キッチンメーカーの御子息と俺・1
めでたく学生寮の自室に戻った俺は、先ほどの食堂での出来事をシルトに話した。
「……って事があったんだけど、心当たりある?」
うじうじと言い募るフィンを押し切り、今日こそはと寮に帰ってきたのだ。
食堂で別れる際に明日の朝食も食堂に来る様に言いはしたが、理事長が守るとは思えないのだけが残念だが。
「えーっと……逆に、無いなんていえないよ、ね?」
困った様に首を傾げるシルト。
そんな困った表情されると激写してクラスメイトにばら撒きたくなるぜー。
「まぁ、そもそも幼馴染だって名乗ってるわけだしな」
「そっか……あんなに言っておいたのに、とうとう我慢できなくなっちゃったんだ、アル」
言いながら、がくっ、と肩を落とした。
フレンドリーな呼び方から、本当に知り合いなのだと判る。
自称幼馴染、なんてこの学園には山ほど居そうだしな。
「幼馴染って言ってたけど、先輩だったぜ?」
「ああ、うん。ていうか、学園に入る前からの幼馴染だから」
「……成程」
それはそれは実に完璧な幼馴染様だ。
まさかその頃からシルトに片思いで俺に八つ当たりにきたとか、そんな現実か?
もうありえないとは言えない婚姻事情を知ってしまった為、若干げんなりする。
「幼馴染って言うなら、僕はカリルともルディとも幼馴染だよ」
「え、そうなの!? じゃあ何でシルトは生徒会に入ってないんだ?」
「……いや、幼馴染3人中2人が生徒会だからって僕も入ろうとはしないって」
「入ったら今より大変そうだ」
「まぁ……それもあって、アーク会長に止められたんだよ」
「納得」
「アルは、カリルが居るなら絶対入らない! って言い切ってた」
「……へぇ」
あの物腰穏やかなカリル先輩を嫌えるなんて、それはそれで凄いな。
いや……先輩を深く知ると、なんだか納得できる拒否理由なんだが。
「とうとうって事は、前からシルトには言ってたのか?」
「そう。相部屋が決まった時から代えろ代えろと、もー、ずぅぅっと言ってたの」
「よく2ヶ月も止めておけたな」
「……うん、僕も自分で凄いと思う」
あの先輩絶対思い立ったら即行動の人だぜ。
「……出てく?」
シルトが、ちょっと心配そうな顔で聞いてくる。
捨てられそうな子犬のような、思わず抱きしめて頬ずりしたくなるような顔だ……可愛い。
「いや、出てかないよ。役員棟に住み着いたら流石に学園中からフクロだしな」
「あと理事長との関係が本気で冗談ですまなくなるね」
「……ソウダネ」
痛い所をズバッと突いて下さる。
「かなりアルはしつこいと思うけど……ごめん」
「いいよ。先輩もシルトが心配なんだろ」
「……僕だってそんな子供じゃないんだけどなぁ……」
「……そんな子供じゃなかったら寝ぼけて他の人のテーブルに座らないだろう」
「もう! そんな事いつまでも覚えてないで!」
ちょうど1ヶ月前の朝の、食堂での出来事を引っくり返す俺。
俺とテウが待っていたテーブルをすーっと通り過ぎ、全く知らない人のテーブルにちょこん、と座ったのだ。
慌てて引き戻したが、その時からシルトの評価を若干変えてある。
彼はしっかりしていてもまだまだ16歳なのだ。
……勿論俺もだけど。
「で、具体的に何に気をつければいい?」
「……攻撃力」
「は?」
なんかいきなりRPGなこと言わなかったか、シルト。
思わず我が耳を疑うが、残念ながらシルトは真剣そのものの表情だった。
「本当の、本当にだからね? 絶対、何があっても1対1の喧嘩はしないこと。ていうか1対何人でも絶対駄目」
「……あの先輩、凄いスキルでも持ってるの……?」
見た目にも、どちらかといえば華奢な、すらりとした細身な体つきである。
喧嘩に持ち込んだら勝てそう、という感覚は無いが―――何しろ今の俺は地味根暗モヤシ―――、それにしても引っかかる物言いだ。
勿論俺は姉さんとは違い平和主義者なので、自分から喧嘩吹っかける真似なんぞ絶対しないが。
「ほら、アルってあんな容姿でしょう?」
「まぁ、確かに数年前とかなら襲われそうな雰囲気はあるよな」
えっとなんていうか、性的な意味で。
「数年前どころか。学園就学前からずっと狙う人が後を絶たない位。それを全部撃退するうちに、学園内では知らない人も居ない、絶対無敵の生体兵器と呼ばれてます」
「せっ、生体兵器?」
「デス」
見た目に全くそぐわない恐ろしい異名ですね、先輩!
それって一体どれくらいの攻撃力なんだろう。
確かに注意すべき点で攻撃力、という項目が挙げられるわけだ。
何事の様な挑発があったとしても、その喧嘩、受ける訳には行かない。
いや、多分俺―――普通に勝っちゃうし。
アルリタの卑怯な無敵業を使えば、攻撃力など全く無関係に勝てる。ていうか、多分ファイターと賢者くらいのジョブ差。
「とにかく、危ないからなるべくアルには近づかないでね? 僕からも言い含めておくけど」
「判った。有難うな、シルト」
「全然いいよ」
そういって綺麗な笑顔を披露するシルト。
今野をテウ辺りに見せたら悶絶モンだろうな。
そしてその写真は幾らで売り捌けるのだろうと不埒なことを考える俺だった。
学年が違えば、普通そうそうなことでは問題の先輩とかち合う事は無い。
彼はその美声を生かして音楽を選択しているらしいので、授業枠的には、同じ空間を共有しないのだ。
しかし。
「いい加減本音を吐いたらどうだ、ゼレクアイト・クォンテラ」
「……いい加減といわれましても、俺には一切身に覚えが無いのですが」
「嘘をつけ。お前もそこのテハイラと似たり寄ったりで、シルトに悪さしようと目論んでいるだろう」
「失礼な、俺とテウを一緒にしないで下さい」
「ていうかわざわざ俺が居る前でそういう話するのやめてくれます?」
俺と先輩に挟まれて、至極困った声を出すテウ。
「嫌だな、そこにいるから言うんじゃないか」
「俺もう何だかゼレカのドSぶりが怖いな」
「何!? ドSなのか、クォンテラ! なら尚更シルトの傍に寄るんじゃない!!」
「あっはっは先輩俺のSっ気はテウと理事長限定なんですよ?」
爽やか~に笑って答えるが、まぁ、内容はいつものとおりなので、今更誰も反応しない。
俺の評価はどうやら、ドSなネズミマニアで決定している様である。
実に失礼な話だ。
「あーなんかもう凄く疲れるのでそろそろ2年棟に戻っていただけませんか、先輩」
後5分で授業ですよ、とテウ。
諦めの悪い先輩は、あれからというもの毎日授業の合間に文句を言いに来たり放課後生徒会棟に着くまでついて来たりする。
そりゃもう俺は前世の敵かというくらい追い掛け回してくるのだ。
勿論先輩自体見目麗しい方なので親衛隊―――というより憧れファンクラブ―――が存在し、やはり俺は目の敵にされる破目にハマった。
編入から2か月で築き上げた親衛隊との割と良好な関係、は、先輩に関係するところだけぶち壊しだ。
―――なんか、先輩と会ってから災難続きなんだが。
「そうですよ、アル。わざわざ1年棟まで迎えに来る僕の身にもなって下さい」
「げっ、カリル先輩!?」
「アルと呼ぶなと何度言えば判る!!」
「……いえ、先輩、突っ込むべきはそこじゃないです」
「ついでにクォンテラ君、さりげなく失礼な事言ってません?」
「それは気のせいですよ、先輩」
いつの間にか現れていた先輩にビビりつつも、勿論フォローはしっかりと。
というか、カリル先輩まで最近近辺に出没している気がするのは何故だろう。それはそれで親衛隊の皆様がピリピリするので、止めて頂きたいのだが。




