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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
6章・地獄のしっぽとり
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地獄のしっぽとり・1

(少なくとも俺の中では)波乱だった8月3日(蛇足ながら主な原因はロール)は無事に過ぎ、やがて2学期も始まろうかとして居る。

 平和だ……

 ロールが居ない事がこんなに平和だと感じるなんて……

「そこ、ボーっとしてないで手伝ってくれるかな」

「あ、ハイ、すいません会長」

 そして、2学期の初めにある学園祭のごたごたの為、俺は生徒会の本業の手伝いまでさせられている。

 勿論理事庶務の仕事量は変わっていない。

 成程、だからフィンは2学期のほうが忙しいって言ったんだな。

「その書類は後で理事長に持っていくものだから、纏めておいてくれるかな」

「判りマシ……マジですか」

「ん? ああ、うん」

 事も無げにカリル先輩から渡された書類の山に、俺は思わず引きつった笑顔になった。

 これはちょっと……フィンを殺す気じゃないんだろうか。

「大丈夫、毎年大体同じ」

「……そっすか」

 ごめんね、ルディ、それは大丈夫って言わないんだ。いっそ拷問だと思うんだ。

 それであんなに不機嫌だったんだな、フィン……

「大丈夫ですよ、学園祭自体が終れば少しは小休止に入りますから」

「……カリル先輩」

 と、いいつつ理事長書類の上に20冊位書類を追加するのは止めて下さい。

「そういえば、アルは大丈夫ですか?」

「アルヴィエ先輩ですか。大丈夫も何も……まぁ、さほど変わりはないって所でしょうかね。顔を合わせれば出て行け、の一点張りです」

「成程……すいませんね、あんなので。ですがまぁ、実害はそんなにないでしょうし、幼馴染をとられるようで寂しいんだろうと好意的に解釈して、少し許してやってください」

「そう、ですね……」

 そうだね、きっとないね、学園一の攻撃力を持ってるチワワだけど、実害は多分ないよね。信じたいね。

 ほろりと内心涙を拭って、俺は書類を持上げた。

 お、重っ……!

 これ……舞媛で鍛えてる俺でも無かったら2回くらい往復しなくちゃ駄目なんじゃない?!

「あれ? 一度で大丈夫?」

「……ま、まぁ、何とか」

 不思議そうに聞いてくるルディに、若干引きつった笑顔で答える。

「僕は無理だな。ルディも……前は3回だったか?」

「……会長」

 無理なんですか、そうですか。

 って事は俺、気にもしてなかったけど、実際どれだけ鍛えてるんだろ……。

「生徒会で一度に運べるのは、僕くらいじゃないですかね? だから理事長への書類運搬は僕がやってたんです」

「え、先輩行けるんですか?」

「あはは……一応僕、家が軍門なので」

「あ、そうでしたっけ」

 つまり俺は、軍人レベルに鍛えていると。

 ……アレ? 舞媛ってそんな力仕事だっけ?

 ちょっと自分の体力に不信感を抱きつつも、取り敢えず生徒会室を出る。

 と。

「ちょっと!! 理事長庶務だかなんだか知らないけど、我が物顔で生徒会室に出入りするなよ!」

「……えっと、皆様は……?」

 なんか、凄い人だかりに囲まれた。

「生徒会の方々のファンクラブの幹部! そのくらい覚えておけよな!」

「いや……普通に今まで関係してこなかったんで……」

 ネクタイの色確認、先輩だ。

 ……それより、この大量の書類をフィンに渡してしまいたいんだけどなー。

「これを機会に皆様にご迷惑だとか、お近付きになろうとか考えてないだろうな?!」

「いや、それは別に全く。事実、今も理事長にこの書類を渡しにいく職務の途中です。それにテウとは既にクラスメイトで友達だし」

「テハイラ様との関係は1不可思議譲って赦す!!」

 うわ、滅茶苦茶譲られた。

 そんなに譲られると何だか申し訳ない気もする。勿論完全な気のせいなんだが。

「それに俺たちは、卑怯な賄賂なんか期待してない!!」

「賄賂……?」

「あの……ほら……その、だから写メとかサインとかだよ!!」

「ああ、シルト好きのクラスメイトに渡したみたいな?」

「そう、そうそうそれそれ!!」

 ……まるで期待してるみたいなんですけど。

 ちょっと先輩のことを生温い目で見てしまったのは仕方が無い。

 でも期待してないって言うし、とりあえず今日のところはそこをどいてもらうことに集中しよう。

「えっと、じゃあ今以上……理事長庶務、という立場の関係以上にはなりませんし、皆さんの活動には一切関係しませんし、賄賂も渡しませんので、今は理事長室に行かせて下さい」

「それじゃ駄目だろ!」

「……えー?」

 全部駄目だって言うこと駄目にしてるじゃーん。

 それにそろそろ書類の重みを感じ始めてるんですけどー。

「いや……そういうんじゃなくて……なんていうか……ほら、その……この位察しろよ!!!!」

「……欲しいんですか、賄賂?」

 えらい遠まわしだな。

「欲しくない!」

 どっちだよ。

「じゃあ、通してくださいよ……」

「断る!」

「いや……本気で書類急ぐんで……」

 ていうか俺が急ぎたいんで。

「だから……察しろってば!!」

「え、だから欲しいんですかってば」

「要らない! 俺たちは請求しない!」

「……」

 段々判ってきた。

「つまり……俺が賄賂を渡してくるのはいいけど、先輩方が賄賂を求めてくるわけではないと」

「……そういう解釈も出来る!」

 いやそうとしか出来ねーよ。

 良家のご子息様っていうのは、こんなに面倒くさいプライドの持ち主ばっかりなのか?

「判りました。とにかく今は手が離せないんで今度顔をお見かけした時には写メ差し上げますので、それでこの場は見逃してください」

 以上。

「よし!」

 ……よしでもない気がするんだけどなぁ。

 まぁ、それで道を開けてくれたんだし、いいか。

 アーク会長とかは凄いノリよく写メ撮らせてくれそうだし? ルディは頼めば何とかなるしー、テウはそもそもダチだから断らせないしー。

 ……一番の難関はカリル先輩じゃないか?

 あの人隙は無いわ食えないわ……どうやって写メを撮ったものか。

 正攻法ではどうしようもない事は判りきって居る。

 そんな作戦会議を脳内で繰り広げつつ、俺は理事長室に足を踏み―――踏m。

 ちょい、まてやおい。

「フィーンッ!!!!」

「うぉっ?!」

 大声に流石にビビッたのか、少々慌てた声が書斎の奥から返ってくる。

 それとも流石にこの惨状は酷いと自分でも自覚しているのか。

 いつもは大概、外身だけは、綺麗に整えられている理事長室が書類の樹海と化していた。

 足の踏み場が無い、という表現を良く聞くが、紙が一枚で立っている状況を俺は初めて見たぞ。

 書斎から雪崩れ込んで来た本の類が床の大半を占めている状況なんて俺は初めて見たぞ。

 戦後直後のノギスさんの書斎でもこんな状態にはなってなかったぞ。

 ……そこには姉さんの功績が大きかったが。

「説明しろおい! どうすればこんな状況になるんだ!」

「書類を50ばかり、久し振りに自分で探しに行ったらこんな事に……」

「50?! そんなに捜すんだったら俺に言え! ていうか俺を待ってろ!!」

「お前が書類の場所を変えるから悪いんだろ!!」

「責任転嫁かよ! 安心しろその答えは”殆ど変わってない”だ!!」

「嘘つけ全然”精霊発生律と自動回路の構築理論”が見付からないじゃないか!」

「それは入って右から3番目の棚上から5段目左から6冊目だ馬鹿野郎!」

「……あ」

「”……あ”じゃねぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!」

 コレを片付ける俺の身にもなれぇぇぇぇええええ!!!!

 とりあえずかろうじて場所のあるところに今もって来た書類を置き、片っ端から拾い集めていく。

 何で全然関係ないところにあった”Lulu-Ajara”が出てるんだろう。

 ちょっと涙を堪えつつ、メールで戻る時間がかなり遅れるという事をテウに伝える。

 カリル先輩に送った日には……怖い。

 なんでだろう、あの人からは姉さんと似た様なオーラも感じる。

「なぁ、今日の晩飯は?」

「……今それを俺に聞くって事は、死にたいんだな、フィン」

「……学食か」

 肩を落とすな。

 学食で満足しろ。

 ていうかそれ以前にこんな惨状を作り出すな。

 ああ、この惨状を殺す前に聞かないといけない事があったな。

「ていうか……空恐ろしい行事を聞いたんだけど、嘘だよな?」

「……今お前の悪いところを思いついた。全くこっちに内容を伝えずに答えを求めるな」

「学園祭で、全員参加の、しっぽごっこで死闘が起きるって言う」

「ああ……本当だな」

「マジで?!」

 正式な名前は知らないが、しっぽごっこ=規定の長さのしっぽを着けた鬼ごっこだ。

 皇国にも同じようなゲームはあったが、それが学園祭で死闘になるなんて事は勿論無かった。

 しっぽをとられた方が負けで、最終的に一人になるか、それとも時間内に取った数が一番多い人が一位になる。

「……ルールは、同じだよな?」

 結婚の概念の事もあるので、思わず其処からの確認になる。

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