Be carefull!!
現在時刻、22時半。
「……ったく、ついてないなぁ……」
ぶつぶつぼやきながら、俺は薄暗い夜道を歩いていた。
帰りに買って帰ろうと思ったシャーペン芯を忘れたのだ。
シルトに頼めば幾らでも貸してくれるだろうが、毎日使うものだし早めに買っておくに越した事は無い。
しかし、学園の街からの遠さにスーパーがあるのは当たり前としても、それと別にコンビニまであるなんてな……
軽いカルチャーショック。
他にも洋服屋や雑貨屋もある。
……そんな店ばっか入れて、採算は合っているのだろうか?
まぁ、そのアタリもきっと理事長の仕事にのっかっているに違いない。
暫く歩いていくと、コンビニが見えた。
ドアを開けて、文房具の売り場へ。……流石に高級品しか置いていない。
俺はもっとレベルの低いものでいいんだが。
「郷に入りては郷に従え、か……」
このカードの中身は俺が自分で稼いだ分だし、誰に遠慮することもないのだ。
稼いでも使う隙が無かった皇国での生活よりは、少し楽かも。
―――ん?
ふと食品の棚の方を見ると、見覚えのあるツヤツヤ黒髪が見えた。
恐る恐る、こそこそ、そっちに近付く。
一瞬イヤな予感もよぎるが、それより好奇心が勝った。
「……理事長?」
「ひゎっ!!」
何やってんですかこんな所で。
よぉしこれでまた噂にハクがつくぞぉ☆わぁ嬉しくねぇ。
「何なさってるんですか?」
「いや、何というかそう、買い物を……」
降参のポーズの様に小さく両手を上げる理事長。
その動きだけなら、まるで警官に捕まったこそ泥だ。コンビニには他人の目が多すぎて、ネズミさんを剥がして反論ができない為、追及するにはぴったりだった。
「……そう言えば今日、夕飯にいらしてませんでしたね」
「なっ―――何故それを!」
「生徒会役員の皆様から貴方が来れる時間を逐一報告受けてるんで」
「……ぅっ……」
マジで警官になった気分。
生徒会役員は一人残らず理事長を監視しておきたいらしいので、俺とフィンの約束は都合がいいらしい。
暇さえあれば彼が食堂に来ているか律儀に確認している俺も俺なんだが。
……これだと警官じゃなくて看護士だな。
「今日は……非常に書類が、多く……」
「あれ、一昨日もそう言ってませんでした?」
にっこり、と小首を傾げた。
因みに一昨々日は会議が長引いて、である。確認すると殆ど毎日来ていない。
「なっ、なのでせめて夕飯を買おうと!」
「へぇ……」
少しはカロリーメイト的なモノは食事ではないと自覚してくれたのか?
放っておけばシリアルとバータイプ、プラスウェハースで3食終える人だ。
「何を買われるんですか?」
「シ、」
「シリアルは夕飯にはなりませんよ」
「シ、鮭のおにぎりを……」
「今明らかに誤魔化しましたね」
吃驚するぐらい下手な誤魔化しだ。
……やはり人目のある時には挙動不審の間抜けな人のままか。
「でも、他に何か買わないと足らないでしょう?」
「じゃあ後カ」
「カロリーなメイトって仰るなら買わせません」
「かば、蒲焼き……」
「それは売ってませんよね」
きらきらと後光の差す笑顔で、何とか誤魔化そうとしたフィンを止める。
……もしかしたらこいつ、わざとやってんじゃないか?
「それに、コンビニの弁当にしろおにぎりにしろ、油分塩分化学調味料フルコースなんですから。あんまりお勧め出来ませんよ?」
「……そ、そうは言っても、もう食堂は閉じたしスーパーも終わっているし……っ」
「……」
確かに、それはそうだ。
栄養が偏るのと、栄養補助食品とどちらの方がマシなのだろうか。
どっちもどっち、と言えばそれまでだが。
「買い置きの何か無いんですか?」
「それが無くなったから、買い出しに……」
「……」
何つーダメな食生活の実態……
「……判りました。明日からもっと作りおき出来るものも作っておきます」
「す、すまない……」
完全な家政夫だが、そこは目を瞑ろう。
「とりあえず、今日はコレでっ」
「言いながらカロリーメイトを手にしないで下さい」
「いや、コレは片手で食べられるから、処理の手を止めずにだな……」
「そんな言い訳は聞きません」
せめて弁当に、と思ったところで、更に有効な方法を思い付いた。
確実に体に悪いと判っていて、それを勧めるなど家政夫として失格だ。
「ていうか、俺が今から作りに行けばいいんですよね」
「……いっ、今から……っ!?」
「ええ、今から」
何をビビっているのか。
もうかなり遅い時間だが、簡単なものなら急いで作れば30分くらいで作れる。洗い物はいっそ明日の放課後まで放っておけばいい。
シルト並のかわいこちゃんなら今からの時間一人歩きなど問題外だろうが、俺なら安心だ。
「いやしかし……今から?」
「しつこいですね。貴方の健康管理も俺の仕事の一部になってるんですよ。知ってました?」
「そ、それは知っているが……しかし」
「はいはいぐだぐだ言わない理事室行きますよー」
スーツの裾をひっつかんで理事長をずるずるとコンビニから引きずり出す。
実に渋々といった風情で、理事長は後ろをついて来る。
そうだよわざわざ健康に悪いものを激務の理事長に食べさせる必要は無いじゃないか?
思い立ったが吉日とばかり、俺はすたすたと先へ進んだ。
僅かに歩調を早め、理事長が俺の隣に来る。
「変わり者だと言われるのは慣れますよ」
俺は殆ど独り言の様に言った。
こんな時間に料理しに出向くなんて、かなりの変わり者だ。
「……有り難い、と思う」
「どうだか」
くすくすと笑う。
まだ辺りに人目があるからだろう、猫ならぬネズミを被り続けているフィンが面白い。
彼がネズミを外しているのは理事室と自室しか無いんじゃないだろうか。
「……しかし……いい、のか?」
「はぇ? 何が」
改めて言われ、意味が判らず首を傾げる。
「噂を事実にしたいなら相談に乗るぞ?」
「……」
にやり、と意地悪くフィンが笑う。
少々引きつって、俺は乾いた笑いを漏らしたのだった。
ゆ、油断してた……っ!!
―――やはり、フィン相手には気を抜けない。




