90。雲泥の差
横から回り込んで、イチと一緒に写真を覗き込んでみる。
「ああ。ここに写ってるのが餓狼だな」
「ほんとだ。相変わらずのサングラスだけど、骨格は一致かな。銃刀法違反の服役って何年くらいだっけ」
スイートルームなんて見たこともないけど、たぶんそのくらいいいお部屋。
ベッドデカいもん。
「問題は当時組頭だったこの男を、構成員だった餓狼が狙った理由」
睨むリカコさんの視線を避けるように、パソコンを覗きに来たカイリを盾にてジュニアが話を続ける。
写真の中には黒を基調にしたスーツ姿の男たちが十数名、連行されていく様子が収められている。
餓狼以外には見たことがある顔はないと思うんだけど。
「巽さんに確認して貰ったんだけど、白凰会が解散になる原因になったRロイヤルホテルのこの1件、今回の被害者は当時の部下だった餓狼に全ての責任を擦り付けて自分の罪の軽減を図ったらしいんだよね」
「あら、それは恨まれるわね」
ジュニアには怒るだけ無駄だと諦めたのか、リカコさんも小さくため息をついて同調した。
「同じ2年越しでも、カエのパンイチ事件とは雲泥の差って感じだね」
「むぅ。あたしたちが悪い訳じゃないもんっ」
明らかにあたしを見て軽く首を振るジュニアには、ほっぺたを膨らませて抗議しちゃう。
「ちょっと待て、餓狼は服役してたのか? 2年なんて短すぎるだろう」
カイリの珍しく普通な意見にジュニアがにこりと笑った。
「いい質問ですねー。餓狼はこの時検挙した所轄から逃亡してるんだ。
しかも間のいいことに、逃亡したその日に全く関係ない立てこもり事件が発生してね。その犯人の犯行動機だか、生い立ちだかお茶の間の興味を引いたらしくて。手ぶらで逃走した餓狼の事なんて、なかったみたいにあっという間にニュースから消え去っちゃったんだ」
うーん。確かに事件が重なると、先に起きてた事件の報道がないがしろになっちゃうことってあるとは思ったこと、あるけど。
「もちろん所轄は追ってたよ。でもね、結局国外逃亡されてて……。
犯罪人引渡し条約って知ってる?
簡単に言うと、海外逃亡した犯人が海外で罪を犯して検挙されたら、日本に送り返してね。って言う約束事なんだけど、これって海外で罪を侵さなければ結局バレないんだよね。そもそも日本と条約結んでいる国も少ないし」
「なるほど」
ジュニアの返答にカイリが納得してる。
「その後用心棒なんかで名を売っていくわけか」
イチも会話を引き継いだけど。
「ねえ、キバとアギトがあたしたちを狙う理由。まだ聞いてないけど、やっぱりRロイヤルホテルの内偵が絡んでいるんだよね」




