私の弟ともあろう者が、と目が言っていた。

 クラス中のしっぽを回収しきったところで、ちゃ、とずれかけた眼鏡をかけなおす。

「……想像以上に、眼鏡が邪魔だぞ?」

 てっくてっくとなんの気なしに廊下―――次の戦場へ。

 舞媛の動きは実にトリッキーだ。

 それについてこられる一般生徒はほぼ居ないと言っていい。

 ……つまり、独壇場。

 途中サッカー部やらバスケ部やらの生徒らしき人々とも取り合いになったが……相手にならない。

 新体操部の生徒はちょっときつかったな。

『現在、残り時50分。しっぽをとられて居ない生徒数、18人です。グラウンドに集合下さい』

 全校に向けてのアナウンスが流れる。

 そういえば……しっぽには高機能な認証システムが入っていて、一度でも生徒の体から離れたらアウト、だとか、誰がどのくらいの数を持っている、などの情報も判るようになっているらしい。帝国の技術力をフルに使ったしっぽとりということだ。―――賞品はとんでもなく下らないが。

 のんびりそんな事を考えながらグラウンドに向かう俺に、後ろから一言。

「ば、バケモノ……!」

 失礼な。







 グラウンドに出ると、俺の姿を確認した方々から、驚愕の声が上がった。

 カメラも、一応校内の状況を映してはいたが、全生徒の動向を把握できるわけじゃないのだ。俺が残っているということをここに来るまで知らなかった生徒も、当然いるわけで。

「ぜっ! ゼレカ!?」

「おーよぅテウじゃん生き残ってたんだー」

 片手を上げて笑う俺。驚愕のまま固まるテウ。

 ……俺が生き残ってたのはそんなに意外か。

「ふっ、ふふっ……! ゼレカなら判るよな……俺がこの戦いに負けられない訳を……!」

「いや、まぁ、判らんでもないけど……男からのキスなんて俺は心底いらないけど……」

 ここまで来る事も出来ず散っていった戦死者たとえが聞いたら憤死しそうな台詞を吐き、それでも戦闘体制に入る俺。

 俺だって、俺だって負けられない理由があるっ!!(観覧席に。

 残念ながら勝負は一瞬で決まるだろう。

 確かにテウは速い。強い。意地もある。目的も明らかだ。

 しかし時間はかけられない。俺を狙ってくる生徒は他にも居るのだ。

 ……そりゃ、こんな地味根暗がラストまで残ってきたってのは完全にまぐれだとしか思わないよな、皆。

 ひゅん。

 多分、音にするならそんな音だ。

 テウ自身も、取られた、という感覚は無いだろう。

 ただ俺はテウを狙っていた後ろの生徒のしっぽを取っただけ。……そのついでにテウのしっぽも頂きましたが。

「おまっ! それっ! 卑怯!!」

「えーどこがー? 俺普通にしっぽ取っただけだしー?」

「運動は普通じゃなかったのかよっ!!」

「いやまぁ今日は解禁日ってことで……」

「何のだあぁぁぁあぁぁああ!!!!」

 狙ってくる方々の攻撃をひらひらかわしつつの会話。

 バックから狙っても無駄ですよー背後に目があるのかって位舞媛の感覚は鋭敏ですよー。着地点を狙っても通過点を狙ってもしっぽの動きは完全把握しているのでかすりもしませんよー。

 うし、残りひとり……ひt……

「貴様! やはりシルトを狙っていたか!」





 学園最強のチワワが残ってしまった。





 こっ……これは予想外かもしれないぞ……?

「コンニチワ先輩、いい学園祭日和ですねっ」

「答えになってない! 返答次第ではただでは済まないぞ?!」

 でしょうねアルヴィエ先輩。

 内心こちらとしては滝のような汗が流れていたりする。

 一番残って欲しくなかった人が残ってしまったのだから当然と言えば当然なのだが―――さてどうしたものか。

 ここで勝ってしまうのは、勿論簡単な事である。

 負けてしまうことも、勿論また簡単な事の部類に入る。

 しかし……どちらもどちらで恐ろしいものがあった。

「アルヴィエ先輩を倒したら全校生徒が敵……倒さなかったら姉さんが敵っ!」

「何をぶつぶつ呟いている!!」

 考えが思わず口に出ていたのだろう、びしっ! と指を指されて怒られる。

 とにかく向こうは問答無用と言う勢いで、俺と同じ位の背丈にしてはかなりの速度で突っ込んでくる―――猪突猛進とは違うが……。

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