ボルガノ解放?
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拙い文章ではございますが、どうか楽しんでください。
勇者ヒロシはボロ雑巾のようになっていた。
ミノルによるビンタで顔は腫れあがり、最強の防御力を誇る制銀と魔龍の素材を練りこんだ聖銀製の鎧は殴られ、蹴られて歪になっていて、元がどんなシルエットであったか分からなくなっていた。
そして今、恐ろしいまでの殺気をミノルから浴びせられて、小では済まず大まで粗相をしてしまっていた。
「てめえ、何てことしてくれたんだ。フィーグルも地球も世界を滅ぼす気か?」
ヒロシの胸倉を掴む手が強くなり、反対側の握り拳が硬くなっていくのを感じ、ミノルは深呼吸をして落ち着こうと努力する。
勇者ヒロシの口から語られる内容にミノルは驚愕し、今回の作戦の為に意識を共有しているリュセフィーヌやアーデルハイドからも怒りの波動が伝わってきていた。
◇◆
第1公子アントニオ率いる吉野健太、藤田昌則、今野保志と十数名の第1次越境計画の失敗から、第2次計画を公王トロヘスのヘティスハーク再侵攻と同時進行で別の計画として第2次派遣が第1公女の指揮の元に進められて、派遣団を組織し、ヘティスハーク再侵攻を断念する報が届くや否や実施される事となった。
境界越えが成功し、派遣団は日本の新宿御苑へと転移する事が出来たという。
そして、日本政府との再接触に成功、第1次派遣団はアントニオと勇者、そして武官数名は死亡していたが、文官は生きており、迎えが来ることを見越して交渉を進めてくれていた。
余談ではあるが、派遣団の一部は生きているうちにアドラの地が踏めるか分からなかったそうで、日本に居を構え家庭を持っているのもいたそうだが、それはまた別の機会に話すとしよう。
第1次派遣時にミノルの逆鱗に触れた国会とが消滅していて1キロ四方の永田町も余波によって政府として機能しなくなっていたが、第2次派遣までには2年が経過、中央政府は神宮外苑を復興完了までの暫定措置として仮の施設を建設しており、東京体育館を議事堂の代わりにして徐々に落ち着きを取り戻していた。
第1次の功労により日本、アメリカ、EUと交渉が決まっていた為、第2次派遣隊の合流には、締結に向けたおおよその要綱を取り纏めるだけだったと言う。
数か月に渡る交渉の末、第2次の武官と文官を残して帰還した。
内容の大半は越境門の建設で、兵器や技術の提供を主とした軍事協定と、未開地開発の支援する事。
見返りとして、フィーグルの武具、装飾用貴金属、貨幣に使われる地下資源以外のレアアースや石油採掘の権利の一部を与える内容を盛り込んだ修好通商条約の締結に向けて推し進めること。
日本国製造の兵器はマスコミが五月蠅い為、今回は日本と同盟国アメリカ製の兵器トラック60台分を手付として受け取り、越境門の開通のために必要な人柱25億4000万人の内、10億をフィーグルが用意し、残り15億4000万は地球が賄うことになった。
まずは、越境門に地球とアドラとの境界に大規模な穴をあけて門に定着させる為に必要な10億人の人柱をもって実行。
次に穴が塞がらないように、境界壁が持つ再生能力が門へ影響を及ぼさぬ事が無いように地球より15億4000万人の人柱をもって実行することになっているという。
後は地球では毎日15万人、フィーグルでは2万人の死亡者数が出ており、その魂魄の一部を使用すれば、維持が可能となるので現在、世界を巻き込んだ大規模魔法陣をアドラ側では第2公女ミゼラベータを中心に行動しており、条約締結の為に地球へと第3次派遣団に同行している締結魔法庁長官であるモント公爵の妻で勇者の米谷遼子が中心となって務めて地球側の大規模魔法陣も、もうじき完成して展開されるという。
これには、アドラ公国の兄弟国であるジグ大陸のサトーレ王国とジャニス王国、縁戚関係もあり友好国でコーグ大陸の覇者ペンタハーケン帝国も魔術師や魔法師を派遣して協力しており、各国で人柱となる奴隷と敵対国への無差別展開の準備も完了している。
地球側としては近い将来に枯渇するであろう地下資源を確保することもできるし、力をつけて図に乗っている新興国や潜在的な武力と経済的に対抗している国に対して、低迷しつつある世界へのリーダーシップやけん引役として再び立つ機会を得ることが出来るメリットがあり、対象国や敵対国へのターゲットを絞っていたのであった。
条約締結の為に、公国宰相を含む上級貴族で組織された第3次派遣団が早々に行われた理由としては、実際には女神の行動が拍車をかけていた。
3女神と眷属神は、神をも恐れぬ身勝手な行動に怒り、ステータスシステムの一部凍結を実施した。
これにより女神を崇拝、支持する人種や一部のフィーグルの民に身体能力の低下、スキルやシステムに準ずる呪い、魔術、魔法、スキルや武技の使用が出来なくパニックが起こっており、戦力低下を余儀無くされていたのだった。
そこに最近投入された近代兵器よりも、さらに強力な現代兵器が現れることによって、低下した戦力の補填をする為、条約の早期締結を急いだのが理由であった。
もう一つ疑問となったのが、なぜ女神はステータスシステムの全面凍結をしなかったことである。
ここにも女神のいやらしい目算が含まれていた。
フィーグルの世界に於いてステータスを持たない人種は最弱である事は言うまでもない。
例えステータス無しで鍛えたとしても人生の大半を鍛錬で過ごし、ギャンブルといえる血による継承で数代にもわたる膨大な時間を過ごしても上級の下程度の魔獣にしか勝つことができない。
ならば、地球人がフィーグルで生活するならば女神の恩恵たるステータスシステムを使わざるを得ない為、女神を崇拝するアドラ神教へと帰依しなけれなばらず、それは信仰を力とする女神にとってメリットがあるからなので、一部の凍結のみに留めたのであった。
もちろん天使族はステータスシステムは必要ないし、身も心も魂さえ女神に捧げる上級司祭などの使徒や、神殿騎士には影響はない事は言うまでもない。
◆◇
「……僕が知っていることはこれで全部だ。頼む、もう許してくれ!僕は命令されただけなんだ」
ヒロシはミノルに向かって命乞いを始めた。
「世界を敵に回すような真似して何言ってやがる!…あ」
ミノルは彼の言葉に再び怒りがこみ上げ、地面へと思いっきり叩きつけてしまい、勇者という肉風船を破裂させて原形を留める事なく飛び散らせてしまった。
ミノルはしまったと反省しながら《再誕》を展開して勇者ヒロシを生き返らせる。
「……!うわあああああ!ああ…あれ?」
うつ伏せの状態から目を覚まし、叫んだヒロシは我に返り、身体のあちこちを触ると顔のけがや、傷が治っている事に気が付くと、目の前に立っているミノルを見上げながら、膝立ちのまま祈るような姿勢で涙を流す。
「ああ!ありがとうございます!ケガまで治してもらえr」
「わけないだろ」
ミノルはそのまま武蔵瀬に彼に向って手刀を振ると、ヒロシの腕が両肩からずり落ちてどさりと地に落ちてしまう。
「え?あ?あああああぎゃああああああ!」
ヒロシは何が怒ったのかわからず、地面を見ると絵を組んだままの自分の両腕が転がっており、肩を見ると不規則に血を吹く傷具とを見て理解すると悲鳴を上げる。
「黙れ」
ミノルは叫ぶ彼の側頭部へと蹴りを入れると、そのまま気絶したので傷口を焼き潰し、髪をつかみながら持ち上げてアドラ兵に向けながら告げる。
「貴様等もこうなりたいか!なりたくなければ武具を俺の前に集めて跪け!」
ミノルが告げると、即座に立ち上がり鎧を脱ぎ、魔道具を外すとミノルの前へと集め始める。
ミノルは広範囲の〈復活〉を展開して殺した兵を蘇らせて、それでも蘇らない兵を《再誕》を展開して更に蘇らせる。
よみがえったアドラ兵達は何が起こっているのか理解できていなかったが、壇上に立つ両腕のない勇者を掲げている姿を見ると顔を青ざめさせるが、すでに降参していた他の兵から「早くしろ!」との催促により鎧と武具を集積場所へと持っていくのであった。
『ミノル。妾の方は復活と再生で殺したアドラ兵達を蘇らせたぞ』
『西門は~全員生き返らせて~おいたよ~』
『『南門も復活と再誕で蘇らせておきました』』
リュセフィーヌはミノルの意図を読んだらしく、念話で話してきた。
続いて南門のアリステリアとディーフェリア、西門のアーデルハイドもアドラ兵達を生き返らせていた。
ミノルの担当している東門ではほとんど終了しており、武具を破棄したアドラ兵達は、整列しながら体育座りで並んでいったのである。
早朝からの騒ぎで何事かと住民が集まりだし、各門へと並ぶアドラ兵の姿を見ると、街が解放されたという実感が徐々に湧き出してきたのか、歓声が上がり始め、またその騒ぎで起きだした人々にも伝染して、街をひっくり返したような歓声が上がるのであった。
しかし、解放したミノル達は顰めた顔をしており、2時間後にやってくる後続兵が来ても表情を崩すことはなかったのであった。
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