一人ぼっちの戦争①
お待たせしました。
ドナクレア島が開放された――
リュセフィーヌ・ドナクレアが唯一の生き残りであり、ドナクレア島を奪還した事、ドナクレア家当主となり、もう一度ドナクレア島を領域とする事を宣言するのであった。
「私達は今ここにドナクレア島の開放と領域宣言をいたします。そして――」
フィーグル世界には独自のネットワークがあり、地球のように衛星生中継やインターネットなどにヨルリアルタイム通信は出来ないが、記録された媒体で情報や、こういった動画が放送できるシステムが各国で確立していた。
日々の生活を営む人々はその足を止め、動画をじっと見ていた。
最初の頃にはドナクレア島開放の喜びと、日夜繰り返される公国との戦争に勝利した事を喜び合うのであった。
「――アドラ神聖公国は人族支配下にあるコーグ大陸のペンタハーケン帝国、ジグ大陸のサトーレ王国とジャニス王国。そしてモース大陸のペライスト王国連合が主要国となった人族至上主義の連合が各種族領域へと進行を開始いたしました――」
彼女の放送から出たその言葉に人々がざわつく。
次々と白日の下に晒される情報に耳を疑い耳をほじる者、夢でも見ているのではと頬をつねりあう人々が散見されていた。
戦争に使われる兵器は剣と魔法ではなく、火薬、化石燃料、電子機器を駆使した"現代兵器"が使用されている事。
その兵器は召喚されている地球という異世界から齎されている事。
地球側からも兵器だけではなく、軍隊が派兵されている事。
その目的がフィーグル世界では使われる事が無い化石燃料や希土類元素が存在する土地への侵攻が目的である事。
フィーグルと地球を結ぶ"越界門"が公国に設置されている事。
「――"越界門"の開通と固定には、この世界で消えた人々の肉体と魂魄が使用され――」
その言葉に各国が騒然となるのであった。
「――ここにフィーグル世界での人族支配層及び地球への宣戦を布告いたします」
放送終了後、人族と神族に対して他種族が宣戦布告したのは言うまでも無い。
◆◇◆◇
―――リュセフィーヌの宣言動画放送から七日前―――
ミノルがレニウス台地に《龍語魔法:天地創造》を展開した翌日、解放軍作戦本部は解体したが目の前にぽっかりと開いた空間付近にゴラウシス元帥は緊急対策本部を設置し様子を伺っていた。
ドナクレア軍は一師団のみ現地に置き、残りはコロポクルでの平定と復興に向かっていた。
「あれから三日が経つと言うのに城からの伝令はまだ帰ってこんのか…」
「はい、魔法通信も「開放宣言で忙しい」との返答のみで進展がありません…」
副官の質問に伝令・通信兵担当官が返答する。
「アレは"狂化"した龍ではないのか?」
「…間違いないと思います」
「誰が"狂化"したのだ?」
「アーデルハイド様がミノル殿の波動が混じっていたとの情報と実際に黒き龍を見てセレスティア嬢は外見は変わっていたがミノル殿に間違いはないと…」
「城で何があったというのだ…」
「その情報が向こうで遮断されております」
各担当武官の会話に痺れを切らしたゴラウシスが、机に拳を叩きつけると机にあったゴブレットや水差しなどがひっくり返ってしまう。
ゴラウシス以外の出席者は驚きつつも、地図などが汚れないようにあたふたと机を拭き始めていた。
本人もしまったと申し訳ないと思いつつも、そのまま立ち上がり肩を怒らせて歩き、テントを出ていくのであった。
「元帥!どこへ行くのです!?」
「もう我慢ならん!私が直接城に乗り込んで確かめてくるわ!」
属龍形態へと変化させ城へ向けて飛び立とうとするが、副官も龍形態へと変化してゴラウシスを羽交い絞めにして引き留めようとしていた。
「ええい!離せ!離さぬか!?」
「落ち着いてください!一軍の将が軍をほっぽり出してどうするんですか!?追加で情報官と武官を行かせますので席にお戻りください!!」
二人のやり取りを他所にアーデルハイドと双子龍、セレスティアは呆然と目の前に開く空間を見ていた。
三体の古龍はセレスティアの体験した記憶を共有しており、目の前にある空間の奥へと帯去った黒き龍がミノルであると確信していた。
「どうしちゃったのよミノル…」
体育座りしながら呟くアーデルハイドの後ろから彼女を抱くセレスティアもまた悲痛な表情をしている。
アリステリアとディーフェリアもまたアーデルハイドに左右からくっ付いて座り、ミノルの作り上げた空間の先をじっと見つめていた。
「私がこの中へ行って様子を見て来ましょうか?」
「駄目よアリス。もし本当に"狂化"した龍ならば見境無く攻撃してくるわ。"狂化"した古龍は攻撃重視型に特化するから、いくら貴女でも無事では済まないわ」
「でも…ミノルさんが心配だわ」
「それは私だって同じ気持ちよ。もしもの時はフィーグル世界を守るという私達の使命がある事は忘れてはいけないのよ」
アリステリアを諭すディーフェリアは悔しさから握る拳には血が滲んでいた。
テントの向こうでは未だにやいのやいのと揉める二人が居たが、急に静かになりドナクレア山の方向を見ていた。
「何じゃあれは?」
徐々に近づく者を見ながらゴラウシスが呟く。
やがて一〇体の龍は天地創造の入り口に着地すると、龍の背から三〇〇名の鎧姿の人達が飛び降り整列していた。
「ドナクレア軍騎士団………まさか!」
鎧姿の兵士は皆、統一されたデザインのフルプレートメイルを着込んでいた。
騎士団と気付いたアーデルハイドは立ち上がり、指示を出している隊長らしき人物に声を掛ける。
「ちょっと!どういうこと!?」
「おお、アーデルハイド様、御無事でしたか。そしてアリステリア様にディーフェリア様、セレスティア様もご無事で何より。ささ、ここは危のうございます。リュセフィーヌ様も心配なさってますが故、どうか城へお戻りください」
アーデルハイドの質問には答えず、気持ち悪いくらいに丁寧な言葉で彼女達を此処からと遠ざけようとしていた。
その言葉にイラついたアーデルハイドは騎士を詰問しようとしたが、ゴラウシスによってその機会を失ってしまう。
「騎士団よ、ゴラウシスである!いったいこれはどういうことだ??何があったんだ!?」
「これはこれは元帥閣下、此度のドナクレア開放おめでとうございます」
「挨拶は不要。此処にある空間は古龍が使う龍語魔法の天地創造だな?という事は空間の奥に飛び去って行ったのはリュセフィーヌ様ではないとすればミノル殿か?」
「その通りです。そして"狂化"したミノル・カツラの討伐を我々騎士団が行う事となりました」
「なん…だと……」
ゴラウシスは騎士に質問を投げたが、彼の言葉に周囲が固まるが、彼は声を絞り出していた。
「ミノルちゃんを討伐?…嘘でしょ?」
アーデルハイドもまたミノルの討伐という事に衝撃を隠せなかった。
「狂化…そうだ!ミノルさんが狂化した理由だ!騎士殿!何故ミノルが狂化してしまったのだ?ミノルが狂化してしまう程の何かがあったはずだ!答えよ!」
セレスティアも討伐という衝撃で我を忘れていたが、目の前の騎士が何か知っているのではないかと、理由を尋ねる。
「それは…」
騎士は"ミノル自身がそうなってしまった原因"を知っていた。
あの日、彼が城に訪れた時から、客人警護という名目で主が迎えに来て、会議場の出来事、練兵場での出来事までの全てを自分の目と耳で体験していたのである。
言えるはずも無い。
騎士自身は持ち合わせていなかったが、
人族という事の隔意――
憎き異世界の勇者と同じ異世界人である事への憎悪――
秘術によって古龍になりえた事への嫉妬――
「魔王」についての無知についての侮蔑――
それらの念が特に近衛、文官、上級騎士(王政等で言えば貴族)、幼少の頃より主の傍仕えからは特に強く感じていた。
主によって縛られていた時は、二人と周囲の仲間からは特に悪意も無く、和気藹々としていたので、この方達の場を和ませる為であったと察していたくらいである。
――もっとも、その行動自体が彼への加虐心を煽ってしまった事は失敗であった。
ゴラウシスやセレスティアの詰問に良心の呵責も加わり、騎士は事実を伝えようと口を開く。
「じつは――「勅命である!!!」」
誰もがその声に騎士達の隊列中央が開くと、詰問している騎士よりも装飾が凝った鎧を纏い、上等生地で誂えたであろうマントを羽織った上官らしき人物が彼らに近づいてきた。
「ケーニッヒ第二騎士団団長…」
ストレートなブロンドの長髪から四本の角は蒼く、人龍形態の人物をゴラウシスは第二騎士団団長と呼んだのだった。
騎士団長は彼と対峙すると隣に居た騎士が巻かれていた書状を広げる。
「詮索は無用として頂きたいゴラウシス殿。これは勅命である。ミノル・カツラは"狂化"した古龍であり、フィーグルに害をなす存在となった。そして"暴虐龍(瘴気墜ち)"となってしまう前に討伐せよとの命令だ」
騎士団や戦士団の軍人達は勅命を前に跪く。
ゴラウシスは敬礼だけしているが、勅命という書状の前に口を噤いだが騎士団長を睨んでいた。
騎士団長は周囲を見て下卑た笑みを浮かべる。
「ドナクレア解放軍元帥ゴラウシスは本日付を持って元帥を解任。本来のドナクレア軍軍団長へと戻る。狂化したミノル・カツラ討伐は第一から第七騎士団全軍を持ってこれにあたる事。討伐軍指令は第一騎士団団長ロードレック・カシウスとし――」
騎士団長の横にいた騎士が、もう一枚の命令書を読み上げていくが、信じられないとばかりにアーデルハイドが目を見開いていた。
「――ドナクレア島復興及び《龍語魔法:天地創造》周辺警備と討伐任務従事の騎士団への後方支援を命ずる」
読み終わると同時に兵達は立ち上がり、各々の準備へと取り掛かって言ったのであった。
勅命書は立て看板に貼り付けられ本部テント横に取り付けられたのを見たゴラウシスはケーニッヒに質問する。
「ロードレック殿はどうした?」
「第一騎士…元帥殿はドナクレア島開放式典の準備で城に滞在しており、作戦参加は式典が終了次第残りの騎士団と此処に来る予定です」
「なぜ"狂化"でこれほどまでの規模の軍が動く?」
「…詮索は無用と言った筈では?」
「それはおかしいですね…」
二人の会話にゴラウシスの後ろから一人の女性が言葉を挟んでくる。
「シアン参謀長……何の事ですかな?」
ケーニッヒはシアンの参上に驚くが、すぐに眼を細めて彼女を見る。
「本来"狂化"とは妖魔種やモンスター種が周囲の人々を傷つけない為に人里離れて森へ行く行動で"瘴気落ち"の前段階の事です。そしてその段階で自ら瘴気を昇華させるか第三者による浄化で防げる筈です.
勿論、その間の凶暴性、好戦的行動はありますがね」
シアンの言葉にケーニッヒは舌打ちをした。
手に持つ扇子を広げるとそのまま口を隠すように持ち上げ言葉を続けた。
「……なるほど。それで貴方がたはミノル殿への説得、若しくは浄化を行ったのでしょうか?リュセ…領域守護者で私達の主の"思い人"なのですよ?」
「あヤツはリュセフィーヌ様に手を出した!殴ったのだぞ!」
「恋人同士の喧嘩なのでは?」
「あの勅命が何よりの証拠!リュセフィーヌ様の直筆署名と家印が捺印されておるわ!!」
「お互いに相思相愛、ツーカーの中なのに?」
「何が言いたい!!!!!」
彼女向かって顔を赤くし、唾を飛ばしながら激高しているのであった。
その傍で話を聞いていたアーデルハイドは意を決してドナクレア城へ――リュセフィーヌから話を聞こうと拓けた場所へ走り出す。
「待って私達も行くわ!」
古龍形態に変化させると、追い駆けてきた双子龍とセレスティアをその背に乗せる。
「待て待て待て!私も乗せてくれ!」
アーデルハイドに気が付いたゴラウシスは急ぎ足で副官に後を任せるとシアンと共に追い掛けて来ていた。
「みんな掴まって!超特急で行くわ!」
古龍とその背に乗った五人はドナクレア城へと向かうのであった。
最後までお読みくださりありがとうございます。
次回もお楽しみください。




