吉良仁美の僥倖と不運
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コンコンとドアをノックして階級を伝える。
「吉良三等陸佐入ります。」
「入れ。」
入室の許可を得て室内に入る。
室内には長いテーブルがありコの字に並べられており、そこの上座に当たる席に壮年の男性が4名ほど座り私を注目していた。左胸には略綬が付けられており、いくつもの勲章を授与されているようだ。
これらの状況を推察するにおそらくは幕僚幹部、それも高位の人達だろうかパンフレットなどで見掛けた顔も見受けられる。
着席を促され「失礼します」とテーブルの端の席に着席する。
「ご苦労。いきなりで悪いが、吉良医官には本日付で特別な任務に就いてもらう事になった。」
「特別な任務、ですか?」
「そうだ、これを見たまえ。」
そう言ってプロジェクターを起動させる。どこかのLIVE映像らしく真っ白な部屋の真ん中にベットがあり、そこに少年らしき人物が横向けに寝ていた。
私はそれを見ながら幹部の言葉を聞いていた。
「本日からこの男性の監視及び生体検査などの調査任務にあたってもらう。」
「この少年を、ですか?」
「そうだ、名前はカツラミノル、45歳、○○区○○町在住、職業は自営業で通信関係の仕事を生業としている。」
私は驚いてしまった。映像を見る限りどう見ても小学生の姿をしており、とても45歳の中年には見えない。
「事象は3日前、彼が○○駅のロータリー内において何らかの液体を被りそのまま意識を失い病院へ緊急搬送された事から始まった。」
私は淡々と説明される内容に耳を傾けていた。
「事象が発生したのは昨日未明、定時巡回の看護師が彼の異変に気が付いて発覚。それがこれだ。」
そう言って別のウィンドウを開き、数枚の静止画像が映し出された。私はそれを見た時、驚きのあまり席を立ってしまった。
画像に映し出されたのは少年の背中に白い蝙蝠のような羽と同色の爬虫類を思わせる尻尾が生えており、肩や胴体の一部に鱗のようなもののが生えていたのだ。
「これは、特殊メイクとかそう言うのですか?」
私は驚きのあまり間抜けな質問をしてしまった。
しかし説明をする幹部は表情を崩すことなく説明を続けた。
「座りたまえ。吉良医官の言う質問だが、これは人工的に作ったものではない。正真正銘本物だ。羽や尾とみられる部位には血液が循環していた。CTやⅩ線レントゲンでも・・・・」
ー 本物?これが本物なの?これじゃまるでファンタジーに出てくるドラゴンじゃないの!いや、人間の姿をもしているからドラ・・・なんちゃらって言うのよね。―
私は学生の頃に遊んだゲームや小説などに出てくるキャラクターを思い出していた。
部下にも29にもなってマンガやアニメに没頭する人がいて訓練などに真面目に取り組まないで、無駄話をしている「給料泥棒」がいるので、今でも多少の知識はあった。
「・・・・以上となる。質問は?」
説明と任務内容を聞いて。私は任務にあたり質問をしてみた。
「この人物?と言えばいいのでしょうか?人間なのでしょうか?感染症などの有無は?」
「感染症などは現時点では検出されてはいない。入院先の彼がいた病室などは隔離され調査中だ。」
感染症や伝染病などの病気は一番気を付けなければならないので、一安心した。
「次に人間かどうかについては不明な点が多い。だが上層部は『地球外生命体』の可能性があるの見解を示している。また調査室直轄の「あの」部隊と米国のUMA専門チームも乗り出してきている。だが心配ない、それらはすべてこちらが管理していると言う事でシャットアウトしている。」
―対未確認動物対策部隊―
陸海空の垣根を越えて「ツチノコ」から「UFO」まで幅広く対応するべく組織された部隊で幹部が言う「あの部隊」であって我が物顔で我々にちょっかいを出してくる厄介な連中だ。
わけのわからない「デマ」や「でっち上げ」を真に受けて、医官や実働部隊を現地に向かわせたりと余計な仕事を強制させている厄介な部隊。
一部では「もう死んでしまえ」と言われたり「虎の威を借る給料泥棒」と言われている。
私は「あの部隊」の横やりを警戒しなければならないし、かの「カツラミノル」の調査もしなければならない。
「分かりました、吉良三等陸佐これより任務に入ります。」
「良い返事を聞けて良かった。くれぐれも宜しく頼むぞ。」
「はっ。」
私は敬礼をして退室をした。
多分これはチャンスだ!この任務が成功すれば幕僚幹部への道がまた拓ける!
そう私は確信をして「彼」の収容先である施設に向かうのだった。
「おお~!医官!ドラゴニュートですよドラゴニュート!まさか幻想世界の生命体が存在していたなんて!俺感激ですよ!写真とってもいいんですよね!」
「バカじゃないの?最重要機密を持って歩く事なんて出来るわけないじゃない!そんなことしたらクビどころじゃないわよ?」
まったく「オタク」丸出しでバカみたい。よく防衛医大卒業できたものだと私は溜息をしながらモニター越しに彼の経過を観察していた。
「ってええええ!・・・・くない?」
観察2日目に彼は目を覚ました。
「目が醒めましたね。勝良実さん」
「はいそうですが。あなたは誰ですか?」
「ああ、そうですね。初めまして、私は勝良さんの担当医師の吉良仁美です。よろしくお願いします。」
こうして、勝良氏の検査が開始された。
話を聞くと彼はもともとこのような体ではなく普通の日本人として暮らしていたそうだ。
彼の話を聞きながらバイタルをチェックしたが、異常はなくどうやら本当のようだった。
また、彼の戸籍データなどを調べても何も出てこなかった。
と、言う事は報告にもあった空中に現れたガラスの割れた穴のような空間から浴びた液体に何らかの作用があると思った方がいいが、現場を調べてもらっていたが何も検出はされなかったという報告が上がっている。
次に45歳の体から9歳までどうして変化してしまったのか血液や唾液、排泄物を全て調べた結果、9歳児の身体と尻尾と羽以外は内臓等に変わった所は見られなかった。しかし、血液型がABO式を始め全てのあらゆる検査でも彼の血液型は判明しなかった。
彼の過去の献血データではRH-のO型のはずが一致しないのだ。
彼の今までの体からまったく違う体へと「変身」してしまった事象。
いや、今は病気と言っていいのだろう。
私は彼の病名を「メタモルフォーゼ=シンドローム」「変身症候群」と名付ける事とした。
そして彼の身体がそうなってしまった秘密を暴くべく、様々な検査を実施したのだった。
検査の結果、色々な検査報告が上がる中で、思わぬ検査結果が私達に知らされたのだ。
彼の血液をある酵素と混ぜ合わせて検査を実施したところ、混合させた酵素が彼の血液に喰い尽くされたのだ。
その後、彼の血液細胞は死滅してしまったが様々な不純物やウィルスに対して獰猛と言えるほどの攻撃をして消滅させることが分かった。
これを基に研究を重ねた結果、彼には自身の体内に入った異物に対して、通常の人間では持つことのできない浄化、抗体生成能力を持っている事が分かった。
テストケースとして彼に癌細胞を注入2週間後リンパ節まで侵食していたが、4日後一切のがん細胞が消滅していた。
彼の血液から投与前との比較をすると見たことの無い血液細胞が検出されたのだった。
我々はそれを抽出して癌細胞に直接注入すると見る見るうちに癌細胞がただのたんぱく質に変貌を遂げていたのだ。
次に彼の皮膚から採取した鱗に似た皮膚組織の検証結果も挙がってきた。
半透明の乳白色をした硬質な丸い皮膚組織で光の反射角度によって様々な色を見せる不思議な物質。
鱗と言っても間違いはないそうだが、地球上の鱗を持つ生物のどの特徴にもなく何の鱗か見当がつかないとの事でもう数枚ほどサンプルが欲しいとの事で採取するが、本人はとても痛がっているが無視することに決定した。
そして何より驚いたのがその耐久度である。熱いところは0.28㎜、薄いところは0.15㎜で柔らかくアクリルを思わせるモノであったが、摂氏3500℃に6時間まで耐えきったという。
更に驚愕するべきは硬度であった。報告書では小難しい計算式でよくわからなかったのだが、わずか10㎜程度の物質に0.5㎜シャーペンの芯程の1点集中で4トンの衝撃に7回耐えきったという。
組成は水、タンパク質、脂質、不明。元素は酸素、炭素、水素、窒素、不明
私は「何よこれ。不明って何?」と声を荒げて言ったが、60%を占める元素、分子、組成が現代の科学と化学では証明できないとの事だった。
以上の報告を受けた上層部は彼の戸籍を抹消、つまり死亡したことにしてこの世からカツラミノルは消滅したことになり、新しくつけられた名称は「ドラゴン」と彼の名前が決まった。
これは幹部の一部と助手がしきりに、この名前を連呼していたからだ。
私もこの得体のしれない、今後の医学や化学の理論を根本から覆す存在に対して自身の出世を期待した。
こうして彼はあらゆるウィルスや毒性のある化学物質などを取り込ませてからの血清から無毒化される成分を抽出されたり、血清そのものを摘出される「工場」となったのだ。
しかし、一つだけ大きな問題があったのだ。鱗はともかく彼から血液を抽出後から成分を抽出してから10時間以内でないと効力は全くなくなるという結果が出た。
かといって輸血などで成分を抽出しない方法で実施すると、被験者が血液に内部を食い荒らされるという悲惨な結果が出ている。
長期保存、ストックの確保が出来ない「万能薬」である。
しかし意外な結果は出たものの、おおむね良好な結果も得られた事で私は「二等陸佐」へ昇格した。
私は彼を個人として扱っていたが、もはや戸籍も無く「工場」と上層部に揶揄されるようになってからは、「人」ではなく「モノ」として扱うようになっていた。
罪悪感は全くなく彼の事を心の中では「マウス」と呼んでいた。
時々その呼称で読んでいたせいか、部下たちも彼の事を「マウス」と呼ぶようになっていた。
一応本人の前では口にしないよう厳命はしておいた。
こうして私は順風満帆と言っていいほどの出世街道を邁進し始めたのだ。
しかし最近この「マウス」は少し反抗的になってきてはいた。
ある日
「先生、治療もいいのですが俺の仕事ってどうなったか知りたいんですけど。」
まったく!元に戻れないというのにまだ復帰にこだわるのか?
「ああ、それなら大丈夫よ。この間弁護士の知り合いがいるって言ってたでしょ?それで頼んだら動いてくれたわよ?治療が済んだ暁には社会復帰して戻れるよう手配済みよ。」
もちろん大嘘である。医大から弁護士に行く人間などいるはずもない。
何度かこのような話をしていると報告はしておいたが、「適当にあしらっておけ」と言われているので、そのままありもしない希望だけ持たせていた。
こうして研究が進んでいたある日事件が起きてしまった。
私も油断していたのだろう。研究データを見られてしまったのだ。
当然この研究に彼は怒り、暴れたが、既に手遅れで会った。彼自身死んだことになってるし国が相手ではもはやどうにもならないのだ。
「あなたの事を騙していてごめんなさいね。あなたの治療薬ではなくて他の病気の人達への治療薬になるわね。
今まで治療法が見つからなかった物があなたに投与すると立ち所に特効薬が生成されるんだもの。
利用するしかないじゃない?そう思わない?」
私はそう言って、彼の抵抗を諦めさせる事にした。だがしかし次に起こったのは信じられない現象だった。
彼を取り押さえたまま隔離施設に戻そうとした時
部屋全体に電気スパークが発生して辺りの照明や検査機器などを破壊しまくったのだ。
なぜ?何かの漏電?どうしてこんな時に?
私はパニックになりその場に、かがみ込んでしまった。
暗闇の中で何とか彼を捕まえておこうとしたが、部下の阿呆達が今のショックで拘束を緩めてしまっていたのだ。
「だめだ貴重な実験体に傷をつけるわけにはいかない!」と思い私の行動に移そうとした瞬間。
「いつか必ず復讐に来てやるからな。首洗って待ってろ。」
少年とは思えないものすごく低く言葉の一句一句に殺気が籠った言葉が、耳元で聞こえたのだった。
私は言い知れない恐怖に襲われ腰を抜かしてしまったが、ドアから誰かが出て行く音がしたので、彼が逃走を図ったと確信して追いかけようとするが、真っ暗な室内と腰が抜けてしまっており動けなかったのだ。
こうして彼は逃げおおせたが「じきに捕まるだろう」と高を括っていたのだが、首都全体の捜索から近隣の県にまで手を広げても彼の足取りがつかめず、半年もの間姿を見事に隠していた。
最初の頃は始末書や「彼をみた」との報告からほぼ不眠不休で東奔西走したが、採集したデータの検証に進展があったためそちらに没頭することとなった。
私は彼がいなくなったベットを見つめながら検証データの取りまとめをしていた時だった
「医官!対象のドラゴンを発見、捕縛したとの報告が来ました。」
「本当!でかしたわ!これで研究が進むわね。」
と席を立って隔離室の準備をしようとしたところ、黒のスーツにサングラス、黒ずくめの男性が私の目の前に立っていた。
「吉良2等陸佐。御苦労であった。本日付けをもってドラゴンの扱いはこちらの管轄となった。」
「対未確認動物対策部隊。給料泥棒が何の権限で私に命令を下すのですか?」
ふと見ると、1人の幕僚幹部が横に並んでいた。
「吉良医官、すまない。米国にこの件を押し切られた。」
「そんな・・・」
「我々より先にドラゴンを捕まえたら対未確認動物部隊が取り仕切ると上層部から連絡が来たんだ。」
私は愕然としてしまった。まさか米国まで使って押し切ってくるとは思いもよらなかったのである。
そして彼が連行され、連中の実験室で暴言を吐く彼を見たのでした。
残念ながら私達はここまでのようだ。多分彼はこのまま殺され解剖されて隅々まで研究される運命が待っているに違いない。
「あのまま被検体としていればもう少し生きられたものをわざわざ自分の寿命を縮めるなんて馬鹿な人。」
私は自分の言葉に驚いた。わずか数か月ではあったが彼と一緒の時間を過ごしたことでわずかながらの愛着があったんだなと気が付く。「モノ」ではなく「人」として。
画面に「危険、化学兵器試験中」の文字が浮かんでいた。
「バイバイあわれなドラゴンさん」
倒れ動かなくなっていく彼に最期の言葉をポツリとつぶやいていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回はお待たせいたしました。
「ざまあ」が始まります。
次回も楽しみにしていただけると幸いです。
次回更新は17時です。