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シーンの作り方

この物語は『指南先輩のはた迷惑なラノベの書き方講座』(https://ncode.syosetu.com/n6337dj/ #narou #narouN6337DJ)の続編的なものです

メタ要素がかなり強いので読む人を選びます

「よし、今日も私が小説の書き方を教えてやるぞ!」


 僕の在籍する文芸部には女神がいる。

 背が高く大人びていて、この世に並ぶ者がいないぐらいのこの美女は、通称『指南先輩』と呼ばれる、文芸部の生きた災害である。


 災害……?

 おかしいな、こんなにも素敵な先輩に対して災害だなんて、僕はいったいどうしたというのだろう……?


 僕は彼女の書く小説のすばらしさに感動してこの文芸部に所属したぐらい、彼女にあこがれていたはずなのに……

 ……でも、違和感がある。

 先輩は背が高くもなく、大人びてもなく、美人でもなかったような……

 強いて言えば、僕が知る本物の先輩は、身長百四十センチ台だったかのような、そんな違和感がどうしてもぬぐえない。


「どうした後輩? なにかわからないところがあったのか?」

「いえ……あ、いや、わからないところは、あるんです」

「そうなのか? じゃあ、なんでも話してみろ! 私は迷える文章書きすべての味方だからな!」


 先輩は腕をくんでふんぞり返った。

 僕の着いている席のすぐ目の前に立ってそんなことをされるものだから、豊満な乳房が強調され、思わず目のやり場に困る。


 ……豊満な乳房?

 おかしい。なにかがおかしい……僕はいったい、なにを忘れているんだ……?


「どうした後輩?」

「あ、いえ。ご心配なく。えーっと実はですね……小説の書き方がわからないんです」

「うーん、ざっくり!」

「ああ、えっとですね、プロットの作り方みたいなものは、以前、懇切丁寧に教えていただいたじゃないですか」

「ああ。懐かしいな。もう三年も前になるのか」

「そうですね」


 ……僕も先輩も高校生なのだが、三年前ということは、中学時代だっただろうか。

 しかし中学時代、僕らは出会っていなかったような……

 ダメだ。今日の僕はなにかがおかしい。いったいどうしてしまったというんだ……


「どうした後輩? もっと具体的に悩みを語ってくれないと、さすがの私もなんにも言えないぞ!」

「あっ、すいません。えーっと、僕がわからないのはですね、『文章の書き方』なんですよ」

「ふむ?」

「『なにをやるか』は決まってるのに、『どうやるか』が決まらないっていうか……」

「つまり、後輩が迷っているのは『シーンの作り方』だな!」


 先輩はかたちのいい指で僕の鼻あたりを指しながら言った。

 僕はコクコクとうなずく。


「そうなんですよ。シーンの作り方が、何から何までわからなくなってしまって」

「そうかそうか。じゃあ、私が教えてやろう」

「ありがとうございます」

「まず、私がやってる『シーンの作り方』だが……」

「……」

「『なんとなくいい感じにしようと思って指を動かす』!」

「ええええ……」

「小説書きの八割はこのやり方でやっているんだぞ!(※エビデンスはない)」

「ま、まあ、趣味で小説書くような人たちは、無意識でもできるのかもしれませんが……」

「だが指導者はこうではいけない! 後輩が二割の側に立つなら、二割の側に立って解説するのが先輩というものだ」

「先輩……」

「フッ。先輩オーラ、出しちゃったかな」

「そういうのはいいんで、早いところ説明に移ってもらえませんか?」

「はぁい。じゃあ『シーンの構成要素』を挙げていくぞ」



★シーンの構成要素


・シーンのテーマ

 主題

 呼び起こす読者の感情


・文字数


・類型の選択



「以上の三つ(四つ)がシーンの『構成要素』だな!

「全然ピンとこない要素しか並んでいないんですけど……」

「そうかあ? 『シーンの主題』『呼び起こす読者の感情』はなんとなくわかるだろ!? 文字数とかは文字数だよ!?」

「僕も小説を書き始めるようになったもので、つい言葉を深読みしてしまったようです。ほら、大事なものは行間に宿るっていうか」

「うわぁ、面倒くさいタイプに育ったなあ……」

「それで頭から説明していただけるんですよね?」

「うん! シーンのテーマの項目からだな! まずは主題。主題は……主題だ。以上!」

「わかってますよ。補足説明、あるんでしょ」

「そうだな。主題っていうのは『なにをするべきシーンか?』だ。作者の一番強い『そのシーンに込めたいもの』を整理しておくんだな」

「なるほど。たとえば?」

「この物語のこの話だと、主題は『先輩と後輩のキャラ紹介』『物語自体の主題の提示』それから『後輩がなにか違和感を感じていると読者ににおわせたい』になるな」

「なるほど」

「『呼び起こす感情』は、『このシーンを読んだ読者にどういう気持ちになってほしいか』だ。後輩に共感してくれるだろう読者に向けての『違和感』『不気味さ』、それから『笑い』になるな」

「『違和感』&『不気味さ』と『笑い』って食い合わせ悪くありませんか?」

「『笑い』はたいていどんなシーンでも呼び起こせる万能感情だぞ。『恐すぎて笑う』とか経験したことない?」

「ああ、経験自体はないですが、そう言う人はいるみたいですね」

「『感情』には『入口と出口』があるんだ。『不気味なもの』を見て『笑う』こともあるし、『不気味なもの』を見て『泣く』こともある。『笑い』っていうのは『感情の出口』のほうだな。まあ、今回は感情の入口と出口について解説する余白がないので、それは今度な!」

「むしろそっちのほうが知りたいんですが……」

「ここで出てくるのが次の項目、『文字数』だな!」

「ああ……」

「『笑い』を目的にしたシーンは長すぎるとダレるんだ。だから、『呼び起こしたい感情の種類』に合わせて文字数を設定すべきなんだな。だいたい3000文字を基準に、5000文字までいくと長い、って感じだ」

「今回はどうするつもりだったんですか?」

「軽い読み味を提供したいので、3000文字ほどにおさめるつもりだった。会話や装飾が多いとどうしても超えちゃうな」

「『文字数』は『読み味』にかかわってくるんですね」

「まあな。まあ『短くても読み味が重い』とかはあるんだけれど、そういう『例外』や、さっきの『感情の入口と出口』みたいなオマケに触れ続けていると、どんどんシーンの文字数がかさんでいく……文字数とテーマを決めたら、余計なことを言わないように切り捨てる勇気も必要なんだ」

「勉強になります。それで、類型の選択というのは?」

「それを語るには足りないものがある」

「文字数?」

「そう! というわけで、今日学んだことをまとめておこう!」



★シーンの構成要素


・シーンのテーマ

 主題……『なにをするべきシーンか?』。作者の一番強い『そのシーンに込めたいもの』

 ※本作の場合

  『先輩と後輩のキャラ紹介』

  『物語自体の主題の提示』

  『後輩がなにか違和感を感じていると読者ににおわせたい』


 呼び起こす読者の感情……『このシーンを読んだ読者にどういう気持ちになってほしいか』

 ※本作の場合

  後輩に共感してくれるだろう読者に向けての『違和感』『不気味さ』

  『笑い』


・文字数……『読み味』にかかわるもの。軽い読み味を目指すなら短めにまとめる。

 ※もちろん何事にも例外はある。


・類型の選択……次回(いつ?)



「まとめ終わったな!」

「はい。勉強になります。まあ、もっと深く切り込んでいただけないと、ちょっと僕みたいな記憶を失ってループ空間に閉じ込められているような書き手には厳しいですが……」

「そうかもしれないな。でも……大事にしてくれよ。私が今、教えたこと。だって、これで最後かもしれないんだから……」

「……先輩?」


 先輩はほほえんでいた。


 開けっ放しの窓から吹き込む風が、先輩の長い黒髪を揺らす。

 僕は思わず、手を伸ばしそうになった。


 だって先輩の浮かべる笑顔はあまりにも儚くて、今にも消え去りそうに思えたんだ。


 具体的には――

 次の連載分を作者が書いてないので、この話で指南先輩2019が打ち切りになりそうな、そんな気配を感じたんだ――


「後輩、じゃあね」


 先輩は笑って、一足先に部室を出て行く。

 僕はその背中を、黙って見送った。


 なぜだろう――

 背が高くて、美人で、胸が大きくて、頼れる――

 そんな『あこがれの人』である先輩に、僕は、なぜだかちっとも、興味がもてなかったんだ……

次回、掲載時期、掲載予定、未定!

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