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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
2章・ロックスアースの魔境
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ロックスアースの魔境・4

「うーまぁーッ!!」

「おーそりゃどーもー」

 何だか前に来た時よりも乱雑に変貌を遂げている生徒会室を見渡しながら、俺は結構おざなりに言葉を返した。

 何というかこう―――問答無用で片付けたくなる乱雑さだ。

「凄、ゼレカって家が料理人?」

「いや、料理はタダの趣味。家庭の都合上結構俺が作ってたから」

「メイドとかシェフは?」

「……あんま、俺が好きになれなくて」

「ふぅん……?」

 誰か知らない他人が作った料理を、あまり好きになれなかった。

 多分、俺の我が儘だったんだろう。

「しかし、ちょっと感動。俺と同い年でしかも男で、こんな料理上手って……ちょっと惚れそう」

「あっはっは調理科面々がこのレベルだったら学園内の恋愛事情は大きく違ってただろーなー?」

「?」

 判らないらしく首を傾げるテウ。

 成る程、シルトは理解してたがテウは魔境を知らない、と。

 今朝の懸念ぶりが凄く理解できる。

 ……しかし、それにしても。

「……………………なーテウ?」

「な、何、深刻そうな顔して」

「一つモノは相談なんだが」

「うん?」




「――――――あの書類さんたち、問答無用に整理してもイイ?」


「……」




 少々困った表情が返ってきた。

 うん無理な御願いってのは重々承知してるんだ。一般生徒に見られちゃ不味い類の奴も多いんだろうし。

 しかし他の生徒会面々が午後からしか参加出来ないと判っている今しか、チャンスはない気がする。

 ちょっとあの雑多、何とかした方が良くね!?

「別に、良いと思うけど―――棄てたりしないでくれれば」

「うっし有難う」

 若干引きつつのテウの返答に、俺は意気揚々と書類に向かって突進した。

 わーぉお片付けお片付けー。








 それから10分もしただろうか。

 整理する前よりはかなり整然とした棚へと、俺は何とか体裁を整える事に成功した。

 無理やりごり押しでやらせて貰ったのに、失敗しましたでは格好も付かないしな。

「よっしゃ、短時間ならこんなもんだろ!」

「うわ……」

 後ろでテウの絶句するのが判った。

 失礼な、何かおかしいことしました?

「ゼレカって実は―――何でも出来たりする?」

「はぁ? 御存知の通り美術センスは皆無だったり……ほかにも色々あるぜ」

「いやでも、書類整理まで出来るなんて思わなかった」

「そんな大したもんじゃないよ、ただ綺麗に並べただけ」

 まぁ、姉さんに鍛えられた整理術は駆使しているが。

 誉めるなら俺じゃなくて仕込んだ姉さんを誉めるべきだ―――いや、言えないけど。

「……ぉお」

 入口の方からそんな声が聞こえた。

 振り向けば、そこには会長と副会長が立っている。こちらに歩きながら、会長がテウに問い掛けた。

「テハイラ、整理する時間なんて―――ああ、クォンテラ君、来ていたのか」

「お邪魔しマシた」

「整理したのは俺じゃないですよ、会長。ゼレカです」

 ぺこ、と会釈し、生徒会室を出ようとした俺の首根っこをテウがひっつかむ。

 何、何なの!?

「で、このレベルの整理術に、このレベルの料理上手だと本日判明致しまして」

「へぇ?」

「ちょっ、恥ずかしいから止めて!」

 牛丼を差し出すテウを止めようとするが、その前に会長が食べる。

 流石に王族の人間に通用するレベルの料理ではないぞ!?

 ふむ、と思案する会長。

「腕は良し、かな……ってかなり減ってるけど、どれだけ食べたんだ、テハイラ?」




 ―――ぎくっ。




「精々2杯と少しですが。そういえば大分減ってるみたいですね」

「……ゼレカ君?」

 そろりそろり、エレベーターに逃げようとしたら、流石に副会長に見咎められた。

「そろそろ俺、帰りたいのですが~……?」

「クォンテラ君、誰に分けたのかな」

「……えっと行き倒れさんと遭遇しまして、その方に……」

「ふぅん?」

 会長ふぅんて言いながらふぅんとは思っていませんね!?

 しかしそれ以上追求する事も無く、会長は俺とエレベーターの間に移動する―――帰してくれない展開の予感。

「一つ御願い、あるんだけどな」

「ぅーわ超断りたい……」

 正直な気持ちがポロッと零れた。

 嫌がる雰囲気は判るだろうに、副会長が会長の言葉を続ける。

「僕からも……いや、これは生徒会からのお願いですね。聞いて貰えませんか」

「聞いて差し上げたいのは山々ですが、俺は出来るならなるべく影っ子地味っ子で居たいというささやかな夢がですね」

「そんなヤバい御願いじゃないから、な?」

「テウ!? お前も敵か畜生!!」

 がしっ、と後ろから掴んでくるテウ。

 どうやら生徒会がこれから敵に回るらしい。アルリタを敵に回すことの恐ろしさを教えてやりたいが、それをしたら姉さんが敵に回る。

 生徒会と姉さん、賭けるまでも無い天秤。

 そう言えばルディはと思い見回すと、すーっと目を反らされた。

 助けてくれない。

「とりあえず……聞きはしますが―――」

 断りますよ?













「生徒会、入ってくれるね?」




「お断りします」












 即答。

 絶対無理。

 そんな目立つ事したくない。

「まぁまぁそんなこと言わずに。何も面倒事を頼む訳じゃない」

「十分面倒ですよ!」

「あのね、クォンテラ君。確かに生徒会には違いないんだけれど、僕たちの仕事とはまた違うんですよ」

「……と、言うと?」

 俺は貴方とこんばんわしただけで、皆に責められるのだが。

「生徒会の役員制は知ってる?」

「……や、高等部生徒会のメンバーは2人足りない、って事位ですが」

「その足りない2名は、庶務なんだよ、ゼレカ」

「庶務っちゅーと、さっき俺が問答無用に片した書類整理やら、配布やら、広報やらか? え、でもそれが2人って?」

 まぁこれだけ大きな学園なのだ、庶務が2人くらい居ても不思議ではない。

 俺がその庶務に任命されるとなると、今すぐにこの生徒会室からとうそうしなくては……!

「確かに、1年の転入生が生徒会に入るとなると、やっかみが酷いと思う」

 会長がそう言ってから、ルディがひらひらと手を振ってどうでも良さそうに告げた。

「アーク、脅すな。大丈夫、誰も気にしないから」

「……生徒会に入るのに?」

「入るのに」

 首を傾げた問い掛けに、しっかりと、重々しく頷く。

 ま、ますます訳が判らなくなってきた……テウの話では、生徒会はアイドル扱いの親衛隊つく程の人気職の筈だ。

 なのに途中転入生の地味根暗メガネ君が、いきなり生徒会に入ったら酷いイジメにあうのは目に見えている。

 なのに、気にもされない?

 庶務は2種類あるんだ、とルディが言った。

「庶務は庶務でも、理事長庶務」

 W h a t?

 一瞬、頭の中が真っ白になる。

 ルディの声はよく響いて聞きやすいんだが、その内容は聞き入れるに易くない。

「えっと……つまり―――何ですと?」

「高等部に限り、庶務が二人の構成でさ。その片方が理事長庶務な訳。理事長の激務はシルトからも聞いて、何となく知ってるだろ」

「あーうんそれはそれなりに。それで―――何ですと?」

「だから君に理事長庶務を頼みたいんです。君の所属は生徒会に名を連ねますが、実質は理事長の手伝いです」

 へーほーふーん成る程成る程で―――何ですと?

 いやいや、言いたいのは山々だが、これ以上茶化したら怒られるだろう。

 だらだらと冷や汗が伝う。

 生徒会に入っても、誰も気にも止めない、ね……そりゃそうだろう。

 この学園での理事長の非注目度別名空気には目を疑うものがある。

 俺を理事長庶務にしたいのは書類整理力と料理の腕。書類整理は実感できないが、料理の必要性は既に理解した。あの人飯食ってない。





 って、そうじゃねぇよ!





 問題はそれじゃない。

 問題は理事長庶務になったら誰からも嫉妬されないかわり信じ難いスピードで現在流れている噂が真実にすり替わる事だよ!

 既に噂の域を大幅に越えて学園内に広まりつつあるがな!!

「出来ませんよ、そんな事!」

 ばしっと言ってやった。

 何度考え直しても、理事長庶務だろうが何だろうが、生徒会に入るという選択肢は認められない。

 例えここで生徒会を敵に回しても断るべきだ。

「……理事長好みなんだろう?」

 不思議そうな声で、会長が首を傾げる。

 うぐ―――それはそうしておいた方が得策だよな……

 ここでその申し出を断ったら、そっちはそっちで厄介な事になるのが目に見えている。

「理事長は近くより遠くで観察したいっていうか……?」

 ていうか、それをタテに平和な学園(スパイ)生活を送りたいっていうか?

 だらだらと冷や汗を流しながら、少しずつ少しずつエレベーターへと向かう。

 と、きぃんこぉんかぁんこぉん、と間抜けなチャイムが鳴り響いた。

「……ぇ」

 5時間目、始まっちゃいました?

「おやおやクォンテラ君、どうやら決断の時間の様だ」

「授業免除が許されているのは生徒会だけだぜ」

「このまま6時間目も引き留める、という選択肢も有りますよ」

「それのが理事庶務より目立つけど」

 フフフと不気味な笑みを浮かべる面々。

 どうやら選ぶ道はひとつしか示して貰えないらしい。鬼共め……っ!!







「って事が有りまして……って、姉さん?」

 スマホの向こうの姉に本日の情報を渡すついで、生徒会に無理矢理入れられた事を報告した。

 無言で聞き終えた姉さんは、かしゃぁぁあん、と何かを落としたらしい。

『じゃあ何かしら、あんた、目立つなっていう命令は全無視かしら』

「いやいや、俺も守りたいですよ。ただ―――受けない方が目立ちそうだったんで」

『理事長庶務って事は……まぁ機密が覗き見出来そうって事位しか利点が無いじゃない』

「……普通はそれで充分じゃないんですかね?」

『そこじゃないのよ、私が欲しい利点は』

 機密を盗むんだから、スパイ冥利に尽きるってモンだと思うが。

 はぁ、と大きく姉さんは溜め息を吐いた。

『……なっちゃったんなら仕方ないけど……もう少し考えて行動しなさいよ?』

「……ぅ、はぃ」

 確かに完全な俺のミスだ。

 姉さんが怒ってしまっても、それは仕方無い。

 俺はそう覚悟を決め、この後もぶちぶちと姉さんの小言を聞き続けたのだった。








「あ、おかえり、シルト」

「うわ……どうしたの、これ?」

 シルトが学級員の仕事を終え、帰ってきての第一声。

 机の上には、まぁいわゆる手料理、なるものが並んでいる。

 作ったのは、勿論俺だ。

「なんていうか……今日調理科第1回だったろ?」

「うん」

「シルトが心配してた理由判ったし、すげぇビビらせたと思うから、お詫び」

「……もしかして、ゼレカが作ったの!?」

「あー……うん、まぁ」

「凄い……っ!! 本当に料理出来る人だったんだね!!」

「あんま自慢出来はしないけどねぇ……?」

「十分自慢できるよっ!!」

 そんなに感動されると、かなり照れくさいのだが。

 凄いを連発しながらテーブルに座った。

 取り敢えずこれで調理科の方は安心してくれるだろう。

 ただ問題は―――どうやって生徒会役員に命名されたのを伝えるか、だ。




 その時のシルトの反応を思って、少しだけ胃が痛くなったのだった。

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