誤算②
ご無沙汰してました。
言い訳は何も言うまい・・・
投稿が遅かった私のミスなのですから・・・
ミノルの体術による連戟、そして渾身の突き上げによりレダは無造作に空中へと人形を放り上げたかのように受身を取ることなく、どさりと落ち二度ほど転がると仰向けのまま起き上がることはなく、ピクリともしなかった。
両手は本来曲がるはずのない方向に曲がっており、鳩尾部分から喉元にかけてミスリル製の胸当てをも大きく皮膚が引き裂かれ、そこから流れる血が地面を濡らしていく。
良く見るとレダに振り上げたミノルの前腕部に逆刃の鋸の様な鱗が生えているのが見え、それがあの傷を作ったと予測できる。
先刻、教授を受けていたドラゴニュートモードは本来の姿よりは遥かに劣るものの、戦闘形態としては破格の性能を誇るはずである。いくら古龍相手とは言えそこまで強靭な肉体と強固な鱗の体に対し、容易に深刻なダメージを受けるはずのものではないと自身も今までに無い新しき姿に確信と、感動を覚えていた。
―――莫迦な!
そう心の中で叫びつつエレーナは周囲も見る。
ドラゴニュートモードを知らぬとは言え、何十倍、何百倍の圧倒的な兵数にも互角以上の戦いをし、リュセフィーヌが帰還するその日までほとんど負けることがなかった兵が、どの種族よりも優れた膂力と魔力、回復力を持つ兵百数十名にも及ぶ精強な兵達が起き上がることはなく、地に伏し無残な姿を晒す者や壁にめり込んでいる者、ミノルの周囲には誰一人再び立つことがない光景に、愕然としてしまう。
視界の端に、救護兵らしき数名が現場へ向かって来るのがみえた。
その中で戦いが終え、頭を下げ血に染めた両腕をだらりと垂らし只一人立っていた人物が、ふと何かに気付いたように顔を上げると、ゆっくりと歩みを進め、倒れるレダへ深紅の視線を下ろす。
無表情のミノルは左腕をおもむろに上げると指をピンと伸ばし「貫手」の形を取り、彼女へと振り下ろす体勢に移して行く。
身体に纏っていた黒きオーラが振り上げた腕へと集中していくと、メキメキと音を立てながら一本一本の指先が鋭く姿を変えると、彼女を注視したまま足を開き腰を落とし構え直し、目標が定まったのか何かを抉り取らんばかりに手を開いた。
レダは痙攣しながらも、焦点の合わない目でミノルを見ていた。
まさか止めを刺すつもりか?―――
レダが殺されてしまう!
そうはさせまいとエレーナは愕然としていた状態からミノルを止めようとようやく動き始める。
ドラゴニュートモードでは敵わない、ならば龍化で彼で圧倒し、"狂化"を―――息の根を止める為に地を蹴り飛び出す。
「レダあああああああああ!きさまあああああ!」
エレーナの叫びに"狂化"したミノルは聞こえてないのか、レダを見つめたまま三日月の笑みを浮かべそのまま左手を振り下ろしはじめる。
―――ギリギリ間に合う!勝った!
龍化は間に合い、そのままミノルを噛み千切ろうとしたが、歯ごたえがない。
頭上に気配を感じた彼女は視線を移すとミノルはその場から先程の体勢のままでジャンプしていたようで、そのまま彼女を見ていた。
エレーナは尾を使って追撃を加え、数十メートル先へとミノルを弾き飛ばす――事はなく、手ごたえが全くなかったのである。
―――消えた!何処に
「何処に行ったのか!」と言う間もなくエレーナは背後に恐ろしいまでの殺気を感じ振り返ると、エレーナや他の龍達より一廻り小さな龍が牙を剥きながら立っていたのである。
◇◆
ミノルは目の前に倒れ、傷つき、虚ろな目を向ける敵に止めを刺すべく、左手を振り下ろそう力を込めた。
しかし、"直感"が左後ろの鋭い殺気に気付き、一瞬だけ視線を向けると自身を滅するべく"龍化"した彼女が口を大きく開き噛み千切ろうとしている事に気付いた。
「イノチビロイヲシタナ」
レダに向かってそう呟くと、ノーモーションでその場から飛び上がる。
飛び上がるミノルを見ていたレダの目の前が突然遮られ、その正体と見ると龍化したエレーナであった。
目標を見失った彼女が起き上がった時にレダの視界が再び開けるが、既に飛び上がったミノルの姿は何処にもなかった。
「エ…レー…ナ……にげ、て。彼…は……狂化であって狂化していない……」
残りの体力を使って振り絞ってレダは呟くと、辛うじて保っていた意識を手放すのであった。
◆◇
ミノルは迫りくる尾の勢いを利用し更に上空へと飛び出すとエレーナを見ながら"龍化"し、羽を広げるとそのまま静かに彼女の正面へと着地をする。
ミノルに気が付いた彼女はグルルルと唸りながらミノルに飛び掛ろうと構える。
彼は知らなかったし、漠然とした"魔王"がどういうものかという事しか教わっていなかった。
フィーグルに於ける"魔王"と言う歴史、存在や在り方。
これから暮らすこの世界でゆっくりとリュセフィーヌや他の有識者から教育を受けていけばいいし、そうするつもりだった。
魔王になると言った時のリュセフィーヌや側近と思われる人達の表情を見たときには「あれ?いけないのかな?」とも思ったが、言ってしまった以上"なぜ?""目的は?"と理由を述べた。
しかし返ってきた言葉は「否定」。
そして天狗になっているお前を叩きのめすと言うのだ。
そこからミノルは憮然となり、リュセフィーヌの言う通りに叩きのめされる。
ここからが2人にとって間違えたきっかけとなる。
"もっと話し合っていれば""ここで一つ深呼吸をしたら"良かったのではないのではなかろうか?
"~たら""~れば"で後悔先に立たず、ここに後の世で言う「漆黒の暴虐龍」が誕生してしまった。
彼は歓喜に打ち震える。
あの"壊したい""蹂躙したい"と心の底から湧き上がる衝動に身を任せ、これから起こるであろう己の持つ全てで骨が砕け、肉が避ける感触、破壊する度に胸の奥がすく思いに喜びを感じていた。
しかし、その衝動に全てを委ねては面白くないと思った。
ミノルは思案する。
幼き頃に学んだ"あの技術"を使うことが出来ればもっと面白い事になるのでは?
TVで観た時から憧れ、学ぶ場所があり、親に頼み込んで即座に飛びついたあの技術。
師匠から教わった時に「守るべき者や時がある場合のみ使いなさい。決して邪な事で使ってはいけない」を守り、いじめられっ子になっても使わず、運動不足解消とストレス解消のみにしか使わなかった。
少年時代は型のみの演舞だったが、大人になってからの同じ趣味を持つ友人達との実戦形式での組手を経験し、更なる修練からソレは凶器となってしまっていた。
ミノルは使おうとは思っても決して実践する事は無かったが、元々龍の持つ性格と今迄に経験した衝撃体験そして、悪意に晒された事が固く誓ったはずの枷を外す事になる。
龍族やフィーグルで使用される体術はスピードとパワーが重視され、タックルからの組伏せ、キックや打撃を用いる物であって、ある程度の技術も必要ではあるが、組み伏せて倒そうとしても、ガードを無視、至近距離での絶対的な一撃、それを避けて距離をとればどこから来るか判らない鞭の様な攻撃にやまるでスルリと抜けてしまう動きに翻弄され、しかも動きに隙が無く次々と倒されて行く様にミノルは、いつの間にか自身が声は出さず笑っている事に気付く。
その楽しさも終わり、周囲には呻き声を上げるモノ達で溢れており、目の前に口から血を流しうつろな目をしたモノが仰向けに倒れていた。
――あぁ、コイツも俺を蔑んでいたな――
とりあえず、この煩わしいモノをどうにかしようとした時にそれが起こり今となる――
◆◇
ミノルを前に彼女は告げる。
「これから貴様を処分する」
「ナゼ?」
「瘴気に侵され"狂化"した者はやがて"瘴気落ち"をする。そうなった古龍は破壊の権化となり、瘴気を撒き散らし土地を穢しながら世に災いを齎す」
「ホウ?人族アガリノクセニ、生意気ナ口ヲ利クカラ叩キノメシタラ、逆切レシテ返リ討チニ遭ッテ悔シイカラ処分スルノ間違イデハ?」
「黙れ!」
「"狂化"ハ大義名分ガ成リ立チ、討チ果タセバ、リュセフィーヌガ戻ッテキテ万々歳ナノデハ?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!姫様を名前で呼ぶな!」
彼女は叫びながら《魔導:爆炎槍×100》を放つが、古龍の障壁と強固な鱗をも貫く100本の炎槍はミノルを貫く事も無く、彼の目前で霧散した。
彼女は目を大きく開き、驚愕する。
通常の"狂化"であれば、会話は成り立ちはするが殆どの場合、滅する殺すなどといった破壊的な言葉を発する筈が、普通であれば挑発すれば激高し猪突猛進とばかりに攻撃を仕掛けてくる筈が、言葉はカタコトであるが逆に相手を挑発し攻撃に対して防御すると言う行為自体が有り得ない。
――エ…レー…ナ……にげ、て。彼…は……狂化であって狂化していない……――
初めはレダの呟きが何だったのだろうと思っていたが、今彼を目の前にして頭の中でかちりと何かが合致する感覚を覚え、自分が挑発に乗り攻撃を仕掛けた事を恥じていた。
お返しとばかりにミノルはに向かって《魔導:極氷槍》を3本放つが、それを彼女は解除し霧散させるが、突然後ろから数十本に渡る《魔導:極氷槍》が左腕に突き刺さる。
「ギ!きゃあああああ!」
「阿呆ガ、前バカリ見テイルカラダ」
だらりと下がった左腕に数十本の氷の塊を生やし悲鳴を上げるエレーナに鼻を鳴らしながら呟く。
「サアドウスル?人族風情ガ図ニ乗ッテイルゾ?サア、俺ヲ処分スルノデハナカッタノカ?」
「殺す!貴様のような穢れた存在をしょうめ、つ・・・」
突き刺さる氷の矢を砕き《魔導:完全治癒》を施しミノルに向かって告げるがその言葉は途中で遮られる事となる。
彼女が左腕に視線を向けた瞬間にミノルは羽を広げ、彼女へと間合いを縮めて、その頸へと噛み付かんとしていた。
彼女は目の前に大きく口を開き噛み砕かんばかりのミノルに気付くと、《魔法:瞬間移動》で数歩後ろへ移動す――る事は無く、かろうじて頸は免れたものの、右肩に噛み付かれてしまった。
ミノルは顎に力を入れると肉の引き千切れる音と骨の砕ける音を聞きながら、彼女を頸の力だけで持ち上げる。
「あああ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
彼女は右肩に噛み付いたままで持ち上げられた衝撃と、そのまま噛み千切られようとされる激痛に叫びを上げながらも、ぶら下がった状態から反撃しようともがき始める。
「《魔導:針千本"影"》」
「ぎゃああああああ!」
ミノルがグルルと喉を鳴らし詠唱するとミノルの全身から先端が鋭く、良く見るとドリルの様に捩れた影が無数に伸びて来ると、彼女目掛けてその先を次々と突き刺さっていくと、叫びを上げながらもがいていたが、暫くするとだらりと静かになる。
「ククククッ。ドウシタ?」
「あぐ!っぐううううううう!」
「エレーナ様ぁ!」
ミノルは抵抗の無くなった彼女に声をかけ、そのまま突き刺さった影針の先を高速回転させると、苦悶の声を上げる。
為されるがままの彼女を助けるべく、回復が終わりミノルの手から救うべく動いたシャムロックに続いて、観客席に居た残りの兵達も動き出す。
ミノルもその動きに気付き彼女から《針千本》を抜くと、こちらへ向かってくる兵達へと先端を向ける。
右肩を噛み千切ることなくそのまま口を離すと、どしゃりと音を立て力なく横たわる彼女に一瞬目を向けたが、自身へと立ち向かってくる兵達へと視線を向きなおす。
「サア来イ!選民思考ニ凝リ固マッタ愚鈍共!オマエラハ他種族ノヨウナ寛容サハ無イ!矜持ダケガ無駄ニ高イ阿呆バカリダ。粛清出来ルモノナラヤッテミロ!ソノカワリオマエラノホトンドヲ道連レニシテヤル!」
ミノルは向かってくる兵達へとその血が滴る先端を再び高速回転させながら影が伸ばしてゆくのだった。
「もう止めよ!もうやめるのじゃ!どこでどう話が変わってしまったのじゃ!?双方とも!その矛を収めてくれえ!!」
リュセフィーヌの叫びとも言える言葉に皆が歩を止めるのであった。
久しぶりの投稿でした。
本当にすいません。
最後までお読みくださりありがとうございます。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。




