17。 ノー・グッドだな
お昼休みはいつでも待ち遠しいけど、今日はさらに待ち遠しい。
正門の事といい、カイリは深雪の事に気付いたのかな……。
階段を上って生徒会室のある階を覗き込むと、特別教室の並ぶこの階は人気がまるで無い。
今日は一番乗りかなぁ。
お弁当を片手にガラス窓を覗くと、中では会議用の長テーブルにリカコさんが突っ伏していた。
枕代わりの腕には長い髪がかかって、その起伏に合わせて髪が艶やかに輝いている。
リカコさんがお昼寝なんて珍しいな。
起こさないように、ゆっくりと扉を開けて中に入っていく。
んー。でもイチ達が来る前に起こしてあげたほうがいいよね。
お弁当を机の一角に置いてリカコさんを覗き込む。
どちらかというと童顔気味なあたしとしては、長い髪に大人っぽい顔立ちのリカコさんはちょっと憧れ。
……うん。わかってるよ、容姿どうこうより、この落ち着きのない性格が問題だって事くらい。
まつ毛長いなぁ。
あれ。リカコさんのまつ毛……濡れてる。
にわかに騒がしくなる廊下に意識が移る。
ジュニアだ。って事はイチも一緒だよね。
「リカコさんっ」
お向かいからリカコさんの肩を軽く揺すると、ピクリと身体を揺らして瞳を開く。
「あれ。カエちゃん。やだ、寝てた」
細い指先が目尻に触れた。
「おっ疲れー」
購買の袋を片手に勢いよくドアが開き、カイリ、イチ、ジュニアが入ってきた。
少しの間だけ、ドアとリカコさんの直線上に立ち視線を交わす。
大丈夫。
微笑む瞳がそう語っていたから、あたしもちょっと笑ってドアを振り返った。
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「さて、みんなそろったわね」
全員が席に着くのを待ってリカコさんが声をかける。
「まず、今朝の事。正門に居たのは、金曜日に倉庫に来ていたスーツと、頭悪そうな子分の男。
カイリ以外は全員見てるわね。明らかに誰かを探している風だった」
「誰かって、倉庫で直に会ったのはリカコとイチだけじゃん。カエの事は渋谷の一件で、僕に関してはイチと同一人物だと思われてると思うし」
ジュニアがつまらなそうに口を尖らせた。
「イチもカエも制服を見られてるから、そいつらも直接ここに来たんだろう。ノー・グッドだな」
カイリも相変わらずのカタカナ英語。
あれ?
「リカコさんには気づかなかったんだ。イチと一緒に見られてるのに」
「多分スーツを着て不動産屋のふりもしていたし、探す対象者じゃなかったのかもね。おかげで先回り出来たんだけど」
「それより問題なのは、今朝未明には組対5課が摘発に入っていたはずなのに、逃げ果たした人物がいたということ」
リカコさんがあたし達を見回す。
「内通者?」
イチが呟くように口にした。
ま。ここでその可能性を議論したところで、本庁の組対5課ではもっと話しが進んでいるだろうし、あたし達がどうこうできる範囲じゃない。
リカコさんもそれはわかっているみたいで、話題が変わる。
「この件に関しては、巽さんに連絡入れて学校付近のパトロールを強化してもらったわ。
後は……。キバとアギトの件ね。昨日カイリから連絡もらったけど、イチとカエちゃんはお疲れ様だったわね」
リカコさんがあたしとイチに視線を送る。
「こっちに関しては、まだしばらくは注意が必要ね。
最後に、〈おじいさま〉からの連絡。来週の木曜日に、また麻薬取引きの現場内偵が入ったわ。今回はカイリとイチ、私。真影さんが車を出してくれるわ。
詳しいことはもうちょっと下調べが済んでから、追って連絡するわね。何かある?」
「ある」
あたし達を見回すリカコさんに、カイリが声を上げた。




