50。お風呂場に通じるドア
夜の風が外廊下を歩くあたしとイチの髪を撫でていく。
巽さんはまだ帰らないし、なんだか1人きりであの一室にいるのは寂しすぎるよ。
せりかさんがいてくれたり、イチ達がいてくれたり。
つくづく、あたしは1人ぼっちが苦手なんだなって思っちゃう。
結局、巽さんが帰るまでは寮に居させてもらうんだ。
イチもそうしろって言ってくれたし。
「またキバとアギトが出たの?」
寮に上がるエレベーターの中で、話題はさっきの現場の報告。
「俺たちを探してたんだと。で、……まぁ色々あって撤退してきた」
「なんか今、すごい言葉を濁したよね?」
下からイチをググゥッとにらみあげる。
「この件にカタがつくまでは、どこにいても警戒を怠るなって事だよ」
めっちゃ視線逸らしてるじゃん。
「あーあ。神経使うな」
視線の先には寮のドア。同じ作りで並んでいても、あのドアだけは特別な安心感を感じられる。
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「ただいま」
「ただいまぁ」
イチに続いて寮のドアをくぐると、いつもの景色といつもの空気に心が柔らかくなっていく。
「はい。おかえり」
覗くリビングでは、仕事服のツナギのままパソコンに向かって作業中のジュニアが顔を向けてくれた。
「あ。今日の資料?」
ジュニアの後ろからパソコンを覗き込む。
「キバたちがいたんだって?」
「うん。防犯カメラの映像も回収したし、色々確認して月曜日の定例会にはちゃんと報告するよ」
あれ。そう言えばカイリがいない。
ぐるりと首を回すと、丁度お風呂場に通じるドアが開いた。
音に反応してつい顔を向けちゃった。
あたしの目に入ってくるのはお風呂上りの、腰にバスタオルを1枚巻いただけのカイリ……。
「ちょっとぉぉぉっ。なんて格好で出て来るの!」
「うわっ。カエいたのか」
あたしの声にびっくりして、もう一度カイリは脱衣所に戻っていったけど。
「普段この時間は男しかいないからね。こんなのいつものことだよ」
パソコンに向き合ったまま、笑いをこらえるジュニアの声。
……むうぅぅ。
やっぱりここじゃ暮らせなかったな。




