48。あたしの記憶に答えを求めてる(イラスト掲載)
自分のお夕飯はせりかさんと一緒に済ませたんだけど、遅いお帰りの巽さんのおつまみを狙おうと待ち構えていたあたしの視界の隅に、パパパパッと光が瞬いて見えた。
リビングから食卓を向いているテレビに目を向けると、記者会見のような会場に、一礼をして長机の席に着く正装の男女。
カメラのフラッシュに包まれるその姿が、画面いっぱいに寄る。
あれ? この女の人。なんか見たことあるぞ。
サラサラの髪のショートボブ。
なんだか気になって、あたしはテレビをよく見ようとリビングに足を向けた。
「どうかしたの?」
その様子に気が付いたらしいせりかさんが、キッチンから顔を覗かせる。
「うん……」
なんて言っていいのか分からない。
胸の辺りの小さな引っ掛かりが、あたしの記憶に答えを求めてるのは分かっているんだけど。
「辛い言葉ね。
『警察怠慢か。被害女性、2度にわたり危険に晒される』」
せりかさんの読み上げるテレビ内のテロップ。
画面の中のショートボブの女性。
『警察の怠慢』
記者会見の始まるアナウンスに、1度は落ち着いたフラッシュが、再びチカチカと花を咲かせる。
話を始めた男性の隣で、彼女が大きく胸を膨らませて呼吸を整えるのが感じられた。
1度閉じた瞼が意を決したように大きく開かれる。
その瞳に、あたしの記憶が戻ってきた。
「あっ!
この人1件目の誘拐未遂と、4件目の誘拐の被害者だ」
イチ達と出掛けたあの日。あたしがまともに彼女の顔を見たのは、ヨガ教室の入っていた雑居ビルから出てきた一瞬だけだけど、多分間違いない。
髪。切っちゃったんだ。
でも、そうなっちゃうよね。あたしも前髪を焦がされちゃったことあって、短く切りそろえるしかなかったもん。
この人も切らざるを得なかったんだろうな。
なんか辛いし、嫌だな……。
なんだか悲しくて、キュッと詰まる胸に手を当てる。
「あの件の被害者って言うことは、理加子ちゃんに似てるって言っていた子よね?」
髪を切る前を見ていないせりかさんの不思議そうな声に、あたしは大きく頷いた。
「うん。
髪を切りそろえたみたい。切る前はね、後ろ姿が本当によく似てたんだ」
もう1人。2件目の被害者はどうしたんだろう。
やっぱり切ったよね。
髪の短いリカコさんなんて想像できないよ。
本人の意思にそぐわないなら、被害に合わないようにしっかりとフォローしないと。
テレビ画面の中の2人は、弁護士を名乗る男性が今回の事件のあらましと、ここに立つに至った経緯の説明を始めている。
それはもちろん、イチとジュニアが関わった雑居ビルの一件と、彼女が髪を切ることになった誘拐の一件。
「被害女性の親族に、法律関係の人間がいるらしい。
彼女たちの要望は真実の追求と、同一犯による被害者の会の設立を掲げているようだが、捜査中の案件だ。しばらくは動きにも制限がかかるだろうな」
「あら、おかえりなさい」
いつの間にかリビングに姿を現した巽さんの一言に、せりかさんがお夕飯を温め直しにキッチンに戻って行った。
「お帰りなさい。巽さん。
法律関係って、弁護士とか?」
ネクタイを緩めながらテレビ画面に目を向けていた巽さんが、あたしに視線を移した。
「いや、こっちの件は森稜署の管轄外だからな。詳しいことまではわからんが、お前たちが1枚噛んでた一件だったし、理加子の誘拐未遂の絡みで断片的だが情報は入ってくる」
うん。同一グループの犯行の線で、合同捜査になってるもんね。
お夕飯のいい香りがしてきて、巽さんはカバンを抱えると着替えるために自室へと戻って行った。
髪の毛。やっぱりなんか気になるな。
そしてコトリと音を立ててテーブルに並ぶおかず達。
……巽さんが戻ってくる前に一口カツ1個貰っちゃお。




