キャラという名の裏切れないモノ・1
機密保持に必要なこと。
やはり個人の性格にも寄るだろうが、俺にとっては目立たないこと、だと思う。
例えば非常に重要な事実を誰かに預けるなら?
またもしくはそれを隠し続けなければいけないとしたら?
目立つ人間は、常に人の目に晒されている。
少なくとも、そんな人間に機密を預ける・または機密を隠す、とは考えにくい。
逆にスパイする側からすれば、目立たない人間ほど機密を持っている可能性が高い、という寸法だ。
そして、俺が機密を得た場合も目立たないことを前提に行動する。
得た機密を姉さんに話してしまえば、もう疚しいことは無い訳だから堂々としていられる筈。
勿論、その死角を突いて、目立つ人間が機密を持っている可能性も、完全には排除できない。
姉さんからスパイとして誰を狙うか、そして自分が機密を手に入れたときにどうするかと聞かれた時に答えた内容だ。
その答えにある程度自信もあるし、情報長官の息子としての自負もある。
その考えに従って行動する場合、スパイなら誰を狙うべきか。
俺の個人的見解では、目立つ癖に印象に残らない、つまり目の前に居るおにーさんが怪しいと思うわけだ。
「……つまり、理事庶務を?」
「えーまぁ理事庶務を」
理事長は素っ頓狂な事を聞いた、と言わんばかりの表情でこちらを見た。
「まぁ、俺自身も填められた様なもんなんで」
「填められた、とは……?」
「生徒会の皆様に」
「……そこまではっきりと言えるのはクォンテラくらいだな」
「残念ながら」
俺は軽く肩を竦めて言った。
断る事も出来たのかも知れないが、下手に騒げばこの学園で吐いた嘘―――つまり好み理事長―――に亀裂が入る事になる。
それはかはり遠慮したいところだ。
自分のイメージの決壊=何か嘘をついているとか隠している、に繋がるから。
一度嘘を吐いたら墓場まで持っていくのがスパイである。by姉さん。
「し、しかし私も人手は足りており……」
「へぇ~足りてるんですかぁ~そうは見えないなぁ~」
「あれは……! あれなりに使い勝手が良いというか何というか!」
俺は胡乱げに隣の書斎を見やった。
ごちゃごちゃとした書類や何やらが、部屋へ入った光で窺える。
うわすげぇ整理整頓とは無関係って感じの部屋だな……!! 床に書籍を直置きして倒壊しているのは、決して整理しているとは言えないんですよ?
「貴方以外の誰かが入って、目的の書類見つけられます?」
「いや―――それは、出来る限り、判る様になって……っ!」
「無いでしょ明らかに」
ふぅ、と俺は溜息を零した。
あの惨状はお片付け出来ない人だ。
「兎に角、人手は足りているし、此処には重要な書類もあり……」
「人手は足りませんし重要な書類なんかより貴方がまともな食事を摂取する方が問題です」
嘘だけど。
エナクメラの財政とかあったら滅茶苦茶姉さんに送りたいんだけど。
しかし何にしろ、俺の発言―――まともな食事―――は理事長の自覚しているウィークポイント筆頭だったようだ。
ふー、と理事長は大きく深呼吸し。
ばん、と高そうな黒壇の机を叩く。
「……だから要らないと言ってるだろうが!」
「煩ぇそう思ってるなら生徒会に直接言え!!」
しん。
しまったつい啖呵を……!
向こうもしまった、と思っているらしく、机を叩いた姿勢のまま硬直している。
今のは完全に、ネズミではなかった、よな……?
寧ろ、虎、位の迫力だったよな?
無言で見つめ合うこと数秒。
「せっ、生徒会に言えるなら……ここまで苦労はしないというか、何というか……」
「ハイハイ今更ネズミ被り直しても今いっぺんに全部剥がれ落ちたので無駄ですよー」
「……人の必死の努力を無駄呼ばわりするな、失礼な」
諦めたのか開き直ったのか、虎全開でぼすっと背もたれに体を預ける理事長。
おぉ、普通に有り得ない位格好良いお兄さんじゃないか。
生徒会対理事長ひとりで人気投票対決が出来そうだ。そしてあっさり勝利をもぎ取っていきそうだ。
「人を油断させる、とか言われた事はないか、クォンテラ?」
「……一応はないです」
まぁある意味予想はしていたのだが、やはり目の前で虎になられるとかなりビビる。
自分で啖呵切っておいたくせに、若干既に押され気味の俺。
油断させるなんていう格好いいスキルは持ち合わせがない。
―――いやいや、頑張ろうよ俺! ココで理事長に負けてたらキャラ作りとして失格だろ!!
「取引しませんか、理事長」
「取引? 俺とお前が?」
「ええ取引。ていうかあんた本当は一人称俺なんですね」
「……細かいところにいちいち食いつくな。で?」
いやいや今の雰囲気で私とか言われる方が嫌だったんですけど。
話を聞いてくれはするらしいので、それに甘えて言葉を続けた。
「俺を理事庶務にしてください」
「見返りは?」
「そうですね……若干今の貴方の食生活よりはマシな食生活を提供できます」
「……」
「あと、書類の整理は得意です。今の惨状からはマシになりますよ」
「……確かにな」
「やっぱ自分でもアレは不味いって判ってんじゃ無いですか」
「煩いほっとけ」
かなりぶすくれて返事をする理事長。あ、今ちょっと可愛かった。
勿論、俺の提示したものでは見返りとしては全く足りないだろう。
彼はそもそもあの食生活で満足しているのだ、それに口出しするのは無粋に当たる。
あの資料室だって、散らかり放題に見えて本当は使いやすいのかもしれない。そればかりは本人でなければ判らない所だ。
しかしそれとは別に、彼は断れない筈。
対外的には、あくまでも気が弱くて影が薄い挙動不審がお友達の理事長なのだ。
ここでどんな理由でか俺の申し出を断るなど、それこそ今までのキャラクターに反する。
俺は理事長が好みの調理科所属地味根暗メガネ、がキャラクターだ。その俺のキャラクターの押しに、理事長のキャラクターが抵抗できるわけもない。
「……成程、痛い所を突く」
「まぁ、駆け引きとか苦手なんで」
どうやら俺が本当に出している条件―――理事長のキャラ保持―――は分かっていたらしく、ふぅ、とため息をついた。
「本当に―――あのアシュレアの弟だけはある」
「ええ御陰様で。……え?」
何で今理事長の口から姉さんの名前が出るんだ?
ていうか、姉さんのことを知ってるって事は、彼には最初から俺が皇国民である事がバレてるって事じゃないか?
―――アルリタの出身や経歴はトップシークレットに当たるから、それがバレてるって事はないのだろうが……
「えっと、理事長……姉さんとお知り合いで?」
「知り合い、というかなんと言うか、な。正確にはノギスの後輩だ」
「誰が!? まさか、貴方が、とか仰いませんよね……?」
「俺だ」
「……マジで?」
何その意外極まりない繋がり。
ノギスさんの後輩って事は、やはりその容姿に違わずルクトラーヅ国民だったという事じゃないか。
「……何を考えてるか知らないが、俺は間違いなくエナクメラ国籍純エナクメラ人だぞ」
「その容姿で?!」
「この容姿で」
自覚はあるらしく、重々しく頷かれてしまった。
ルクトラーヅの血が少しでも流れているならその容姿も不思議ではないが、純エナクメラ、となると突然変異の一種の様な気さえしてくる。
本人が言い切るのを突き詰めても面白くない。
それに他にも疑問は山ほどあるのだ。
「え、でもどうしてノギスさんの後輩なんですか?」
「一時期皇国に留学していた。まぁ、細かい話はアシュレアが知ってる。聞けば教えてくれるだろうが……機嫌は悪くなるだろうな」
「……姉さんと何かあったんですか」
「特にないが俺は嫌われている事だけは確かだ」
間違いなく姉さんには聞けないな、うん。
虎の過去を知る為に、好き好んで竜の尾を踏む事はない。
「じゃあもっと単刀直入に話してもいいってことですよね?」
「……まぁ、な」
「俺目立ちたくありません」
「俺だって目立つのは御免だ」
「大人しく理事庶務にして下さい」
「……」
「だって俺一応隠れ蓑に理事長好みを公言してるんですよ?」
「大体概ね既に噂の域を超えてるな」
「そうですね。そうなんです。だから貴方から断るか、このまま理事庶務になるかの2択なんですよ」
「……俺のキャラクターで断るとか、あり得ないだろう」
「そうですよね。そうなんです。じゃ、書類は俺が提出しておきますんで」
「本当にお前、アシュレアの弟だな……」
「そんな、褒めないで下さい。照れるじゃないですか」
「褒めてないからな?」
きらきらした笑顔で突っ込まれてしまった。
しかし俺の言った事は本心である。
だって俺自他共に認めるシスコンだし。
「……手近な所に弄れる玩具が来た、と思えばいいのか……」
「……ぼそりと不気味な事言わないで下さい、理事長」
「ああ、二人のときはフィンでいい。理事長呼ばわりは無駄に権力持っていそうでぞっとする」
「……実際アンタ最高権力者でしょうに」
「そのとおりだが何か問題でも?」
「―――いいえ特に何も。俺の事はゼレカでもクォンテラでも、好きな様に呼んで下さい」
「ならゼレカ」
とりあえず、貴方がかなりイイ性格をしているという事だけは判ったよ。
しかし……フィンでいいのだろうか?
イリカフィンス、なら、イリス、も愛称の筈だ。
フィンでは……まぁ無くは無いが珍しい略し方だと言える。
本人がいいと言うのだからいいのだろうが、なんだか少しだけ、それが引っかかった。
ロックスアースの魔境で一気公開をストップさせておいて今更ですが、ストーリーが漸く絡み出すのはここからだと思います。
ちゃんと相手役は登場しているというのに、その他キャラとの交友ばっかり深める主人公で申し訳ありません。




