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あるりたっ!  作者: 雨宮ムラサキ
2章・ロックスアースの魔境
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ロックスアースの魔境・3

 はっきりクラスメイトということを主張して、俺は少々乱暴に材料を調理台に置く。

 まだ後ろについてきている先輩を、俺はチラッと見た。……ジト目になっているのは仕方ないだろう。

「で、他に何か?」

 えへ、と笑われた。

「アレ、食べても良い?」

「……アレ、って……」

 と、指さしているモノは、先程お手本に作った鮭のホワイトソース添え。

「別に構いませんけど……味の保証は半々ですよ。そんな手間も掛けてないですし」

「いーのいーの、確かに俺らよりは美味しいだろうしさー」

「そうですか? ならどうぞ」

 わーい、と子供の様に笑い、嬉しそうに鮭に手を伸ばす先輩。

「―――うまっ!」

「どーも」

 軽く返事して、牛肉を切り開く仕事を始める。

 時間が結構圧してるなぁ……

「何何、新入り料理人の卵だった?」

「違いますよ、料理は趣味。少しばかり人より上達が早かっただけ」

「えーでもコレ超うまー」

「アリガト」

 うふふー、と楽しそうに笑っているのを見て、何だか新入り呼ばわりも気にならなくなってきた。

 美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。

 あっさり絆される俺も俺だが……まぁ、いいか。

 あっという間に2時間が過ぎ、本日の調理科が作った成果は。






 大量の廃棄物と修復不可能な汚れとほんの少しの成功作だった。






 思わず無言で、その惨状を見回す。

 何だろうこれは。

 凄いな、これを作りだしたのが人間だなんて……渇いた笑いしか漏れてこない。

「えっと……大丈夫?」

「大丈夫大丈夫……ちょっと現実に打ちのめされただけだから」

 顔色の悪い俺を案じる先輩に手を振って答えた。

 途中、うぎゃーとかぐぉーとか、その他諸々の悲鳴が聞こえていたが、もしかしたらその時に止めておくべきだったのかもしれない。

 後悔先に立たず。

「…………………………………まぁ、これで自分の実力は理解できたと思いますので、今日のところはこれで十分だと思います」

 褒めて褒めて、みたいな目で見ないで下さい。

 思わず若干目を逸らしつつ、調理科の面々に告げた。

「上手く行った人も行かなかった人も、お疲れ様でした」

 ぺこん、とお辞儀。

 何で俺、調理科の指揮執ってんだろう……?

 ともかく授業を終わらせ、俺は教室を後にした。

 次からの調理科が大変な予感だ。

 出来ればマトモな料理が作れる様になるといい。

 はぁ……と溜め息をついて、ガラガラとカートを進める。

 出来上がった牛丼はいい匂いを漂わせ、ベーヴォルト先輩を誘惑したがそこは死守した。

「しかし……此処から生徒会棟は遠いよなぁ……」

 流石にバスが校内を動いている筈もなく、結局歩くしかないんだが。

 カートを押していく俺を不審な目で見ていく生徒達を気にもせず、さっさと歩いていく。

 そんな目で見られても俺は気にしないぜー。

 次第に人並みが途切れだし、閑散とした歩道になった。

 それもそうか、今は昼食だ、俺が行く方向へは誰も行かないのだろう。

「……ぉや?」

 向こうのベンチに黒いスーツが座っている。

 と言うかグダってないか……? そしてアレはどう見ても。








 理事長であるまいか。








 何であんな所で行き倒れてんだあの人!?

 いや行き倒れてる訳では無いだろうが、いつもの挙動不審に併せて気配すら薄い。

 第一昼食にも行かず、何故ベンチに座り込んで居るのか。

「……あの、理事長……?」

 恐る恐る声をかけてみる。

 ふ、とこちらに気付いた理事長が視線を上げた。

「クォンテラ? 何故ここに……」

 と、そこで黙る理事長。








 ぐぅ。








 酷く間抜けな音がした。

 特に理事長みたいな見目麗しい人が腹を鳴らすと、もう間抜けなんて言葉でひとまとめにしては申し訳無い気すらする。

 ―――何だかこう、すごく可哀想だ。

 見てはいけないものを見てしまった気分になりながら、それでも俺は一応聞いてみた。

「えっと……理事長こそここで何を?」

 お腹空いてるなら食堂行けばいいじゃん……

「いや、私はその、食堂へ向かう途中……で」

「ああ、今から行く所でしたか。邪魔してすいません」

「とっ、途中で力尽きて理事室へ戻ろうかと!」

「…………や、戻るのも何かと……」

 マジで行き倒れてたのかよ!

 ふー、と溜め息。

 かぱっと蓋をあけて、ご飯の上に牛丼をかける。

「良かったらどうぞ。食堂の程は味の保証、有りませんけど」

 大量に作ってきて良かった―――行き倒れさんに分け与えても、テウは怒らないだろう。

「……いいのか?」

「構いませんよ。まだ大量に作ってありますから」

「クォンテラが作ったのか……?」

「えーまー意外でしょうけど。料理は趣味なんで」

 彼が丼を受け取るのを見て、ちょこん、とその隣に座った。

 何であれ、食事はひとりでするものじゃない、が俺の持論だ。ひとりの食事は寂しい。

「……美味い」

「良かった」

 一口食べての感想に短く返す。

 完全にルクトラーヅの味付けなんだけど、口に合うなら良かった。

「ていうか力尽きたって……理事長、普段何食べてらっしゃるんです?」

 というかそれはきっと学園七不思議の一つに入ってるんじゃないかとさえ、疑ってるんだが。

「あー……ほら、バータイプの」

「―――カロリーでメイト的なモノのコトじゃ無いでしょうね?」

「そう、それの親戚の!」

「答え見つけたみたいなハシャぎ方しないで下さい!」

 それにそれ食事じゃねーし!! おやつおやつ、間食!!!!

「……まさか3食それ、とか言いませんよね?」

「基本はそ、それだが……あ、偶にはシリアルも食べる」

「貴方そろそろ倒れますよ!?」

 何という偏った食生活……

 そりゃ食堂に偶にしか姿を現さない筈だ―――普段から食事をしていない。

 まだ何事か―――曰くアレは一日に必要な栄養素の何分の一かが含まれているから栄養バランスはどうの足りない分は野菜ジュースでどうの―――完全屁理屈―――を言い募る理事長に、俺は少々荒んだ目を向けた。

「忙しくても、食事はしに行くこと」

「―――しかし」

「行・く・こ・と!」

 うぐ、と黙る。

「倒れたいんですか、理事長?」

「―――いや、倒れたく、は……無いが」

「じゃあ、食事はして下さいね、食堂で」

「……わ、判った……」

 大分押されながら、何とかという風に理事長は頷いた。

 よし、今日から確認が日課だな。

 ……いや、あんまり確認するとまた予想外の速さで噂が真実扱いになる―――手遅れじゃない、と信じたい。調理科に入った時点で大分手遅れな勢いがついてるが、まだ大丈夫だと。

「あ、おかわり食べます?」

「いいのか……? 生徒会への差し入れだろう」

「そうですけど、まだまだ量は有りますし。……あれ、俺生徒会へだって言いましたっけ?」

「言ってはいないが。この先は生徒会棟しかないし、今日は生徒会が食堂へ行けない日だから」

「あー、成る程」

 流石にわかりやすい場所で行き倒れてたしなぁ。

 まぁ、行き交う生徒の大半は間違い無く俺から貴方への差し入れだと勘違いしてるでしょうがね、理事長。

「兎に角、ほっといたら今夜もカロリーでメイトなもどきで食事済ませそうなんで、後1杯は食べて下さい」

「……有難う」

 無理矢理気味におかわりをよそうと、ふわりとした微笑とかち合った。

「いえ―――どー致しまして……」

 ……だから、美形の笑顔は反則だってば。

 しかも貴方、俺が帝国で見た中ではトップクラスの美形なんだから。

 無表情にしてると取っ付きにくく冷たい印象しか与えない、そんな完全な美貌だというのに、笑えば驚く程柔らかくなる。

 いや、柔らかいというのは少し違うか。

 完璧すぎる美貌をビビりで人間にしているのを、当たり前に人間に戻す微笑、と言うのか……

 ああ、こんな綺麗な人だった、と思い出させてくれる。

「料理上手だったんだな、クォンテラ」

「いえいえ、下手の横好きですよ」

「充分だと思うが……満足してないのか?」

「料理に限界は有りませんから。科学に正解しか無いみたいに」

「面白い表現だ」

 くすり、と笑う理事長。

「そう言えば、舞にも限界は無いらしいな」

「……はぃ?」

 いきなりの言葉に思わず息を呑んだ。

 教徒に対して舞という言葉の指す意味は判りきっている。舞は舞媛のそれしか有り得ない。

「そ、らしいですね……」

 若干引きつつ答えるが、理事長は特に気にした様子もない。

 おそらく俺がエレメンタ教徒だから聞いているんだ。俺がアルリタだからとかは、関係ない―――筈。

「エレメンタ教徒なら一度は、アルリタの舞を見た事があるだろう?」

 どんな舞だ、と問いかけられてマジでビビる。

 どんな舞って、俺が舞ってる舞ですが。

「見た事無いんで何とも言えないですが……凄いらしいですね」

「な、無いのか?」

「えーまぁ。やっぱアルリタは皇国どころか首都からも出ませんし。帝国に居る限り見られないんじゃないですかね?」

「……そんなものなのか」

「そんなもんです」

 ていうか俺アルリタだから俺の舞は見られないし。

 煙に巻く様な言い訳だが、実際真実だ。

 こんな状況に追い込まれなくては、俺は皇国から出なかった。それは明らかだから嘘は吐いてない。

「御馳走様」

「いえいえ、お粗末様でした」

 丼を受け取って、ぺこりとお辞儀する。

 ふ、と理事長が笑うのが判った―――えっと、何?

「美味しかった―――有難う」

「……それなら、良かった、どういたしまして」

 真剣に言われると大分照れるな……

 少し焦りつつ理事長と別れた。昼食時間も結構押している。

 急いで渡しに行かないと、地味根暗メガネ君が授業をサボるという珍事が起きかねない。

 流石にそれは不味いでしょう。

 ふと振り返って、理事長のビビりつビビりつの後ろ姿を見た。

 しかし今更何だが……俺に対して彼は、笑顔の大盤振る舞いし過ぎじゃなかろうか……?

 美形の笑顔なんて貴重なモノを見られているのだから、ちょっと得した気分でもあるけれど。

 さて、と。

 俺は気を取り直して、生徒会棟へと足を向けた。

 もう一組、今度は育ち盛りのお兄さん達がお腹を空かせて待っている。

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