ドナクレア島開放への道②
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入浴により身綺麗となったリュセフィーヌが、朝食を摂りながらドナクレア島解放に向けた軍議に参加していた。
コカトリスのガラとストロングピッグの骨から出汁を取ったスープで山菜たっぷりの雑穀粥と干し野菜を湯で戻したサラダ、数種のピクルスを食べながら今後の展開方法が話されていく。
「此度のリュセフィーヌ様の帰還、そしてドイン様の遺志を継ぐべく領域守護者の宣言により古龍の魔力が徐々に浸透していっているはずです。
おそらく各地の住民に"領域者の恵"が徐々に付与されるはずです。ドナクレア島全体へ浸透するには3週間といったところでしょうか」
眷属である武官が話し始める。
「そうさな…人種よりも力があり己の肉体が武器である妖魔族、獣族達は牙を抜かれ、指先を焼かれ、翼を斬られ戦う事が出来なかった者が、昨日より突然傷が癒え戦う力を再び持つ事が出来るようになった。
しかし、リュセフィーヌ様の帰還を知る事も無く、アドラ軍よりも極少数である彼らはどうしていいか分からぬはず」
各地で起こる事象をゴラウシスが予測する。
「まずは、領域守護者とそれによる"領域者の恵"が復活した事を各地の隠者に使い魔便にて通達し、各地で蜂起してもらいましょう。そして地下活動―――ゲリラ部隊を形成してもらい従事していただきましょう」
シアンは今後の活動において話を始める。
周りの武官達は「そのまま救出して一か所に集めたほうが」という意見や「非戦闘住民はどうするんだ?」と、やいのやいのと騒がしくなっていた。
話を続けるためにシアンは右手を軽く上げて静粛を求めると、そのままシアンへと視線が注がれる。
「次に我々本隊は"領域者の恵"の浸透が完了するまでの間、ここバーミスタを中心に周辺の町や村を開放をメインに活動を開始。
各地の活動を開始したゲリラ軍と合流し、軍の拡充を図りましょう」
確かにシアンの言う通りに計画が進めば、解放された町や村にいる住民に「さあ、戦争するからついておいで!大丈夫!古龍様の御加護があるんだから未経験でも大丈夫だよ!」なんて言われてもはいそうですかと言う訳にもいかない。
もともと小競り合いやアドラ軍との前線での戦いはあっても、戦闘や直接的に関わった事のある住人は少なく、精々魔獣の森での狩りや畑の鳥獣対策程度しか経験がない。
だがしかし、腐ってもドナクレア住民。
非戦闘者においても、もともと亜人は全身これ凶器と言わんばかりの肉体を有している。
非力と言われるエルフ族でさえ魔術封印が施されていようと、その素早い動きと、"森の民"と呼ばれるとおり、住宅地でも木々を軽々と飛び移るように3次元の動きをもって戦う事が可能である。
しかも"領域者の恵"を付与された状態では到底人種の敵う相手ではないことを付け加えておく。
ならば、今回のドナクレア島解放、ゲリラ活動をきっかけに『戦争』というものを体験させ、ゼロの人間を一から訓練を施すよりも即戦力として組み込むことが重要であると彼女は考えていた。
そして町や村を開放すれば、合流するかもしれないゲリラ軍や志願兵の増大に武器や防具の生産が間に合わなくなる可能性もあり、敵の保有する武具の鹵獲も目的としてあった。
何も剣を持って戦うだけが戦争ではない―――。
――陣地を構築するため塹壕堀りなどをする工兵。
――剣や鎧の補修のための鍛冶師。
――食料調達や医療に従事する衛生兵
兵站に必要な人員のほうが実は前線で戦う兵士と同等以上の人員が欲しいとシアンは考えていた。
そしてもう二つ、一つはゲリラ戦を展開することによって各地に展開しているアドラ駐留軍を疲弊させる事によって解放軍が攻め入った時に戦場の流れを有利に運ばせる事も彼女の考察の中に入っていた。
最後の一つは長い期間にわたって強制労働などによって疲弊した民が、いくら"領域者の恵"によって回復し、参戦したとしてもあまり無理をさせることができない。ましてや今回はなるべく短期間で解放作戦を実施したく、通常の戦争よりもバックアップ体制を十全にしておきたい事もあった。
「うむ、"領域者の恵"浸透後は東の港湾都市コロポクル解放か、それとも交易都市サウザセンタの解放…のどちらか、それともいっそのこと両方に攻め入るか?」
シアンの意見にゴラウシスがニヤリと笑い彼女を見る。
「父様…いやゴラウシス閣下、その…戦いに血沸き肉躍るのは構いませんが、両方を同時に責めるのはさすがに無謀かと…先にコロポクルの攻略に入ります。軍の一部を残してそのまま各地の解放作戦を実施。我々本隊はコロポクルを開放後、東部の町や村を開放しながらサウザセンタに向けて南下します」
「元帥閣下、龍族でもドナクレア城攻略前線であるサウザセンタは万全の戦力で臨むべきかと…
アドラ軍が最近導入したリュセフィーヌ様の言う兵器"みさいる"や"せんしゃ"、"こうげきへり"と言いましたか?
あれらが集中したあの都市はさすがの魔龍族や龍族も無傷ではいられません。ましてや我らよりも力の弱い眷族や、参戦してくれる住民達に多大な被害が及ぶのは目に見えております」
シアンともう一人の龍族、ゴラウシスの親戚にあたる炎龍種の将軍が意見を述べていた。
ゴラウシスはまさかドストライクな正論による突っ込みをされたことに恥ずかしそうに頬を赤らめながら「ちょっと言ってみただけじゃ」とプイっと横を向く。
参加した武官達は苛烈なお茶目に苦笑いを浮かべる。
シアンは「まったく…」と、こめかみにしわを寄せ首を左右に振るが、話を戻すべく作戦武官に人員や物資、行動内容を現時点での現状を踏まえ話始める。
昨日の今日に開放したばかりというのにかなりの込み入った話になっていることにリュセフィーヌが驚きを隠せなかったが、よく見るとシアンの後ろに控える十数名の武官の目には隈ができており、2~3人舟を漕ぎ始めているものもいた。
――この戦いが終わった暁には報奨金を多めに包んでやろう――と思うのであった。
軍議もおおよそ終わりを迎えリュセフィーヌへ最後の総評を述べるようシアンより促される。
「さて―――」
ここで朝食を終え、コーヒーを飲みながら話を聞いていたリュセフィーヌが口を開く。
「妾は城へと戻り、魔法防御陣の形成と展開じゃな。奴らの大規模魔法を撥ね退けたのちに、魔法防御陣の解除及び本来の防御陣の形成、領域守護者の更新作業へと入る。
しばらく城から動けなくなってしまうが、皆の者――くれぐれも死んではならぬ!英霊となることは許さぬ!必ず5体満足でこの地を踏み、再び会う事を命令する!」
「「「「「は!」」」」」
全員が起立し、気を付けの姿勢から右手で左肩を掴むようにして――ドナクレア軍の敬礼をし、返事をするのであった。
◇◆
リュセフィーヌは護衛の龍族3匹を伴ってドナクレア城を目指し魔獣の森上空を飛んでいた。
バーミスタからドナクレア城への軸線上にはサウザセンタがあるが、迂回してドナクレア城を目指していた。
彼女にとって現代兵器の威力は体験済みで、自身を傷つける事が出来ない事を知っていたが、護衛となった龍族にとっては脅威となりえているとの報告により、迂回する事を選んだ。
もちろん彼女もヤーノから話を聞いていた中型や大型、そして核を搭載したミサイルは古龍にとって脅威となるのか不明であったし、もしその兵器がサウザセンタに配備されていた場合、怪我若しくは重症となると今後の行動に支障があると判断した事も理由の一つであった。
「数年ぶりの我が家じゃ。皆は元気にしているだろうか?無事であろうか?」
ドナクレア当主ドインの葬儀以来、城へ帰らず戦場を渡り歩いていたリュセフィーヌにとって久しぶりの我が家である。
眼前に見えてくるドナクレア山上部に位置するドナクレア城は龍本来の姿でも歩く事が可能なくらい巨大な本殿を中央に右と左には本殿を上回る高さの尖塔が本殿を囲むように4つ。
それを囲むようにして大小様々な宮殿に囲まれその周りに宮殿に従事する文官や武官、守備軍の庁舎などがあり、山肌に沿ってできた都市のような城である。
城壁や建物は白を基調とした蛍貝石でできており、昼に溜め込んだ光を夜には淡く光り人々からは「不夜城」と呼ばれていた。
遠くからは白く荘厳な城に見えていたが、リュセフィーヌが城に近づくにつれ、城壁のあちこちが崩れ、右の尖塔1本が中腹から崩れ落ちており、周りの宮殿も半壊の部分が見えてきた。
「リュセフーヌ様。貴方がお戻りにならなければドナクレア城陥落は以てあと数日というところでした」
「…そうか。お前達、よくぞ持ちこたえてくれた。感謝する」
「勿体無きお言葉。感謝いたします」
リュセフィーヌが思っていた以上に荒廃した城壁内に驚きは隠せなかったが、帰る場所を守ってくれた護衛と城で務めているであろう人々に感謝するのであった。
そして城へと降りようとしたその時、尖塔の一つから鐘の音が2回、3回、2回と繰り返され鳴り響く。
「この音は…敵襲来の鐘音か!?」
リュセフィーヌが北の空を見ると浮遊戦艦数隻とそれに追随する戦闘ヘリが数十機、そして後ろからは下から炎を吐き、弧を描きながら巨大な矢が10本、城へと迫っていた。
「おのれアドラ軍!彼奴等は妾が殲滅する!貴様等は城下へ被害が及ばぬように耐衝撃結界と耐物理結界を張るのじゃ!」
「姫様なりませぬ!御身自ら矢面に立つなど!」
「…久しぶりに"姫"と呼んでくれたな。嬉しいぞ。だが心配無用じゃ!!本気の妾を侮るでない!」
「姫様…。分かりました!御武運を!!!」
護衛についていた3匹の龍達は、その場にリュセフィーヌを置き、城下へと降り立ち耐衝撃結界と耐物理結界を城に張り巡らせる。
実はこの3匹の龍族はドナクレア家の庶子家にあたり、リュセフィーヌの祖父ヘキサ・ドナクレアの妾の子(3人とも母が違う)の子供達となり、守護騎士家としてドナクレア家に仕えていた。その中で次男、三男の男児がリュセフィーヌの護衛役として仕えていた。
リュセフィーヌとは主従の関係だが、彼女が同盟国救済の為に、一人島を飛び出すまでは幼馴染として暮らしてきた間柄であった。
「よくも我が家をここまでにしてくれたな。対価を払ってもらうぞ」
リュセフィーヌはその場で羽や手足を大きく広げ、敵艦隊とミサイルを見据える。
「■■■■■・■■■■■■」
人語とは明らかに違う発音で何かを詠唱すると、赤や青、白や黒といった色とりどりの直径1mの球が彼女の周りに浮遊し始めると、突然増殖をはじめ彼女の左右に一気に浮遊する球が両翼1kmへと広がる。
――その数1万7千個――
浮遊する球一つ一つが中級に位置する魔導弾で範囲は実に300mのクレーターを作るほどの威力で、その爆発力を50m以内に圧縮を施したえげつない代物と化していた。
おそらく中心温度や衝撃は、計り知れない物であろう魔導弾は龍の手にもかかわらず、器用にパチンと指を鳴らしたリュセフィーヌの合図と共に意志を持ったかのようにそれぞれがアドラ軍―地球軍合同―は数の暴力という名の前に次々と墜とされていく。
アドラ軍の用意したミサイルは榴弾型の弾頭で、ドナクレア城上空で爆散したが、漏れなく迎撃されてしまう。
リュセフィーヌ正面に位置していた浮遊戦艦や攻撃ヘリからも空対地ミサイルが撃ち込まれるがこれも同じくすべて迎撃され、さらに彼らに向かって後続の魔導弾の嵐が押し寄せる。
圧倒的と呼ぶべきであろうか?いや、もはや蹂躙という言葉が相応しく、アドラ軍は対抗する術も持たず、唯々力の奔流に呑まれ断末魔の暇すら与えられず、この世の生を手放す事となってしまったのである。
あるものは火属性の熱で、あるものは雷撃による超高電圧で、そしてあるものは重力というとてつもない加圧によって―――
城下で結界を張っていた3匹は衝撃波で何度も結界が崩れそうになりながらも懸命に魔力を注いで結界の維持に努めていたが、その衝撃が止むと上空を見上げる。
その目線の先には空中で起きている爆煙と魔の森へ降り注ぐ敵残骸。
そこにはリュセフィーヌ以外の生命は存在せず、ただその場にとどまる黄金の鱗に身を包んだ龍が存在するのみであった。
3匹は戦慄する。
これが古龍―――。
神の天敵、この世で唯一神を消滅させる事が出来る食物連鎖の頂点から更に上の存在。
同じ血を分けた存在でも、直系と傍系の絶対的な力の差をまざまざと体験するのであった。
「ふん!他愛もない。アドラよ、まだまだツケは残っておるでの。取り立てに行くから待っておれ」
両手を腰に当てて先にあるサウザセンタの都市を見据えて鼻を鳴らすと、そのままドナクレア城へ方向を変えり、合流した3匹の龍と共に城へと降り立つのであった。
これより先、ドナクレア島はバーミスタを起点とし周辺の町や村、コロポクル解放、瞬く間に膨れ上がるドナクレア解放軍、そして合流したリュセフィーヌと共にサウザセンタの開放を果たし、ドナクレア島の解放を果たすのであるがその話はまたの機会としましょう――――
長々とお待たせいたしました。
本職での去年度の残務整理が残っておりますが、少しづつではありますが投稿してまいります。
最低でも週1ペース。目標は週3ペースにしたいと思っております。




