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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
3章・キャラという名の裏切れないモノ
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キャラという名の裏切れないモノ・3

 放課後になって、俺は理事室へと向かった。

 急ぐべき仕事は無いといっても、やはりあの元書斎らしき部屋の惨状は何とかしないと不味い。

「別にそんなに必死に仕事しなくてもいいと思うぜ?」

「とは言ってもさ、お前が言ってた書類整理能力の使用場所を知ったらやらずにいれないって」

「そうかぁ?」

 不思議そうにテウが首をかしげる。

 どうして彼と一緒に向かっているかといえば、単純に向きが同じなのだ。

 生徒会棟の最上階が、実質的な理事長の執務室らしい。

 つまり執務関係は全て生徒会棟に集約されているのである。

 ある意味便利なのだが、やはり一番面倒なのは理事長だ。

 職員棟の方にも理事室があるということはそちらにも仕事があると言うことで、当然二つの仕事場がある以上1日何度も行き来をする必要がある訳で。

 ……ただでさえ多い仕事の上に無駄な処理が……

 その仕事の一部―――例えば書類の運搬だったり、連絡係だったり―――を担う為に理事庶務は生まれたらしい。

 しかし、フィンの代になってから理事庶務は一度も居ない。

 素直にフィンが有能なのだと認めるか、それともただ単にネズミ被りっ放しが嫌だったのだと疑うかは、まぁどっちでもいいか。

「一回見てみろって、あの書斎」

「どんな状況なのか今いち掴み兼ねる」

「だから台風一過って感じなんだってば。前から言ってるだろぉ?」

「……台風一過だったら書類読めなくなっちまうじゃん」

 ぶちぶちと細かいところに食いつくテウ。

 話して分かったのだが、テウはまだ理事長室の惨状を見たことがないんだそうだ。書類運搬はその量を最も早く運べるナルーガ先輩が行っており、行く度に誰か理事庶務をつけましょう、と主張し続けていたらしい。

 書類能力が必要だというのは判っていても、それがどの程度必要なのか実感は無いのだろう。

 それもそうか……

 当たり前だが彼は非常に優秀な理事長なのである。

 どれだけ影が薄かろうが存在感無かろうが学園自体に空気扱いされていようが、彼の優秀さは損われるものじゃない。

 そのフィンの書斎の悲惨さを想像するのは難しいのだろう。

「で、どんな話するわけ?」

「どんなって……どんな?」

 どんな話をするにもまだ数日で、仕事の話しかしてない気がするんだが。

「するだろ、色々。密室に二人きりなんだし、人目なんて無いんだしさ!」

「……はぁ?」

「ほらやっぱり、理事長って影薄い上に皆遠目からしか見てないけど、アレはアレでもうマジかなりの美形だし!?」

「……あー……」

 テウは生徒会役員ということもあって、そうか、他の一般生徒よりは理事長の容姿に対する意識が違う訳か。

 で、一応俺にそっちの気はないと判っているものの、どうしても聞かずにはいれなかった、と。

 取り敢えず悪友の疑問を解消してやるべく、少々真剣に考え込む。

 えーっと昨日は確か精霊学についてのアレンガータの著書の話で暫く白熱して、その後はエレメンタ教会のあり方についてと今現在の組織制度の問題点を話したんだっけか……?

 ああなんだ普通の話しかしてないじゃん。

「普通の会話しかしてないぞ」

「……お前の普通てどんな普通よ……」

「失礼な、テウの中での俺はどんなキャラなんだよ」

「そうだな、ぱっと見地味根暗語ると秀才ただし話すと変人」

「……どうしよう否定する要素が1つしか見当たらない……」

「1つしか?! どれを否定するつもりなんだよ!!」

「秀才」

「……そこは否定しちゃいけないだろー」

「いやだって、俺出来る教科と出来ない教科で成績まちまちだし」

「そのまちまちの成績が高得点じゃないか」

「そうかぁ……?」

 軽く首をかしげながらよくよく思い返してみる。

 編入試験の成績は良くも悪くも、といった線を目指して頑張ったし、その前の中等部時代の成績は真ん中辺りを目指してたし。

 ……これまでの一生の中で高得点を目指した事が無いことに気付いた。

「第一、成績ならテウの方が高いじゃんか」

「俺は小さい頃から家が英才教育だったの!」

「それなら俺だって英才教育だったぜぇ?」

 主に姉さん指導のだけどー。

「テウはそんな体育会系みたいな癖に、意外に成績は五教科の方が高いよな」

「そりゃ、腐ってもウラキシュトの御曹司ですから」

「自分で御曹司言ってりゃ世話ないっつの」

 そんな下らない上に脱線しまくりな会話をしながらあるけば、生徒会棟はあっという間である。

 ロビーのエレベーターの前に行くと、びた、とテウが足を止めた。

「と、理事階のカードキーに交換してあるんだよな?」

「あー……なんか黒い奴?」

「そうそうそれ。多分古い方のカードはもう使えないと思うから、気を付けろよ」

「え、増えるんじゃなくて前のはもう使えないの?」

「ん。そんな何枚もカード要らないだろ?」

「それもそうなんだけどさ」

 ぶちぶち言いながら、俺は新しいカードキーを取り出す。

 前の学年色のカードキーではなくて、黒字に透かし模様で校章が入っている奴だ。

 生徒会役員カードキー兼理事室カードキーの為、テウや他の生徒会役員のカードとは違う。

 しかし……となると古いカードキーの処分方法が面倒だな。

 アレは姉さんの特殊技能、精霊回路改造済みの奴だから、迂闊に捨てることも出来ない。スマホの方から精霊印は無効になっているとはいえ、安心は出来ないのだし。ただカードキーを物理的に切るというわけにはいかないのだ。

 まぁ、そんな諸々は後で姉さんに聞けばいいか。

「それじゃ、また後でな」

「後で?」

「……メシ食いに出るだろ?」

 きょとん、とした顔。

 俺は基本的にシルトかテウと一緒に食事していた。

 昼食だったら、結構話すようになったクラスメイトと食べる。

 そういえばルディにも一緒に食事しようって言われてたな。

 しかし、昨日の様子を見ると、食堂にまで顔を出す余裕は恐らくなさそうだった。

「あー、理事長の仕事の状態によっては俺が買出しに行って作るけど」

「成程ね。んじゃ、また明日」

「おう」

 何となくその忙しさは判るのだろう、軽く片手を挙げてエレベーターに乗るテウ。

 俺も覚悟を決めて、エレベーターへ乗り込んだ。










 理事庶務になってから、早2ヶ月余りが過ぎようとしていた。

 2ヶ月の間に、当然の事ながら学園内の俺と理事長の噂は既に噂として扱われなくなっている。悔しい。

 あの凄まじい惨状だった書斎も、何とか一応の体裁を整えた。

 散らかり放題の部屋が使いやすかったのだから、整理された書斎はさぞかし使いにくいだろう、と思っていたのだが、フィンは特に苦にした様子もない。

 どうやら彼は投げ捨てた場所を覚えているのではなく、目に入った単語や一文から、それが何の書類かを判断しているらしいのだ。

 そしてそれが人の数倍早く、また頭の中のライブラリが人の数倍量入っている為、散らかり放題でも仕事の能率は落ちない、と。

 だから整理された書斎でも間違うことなく目的の書類を持ってこれる。

 ただ、元に戻すというのは壊滅的に下手ならしく、全く違うところに書類が挟まっていたり、そもそも戻しにいくことを放棄して、入り口に積みあがっていたり。

「そういえば、貴方どうして理事長なんかしてるんだ?」

 書類に向かうフィンに、俺は唐突に問いかけた。

「なんか……とは酷い言い草だな。いきなりどうした?」

「いや、貴方位の有能さなら、宮廷なり軍部なりでもかなりの地位に行けるなー、と思って」

 俺の言葉に、むぅ、と眉根を寄せる。

 ネズミが剥がれた以上外観を取り繕うのも面倒になったのか、二人きりのときは眼鏡を外している事が多い。

 ……かなり目つき鋭くて実は怖いくらいの美形になるんだが。

「誰がそんな面倒なこと。第一俺は家柄的に上までいけない」

「帝国ってそうなの?」

「そうだとも。まぁ幾つか例外はあるだろうが、よっぽど直接帝王にコネが無いと、家柄無視して出世は無理だぞ」

「……へぇ」

 帝国ってそうだったんだ。

 皇国では寧ろ実力がある人はどんどん上に上ってくんだが。

 姉さんみたいに。

 今ん所ノギスさんの下で満足してるらしいけど、姉さんみたいに。

「って、面倒っていうならロックスアースの理事長もかなり面倒だろ」

「面倒で面倒で今すぐ辞めたいんだが、次の職が嫌で嫌で嫌で仕方ないから辞められないんだよ」

「……次の職も決まってんのかよ」

「まぁ、俺の場合はな」

 実に嫌そうに顔をしかめるフィン。

 そりゃ、これだけ有能な人なら引く手あまたなんだろうけど。

 この学園理事長より面倒くさい職って一体……

 と、俺は理事室の窓の外をみた。

 日の長い7月だというのに、真っ暗である。

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