波乱の始まり
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仕事疲れで寝込んでしまいました。
お待たせして申し訳ございません。
拙い文章ではございますが、どうか楽しんでください。
農家の朝は早く、東の空が白み始めた頃には朝食も終えて、農場へと向かうのであったが、本日のレトバルト家は、オースティンとヴィオラ、ミノルの見送りに玄関に集合していた。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「母さん、くれぐれも無理はしないでくださいね」
「おいおい、私の心配はしてくれないのか?私だって何かあるかもしれないのだぞ?」
「父さんは大丈夫でしょ?なんたって歴戦の勇者なんだから」
長男の言葉に冗談交じりのオースティンの言葉に笑いながら話し、拳を合わせるのを見てほほ笑むミノル。
「それじゃあ皆さん、御両親をお借りします。何かあれば私が守りますから」
「よろしくお願いします。また今度ウチに寄ってくださいね。その時はゆっくりと話を聞きたいですしね」
オースティンの息子達との別れの挨拶をしたミノルは、昨夜複製してもらったオースティンの記憶をトレースして、マッカラーンの下へと転送するのであった。
◇◆
タイ王国バンコクから北へ70㎞進んだアユタヤ県――。
さらに中心地から西へ十数キロの所に、田園風景が広がり、比較的大きな農場を経営するマッカラーンの一家が住む家の前に、ミノル達は転送してきた。
「ここがマッカラーンの家だよ」
オースティンの指差す先には、大きな門があり、門扉は鉄柵になっていた。
彼の住む家はオースティン邸よりも小さいが、敷地内には数件の家が建っており、奥から人の泣き声が聞こえていた。
「声もそうなんですが、周囲が悲壮に満ちていますね」
「そんなこともわかるの?」
「ええ、古龍の持つ直感力といいますか、周囲の殺気や個人の状態を感じる事が出来るんですよ」
「それを感受することができるの!?ドラゴンってすごいわね」
ヴィオラから感嘆の声が挙がり、知りたくない時まで流れてくるのはちょっと…と、頭を掻きながらミノルは話す。
オースティンを先頭に門扉をくぐり、母屋らしき周辺の建物より大きな家屋に近づく。
見た感じは日本家屋のように、平屋で田舎にあるばあちゃん家といったイメージを思わせる家屋であった。
縁側には十数名の老若男女が集まっており、涙を流すものもいれば、不安でキョロキョロと見まわすものがいた。
悲壮感漂う人達の中心には、衣服と思われる布切れを額に当てながら涙を流し、跪くムンチャイの姿が見えた。
「オースティン殿?オースティン殿なのか!?それに奥方まで……っ!ミノル殿!?」
3人に気付いたムンチャイは立ち上がると、フラフラとオースティンに近付くと右肩を掴みながら「弟が、弟が!」と嗚咽を漏らしながら叫ぶのであった。
オースティンも自身の孫娘が同じ目にあったと告げ、2人で抱き合いながら肉親の不幸を悼み、肩を震わせたのだった。
ひとしきり悲しむと、落ち着きを取り戻し、ムンチャイはミノルの地球へ来た経緯を聞くと、勇者と公国に対し怒りをあらわにしたが、ミノルから勇者達の愚行を止める事が出来なかったと頭を下げ謝罪をされるが、ミノルが責任を負うことではない、そもそもこのような行為をする彼らに責任があると告げ、自分に出来る事があれば何でもすると言った。
その日の夜―――。
ムンチャイの屋敷前に祭壇が作られ、義弟一家が使っていたとされる身の回りの物、常に身に着けていたアクセサリーや愛用品の数々が祭壇へと置かれていく。
「俺にはこれしか出来ないが…」
そう言ってミノルはドラゴニュートモードへと変身する。
ミノルの姿を見る親族達は驚き、騒然となったが、ムンチャイと実父の一喝で静かになる。
祭壇の前に立つミノルは両手を広げると、地面から白いユリの花が一面に咲き乱れ、祭壇の義弟一家の遺品が光に包まれる。
「もしかしてこれは……華魂の義!?」
「そうだ。輪廻を望まず肉親や子孫の繁栄と豊穣の為に地の英霊となる儀式。最も魂魄と肉体がないので、英霊となれないが、そういう者達を敬う為の儀式としても使われるものだ。ムンチャイの知る時代よりも儀式的な色が強くなっているがな。今でもフィーグルでは、人族、天使族以外はモンスター種の瘴気落ちして死んだ者達へは必ず使われているよ。ミノル君は私の孫の為にも昨夜執り行ってくれたんだ」
ムンチャイの問いにオースティンが答える。
フィーグルでは人族と天使族は、故人の葬式と命日の祈り程度だが、それ以外の種族は年に3度、国によって行う時期は違うが、瘴気を昇華して、地の恵の為に尽くす者達への感謝と、その者達に代わって自分達がその地を守ると決意する為の儀式となっていた。
周辺に咲いていたユリの花や、義弟一家の遺品が光の玉となり、上空へ舞うと次々にシャボン玉が弾け、雪のように降り注ぐと、地面へと吸い込まれてゆくのであった。
「ミノル殿。弟達の為に華魂の義を執り行って貰える事に感謝に絶えない。ありがとう…。ありがとう!」
祭壇に背を向け、ムンチャイへと向き直るミノルの手を握り、感謝するムンチャイに「すまない」と何度も言うミノルであった。
儀式も終わり、これからの事についてオースティン夫妻、ムンチャイ、ミノルとで話し合いが始まる。
ムンチャイはミノル達と行動を共にすると誓い、ミノルの血を飲み魔道具を受け取る。
「多分、境界の自己修復能力を門に移しているので破壊は不可能と見たほうがいい。今回は越境門をくぐってフィーグルへ戻ることを優先させてもらおうと思う」
「え?異世界へ行けるの!?私楽しみだわ!」
「おいおいヴィオラ、遊びじゃないんだぞ…」
「もはや行けないと思っていたフィーグルですか。私を覚えている人は殆どいないでしょうね」
ミノルの提案に、ヴィオラが興奮しだすと各々が話し出す。
「まずは東京に移動して、俺が知る知人がいるんだけど、そこで今までの状況を聞こうと思う。次に、神戸に向かい、強引に門をくぐってフィーグルへ戻ろうと思っている。俺が龍化して門へと続く周辺の幹線道路を破壊してなるべくフィーグルへの兵器搬入を遅らせます。そのままオースティンさんと2人は俺の頭に乗って身を隠しておいてください。私と関わっている事がバレてしまうと後々の計画に支障がありますので、お願いします」
ミノルの提案にそれぞれが頷く。
「ありがとうございます。門をくぐる直前になったらドラゴニュートモードに変身しますので、俺が少々無防備になりますので、その時のフォローもお願いしますね。あとはフィーグルに行ってから3人ともメーフェの使徒となれば、力を取り戻すことができるはずです。オースティンさんとムンチャイさんは感覚を取り戻す。ヴィオラさんは……向こうに行ってから方向性を決めましょう」
こうして4人は東京へ向かうこととし、ムンチャイは明日旅立つ準備と、家族との話し合いに席を外し、ヴィオラはファンタジーの世界が見られると、カメラとビデオをせっせと磨いていた。
オースティンはミノルから作ってもらったハルバードを持ち、外で昔の感覚を取り戻すべくトレーニングを積んでいた。
『メルディアさん、聞こえてますか?』
ミノルは上空2000mの位置でジッと目を瞑り、メルディアとの交信を試みていた。
『――い―は―い――はい、意識がつながりましたね。聞こえますよ』
『メルディアさん、相談なんだけど……』
『ああ、分かっています。まずは妹の世界からの越界から始めるということですね。正直言いますと、そっちのほうが助かります。なぜなら―――』
地球上の大陸に越界のバイパス出口を作るには、地球世界に現存する神族の力が及んでおり、新たな陸地を創造して出口を作ったほうがやりやすいとのこと。
神族の勢力圏に出口を作ると、出口の座標固定も難しく、バイパスが安定せず、他の世界につながってしまう可能性が大きいので、そこに住む創造者に迷惑が掛かり、第3者を巻き込んだ戦争につながりかねないと、メルディアが答えた。
『ですので、フィーグルから大地を創造できる古龍さんに出張ってもらって、神族の勢力圏ではない陸地を作っていただいたほうが助かります。私は無から有を作り出せますが、有の中から作る力がないもので……すみません』
『いえ、でも創造というからには、無から有を作り出すことなのでは?』
『ああ、言葉的にはそうですが、実際には”遥か昔にあった陸地を再び蘇らせる”といったほうが早いですね』
遠い昔、人類がようやく文化らしき物が出来始めた頃、それとは別に一線を画した天使族は強大な魔法文明を築いていた。
魔法文明は恐竜時代から存在しており、その力は地球全域に及んでいたが、地球をより快適に暮らせるように地球を変革させる魔法を実施した。
しかし、その魔法は大暴走を起こしてしまい、大陸は消失し、余波で恐竜は絶滅、天使族とその眷属であった人類も絶滅寸前まで追いやられる事となった。
僅かに生き残った人類と天使族は残った陸地へと移住し、長い年月を経て独自の人種、文化、宗教が形成されて行くと、天使族は神族として格を持ち、魔法の失敗から、錬金術を用いた科学を優先させ、現在に至るという。
『大雑把に説明しましたが、その時の余波で沈没した小大陸や、島を復活させることができれば、新たな領域を形成することが可能です。残念ながら、私が造った世界にいた種族はその時に絶滅してしまいました。』
『なるほど、分かりました。そこは他家の古龍からの援助を頼みたいと思います。多分、地球人類と戦争が起きることは、御了承していただけるのですね?』
『それは仕方がないと思っております。ここまで大きくなってしまうと、避けられない事案と思ってますから』
『ありがとうございます。それではまた何かありましたら連絡致します』
『はい、フィーグルでは妹を介して連絡ができますので、妹を使ってください。あと、妹にはサボり癖と酒を飲みすぎないようにと伝えてくださいね。それではまた―――』
ミノルは目を開き、地上へと降下していく。
「さすが姉妹。あの呑んだくれ女神をよく知っている」
ミノルはフッっと一笑し、オースティン達のいるマッカラーン家に戻るのであった。
翌日、マッカラーン家では旅支度を終えたムンチャイとミノル達が親族の見送りの下、庭先に集まっていた。
今回の事象については決して他言無用、絶対に外に漏らしてはならんとのムンチャイの実父から言い渡され、義弟一家の無念を晴らすと約束した。
「父さん、義弟の仇は必ず討って見せる。私はしばらく家を離れるけど、妻と子供をお願いします。そして弟よ、父さんと共に家を盛り立ててくれよ」
「任せてくれ!義姉と姪達は必ず守ってみせる!」
「息子よ。無事で帰ってくるんだぞ」
父や兄弟、妻や子との別れを惜しみながら、ムンチャイはミノル達の輪の中に入る。
「それではムンチャイさんをお借りします」
ミノルはマッカラーン家の人々に挨拶をすると、転送を展開して東京へと移動するのであった。
◇◆
ミノル達は東京都内の市部にある一軒家の門の前に転送を完了していた。
周囲の気配を探索し、怪しい点がないことを確認すると〈認識阻害〉〈隠伏〉を展開しインターフォンを押す。
「ここは?」
「ここは、私が東京にいた頃にお世話になった石井さんの家です。ここの御家族は私が古龍となっている事も知っています。日本での情報収集に協力してもらえるはずですので、安心して大丈夫です」
ヴィオラの質問にミノルはここを拠点とすることを伝える。
呼び鈴が鳴り、しばらくの間をおいて「はい……」とスピーカーから声がする。
多分、未菜の声であろうと思うが、なぜか声に力がなく、ミノルは不思議に思いつつ、話し出す。
「未菜ちゃん久しぶり、ミノルです。地球に帰ってきました」
ミノルの声に「え!?」と驚く声がすると、玄関向こうから走ってくる音がしてきた。
玄関のドアが勢い良く開くと、そこには未菜の姿があり、ミノルは「ひさしぶり」と微笑み声をかける。
未菜はミノルの姿を確認すると、両手を口に当て「ミノルさん…」と一言いうと、涙を流して玄関を飛び出し、ミノルに抱き着いて、声を出しながら泣き出してしまった。
「未菜ちゃん、そんな大げさだな。帰ってくるって言っただろ?」
「ミノルさん!ミノルさん!ミノルさん!ミノルさん!ミノルさん!うわああああ~ん」
ミノルは未菜の頭を撫でながら「心配させてごめんね」と声をかける。
しばらくそのままで、未菜が落ち着くのを待つと、グスグスと鼻を鳴らしながらもミノルから離れ、「おかえりなさい」と声をかけてきた。
「地球に戻ってきたのには、ちょっと事情があってね。それで数日だけど御厄介になりに来たんだけど、ケンゾウさんとヨシコさんは?出かけてるの?」
ミノルの言葉に再び大粒の涙を流す未菜。
「お父さんが!お母さんが!突然消えちゃったの!どうして!何が起こったのか私わかんないよおおおおおお!」
未菜の言葉に絶句したミノルは、頭の中が真っ白になり、その場に立ち尽くすのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。




