ドキドキハロウィン大作戦!
十月三十一日。
この日は、一年に一度だけ、人間界と魔界と冥界の境目が、ちょっとだけガバガバになります。
悪魔も。
幽霊も。
吸血鬼も。
ゾンビも。
その他、分類すると学会が揉めるようなものたちも。
みんなそろって人間界へ遊びに来るのです。
人間たちはそれを《ハロウィン》と呼びます。
仮装をして、お菓子をもらって、パーティーをして。
魔界の住人からすると、
「いや、だいたい本物なんだけど」
というイベントです。
さて。
そんなハロウィンの夜。
夢魔のリルも、人間界へ行くことになりました。
「いいこと、リル」
玄関先で、ママは腕を組んでいました。
「今夜こそ、ちゃんと恋をしてきなさい」
「ええー」
リルはものすごく嫌そうな顔をしました。
今年、夢魔社会における成人年齢を迎えたばかり。
外見は小柄で、銀色の髪に、小さな角。背中には申し訳程度のコウモリ羽。
服装は黒いブラウスにフリルスカート。
これは本人の趣味ではありません。
パパの趣味です。
「なんで恋なんかしなきゃいけないのさ」
「夢魔だからです」
「職業選択の自由は?」
「種族です」
「人権は?」
「魔界です」
「終わってるな、この国」
ママのこめかみに青筋が浮かびました。
リルは黙りました。
夢魔には、生まれたときの性別がありません。
成人した夢魔は、誰かに本気で恋をすると、その胸の高鳴りに反応して身体が変化します。
男になる者もいれば。
女になる者もいる。
どちらにもならない者もいる。
どう変わるかは本人にもわかりません。
そのため昔から、
《はじめて本気で誰かを好きになること》
が、夢魔にとって大人になる儀式とされていました。
「ボク、このままで困ってないんだけど」
「困ります」
「なんで」
「親戚に説明するのが面倒だからです」
「ひどい理由だな!」
「とにかく!」
ママはリルの背中を押しました。
「今夜はハロウィンよ。出会いなんてそこらじゅうに転がってます!」
「そんな雑に恋人が落ちてるわけ――」
バタン。
扉が閉まりました。
鍵の音までしました。
「ママ?」
返事はありません。
「ねえママ?」
ありません。
「晩ご飯は?」
扉の向こうから声がしました。
「いい人を見つけるまでありません!」
「育児放棄だーっ!」
◇
そんなわけで。
リルは人間界へやってきました。
ところが、転移魔法の座標を間違えました。
本来なら若者が集まる繁華街へ出る予定だったのに、到着したのは住宅街。
時刻は午後七時。
道には魔女やオバケやカボチャの格好をした子どもたちが歩いていました。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子ちょうだーい!」
楽しそうな声が響きます。
リルは腕を組みました。
「ケッ」
そして鼻で笑いました。
「角がプラスチック」
すれ違った悪魔姿の子どもを見ます。
「羽も量産品」
魔女を見ます。
「ホウキが百均」
さらに吸血鬼を見て、
「あの牙、左右で長さ違う」
たいへん性格の悪い夢魔でした。
そのとき。
ぐぅぅぅぅ。
リルのお腹が鳴りました。
「…………」
もう一度。
ぐぅぅぅぅぅぅ。
「お腹すいたぁ……」
恋どころではありません。
生命の危機です。
晩ご飯抜き。
ということは、このまま恋ができなかった場合、明日も抜きなのでしょうか。
明後日も?
一週間後も?
一か月後も?
「死ぬじゃん」
ママは本気です。
たぶん。
リルは考えました。
そして、ハロウィンの夜には、人間の子どもが他人の家から合法的に食料を徴収できることを思い出しました。
「なるほど」
にやり。
「人間界にも優れた制度があるじゃん」
さっそく一軒の家へ向かいます。
リルは玄関の前で髪を整えました。
目を大きく。
上目遣い。
口角は十五度。
夢魔秘伝。
《相手が断りにくい顔》。
完璧です。
コンコン。
「こんばんはぁ♪」
返事はありません。
「…………」
コンコン。
「こんばんはぁ♪」
無反応。
しかし、中からはテレビの音がします。
料理の匂いもします。
明らかに人がいます。
コンコンコン。
「…………」
リルのこめかみに青筋が浮かびました。
ドンドンドンドン!
「いるのはわかってんだぞ人間どもーっ!」
さっきまでの可愛らしさは消えました。
「腹を空かせた夢魔が玄関先で遭難してるんだぞ! 人道支援しろーっ!」
ドン!
「お菓子!」
ドン!
「よこせ!」
ドン!
「肉でも可!」
勢いよく扉が開きました。
「うるせえ!」
中年男性が現れました。
リルは一瞬で営業スマイルに戻ります。
両手を頬の横に。
首をこてん。
「トリック・オア・トリート♪ お菓子くれなきゃ、イタズラしちゃうぞっ☆」
「帰れ!」
バタン。
「…………」
リルの笑顔が固まりました。
「いま……ボクの全力の可愛いを……」
握り拳が震えます。
「拒否したな……?」
リルはスカートのポケットへ手を突っ込みました。
そこから取り出したのは、黒いマッチ箱。
《魔界製・よく燃えます》
と書かれています。
「トリックを選んだということだな?」
シュッ。
青白い炎が灯りました。
ぼうっ!
家の周囲を魔界の炎が駆け巡ります。
「ふははははは! 思い知れ人間ども! これが正統派ハロウィン――」
ピンポーン。
背後から消防車のような音がしました。
魔界保安局の小型飛行車が止まっています。
『警告。人間界における無許可の地獄炎使用は条例違反です』
「えっ」
『罰金三千魔貨です』
「高っ!」
しかも魔界製の地獄炎は、人間界では安全装置によって建物に燃え移りません。
燃えたのは庭先のハロウィン飾りだけでした。
カボチャがひとつ、黒焦げになっています。
その横に、
《防炎加工》
と書かれていました。
「…………」
なんだか。
すごく負けた気分です。
◇
空腹。
罰金。
失恋以前に出会いすらなし。
リルは泣きながら町を離れました。
「人間界なんか嫌いだぁ……」
気がつけば、墓地まで来ています。
ハロウィンの満月。
曲がった墓石。
裸になった木々。
どこからか、カラスの鳴き声。
「こういうのでいいんだよ……」
リルは少し落ち着きました。
「やっぱハロウィンは墓場だよ……」
墓石の陰へ座り込みます。
「お腹すいた……」
すると。
ずる。
ずる。
ずる。
土を引きずるような音が近づいてきました。
「お嬢ちゃん」
低い声。
「こんなところで、どうしたんだい?」
リルが顔を上げます。
そこにいました。
ゾンビです。
片目は飛び出し。
頬はげっそり。
服は土まみれ。
お腹から、ちょっとだけ中身がこんにちはしています。
リルは息を呑みました。
「…………ステキ」
「え?」
「その肌!」
立ち上がります。
「死人にしか出せない絶妙な青白さ!」
「そうかな」
「その飛び出した瞳!」
「これは戻らなくて」
「はみ出た内臓!」
「乾燥しないよう気をつけてる」
「美容意識まで高い!」
胸が高鳴ります。
ドキン。
ドキン。
これは。
まさか。
「恋……?」
リルの頬が赤くなりました。
ゾンビも照れたように頭をかきます。
「いやあ、死んでから褒められたの初めてだなぁ」
「お名前は?」
「ボブ」
「ボブさん……」
「よかったら一緒に――」
ぷく。
ゾンビのお腹が膨らみました。
「ん?」
ぷくぷく。
「ボブさん?」
「あ」
ボブは自分のお腹を見ました。
「ガス溜まってた」
「え」
ボンッ!
墓地に破裂音が響きました。
数秒後。
リルは全身、何かよくわからないものでびしょびしょになっていました。
「…………」
顔に張りついた何かを指で取ります。
「ボブさん?」
返事はありません。
「ボブさぁぁぁぁぁん!」
初恋は。
たいへん生臭い味がしました。
◇
大失恋です。
恋とは残酷なものです。
リルはふらふらと墓地を歩いていました。
「もう恋なんてしない……」
涙をぬぐいます。
「絶対しない……」
そのとき。
ぼわぁ。
暗闇に橙色の光が浮かびました。
人影です。
身体は半透明。
頭はカボチャ。
中では青い炎が揺れています。
「どうしたん?」
カボチャ頭が言いました。
「恋人が爆発した……」
「それはまた景気よく別れたなあ」
「笑わないの?」
「笑っていいやつ?」
「ボクは笑いたかったけど空気読んで我慢した」
「えらいなあ」
「でしょ?」
「俺だったら爆笑してる」
「最低だな、キミ」
「ジャックっていうんだ」
「リル」
握手。
意気投合するまで十秒でした。
二人は墓地を出ました。
ジャックは陽気でした。
リルのくだらない話にも笑ってくれます。
先ほどの失恋話を三回くらい聞いてくれました。
三回目には二人とも爆笑しました。
「ボブさん、ごめん!」
「死んでるから気にしてないって!」
リルも久しぶりに笑いました。
少しだけ胸が温かくなります。
もしかすると。
恋というものは、悪くないのかもしれません。
そんなことを考えた。
その瞬間です。
「危ない!」
曲がり角から巨大なトラックが現れました。
ジャックが車道へ飛び出しています。
リルは反射的に手を伸ばしました。
「ジャック!」
突き飛ばします。
ジャックは歩道へ転がりました。
リルは安堵しました。
「よかった――」
ところが。
転がったジャックの頭が街灯へ激突。
パカーン!
カボチャが粉々になりました。
「…………」
トラックは何事もなく通り過ぎました。
「ジャック?」
身体だけが起き上がります。
頭がありません。
二歩歩き。
ばたん。
「ジャックぅぅぅぅぅ!」
リルは夜空へ叫びました。
「なんでボクが好きになりかける相手、みんな爆発するのぉぉぉぉぉ!」
◇
もうダメです。
恋愛運が呪われています。
いや、夢魔なので、むしろ呪う側のはずなのですが。
リルは公園のベンチで泣いていました。
「もう帰ろう……」
晩ご飯抜きでもいい。
一食くらい我慢できます。
たぶん。
無理かもしれません。
「おや」
そこへ。
黒い影が舞い降りました。
長いマント。
黒い燕尾服。
色白の肌。
整った顔。
唇からのぞく、美しい牙。
「どうしたのかね?」
男は優雅に一礼しました。
「こんな美しい夜に、ひとりで泣いているなんて」
リルは顔を上げます。
「吸血鬼……?」
「ドラキュラ伯爵、とでも名乗っておこう」
「本名じゃないの?」
「商標の問題が複雑なのでね」
「大人の事情だ」
伯爵はハンカチを差し出しました。
「よければ事情を聞かせてくれないか」
紳士です。
しかも美形です。
リルはこれまでの出来事を話しました。
伯爵は一度も笑いませんでした。
途中で肩が震えていましたが。
たぶん同情です。
「なるほど」
伯爵は優しく微笑みます。
「つらい夜だったのだね」
「うん……」
「ならば、温かいものでも飲もう」
「ご飯もある?」
「もちろん」
リルの目が輝きました。
「好き!」
「早いな」
◇
二人はホテルのラウンジへ入りました。
リルはステーキを三皿食べました。
伯爵はワインを飲みます。
「よく食べるね」
「ママが晩ご飯抜きって」
「それは恋愛より先に家庭環境について話し合うべきでは?」
「言わないで」
食事が終わります。
なんだかいい雰囲気です。
伯爵もリルを気に入ったらしい。
リルの胸も、少しずつ高鳴ってきました。
「そうだ」
リルはバッグを開きます。
「これあげる」
「これは?」
「ママが持たせてくれた滋養強壮ドリンク」
「ほう」
「デートの相手と飲めって」
「気の利くお母様だ」
「一気飲みするといいらしいよ」
「では、いただこう」
伯爵は瓶を開けました。
ぐいっ。
一気飲み。
次の瞬間。
「…………」
伯爵の顔から血の気が引きました。
もともとありませんが。
「伯爵?」
「きみ」
「うん」
「これ……成分表を……」
「成分?」
瓶を見ます。
《ニンニクエキス五千ミリグラム》
「…………」
「…………」
「伯爵?」
「良い……夜を……」
さらさらさらさら。
伯爵は灰になりました。
「伯爵ぅぅぅぅぅぅ!」
三人目です。
もはや恋愛ではありません。
死神です。
◇
「もう恋なんかしない!」
リルはホテルを飛び出しました。
「好きになったらみんな死ぬ! ボクは一生独身でいる!」
涙で前が見えません。
走ります。
そして。
どん。
「いたっ!」
巨大な何かへぶつかりました。
見上げます。
大男でした。
身長二メートル超。
肩幅は冷蔵庫。
首には縫い跡。
こめかみには金属ボルト。
全身、筋肉。
「うが?」
男が首を傾げます。
リルの涙が止まりました。
「…………」
胸が。
ドクン。
と鳴りました。
「なにその縫い目……」
「うが」
「一本ずつ糸抜きたい……」
「うが?」
「ボルトもカッコいい……!」
「うがー」
「好き!」
四人目です。
反省しません。
◇
男の名前はフランクでした。
人造人間です。
リルは念のため尋ねました。
「爆発したことある?」
「うが」
「あるの?」
「うが」
「死んだ?」
「うがー」
「死んでないんだ!」
これは期待できます。
今までの相手とは違います。
まずリルは手料理を作りました。
「はい、特製お弁当!」
フランクは蓋を開けます。
中には手榴弾が入っていました。
「うが?」
「ボクの愛情入り」
フランクは食べました。
「食べるんだ」
ドンッ!
煙。
「フランク!」
煙の中から。
「うがー」
無傷で出てきました。
リルの目が輝きます。
「すごい!」
次は交通事故です。
「ちょっと道路の真ん中立ってみて」
「うが」
「素直だなあ」
大型タンクローリーが来ました。
激突。
大爆発。
リルは祈ります。
「お願い……!」
炎の中から。
「うがー!」
フランクが出てきました。
「本物だ!」
リルは感激しました。
「やっと見つけた! ボクより先に死ななそうな人!」
恋人選びの基準としては、おそらく間違っています。
◇
二人は夜の遊園地へ行きました。
観覧車に乗りました。
射的をしました。
フランクが銃を握った瞬間、店主が景品を全部くれました。
クレープも食べました。
「美味しい?」
「うが」
「それしか言わないね」
「うがー」
「まあいいけど」
リルは笑いました。
不思議でした。
顔は怖い。
会話は成立しているのか怪しい。
食べ物の好みもよくわからない。
でも。
一緒にいると楽しい。
安心する。
それにフランクは、リルが何を言っても馬鹿にしません。
「ボクさ」
「うが」
「恋なんて、もっと大変なものだと思ってた」
「うが」
「運命とか。ドキドキとか。こう……すごい何かが起きるものだと思ってた」
「うが」
「でも、一緒にクレープ食べてるだけでもいいんだね」
「うが」
「…………」
リルは笑いました。
「キミ、それ全部『うが』で済ませてない?」
「うがー」
「ずるいなぁ」
そのとき。
フランクがリルの頬についたクリームを、大きな指で拭いました。
「…………」
リルの胸が。
どくん。
強く鳴りました。
もう一度。
どくん。
これまでとは違います。
顔が熱い。
指先まで熱い。
フランクを見ているだけなのに、胸の奥から何かが溢れてくる。
「あ」
リルは自分の胸を押さえました。
「これ……」
夢魔の身体が、淡い光に包まれました。
「うが?」
「きた」
リルは目を丸くします。
「たぶん……これが、本当のやつだ」
光が強くなりました。
身体が変わります。
背が伸びます。
肩幅が広がります。
腕が太くなります。
フリルスカートが悲鳴を上げます。
ぶちっ。
「え」
さらに。
ぶちぶちぶちっ。
「ちょっと待って」
筋肉。
筋肉。
筋肉。
ものすごい筋肉。
「なんで!?」
光が消えました。
そこに立っていたのは。
身長百九十センチ。
逆三角形の上半身。
太い腕。
割れた腹筋。
小さな角だけはそのまま。
フリルスカートは限界を迎えています。
「…………」
フランクが見上げます。
「うが」
リルも自分を見ます。
「…………」
フランクが一歩下がりました。
「うが……」
「待って」
さらに一歩。
「うが……」
「なんで引くの?」
フランクは走り出しました。
「うがあああああ!」
「フランクぅぅぅぅぅ!」
第四の恋も終わりました。
◇
リルは失意のまま、ホテルのバスルームへ入りました。
「もうダメだ……」
洗面台に手をつきます。
「恋なんて最悪……」
顔を上げました。
鏡があります。
そこに。
ものすごく好みの男がいました。
「…………」
リルは右を向きます。
鏡の男も右を向きます。
左を向きます。
男も左へ。
腕を曲げてみます。
上腕二頭筋が盛り上がりました。
「…………ステキ」
鏡へ近づきます。
「なにこの肩……」
触ります。
「胸板……」
さらに触ります。
「腹筋……!」
リルは鏡の前でポーズを取りました。
完璧です。
これまで出会った誰よりも。
理想です。
「そっか」
リルは笑いました。
「ボク、男になったんだ」
そして少し考えます。
「しかも男が好きなんだ」
さらに考えます。
鏡を見ます。
「…………」
にこっ。
「最高じゃん」
恋には四回失敗しました。
三人ほど死にました。
一人には逃げられました。
罰金もあります。
けれど。
リルはようやく、自分がどんな大人になるのかを知りました。
◇
明け方。
魔界。
リルは家の扉を開けました。
「ただいまー」
ママが振り返ります。
「あら、おかえ――」
固まりました。
「…………誰?」
「リル」
「嘘」
「息子です」
「ちょっと待って」
「待たない」
「どうしてそんなムキムキに!?」
「恋した」
「恋の結果がそれ!?」
「遺伝じゃない?」
二人は同時に。
リビングにいるパパを見ました。
パパは身長二メートル十センチ。
筋肉隆々。
フリルのエプロンを着ています。
「おかえり、リルちゃん!」
「パパ」
「どうだった人間界!」
「男になった」
「おお!」
「男が好きみたい」
「おお!」
「あと三人死んだ」
「おお――」
パパが止まりました。
「……三人?」
「事故」
「本当に?」
「だいたい」
ママは頭を抱えました。
「もういいわ……」
「それよりママ」
「なに」
「約束」
リルのお腹が。
ぐぅぅぅぅぅ。
鳴りました。
「晩ご飯」
「朝よ」
「晩ご飯食べてないから、ボクの中ではまだ昨日」
「屁理屈を」
「大人になったんだから!」
リルは両腕を広げました。
「成人祝いは豪華なんでしょ!」
ママはしばらく黙っていましたが。
やがて、小さく笑いました。
「仕方ないわね」
キッチンへ向かいます。
「何が食べたい?」
リルは答えました。
「ニンニク抜きで」
「どうして?」
「いろいろあったんだよ……」
◇
こうして。
夢魔のリルは、一人前の大人になりました。
自分の性別を知り。
自分の好みを知り。
恋というものが、案外しょうもなくて、面倒で、でもちょっと楽しいことも知りました。
ちなみに翌年。
リルは再び人間界のハロウィンへ遊びに行きました。
今度は最初から繁華街です。
筋肉を強調した黒いシャツ。
角。
羽。
そして完璧な笑顔。
「トリック・オア・トリート!」
道行く男が振り返ります。
リルはニヤリと笑いました。
「お菓子くれなきゃ――」
そこで少し考えます。
去年の罰金を思い出しました。
「……普通に帰るぞ!」
成長しました。
たぶん。
おしまい♪




