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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
3章・キャラという名の裏切れないモノ
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キャラという名の裏切れないモノ・2

 翌日教室に入った途端、ざわっと一瞬動揺が走った。

 失礼な話である。

 俺はいつもどおりの時間にいつもどおりシルトと一緒に登校しただけだ。

 席に着くと、途端にキャルが駆け寄ってきた。

 テウは……やはり今日も生徒会らしい。

「おめでとう、ゼレカ……!!」

「……はぁ?」

 いきなりそんな目に涙をためながら言われても。

 俺別にそんなめでたい事ないんですけど。

「とうとう理事長庶務に就任だな……っ、漸く報われるぞ!」

「……あー、その事ぉ……」

「何だよ、ノリ悪いな。嬉しくないのか?」

「……嬉しい嬉しくないって言うか、もっと遠くで距離を置いて観察したかったし後途中入学で生徒会に入るとかやっかみ酷そうで嫌だって言うか」

「大丈夫だって、お前なら何処でもウマくやれるし!」

「アハハ素直に喜べない」

 第一それシルトに話した時にも同じ反応だったし。

 ちなみに言うとテウの慰めも同じ内容のメールだった。

 どれだけ打たれ強いと思われてるんだ、俺。

「そもそも、あの魔境に君臨する帝王なわけだろ」

「いやいや君臨してないからちょっと教えただけだから」

「でも調理科始まって以来の快挙だって皆騒いでるぜ?」

「初めての快挙かよ!!」

 あの失敗作を山ほど生み出した卵焼き教室が!!

 どれだけ調理科は纏まりなかったんだ。そしてどれだけ闇が深かったんだ。

 次の調理科が楽しみになっちゃうじゃないか。

「まぁ、ゼレカなら理事長も惚れるって」

「……観察したいだけなのに皆色恋沙汰に繋げるんだよなぁ……」

「だって理事長と結婚できたら玉の腰じゃん」

「!? ……あ、アハハ、そういやそうだな! うん、ちょっと俺用事思い出したからちょっくら理事室行って来るわ!!」

「押し倒すなよー」

「バッ!!!! 誰が押し倒すか!!!!」

 俺はどんだけ飢えてると思われてるんだ!

 今しがた聞いた吃驚ニュース―――つまり姉さんが教えてくれてなかった新事実―――を確認する為、俺は理事室へと急いだのだった。








 高級そうな扉を蝶番から破壊してやろうかという勢いをつけて、俺は理事室に飛び込んだ。

「マジっすか!?」

「……ゼレカ、興奮しているところ悪いが俺にはさっぱり理解出来ない」

 飛び込んで第一声に出たのは、先ほど教室で叫べなかった反動の一言である。

 いきなりマジかと聞かれた理事長は、当然の如く柳眉を顰めただけだった。

「帝国って男同士も結婚できる訳?!」

「ああ、できるがどうした? 別に知らなかった訳じゃないだろ」

「いや知らねーよ!? そんな普通に言われても知らなかったよ今日この時まで!!」

「アシュレアの放任主義には頭が下がるな」

「感心しないで!!」

 一発で姉さんの説明不足―――9割方わざと―――を見抜いてくれるのは有難いが、しかしそんなに冷静だとそれはそれで傷つく。

「別に害はないだろう。男女の妻が持てるだけだ」

「……?」

「つまり、男同士で結婚したとしても、お互い女性の妻を迎える事ができる。変則的な一夫多妻制だな」

「え、じゃあ養えたら無限に結婚できるって事?」

「誰がそんなことを言った。結婚できるのは異性同性1人ずつまで。それ以上は重婚に当たる」

「……わー帝国民意味不ー……」

 それで男子校で恋愛が流行りまくってる訳だ。シルト、閉鎖空間が問題なんじゃない、帝国の婚姻に関する法律が問題なんだ。

 ―――おや? しかし、それって凄くややこしくならないか?

 つまり結婚してる方と違う性別だったら浮気の糾弾もされずに堂々と結婚できるって事だろ?

「考え込んでいるところ悪いが、そんなに深刻な事にはならんぞ」

「何で?」

「もう一人相手を増やすには既婚者の了承が必要だからだ。お互い既に既婚で更に増やしたい時は、2人分の了承が必要となる」

「……十分ややこしいんですが」

「それが皇国と帝国の国民性の違いだろ」

 あっさり言って下さる。

「普通はもう一人妻や夫を増やそうとはしないさ。よっぽどの業突く張りでもない限り」

「……へぇ」

 それを聞いて少しだけ安心した様なでもやっぱり逆に安心出来ない様な。

「素朴な疑問なんだけど、貴方既婚?」

「まさか。結婚している様に見えるか?」

「……全っっっっ然」

 此処で結婚していると言われようものならそこら中でこの新事実を叫んで回りたいくらいだ。

「何だ、既にクラスメイトの間では既成事実が出来ている話に発展していたか?」

「いやそこまでぶっ飛んでねーよあいつらも?!」

「安心しろ、後数日の内にはそうなる」

「自信満々に言うなよ!」

「これでも生徒の性質は理解しているつもりだ」

「理解しないでね!?」

 そんな方向性に理解のある理事長は嫌です。

「で、今この時間に理事長室に来たのはそれが話題か?」

 にっこり、とフィンが笑う。

 他に用事はないよな確か、と考えながら、首をかしげて答えた。

「そうですよ?」

「授業、もう始まってるぞ?」

「……ヒィ」

 此処で選択肢が二つ。

 ついでだから1時間目はサボって理事庶務の仕事を片付ける。

 1時間目の途中でもいい教室へ帰る。

 ―――勿論、後者に決まっているともさ!

 ああもうこれ以上噂に拍車はかけたくないものでっ!!









 教室に戻った俺を迎えた視線は、当然の如く胡乱げなものだった。

 授業開始から既に20分経っていることもあり、何で戻ってきたんだ、と口には出さないまでも目が語っている。

 ―――アンタ方の噂に歯止めを掛けたくてね!!

「クォンテラ、遅刻か?」

 教壇に立っていた初老の教師が首を傾げた。

 それはそうだろう、俺がそんな目立つ事をする様な生徒には見えないだろうし。

「実は昨日から理事庶務に就任してまして。ちょっと用事を片付けてました」

「りじしょむ…………………………ああ理事庶務。判った座っていいぞ」

「すいません」

 返事をして大人しく着席するが―――なんでそんなに理事庶務の認識に時間が掛かったの。

 まさかとは思うが、理事長は教職員の中でも影が薄いのか?

 あながち外れて居なさそうな予感に戦慄を覚えながらも、俺は大人しく授業を受けた。

 案の定、休み時間になった途端にテウが問いかけてきた。

「何でまた、わざわざ戻って来た訳? 着任後って確かスゲー忙しかった気がするんだけど」

 自分自身の経験で思い当たる節があるのだろう、心底不思議そうに首を傾げる。

「そりゃま、仕事は多いけど。でも今すぐ処理しないと! ってのは済ましてあるし」

「ふぅん……?」

「それにほら、このクラスの雰囲気だと1時間目から欠席って、相当ヤバイモノがあると思うのよ」

「あー成程」

 ぽん、と手を打たれてしまった。

 をいをい納得するなよ……

「でもそれなら、このクラスだけじゃなくて全学年って感じだぜ?」

「バッ!! 何不吉な事仰いますのこのお坊ちゃま!!」

「……何その不思議な反応。いや確かに俺はお坊ちゃまかも知れんが」

 ウラキシュトを平民扱いする訳には当然行かないでしょう。

 自覚はあるらしいテウは、嫌々ながらその部分を肯定する。いや、否定しても更に俺が無限に否定していくだけだが。

「だって考えても見ろよ、ゼレカ?」

「何を?」

「お前は数少ない編入生で、容姿的にも立場的にも目立ってただろ?」

「……っと、黒髪長髪シルトの相部屋って意味? それなら確かに目立ってたけど」

「後理事長趣味発言は神だったしな」

「それは掘り返さなくて宜しい。で?」

 わざわざ古い事―――いやとはいってもほんの2週間程前の話だが―――を持ち出すテウに小さくチョップを入れた。

 先を促す俺に、テウは当たり前の様に告げる。

「いやいや、これ結構重要ポイントだぜ。ただの悪目立ちが理事庶務に就任じゃなくて、好み理事長が理事庶務に就任、ってのがさ」

「……あー、確かにそう考えるとね」

「更に俺っていう生徒会へのパイプラインもあるだろ?」

「…………あーそれもそうね」

「で更に言うなら生徒会の先輩方は会長除いて皆2年生だから綺麗に分散してる訳だ」

「え、それとこれと何の関係が」

「現理事就任始まって以来初の理事庶務就任、生徒会全体で騒ぎ立てるに決まってるじゃん」

「……せんぱいも?」

「先輩も」

 畜生通りで学園内の噂の広まりが尋常でなく早いと思ったよ!

 ダメージマックス。起き上がれません。

 俺は力なく自分の机に突っ伏する。

 俺の当初の目的はクラスメイトへのアピールオンリーだったというのに。

 予想外甚だしい展開に打ちひしがれていた俺は、ふと一つの疑問にぶち当たって、改めてテウへと顔を向けた。

「待て、生徒会全体?」

「おう」

「お前も1年に広めて回っただろ!!」

「勿ろ」

 爽やかな好青年の笑顔を浮かべた悪友に、俺は問答無用の関節技を決める。

 姉さん仕込の関節技、早々逃げられると思うなよ……!!

 そんな二人で遊んでいる俺たちを見て、級友達は生ぬるい笑顔を送った。

 ああ、これが普通の学園生活なんだろうな。







 アルリタは、国の至宝―――いや、世界の至宝だ。

 皇国に居るときは、距離をとられて当たり前だった。

 先輩後輩クラスメイトは勿論の事、教師たち、教会の大僧正や議会、皇族であっても、俺と話す時は敬語を崩さない。

 親しく話を出来る様な人は少なく、当然姉さんとその上司であるノギスさん位にしか、俺は本音も吐けていなかったと思う。

 アルリタは神の美酒。

 皇国で、教会で、守るべきもの。

 その事実は……俺を孤独にするものだった。

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