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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
序章・バレたらマズいアレやコレ
3/35

バレたらマズいアレやコレ・3

 おどおどとやはり不審感たっぷりに返答する理事長。

「明日から授業だそうだが」

「ええ。少しでも多くを学べればと思います」

「が、頑張ってくれたまえ」

 うわぁ、ビビられてるビビられてるー。

「案内の為に、寮の相部屋の生徒を呼び出しておいたから、細かくは彼から教えて貰ってくれ」

「解りました」

「シェフィルタ・レキサーヌ」

 ボタンを押して、隣室に居たらしい生徒を呼び出す。

 レキサーヌってまさか……あのレキサーヌか? エナクメラ一の広告会社の? 戦後、ルクトラーヅにも進出してる、あの!?

 有志のおぼっちゃまばかりとは聞いているが―――まさかな。

「失礼しまぁす」

 少年ボイスと言うのか、可愛らしい声と共に、それに相応しい男の子が入ってきた。

 うわ、天使みたい……

 僅かに幼い顔立ちに、緩やかにウェーブのかかった銀髪。きらきらと輝く宝石じみた瞳は、海みたいな青だ。

 ルクトラーヅが黒髪に対して、エナクメラは基本的に金銀といった明るい色だとは知っていたけど、やっぱ実際見ると綺麗だなぁ。身の回りには居なかっただけに、余計に煌びやかに感じる。

「はじめまして、シェフィルタ・レキサーヌです」

「ああ、はじめまして、ゼレクアイト・クォンテラです」

 それでは失礼します、と告げて、理事室を出た。

 ……あれ?

 部屋から出てから気付いたが―――理事長って名前なんだっけ?

 確かに顔のいいメガネ兄さんだったのは覚えてるんだけど、髪の色も目の色も、何も印象が残ってない。

 人の名前やら顔やらを覚えるのが得意なだけに、ちょっと不思議だな……

「ああっ!」

 ばっと後ろを眺める。

「えっ、何何?」

 驚いて声を上げるシェフィルタ。

 しまった、つい口に……

「いや、別に何でもないよ」

「そう? 何かあったら言ってね」

「うん、有難う」

 にこりと笑いかけ、俺は理事室の方をもう一度見た。

 成る程、ああすればいいのか……

 目立つ癖に外見的特徴が記憶に残らない、地味なんだけど地味じゃない。あんなのは逆に印象が残らず、様々な場所に紛れ込み易いに違いない。

「なぁ、シェフィルタ」

「シルトでいいよ、同い年でしょ?」

「ありがと。俺ははゼレカって呼んでくれ」

「うん、ゼレカ!」

 きらきらと後光が差す様な微笑。可愛いなぁ……そしてそんな彼と歩く俺への敵意の目線が痛いなぁ……

「ここって高等棟なんだよな?」

「そうだよ。でも細かくいうと、ちょっと違うかな?」

「違うって言うと?」

「高等部の学年校舎は中等部と一体になってるんだ。だから、僕らの1年棟には中等部の1年生も居るってわけ」

「へぇ……かわってるな。でも、他は?」

「他?」

「そう。ロックスアースって初等中等高等、んで大学の完全エスカレーターなんだよな? 案内板見たんだけど簡単にしか書いてなくてさ。どれがどれだか……」

「ああ、初等部は大学部と一緒になってる。特別教科棟の左側にある棟だよ。みんな大体初等部から在学してるから、学園内の案内板には略図しかないんだ」

「成る程ぉ……つか、ひとつ下らない事、聞いていい?」

「うん、何?」

 ふんわりと首を傾げるシルト。

 正直俺にとっては死活問題なんだけどさ?

「さっきから何か凄い、敵意に満ちた目線を感じるんだけど……?」

「ごめんね―――僕のせいだ」

 申し訳なさそうにシルトが答える。いやまぁ、そんな予感はしてたんだけど。

 シルト様に軽々しく近付くな根暗とか引きこもってろオタクとかあんなのがシルトちゃんと同室なんて赦せないとか、そんな単語が聞こえますもの。

 何か手を打たなくては。

「多分、僕の親衛隊の人たちだと思う―――学園内って閉鎖空間でしょ?」

 その言葉に取り敢えず頷く俺。

 くる前ならともかく、きてみればそれを否定しようなど思わない。

 こんな山奥、そして無駄に広大な敷地。そこにいると、幾ら広くても、いや、広いからか、閉鎖的にも感じるだろう。

 しかし親衛隊、というのがあるのは事前情報で知っていたが、なんとなく、その事前情報とは食い違いがある、ような……?

「だからどうしても恋愛対象が同性になるんだ」

「へっ、へぇ」

 サラッと言って下さるっ……

 エナクメラではそれが普通なの!? ルクトラーヅでも男子校に居たけど皆性癖普通だったよ?!

「で、人より少しでも綺麗だったり格好良かったら、親衛隊が出来るんだよ。勿論勝手にだよ? 僕だって欲しくないもん」

 ぷぅ、と膨れてみせる。

 可愛い。文句なしに可愛い。コレは間違いなく親衛隊が出来るな。

「その傍迷惑なナイト様達は、シルトと同室になった俺が疎ましくて仕方ない、と」

「ごっ、ごめんね……」

「いやいや、気にすんなよ。シルトのせいじゃないし」

 周りの奴らは俺がシルトを狙わないか、無理矢理にコトに及ばないか、とかを心配してるわけだ。

 よし、そうと判れば後は簡単だ。

 親衛隊に俺は敵対しないっつーところを印象付ければいい。

「大丈夫だって。俺はシルトに手ぇ出さないし」

「……そう?」

 うるうるとした瞳と真っ向からぶつかる。

 うわーコレはノーマルでもぐらつくなー。気のせいだろうが、後光が指している気すらする。

 内心そんな事を考えながら、更に決定打を口に出した。

「うん。つーか俺、



 押し倒される方が好き



 だから」

 ……我ながらなんつー問題発言……

 いやまぁ勿論そんな性癖は欠片も持ち合わせてないけどさ、今手っ取り早く周りを黙らせるにはコレかなー……ってね?

 うん俺なんかが口にしてスイマセン!!

「そうなんだ? じゃあ安心だねっ」

 きらきらと天使の笑顔を振り撒くシルトだが、そこかしこの茂みで倒れていく奴らが怖い。

 俺、ここに馴染めるかしら……?

「そう言えば、どうして遅かったの?」

「ああ、ガッコの中で迷ってさ……この学園広すぎるんだよ」

「え? スマホは?」

「GPSにジャミングかかってた」

「個人のじゃなくて、学園支給の方は?」

「―――へ?」

 いいながら、装飾の施されたスマホを見せてくれる。

「帝国要人の子供ばっかり通うから、セキュリティーも高くてね。市販のだと通話しか出来ないの」

「ネットもメールもジャミングかかる訳?」

「うん。ネットは寮の個人部屋に完備してるけど。でもここ、広いでしょ?」

「だな!」

「だから迷子になったり、通話も通じない場所に入っちゃったりすると大変だから、学園からスマホが支給されるの」

 それに地図とか色々入ってるんだ、と説明してくれる。

「いや……カードキーしかもってないな」

「じゃあこっちに届けた荷物に紛れちゃったのかな? 部屋に行ったら探そうね」

「うん、有難う」

 と、俺は周りを見渡してひとつ気付いた。

「シルト、スマホの色が違うのは何で?」

 向こうで話している坊やのスマホはシルトが見せてくれたものと色が違う。

「学年とかの区別だよ。黒地が初等、灰地が中等、銀地が高等、大学は白」

「ってコトは装飾の色が学年?」

「そ、今の1年は青で、2年が赤、3年が紫。初等と大学は、4年が緑で5年が―――って、そこはいっか」

 ちょっぴり混乱しだした俺に気付き、シルトが説明を止める。

 まぁ、俺のスマホの色と違えば学年が違う、と判ってれば大丈夫だろう、きっと。

「ちなみにね、ネクタイとカードキーも同じだよ」

「ホントだ……この色は3年間同じなのか?」

「うん。今の3年の色が、来年の1年の色。くるくる変わったら判んなくなるしね」

「そ、そうだね」

 くるくるしなくても覚えられる自信がないよ……?

 くぁぁ金持ち学校混乱するーっ。

 そんな会話をしながら、俺たちは学生寮へとたどり着いた。

 人と一緒だと迷わずに済むな! 素敵!

 慣れないうちにシルトとはぐれたら俺、死ねる自信がある。

 やはり高級ホテルのエントランスか何かの様な豪奢な玄関を抜け、正面にいくつかあるエレベーターの前に立った。

「一応他のは動かないと思うけど、エレベーターはこれを使ってね」

「動かない? ていうか使うエレベーターに区別あるのか?」

「ほら、ここに差込口があるでしょ? これに入れないと動かないんだ。で、エレベーターは階ごとに止まるようになってるってわけ」

「なぁる、防犯上、ってこと。エレベーター動かすにもカードキーね……無くしたら大変だな。確か学園内だとクレジットカードにもなるんだろ?」

「そう。でも、スマホを無くさない限り、そんなに危なくないよ」

 ほら、と言ってシルトは学園支給のスマホの、学園章ではない細かな紋章を見せてくれる。

 ―――コレ……っ!

「この絵柄で、カードとスマホの持ち主が正当な人かを見分けてるの。スマホを持ってる人が正しい持ち主として見られるんだ」

「……へぇ」

 俺は半ば茫然と返事をした。

 何てコトだ―――成る程、あのぬかりのない姉さんが、スマホだけ先に送った訳だよ!

 エレベーターが到着して、俺たちはそれに乗り込んだ。

 精霊印、じゃないか……

 確かに確実に持ち主を見分けるだろう。精霊を騙せる奴なんか、ほんの一握りだけだ。

 精霊印は、精霊が2つのものに1つの性質を与えることでパスを繋ぐ、一種の呪物。殆どの生徒は気付いていないようだが……

 エナクメラのこと、支配した精霊に無理矢理回路を繋げさせているんだろう。

 どうやらカードは副呪物の様で、本体がスマホらしい。

 でなければとっくに騒ぎになっている。

 スマホが見つかっても、直接は触れないな……俺が触ったとなれば、印を押した精霊が唄い出すに決まってる。もちろん、姉さんは何らかの手段を講じているとは思うが……

「ねぇ、ゼレカ」

「うん?」

 エレベーターの停止と共に話し掛けられ、俺は軽く首を傾げて応えた。

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