10。戦隊ヒーロー ✴
イチとジュニアがあたしを挟むように立ってはくれるけど、ちょっと相手の数が多すぎる。
「カエ行ける?」
ジュニアの確認にもいい顔は出来ないよ。
「ごめんー。今日制服だもん。スカート」
「だよね。
んじゃ、イチ8人の僕2人で割り当てかな」
「多くね……?」
無駄に真面目なジュニアの一言に、当然イチのクレームが入るけど。
「打ち合わせは終わったの?」
小馬鹿にしたような彼女の口調、取り巻きたちの手にする武器とも言えないような角材やらパイプやらにあたし達の視線が動いた。
「『ブラック』あるよ。
イチ。殿頼める?」
ちょっと真面目げなジュニアの声に、イチが短く応える。
制服のブレザーに入るジュニアの手がブラックを確認したんだと思う。
戦闘態勢に構えたあたし達に、彼女の赤い唇が息を吸った。
「集合は寮。ビリは明日のお昼奢りね」
「え。罰ゲームあり?」
小さなジュニアの一言につい反応したあたし自身の声に、彼女の発した号令を聞きそびれちゃった。
武器を振り上げて、小走りに足を出す者。恐怖を煽る演出のつもりなのか、ゆっくりと歩いてくる者。
「統制が取れてねぇな」
あたしの真横でつぶやくイチに、うんうん。と大きくうなづいちゃう。
奇声を上げながら走り込んできた1人に、一歩前に出たイチが立ちふさがった。
無駄に大きく振りかぶった鉄パイプを余裕でかわしたイチは、振り終わったその鉄パイプを掴むと間髪入れずに相手のみぞおちを狙い蹴りを叩き込む。
本来なら身体が後ろに流れて少なからず威力が相殺されるはずの一撃は、お互いにパイプを掴んでいたことでズシンと重い一撃が相手をその場に沈めた。
流れるような一連の動きからパイプを取り上げたイチの姿に、後続の足が鈍る。
相変わらずの無愛想な顔つきも一役買っているのかも。
「おやおや。意外といけそう?」
「そんな訳ないでしょ。素手ならまだしも対凶器はちょっとキツイよ」
カバンを拾って、こんな時でもちょっと楽しそうなジュニアを軽く睨みつける。
後続がイチと、その両側からあたしとジュニアを狙うように展開してきた。
「ほら、来たよ」
あたし側に回り込む数人に対して身体を動かしたイチに、ジュニアの抗議の声が飛ぶ。
「ええっ! 僕も守ってよ」
「自分でできるだろっ」
イチを狙うのは計6人。数にモノを言わせて迫ってきたら、牽制に音立てて振り抜く鉄パイプにも物おじしない。
「じゃじゃん」
ジュニアの効果音(自前)と共にブレザーの両ポケットから取り出す、ゴムボールほどの大きさのこの黒い球は、ジュニアお手製のフラッシュバン。
正体不明のそれに、ジュニア側に回っていた数人が足を止めた。
高みの見物に徹した彼女と、イチが最初に蹴倒した男以外の全員が、あたし達を中心にこの場に固まったことになる。
「どかーん」
またも自前効果音に、ジュニアが地面に叩きつけたフラッシュバンは爆竹のような激しい火薬音と、爆竹とは比べものにくらいの濃度の濃い煙を吐き出した。
けど。
「あ、あれ。ブラックボールって煙幕白色っぽかったよね?」
突然の音と煙に度肝を抜かれた男たちの驚きの声と慌てぶりに、煙幕に遮られたあたし達は180度身をひるがえして、空き地の中から住宅街を目指す。
「この前『懐かしのテレビ番組』的な特番で、戦隊ヒーローがどっかんどっかん爆発に巻き込まれてたんだよね。
そこで使ってたカラフルな煙幕を再現したかったんだけどな。
2色ずつにはしてみたけど、やっぱり色がはっきり出なかったね。『要改良』と」
走りながら笑うジュニアに、振り返ったあたしの視線は中途半端に混じり合った煙と殿を務めてくれたイチの姿を見る。
優しい風に流れていく煙幕に、何かを叫んだ彼女の怒気をはらんだ声が響いた。
一旦受けに出たし、こんな形で逃亡されるなんて思ってなかったんだろうな。
でも今更追いかけられても捕まらないもん。
真横に並んだイチにカバンを返すと、住宅街のキレイに舗装された通りに出る。
「寮あの辺。じゃ、後でね」
インカムを持った手で住宅街の先を何となく指さしたジュニアは、そう残してスピードアップすると近くに見えた角を寮とは逆方向に曲がっていった。
「1人でも大丈夫」
イチの心配そうな瞳に応えて、あたしもインカムを装着する。
「お昼かかってるからね。手を抜くと大変なことになるよ」
負けないオーラ全開のあたしに笑って、イチもインカムを持った。
「わかった。気をつけてな」
手を振って寮方面に進路をとったあたしを見送って、イチはまっすぐに伸びる住宅街の通りを走り出した。
フラッシュバン……
バスジャックなどの立てこもり犯に対して、音や光などで威嚇をする、特殊手榴弾。
殺傷能力はなし。




