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ミノルと勇者と公女の事情

お忙しい中、通勤中、休日真っ最中の中、クリック&タップ誠にありがとうございます


お待たせしまして申し訳ございません。


拙い文章ではございますが、どうか楽しんでください。

 俺の正面に立つ勇者ヒデオとカオリの元にユキとミユが集まる。


「なるほど、前衛の近接に中衛の近距離、そして後衛の遠距離の魔法に回復役か。バランスは取れているというやつか?」


「違うな、他にも近接の重装に補助を主体とした魔法役がいる。それが正式なパーティーなのさ」


 俺の分析結果に、前髪を掻き揚げ、気障きざったらしく鼻で笑いながら話すヒデオに、思わず吹き出してしまう。


「………何が可笑しい」


 クックックと声を殺して笑う俺を見てヒデオは眼を細くし、低い声で話す。


「ププッ。ああすまん。お前、ヘ~イベイビ~とか、僕は勇者なのさ、セニョリータって言ってみ?多分似合ってるよ」


 俺の言葉に、キョトンとした表情をするヒデオだったが、横に並ぶ女勇者3人はとあるアニメのキャラを思い出したのか、横を向いて顔を真っ赤にしながら肩を震わせていた。

 一拍遅れて3人娘を見て、自分が何を言われたのか気付いたヒデオは、表情には出していないが俺をにらむ視線に殺気がこもっていた。


「てめえ…ころs―――な!」


「おせえよ」


 3人娘を見回していたヒデオに向かって、俺はダッシュして10mあった距離をゼロ距離まで迫り、右手を振りかぶっていると、気配に気づいたヒデオは俺を見たが時既に遅く、拳が彼の目の前に迫っていた。

 

「「「ヒデオ!」」」


 俺はそのまま拳に手応えを感じ、さらに力を込めて腕を振りきり、ヒデオを殴り飛ばす。

 地面に叩きつけられて回転も加わり、バウンドしながら5m先でうつ伏せに倒れていた。

 何が起こったのか理解できなかった3人娘は、地面へ突っ伏しているヒデオの名前を叫んでいた。


「バカか?お前達が攻撃を仕掛けて来た時から、すでに戦闘が始まっているというのにキョロキョロと余所見をして隙を作るとは、殴ってくださいって言ってるもんだ」


 俺は魔法袋から、接収した勇者達の白銀装備を鋳溶かして作ったガントレットを装備する。

 魔鉄鋼を芯として、聖銀のコーティングを施し、《貫攻》《金剛硬化》《魔導霧散》の付与を施したリュセフィーヌ謹製でドラゴニュートモードでしか装備ができないが、女神の武具と同等の性能を持ち、対極的な神殺しというべき武具であった。


「ぐううう!ひ、ひひゃま(貴様)ひょろひて(殺して)やる」


 口と鼻から血を地面へと滴らせ、前歯2本と鼻が折れており、悪鬼の表情でミノルを睨みつける。

 勇者から放たれる、凍てつく様な殺気は通常の人族であれば、失神してしまうほどであるが、ミノルにはさほど効果はなく、そよ風程度にしか感じない。


「さ、半減したというのならば全力出すぞ」


 俺は一言呟くと、勇者カオリから〈治癒〉を施されたヒデオの殺気に対抗するかのように、殺気を放ち魔力を開放し、手加減していた考えを捨てる。


 俺の覚悟が決まると同時に、周囲の魔素は肌に纏わりつく様な感覚を感じるほど濃密で、勇者達は恐慌や失神することはなかったが、水中にいるかのように動きが鈍くなり、全身から汗が噴き出ていた。

 彼等は、武器を強く握りしめ、再び隊列を組み俺へ挑もうと地面を蹴り、肉薄する。

 剣のヒデオ、槍のミユは見事な連携を取り、目で捉える事が出来ない程の連撃を放つが、俺は両腕をだらりと下げたまま、勇者達よりも高い背丈でありながらも、上体をそらしたり、回転をしながら全て躱す。

 当然、足払いや2人の上半身と下半身への同時攻撃にも対応しており、偶に攻撃が当たったかと確信したのか「やったか!」という表情をしたが、俺からのカウンターが襲い掛かり、何とか防御をして、受けるダメージを最小限に抑えていた。


「くそ。攻撃が当たらないか。みんな、いつものいくぞ」


「「「了解!」」」


「また余所見かよ!って!何!?」


 ヒデオの言葉に返事をする3人を見て、何かするのかと疑問に思いつつも攻撃を仕掛けたが、突然ヒデオとミユが眼前から消えてしまい、背後からの剣劇を受け止めるが、右側面からの槍による刺突が襲って来た為、体をよじりよけてが、穂先が掠ってしまい脇腹の皮一枚裂けてしまう。

 俺は舌打ちをしながらも、反撃を試みるが、当たる寸前で目の前から消えると、死角から反撃を仕掛けてくる。

 くそったれと思いながら、直感と気配を読み死角から来る攻撃に、反撃の反撃を試みるが再び攻撃が空振りしてしまう。


「ふう~………この感じは〈転移〉か?…いや、展開を感じないな。なるほど、スキル使用の"瞬間移動"だな?」


俺はなかなかヒットしない攻撃にイラつきを覚えたが、間合いを取り深呼吸をして落ち着かせると、再び戦いへと没頭する。


「ほう、よく気付いたなトカゲ。これは僕が持つ固有スキルの"瞬間移動"だ」


「…固有スキルならもう一人が使えるのはおかしい。〈複製〉と〈焼付〉か?いや…違うな…。まさか、情報にあった造語魔法か!」


 どうもこいつから感じる魔力に、おかしな波動を感じるようになったのでまさかとは思ったが、俺の言葉にこいつは唇を吊り上げるので、当たったのだろう。

 しかしこいつらと戦っている程、暇ではないので、何とか目の前にある練兵所の中に入り、越界門と魔方陣を破壊しようと思ってはいるのだが、勇者カオリの持つ杖から発生する防御結界は強固で、アドラ公国の作った聖武器ではなく、女神の持ち物だろうと推察する。


「トカゲ野郎のお前如きに使うのは勿体ないが、僕の言葉に魔力を込めることで、言った事がイメージ通りに発動する僕にしか使えない奇跡の力だよ。そしてお前は越境門に行くことはかなわないよ?カオリの結界は強力でね?僕ら以外はこの結界を通ることはかなわない。しかももうすでに発動に向けて準備は整っている!ははは~!僕たちの勝ちだ」


 得意満面の顔をしながら俺に向かって説明する。

 ありがとよ答えを教えてくれて。

 しかし、結界破りの方法がわかっても、こいつら一歩たりとも俺を近づかせまいと、瞬間移動を繰り返しながら俺の障壁を破って攻撃を仕掛けてきて邪魔だし、脇腹以外にも鎧から露出したところは傷だらけだし、〈治癒〉が追いつかなくなっているし、やはり倒してから行くのが先か?

 しかし、そんな時間はあまり残されていないと思ったほうがいい。

 何とか結界の壁に触れられれば、突破できるんだがな。


「チートも大概にしろってんだ。フィーグル全体に使う大規模魔方陣なら展開してから発動までに、大きなタイムラグが発生するはずだ。」


 ヒデオは俺はヘラヘラしていた顔から、真顔になると目を鋭くさせる。


「おいトカゲ、てめえ何でそれを知っている?……!!まさか!あいつら裏切ったのか!くそ!どいつもこいつも使えねえ!どうせ自爆したんだろ?ざまあみろってんだ!」


「裏切ったんじゃなく吐かせたんだよ。それにしてもお前ずいぶんと性格歪んでるな。フジワラナオにも隷属と洗脳くらわしていただろ?他人を信用しないってことか、地球でいじめか存在を否定されたのか?それでフィーグルにきて無敵の力持ったからヒャッハーして自分の立場を逆転させたってか?」


「てめえ、ただのトカゲ野郎じゃないな?なぜ地球の言葉を知っている?」


「否定はせずか…お前の問いに答えてやろう。俺は日本人で東京の〇〇区に住んでいた一零細企業の社長だった人間だよ。今は古龍としてフィーグルの住民となったがな――――」


「なんだって!」


「「「え?」」」


 俺の言葉に勇者4人は驚いていた。

 そして見逃さなかった。

 外見はドラゴニュートモードの姿をしているが、俺が日本人であるという事実に外見とのギャップもあったのだろう。

 戦っていた動きが止まり、その隙をついて結界の壁に近づく。

 

 "僕ら以外はこの結界を通ることはかなわない"

 

 この言葉通り、《複製》を展開し光の玉を生成する。

 魔法の〈複製〉は魔法などのコピーを作ったりするだけだが、魔導《複製》はそれ以外にも、人の複製を作ることが可能となっていて、対象個人の生体波動や魂の波動、魔力波動まで寸分たがわずコピーを作ることができる。

 最も人間の外見や記憶は作れないが、姿を似せたゴーレムに複製を入れ込めば大概の者は気づくことはない。

 そして作り上げた光の玉を結界壁にぶつけると、俺が通れるくらいの穴が開き、壁を通り抜けることに成功する。


「!!!!!しまった!」

 

「くらえええええ!」


 俺は《滅黒線》の魔導を展開し、目の前にある建物の壁に発射する。

 黒色のビームは、そのまま一直線に練兵場のグラウンドまで開通すると、俺は壁に開けた穴を走り抜け、背後を〈爆裂〉の魔法で追いかけて来れないように塞いでいく。

 ヒデオとミユは瞬間移動していたが、ユキとカオリは使っていなかった。

 ヒデオが造語魔法で写しこみをするか、一緒に瞬快移動するまでには、カオリの結界を収束してからの移動になる。

 ヒデオとミユだけでは、俺からの戦いによるダメージを回復しきれないからだ。

 リュセフィーヌとアーデルハイドよりも弱い俺だが、腐っても古龍の一撃は掠っただけでも重傷程度の傷を負ってしまうからだ。

 5秒、いや2秒でいいからその差があれば、魔方陣か越界門どちらか一方の破壊は可能だ。

 その後に、勇者と戦いながらでも、もう片方を破壊すればいい。


「よし!これで阻止ができる!」


 俺は目の前に見えるグラウンドと200m先の視界に見える越界門らしき建造物と地面に淡く光を放つ魔法陣があることを確認すると爆破系魔法の最上位である《破滅爆》の魔導を展開し、グラウンドに出次第、破壊が出来るように準備をする。


「あともう少し!――――――何!?」


 壁の穴を抜けようとした時、突然地面全体が白く光り、目の前に見える魔方陣が目もくらむような光を発し、俺の視界が真っ白になる。


「起動した!いや!今止めれば被害は少なくなるはずだ!」


ミノルは眩しさに目が眩みながらも、先へと進むのであった。


 ◇◆


「くそ!まんまと、してやられた!カオリ!結界を解除しろ!」


「え?は、はい!」


 ミノルが驚く勇者達の隙をついて結界内部へと入り、しかも通路を通る事無くそのまま壁を破壊し、一直線にグラウンドに向かって行くと、それに続くヒデオを追いかけさせまいと、空いた穴を爆破し、瓦礫で埋められてしまう。

 ヒデオは悔しそうに言葉を吐くと、カオリに命令してグラウンドで越界門の起動を準備をするミゼラベータに念話を送る。


『ミゼラベータ!聞こえるか!?』


『え?は、はい聞こえますヒデオ様。どうしましたか?』


『ドナクレアの魔龍に突破された!準備はどうだ?』


『そんな!それで突然周囲に濃密な殺気が発生したのですね。準備ですが、ちょうど魔法展開を始めたところですが殺気に当てられてしまい、魔法師達が集中できないようで…。起動までも少し必要かと…』


『くそ!それでは間に合わない!ミゼラベータ、そこを離れろ!俺の造語魔法で起動を促進させる!』


『!!強制起動?それでは魔方陣を起動させている魔法師達も唯では済みませんよ!』


『ここで奴に破壊されるのは計画が駄目になってしまう。お前だけ避難しろ!人柱に充ててしまえ!大したことはない魔法師の替わりなら幾らでも居る』


『わかりました!…………私は避難完了しました!』


『よし、それでいい。僕は地球の支配者となり、君は人族のフィーグルの女帝として君臨する。2つの世界を支配する。それが部区たちが考えた計画だ。これが終われば祝杯をあげようじゃないか』


『わかりました。私の愛しい勇者様。成功を祈ります』


 2人の念話が切れ、ヒデオは頭の中でイメージをして造語魔法を行使しようとする。


「時間がない!強制起動させる!カオリ!ミユ!ユキ!俺だけでは魔力が足りない!補助してくれ!」


「分かったわ」


「了解」


「強制起動なんて!魔方陣を維持している人達が死んでしまうんじゃ…」


「ユキ!地球に帰りたくないのか?これを逃せば機会は失われるぞ!」


「……わかった」


 ユキだけが躊躇いを見せていたが、ヒデオの言葉に従う。

 彼女は亜人と呼ばれるフィーグルの民の命はどうでもいいと思っているが、自分達と同じ姿をした人族の死に対して忌諱きい感を持っているだけで、別に良心を持っているわけではない。

 いわゆるクズである事は変わりはない。


「よし!魔力バイパスがつながった行くぞ!”越界魔法展開促進、強制起動せよ”」


 僕は家族から"下等"扱いされていた。長兄、次兄、長女、次女、の5人兄弟で僕が末っ子。

 上の兄姉は頭もよく、小学校からトップの学校に通い、代々皇族を支えている家柄で、新庄グループの宗家である我が家はトップレベルは当たり前の家風であった。

 しかし僕は受験に落ちてしまい、比較的レベルの高い学校に通っていたが、両親や兄姉からは落ちこぼれとして扱われるようになっていた。

 高校生になり、全国でもトップレベルで兄姉さえ合格できなかった学園に通うことになった僕を、家族は見向きもしてくれなかった。

 もはや落ちこぼれとなっていた僕は、どう足掻いても覆ることはなく、一族の中で孤立することになった。

 

 学園では成績上位をキープし、末っ子とはいえ御曹司である僕を、クラスメートはチヤホヤしてくれて学園だけが僕にとっての王国となっていた。

 そして僕は気づく、クラスメートが実は一族の落ちこぼれだと気づいた時には、あの連中と同じく俺を蔑む事になるだろう。

 どうせ僕には興味がなく、新庄グループの御曹司というブランドに取りすがる連中だろう。

 だったら、僕があの一族よりも、このクラスメート、いや、学園のだれもが逆らう事が出来ないような力を手にしなければならない。

 一匹狼もよいと思ったが、支配には支配で返してやろう。


 そう思った矢先、幸運が僕に舞い込むことになる。

 フィーグルで勇者となり、フィーグルの支配者を目指す第2公女とも婚約を果たし、僕は力をつけた。

 もし僕が大切な仲間や家族を作るとしたら、僕のレベルに合う者だ。

 もし、それでも裏切られるようなら、死んでもらうし、僕を選択できる者しか信じない。

 公国の人族、フィーグルの人族、地球の家族や一族、学園の人間、全てが薄っぺらく、信用が出来ない。


「くくく、見ていろ新庄の一族共め。僕が王となった暁にはお前たちをゴミクズのように扱ってやる」


 ヒデオは歪になった心を躍らせながら魔法を展開するのであった。 


 ◆◇


 ミノルは周囲の光に目を晦ませながらも、何とかグラウンドに出ることができた。

 しかし、グラウンド全体は更に眩しく光っており、どこに何があるのかさえ分からなくなっていた。

 龍種特有の蛇にあるピット器官のような器官を使うが、光の熱でまったくわからず、当然嗅覚も利かず、ならばエコーロケーションを使ったが、魔法陣と越界門の位置までは把握ができたが、魔法陣の破壊の為に必要なツボとなる位置が把握できず、越界門も同じようなツボを把握する事が出来ずにいた。


「くそ!せめてサングラスでもあればいいのだがな!………ん?そうか!」


 ミノルは龍種には俊膜という、もう一つの透明な瞼があり、それを魔法で黒く染めて瞼を閉じる。


「よし、見えるぞ!あそこがポイントか!くらええい!」


 ミノルは走り出し、まずは越界門の破壊と決めて、門の上部真ん中に一際光って、生命そのものを根こそぎ吸い取っている事を確認すると、即座に破滅爆を打ち込んだ。


 高さ10m、幅20mの白い石材に荘厳な彫刻が施された門は、ミノルの攻撃を受けると爆音を立て、炎の柱が天高く上り、石材が瓦礫となって四散していった。

 すると、グラウンド全体の輝きも消えて、散っていた瓦礫が落ちてくる音だけが響いていた。


「魔法が止まった……展開対象がなくなったからな。よし、あとは魔法陣だ」


 ミノルは、どれだけの被害が出たのだろうと心配しながらも、勇者達が来る前に魔方陣も破壊しようと、警戒しながら次の行動へと移る。

 巨大な門を囲むように描かれた魔法陣の外周には、70人位の人族が等間隔で配置され、倒れている。

 おそらくは起動の為の魔法師だろうとミノルは推察した。

 ミノルは死んでいるのかと、近づいてみると、胸が上下に動いているので、どうやら生きているなと確認する。


「あーはっはっはっはっはっは!ようこそドナクレアの魔龍」


 ミノルは、高笑いをする声の主を確認するべく周囲を見渡すと、練兵場を閲覧するためのところであろう、建物の上部に設置された場所に女性らしき人物を見る。

 プラチナブロンドの縦ロールに蒼い瞳と美しい顔立ち、均整の取れたプロポーションの持ち主が、仁王立ちしており、その後ろにはあの4人の勇者が控えていた。


「はじめまして。アドラ神聖公国第2公女ミゼラベータ・ラドリエと申しますわ」


「ほう、時空の魔女様直々の参上とはな」


 姿勢を正し、スカートを摘まんで挨拶をするミゼラベータをミノルは睨みつける。


「残念だったな。お前たちの野望は潰えたぞ。そしてこの時よりフィーグルの民を本気で怒らせた事もな。もはやお前らには滅亡しかない!」


 ミノルはミゼラベータ達を指差し、引導を渡す。


「ふ、ふふふ、ふふふふふ。」


「何が可笑しい?」


「残念だったと申し上げるのは私達(わたくしたち)のほうですわ」


「なに?」


「最早、越界門は完成いたしましたのよ?それもわからないのですか?」


 ミゼラベータの言葉をいぶかしげに視線を送るミノルは、破戒した門の所から魔素が集まって来ているのに気付くと、そちらへ視線を向ける。


「なん…だと…?」


 それは不思議な光景で、破壊した門がまるで逆再生するかのように、瓦礫が集まり見る見るうちに、破壊される前に戻っていくのであった。


「ほーっほっほっほっほっほっほ!越界門と魔法陣には境界が開いた時の穴を修復する能力を、そのまま移し込む事に成功しておりますの。ですので、いくら壊そうと修復してしまいましてよ?残念でしたね」


 高笑いをする公女が話し終わる頃には、門は元の形へと戻り、破壊された事実がなかったかのようにその場に佇んでいた。


「これで地球と繋がり、地球は魔法を欲し、僕たちは現代技術を欲している。これで人族はこの世の覇権を手にするんだ!最強を誇る古龍なんて現代兵器の前では赤子に等しくなる!全面戦争なんて僕たちの勝ちに決まってるじゃないか」


「失敗か、口惜しいがここまでのようだ。だがな?これでお前らの運命が決まった。俺はここで引かせてもらうが、俺たちを甘く見ないほうがいい。人族と天使族はフィーグルから抹殺されるだろうな」


 勝ち誇るように演説するヒデオを睨み、ミノルが逃走を図ろうとしたその時だった。

 大きな地震が発生し、閉じていた越界門の扉が勢いよく開く。


「なんですの!まだ座標固定が終わっていないはず!扉が開くなんて知らないわ!」


 公女はまだ開くことがなかったはずの門に驚き、ミノルは門の開いた先を見ていた。

 それはまるで、漫画に出てくるようなブラックホールの形をしていて、虚空に漆黒の渦が巻いており、門の先の周囲を吸い込み始める。

 ミノルは踵を返し、全力で走ろうとしたが、門の吸い込む力が強く、その場で踏ん張るのがやっとであった。


 公女達の閲覧席も、土台から引き抜かれ吸い込まれそうになっているが、勇者カオリの作る結界で何とかこらえていた。


「まさか失敗!?そんなはずは…魔法陣も門の素材も間違いはないのに!それにあれは次元の狭間?」


「ミゼラベータ!もしそうならまずいぞ!」


「「「ヒデオ!!!」」」


 ミゼラベータと勇者達は吸い込まれまいと、必死に結界を維持しているが、少しづつ引き込まれていく。

 ミノルも四つん這いになり、同じく結界を張り吸い込まれないように、踏ん張っていた。


「このあほ共が!失敗かよ!」


 ミノルは悪態をついたが、遂に踏ん張っていた地面ごと抉れてしまい、門へと吸い込まれてしまう。

 咄嗟に《光鎖》を展開して片方の門に巻き付けて吸い込まれるのを防いで、鎖を辿って門の外まで出ようと試みる。


「あともう少し!次元の狭間なんて引き込まれてたまるか!」


 鎖を辿り、ようやく扉へ手が掛かる距離まで来たその時、鎖が引き千切れ、ミノルはそのままブラックホールの中へと引き込まれてしまったのだ。


「くそおおおおおおおおおお!」


 ミノルの叫びも空しく、彼を吸い込んだと同時に勢いよく扉が閉じられた。

 先ほどまで発生していた風の轟音が止み、辺りには静寂が広がっていた。


「助かったの?」


「ああ、そうみたいだ。ドナクレアの魔龍を飲み込んだら扉が閉まったな。」


 ミユの言葉に答えたヒデオは、閲覧席を飛び降り門へと近づく、それに続いてミゼラベータと女勇者も後を追いかけて行く。

 ヒデオとミゼラベータは恐る恐る門の扉に触れ、軽く叩いてみたり、押してみたりしていた。


「どうやら正常に機能しているみたいですわ。魔法陣の座標固定が、今まさに門へと作用していますもの」


 公女は門に触れ目を瞑り、何かを調べているような仕草からヒデオに向かって結果を報告した。


「そうか、イレギュラーはあったが成功したということだな」


「そうですわね。まさかあのような現象があるとは…門を破壊されたから?それとも古龍が関わったから?まだ研究の余地がありますわね」


「やった!これで地球に帰れるんだ!」


「そうね!パパとママに会いたい!」


「帰ったら何しようかな~」


 ヒデオとミゼラベータが話す後ろでは、女勇者3人がそれぞれに地球への帰還への希望を述べるのであった。


「ドナクレアの魔龍はどうなったんだ?」


「多分、このまま次元の狭間で彷徨い続ける事になるかと思いますわ。永遠に―――」


「そうか、1匹減るだけでも助かるからね」


 2人は肩を寄せ合い、門を眺めているのであった。





 とある場所のとある時間―――

 暗い夜空に星が煌めき、上弦の三日月が浮かぶ。

 そしてその下には静かな波が立っており、穏やかである。

 

 ――――海なのではなかろうか?視界の向こうには陸や森の木々も見えず、ただ水が波打つばかりの大海原しかない。


 その一部に不思議なモノが浮かんでいた。

 仰向けのまま波に揺られまったく動く気配がなく、ただ流れに任せて漂うだけであった。


 しかし、この大海原の広がる世界では、その姿は異形であり、存在すらしないモノであった。

 

 次元の狭間に吸い込まれたミノルは彷徨うことなく、ただ気を失っており、水の上に浮かぶだけであった。




最後までお読みいただきありがとうございました。


次回も楽しみにしていただければ幸いです。


次回は近日中には投稿します。よろしくお願いいたします。


皆様、良いお年をお迎えください。

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