ヘラズグア当主とミノル
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拙い文章ではございますが、どうか楽しんでください。
「くうぅぅっ!やっぱり空気抵抗があるとつらいな。羽の付け根の筋肉が痛くなって来た」
ヘティスハークと後にしたミノルは、一路ヘラズグア家の領域目指して飛行を続けていた。
ミノルにとって重力を扱うには適性が無いらしく、セリナの補助無しでは使えなかったからである。
以前開発した《暴食の黒》はブラックホールが重力の塊と知ってはいたが、まさか自分が重力捜査の適性が無いとリュセフィーヌから知り、適性のあるアーデルハイドとリュセフィーヌに任せることにしたのであった。
しばらくすると、古龍の気配を進行先に感じ取り、近づいている感覚を感じ取る事が出来たミノルは、後ろで発生している衝撃波を見ながら加速を緩めようかと思ったが、別に良いかと思い、飛行を続けた。
氷河の中にぽっかりと空いた空間が現れ、目の前に城下町が近づいてきたミノル、はジェットの魔導展開を解除してそのまま羽を器用に使って、余速で飛びヘラズグア家の城へと突っ込むが、そのまま横を通り過ぎて城の後方にある氷の壁に足から突っ込んでいった。
亜音速で氷河の壁に突っ込んだ衝撃で、氷の壁は轟音をあげて崩壊したが、城や城下町には被害が無い事を確認したミノルは城の広場へと着地をしたのであった。
「ドナクレアの婿よ!貴様何の恨みがあってそのような無体を起こすのだ!城や街に被害があったらなんとする!」
「…被害が無いように計算して突っ込んだのだがな。当主に会いたい。取り次いでくれ」
着地するなり、待ち構えていたヘラズグア家の執事らしい格好をした竜人族の青年は、青筋を立てながらミノルの事を怒鳴りつけるが、彼を一瞥すると、抑揚のない口調でミノルは答えるのだった。
「貴様!何様のつもりだ!」
「古龍様だ」
「~~~~~!くそ!」
ミノルの言葉に顔を紅潮させ怒りを露わにするが、フィーグルの信仰対象である古龍に逆らう訳にもいかず、悪態を吐きながらも踵を返し「こっちだ!」と言って、荒い歩調で先へと進むと、ドラゴニュートモードに変化して後をついていく。
やがて、3mの高さがある重厚かつ瀟洒な扉に着くと、立ち止まりミノルを見る。
「なっ!そ、その姿は何だ?貴様一体――」
「いいから早く案内しろ。私の手を煩わせないでほしい」
ミノルの姿に青年は、驚きの表情で見ていると、ミノルは案内を促し、僅かに威圧を込めた視線を送ると、「ヒッ」と短い悲鳴を上げて、震える手で扉をノックする。
「入れ」
扉の向こうから声がすると、扉を開けて中へと真っ青になった青年は案内をするのであった。
「よく来たドナクレアの番よ。先刻までの我が執事の非礼を詫びよう。しかし少々オイタが過ぎるのではないかな?」
「お久しぶりです。私のような若輩者への配慮痛み入ります。こちらこそ大変失礼いたしました。何分時間も惜しく、急を要する事項でしたので、御容赦願います」
目の前に大きな机があり、その向こうに座る龍人の姿をした壮年の男性は、読んでいた書類にサインをすると手を置き、こちらへと視線を向けると僅かに眉が跳ねるが、表情は崩さず淡々と話を始める。
さすがに当主だけあって、歓迎の挨拶をする。
嫌味を入れることは忘れておらず、しかしながら言葉の端々に気品が伺える。
どうすればこんな立派な当主から、あのような阿保息子が生まれるか疑問に思ったが、ミノルは御辞儀をしながら挨拶を返すのであった。
「ふむ、よかろう。して?火急の要件とは何ですかな?」
机から席を立ち、フカフカのソファに腰を下ろすと、侍女が用意した茶を飲みながら質問してくる。
ミノルはドラゴニュートモードなので、背もたれのないベンチのようなソファに腰を下ろすと、魔大陸で起こった戦闘の経緯とアドラと人族の王国が連合を組んで、大規模なフィーグルの民を人柱とした魔法を展開しようとしている事を語るのであった。
「なんだと!それでは被害は尋常では済まされんぞ!」
「残念ですが、展開を阻止する事は難しいかと。ですのでこれをお使いください」
さすがに冷静を保っていた当主は、ミノルの話を聞くとソファから立ち上がり、拳を握り締めて声を荒げる。
ミノルは対抗術式と護符のレシピを記載した書類を渡し、説明をしていくと、それを聞いた当主は侍女に先代を呼ぶようにと言伝を頼み彼女は執務室から出ていく。
「マスケイル、入りますよ。……おやまあ、気配からもしかしてとは思いましたが、ミノル殿ではないですか。久しいですね。それで私に用事とは何でしょうか?」
「ご無沙汰しておりますエルザ様。まずは党首様に渡した物を見ながら聞いてください」
執務室に入ってきたのは、以前長老会で会った初老の女性エルザ・ヘラズグアで、マスケイルの隣に座ると、ミノルが渡した書類を当主から受け取ると、マスケイルからミノルが語る話を聞き、書類を持つ手が震えていた。
「………ではこれで、被害は多少なりとも軽減できるのですね?」
「はい、その通りでありますが、その後が問題になります」
少しばかり安堵したエルザは「その後とは?」とミノルの言葉に怪訝な表情をして再び質問してくる。
「越境門という物の先から、私が以前住んでいた世界。地球から鉄砲や大砲といった物よりも、さらに強力な兵器が次々ともたらされます。それはこの氷河地帯でも使用可能で、殺傷能力は上級の大規模魔法同等の威力を持っております。音の速さを超える飛行機という鉄の塊が何百と空を飛び、大陸から大陸へと飛行して目標で爆発するミサイルという兵器もありますし、それを利用した核爆弾。たった数発で大陸を一瞬で数億という民の命と土地を焦土にしたうえ、数億年先まで人の住めない土地にする威力の兵器もあります。」
2人はにわかには信じられないといった表情をしているが、ミノルが地球という異世界からの移住者である事は情報で知っていたので、納得をするしかなかったのである。
前当主のエルザは、とにかくこの術式を領域内に配布すると言って席を立ち、執務室を足早に出ていくと、現当主のマスケイルは深く背もたれに体重を預けながら、ミノルを見て溜息をつく。
「ドナクレアの番よ、貴殿かこれからフィーグルで何をするつもりなのだ?」
「私はもはや地球人ではありません。フィーグルとフィーグルの民を救うために戦います」
「……そうか、ならば私たちも協力するとしよう。我々も古龍だ、フィーグルの民を救う義務がある。私のほうからは、他家へ連絡するとしよう。あとはそうだな、カスクロを放逐するとしようか。」
「御当主、嫡男を放逐はそれはいかがなものかと――」
ミノルの宣言に協力すると宣言するマスケイルは、その一つとしてカスクロの放逐を述べると、ミノルは当然かと思いながらも、マスケイルに意見する。
「はははっ、取り繕わなくても良いのだよ?私もバカ息子と思っているしな。あれは妻に甘やかされて育ってしまったのだよ。あれとの間になかなかできなくて、ようやく授かった子供でな。最初の子供とあって過保護にして育てられたのだ。それに私は息子を次期当主と指名しておらんのだよ。愚息と妻が勝手に言っている事なのだよ。それだったら次期当主には次男のトリニウトの方がよっぽど出来が良い。トリニウトは領域のために勉強だと言って、東大陸の”水”の司を持つパールグア家に行くくらいの賢い子だ」
そういいながら、顔を綻ばせるマスケイルにミノルは、長男だからなどと、形式にこだわらずに民を第1に考えている事に親近感を感じるのであった。
「そうだ、ドナクレアの番……いや、ミノル殿よ。私の娘はどうだ?別腹の子だが、器量もよく、貴殿と同じ年頃で32歳とまだ幼龍を脱しておらぬが、贔屓目を抜いても将来は傾国の美女間違いなしだ。どうだ?」
「御当主殿、私はまだリュセフィーヌとの婚儀も済んでいない身です。しかも御息女の気持ちもあります。それにリュセフィーヌからの許可も必要かと――――」
「はははは!そうだな、確かに当主であるドナクレアの姫君の許可がないといけないな。娘の気持ちもか……だそうだが?ミュールよ」
会話を重ねるうちに、フレンドリーになるマスケイルに少々戸惑いながらも、会話を続けたミノルだが、さすがに嫁をやるなどと言われ、困惑を隠せない様子に、ミノルの後方へと視線を送る当主に思わずミノルも振り向いてしまう。
15も離れて同じ年頃とは恐るべし長命種の感覚だなとミノルは思うのであった。
「はい、魔力も問題ありません。それに御婆様から聞いていた知らない概念とその姿…新しい魔導式ですね。曲がりなりにも能力だけはピカ一の兄上を倒した戦闘能力。"古きを貴び新しきを知るべし"御婆様が新しい家訓を掲げた意味が分かりました。種としては問題ないかと思います」
龍人の姿をした少女がいつの間にかミノル達のいる部屋の端に立っていて、小学1年位の年頃で髪は鮮やかな赤い色をしており、側頭部から出ている角は水晶のように透けていて、赤みを帯びていた。
紫と銀のオッドアイでものすごくきれいな顔つきの美少女で、将来誰もが振り向く美女に育つこと間違いないというくらいであった。
しかし、口から出た言葉は冷静で氷の美少女といったほうが早いねとミノルは思ったのだった。
「初めまして。ゴラス北西部を領域としたマスケイル・ヘラズグアの第6子。3女のミュールシェリヌ・ヘラズグアと申します。名前が長くミュールかシェリヌとお呼びいただければ幸いです」
「あ、は、はい。こちらこそ初めましてミノル・カツラです。よろしく……」
ミュールはカーテシーを取り挨拶をすると、ミノルも席を立ち、御辞儀をして挨拶の言葉を述べる。
「この子は私の末子でな。戦闘力は兄弟の中で一番強いのだ。」
「父上様、それよりもワタクシ、ミノル様のその御姿が気になります。父上様も先程から聞きたくてソワソワしておられる様子ですが?」
「ははは、すまんなミノル殿」
なかなかにストレートな性格に呆気にとられたミノルに謝罪するマスケイルであった。
「え?ああ、大丈夫です。この姿に興味があるのですね?別に秘密にするつもりもないですからどうぞ」
さすがに初対面の未婚女性に額を合わせる事が出来ない為、マスケイルへ魔導式を写していく、ミノルも交換条件として提示された《魔武》をもらう。
魔武は、あらゆる属性とあらゆる武器に変化させて、武器として戦うことができるトンデモ魔法でイメージさえすれば、武器の再現は可能であったのだ。
「写した魔導は我が家のオリジナル魔導の一つだ。ミノル殿の魔導もこれは素晴らしい。」
「父上様!古龍の能力をほとんど引き継ぐ漲る力!小回りも効くこの身体はぜひ試してみたいですわ!闘技場へ行ってまいります!」
マスケイルから写してもらったミュールシェリヌはさっそく試しており、挨拶もそこそこに部屋を出ていくのであった。
「騒がしくてすまんな。私は魔導の研究が大好きでね。このような新しい概念を見ると落ち着かなくなってしまうのだよ」
「いえいえ、リュセフィーヌからも聞いております。古龍は互いの研究を交換し合って研究を重ねるのが大好きだと」
「ああ、その通りだが、最近は隠すことばかり考える輩が多くてね。もしよかったら今後とも研究の交流は続けてほしい」
「それはこちらこそ歓迎します。地球の言葉で”三人寄れば文殊の知恵”といいますから」
どうやら棍代のヘラズグア家の当主は思った通りの御仁と改めて思いながら、魔導やミノルの経験したことなどに話が弾み、時は過ぎていくのであった。
一方、城の外ではドラゴニュートモードのミュールシェリヌに、実験台とさせられているカスクロの悲鳴と破壊音が鳴り響いたのは言うまでもない。
「長居をしてしまいました。それでは失礼します」
「いや、私こそ楽しかったよ。ミノル殿、リュセフィーヌ殿にもお元気でと伝えておいてください」
「今回は助かりました。只今急ぎで護符の作成と魔法の伝授をしております。我が家の領域も助かりました」
ヘラズグア家に到着した頃は夕方で、その日はもっと話がしたいとの当主からの要望で城に宿泊させてもらい、次の朝には旅立つため挨拶を交わしていた。
宿泊の最中にはカスクロとばったり顔を合わせたが、本人はミノルの顔を見るなり真っ青になって、粗相をしながら悲鳴を上げて逃げるのであった。
別れのあいさつにエルザも来て礼を述べるが、沿岸部の住民の一部に住居を移動させながら暮らす部族がいくつかあったのでそれが捕まるかどうか怪しいと心配していた。
北の地域だし地球でいうイヌイットのような部族かなとミノルは思いつつ、会うことができればいいなと祈るのであった。
「それではまた皆さん、成功を祈ってます」
ミノルは最後のあいさつをすると《顕現》を展開して空へと飛び立つ。
「ミノルさまー!必ず会いに行きますからー!」
マスケイルとエルザ、そして数名の侍従と侍女に手を振り、ジェットの魔導を展開し始めていると、城から広場へと走ってくるミュールシェリヌがミノルへと言葉をかけて走ってきた。
「ミュールシェリヌ様こそお元気で!」
ミノルに手を振るミュールシェリヌに向かって声をかけると、ジェットの魔導が大きな音を立てて噴射が始まり、ヘラズグア家を後にヘティスハークへと去っていくのであった。
「なんと、あのような概念も持っていたのか。私も研究を重ねなければな―――。母上、ドナクレアの番は母上の言った通りの、随分と気持ちの良い御仁でしたよ」
「ふふ、私も彼の言葉に目を覚まされた一人です。他家の者達はまだ嫌っているようですがね」
「父上様、御婆様、ワタクシ必ずミノル様を射止めて見せますわ」
3人はミノルの去った先を眺めながら会話をするのであった。
「さて、ヘティスハークによってそれからアドラに乗り込むとするか。タケシといったか?つなぎをつけておかないとな。待ってろよくそったれども!」
飛行と続けながらヘティスハークへと向かうミノルは一人ごちながら、次なる目標へと思考を巡らせるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回も楽しみにしていただければ幸いです。
次回は明日中を予定しております。よろしくお願いいたします。




