フェリエ共和国の戦い
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フェリエ共和国の首都ヴォルシナの中央に位置する議会場は巨大な貝殻を何枚にも重ねたような様式の建物で、まるでオペラハウスを思わせる建物だった
その議会場のてっぺんに一人の美しい女性が、腕を組み目を瞑ったまま立っていた。
その姿は、まるで眼下に広がるフェリエ共和国の街並みを見守っているかのようにも思える雰囲気と威厳さを持っていた。
「ふむ、ミノルが動いた様じゃな。妾も準備に入るとしようかの」
ゆっくりと目を開けて、リューは呟く。
『アディ。ミノルが動き出した。西側に接近している住民と兵たちに橋の閉鎖を頼む』
『りょう~かい~。ミノルちゃんの~魔力が膨れ上がったもんね~』
リューとアディは念話で会話をして西エリアからの住民流入を防ぐ手配をする。
すると、東エリアのあちこちから警鐘を打ち鳴らす音が3回、5回、3回と何度も繰り返されている。
フェリエ共和国において敵侵攻や、都市を脅かすほどの災害が発生した時に打ち鳴らされる合図である。
すると、東エリアでどこに隠れていたのか大勢の獣人が、中央を流れる川に集結しつつあり、次々と橋の警戒に当たっていく。
今日の作戦のために密かに集めた衛兵や自警団、そしてフェリエ共和国軍が代表の名の元に準備されていたのだ。
「自警団及び警備小隊、2,4,5,7,9,12,17,19番の橋を閉鎖終了!」
「国軍第1~第26小隊も残りの橋を制圧完了!残り第27~第36小隊は橋と橋の間の警戒に就きました!」
議会場の作戦本部となる第3議会堂は数十人のオペレータがインカムの様な魔道具を装着して各小隊との連絡を取り、作戦武官が中央に広げられたヴォルシナ全体地図にチェスの駒のようなものを配置していく。
まるで、現代の作戦司令部を思わせるレイアウトと各武官の動きや配置をしている。
「よし。たった今より西エリアからは、何人も蟻一匹たりとも通してはならん!各小隊へ連絡しろ!」
セレスティアの号令で「はっ!」と返事をした武官達は、す各小隊へと連絡を実施していく。
「こちらも~準備はほぼ完了なのね~?」
「はい、セレ姉と私達が準備していた部隊の配置が終わりました。あとは東エリア内の巡回を開始するだけです。」
アディはその報告に頷き準備完了の念話をリューへとするのだった。
――――――――――
大聖堂の中に大勢の衛兵が入ってこようと、入り口へと殺到していたが、逃げ出す教団関係者と教徒たちでふさがれてしまい、中々入る事が出来ずにいた。
「おおうりゃああ!」
勇者ケンジが、ミノルへと上段からの振り下ろしで斬りかかっていくが、まるでヤーノがするかのように軽やかな足さばきで、躱すミノルがいた。
「見える!太刀筋からどう踏み込んでくるかまで見える!」
ミノルの格闘能力は人外と呼べる者達との鍛錬により格段にレベルアップしていた。
ノボルや兵士達からの袈裟斬り、横薙ぎ、突き、足払い、組み伏せの行動に対し躱しての反撃や、カウンターなどを打ち込んでいる。
遠巻きに見る司祭やユウト達はミノルを中心に何十人も群がっている兵士達がまるで、何かに吹き飛ばされているように空中へ飛ばされ、群がる兵士達が巻き込まれたり、大聖堂の壁まで飛ばされていたりと不思議な光景を目にしていた。
「おおっと!あぶねえな!これでもくらえ!」
ミノルに全方向から槍が突き出されてくるが、前面は手で捌き切り左右側面や、背後は小型の円盾のように展開した〈物理障壁〉を3つから9つに増やし器用に突きを捌き、指向性のある〈空気球〉の破裂魔法を仕込んだシールドバニッシュモドキをお見舞いする。
ミノルは360度押し寄せる攻撃を捌き切り次々と屠って行くと祭壇方向から勇者が剛撃を仕掛けようとする気配を感じる。
「くらえ!〈アローレイン〉!」
頭上に数十本の矢が降り注いできたので、再び〈物理障壁〉頭上に3つ展開したが、これが聖なる武具の力らしく、障壁をいとも簡単に破壊しながらミノルに矢が襲いかかってきた。
これはまずいとばかりにミノルは両腕でガードしながら屋に向かって跳ぶ。
ガードした腕に5本、右太腿に1本の矢がが刺さりながら、兵士達の囲いから脱出し祭壇で構えていた勇者ナオの目の前に着地すると、彼女の胸倉を掴んで左頬に平手打ちをした。
「この馬鹿が!味方まで撃ってどうするんだ!人の命を何だと思ってやがる!それでも勇者か!」
頬を打たれたナオは、右に倒れこむとミノルを睨みつけていたが反撃にも出ずに彼女は、睨み続けるだけだった。
ミノルは彼女が反撃に出ない事を不思議に思いつつ背後から斬りつけようとする気配にその場から跳び退くと、ミノルが立っていた場所に斬りつけた剣が地面に刺さると5m位のクレータが出来た。
そして剣を構えなおすとミノルに切っ先を向けてくる。
剣を揮ってきたのは、勇者ユウトだった。
ミノルは自身に刺さった矢を眉をしかめながら抜き「毒もかよ」と呟きながら〈治癒〉〈解毒〉を展開して傷を癒しながら、ユウトに向けて抗議をする。
「子供相手に後ろから斬りつけるなんて、勇者の辞書の1ページ目には卑怯って言葉があるんじゃないのかな?」
「黙れ!悪の手先となる亜人に肩入れする竜人め!人族を奴隷にして私腹を肥やす輩に卑怯者と言われる筋合いはない!」
そう言い放ったと同時に床を蹴りミノルに一瞬で肉薄してくる。
魔法の展開が無かったので多分スキルか何かだろうなと思いながら、籠手の右で剣を弾き、そのまま懐に飛び込むと同時に左アッパーを顎にヒットさせる。
だが、弾いた剣は聖剣だったらしく、右手に痺れを感じたミノルはアッパーが、ずれてしまい顎を掠る程度にしか当てられなかった。
「”女神の勇気”たる聖剣を弾くだと?貴様只の竜人ではないな?」
「…ふう、そろそろ潮時か」
やはり聖剣であったかとミノルは舌を鳴らし、後ろを一瞬見るとケンジも近づいてきていた。ミノルは溜息をつき構えを解いて羽を広げて、天井高く飛ぶとそのまま入り口に向けて飛行を始める。
「待て貴様!ナオ!何時まで寝ているつもりだ!矢を放て!」
「え?でもアイツの言う通り味方がいるんだよ?まずいよ」
「バカかてめえ!いいから打つんだよ!」
外へと逃げ出すミノルに追撃をと促すユウトに難色を示すナオ。
そして構わないから打てと言うケンジにナオはノロノロと弓をつがえようとするが、手が震えて中々構える事が出来ずにいると、ミノルは外に飛んでいってしまった。
ユウトとケンジは、ナオに向かって「この役立たずが!」と罵りミノルが飛んでいった正面出口へと走っていく。
続いてナオとエリカも震える足を殴り、追いつこうと走り出して行った。
『リュー!こっちは騒ぎを大きくする事が出来たから準備に取り掛かる』
『了解じゃ、妾も準備に取り掛かるとしよう。アディ、妾とミノルに〈拡声〉と《探照》を展開じゃ』
『あいあいさ~それじゃ~いっくよ~』
リューとアディに念話をしながらミノルは上昇して教会の真上でホバリングを始めるとまるで、ミノルがそうしたのを理解したかのようにリューも議会場の真上に飛んでホバリングを始めた。
アディの掛け声と同時にミノルとリューは《身体構成》と《顕現》を展開し2人は龍化をしてその場で再びホバリングをしている。
西エリア、東エリアの住民は突如暗闇に出現した光の柱に驚きハチの巣をつついたような騒ぎになるが、東エリアは西エリアに比べてさほど大騒ぎには、なっていなかった。
そして、光の柱が消え失せた後には黑く巨大な影が出現しており、外に出た勇者4人も何事かと固唾を呑んで見守っていた。
すると巨大な影の下部あたりに光の球が5つ囲むように浮かび出すと、指向性のある光が巨大な影に向けて照らし出す。
巨大な影はドラゴンであった。
東エリアには金色の身体に虹色に変化する模様があるドラゴンの姿を照らし、西エリアには少し東エリアより小さい銀色の身体に漆黒の模様が特徴のドラゴンが照らされていた。
東エリアのドラゴンは西エリアを飛ぶドラゴンを見つめていたが、西エリアのドラゴンは周囲に気絶しない程度の”威圧”を放ちパニックになる事を押さえていた。
西エリアの住民は恐れていた。今にも大声を挙げて逃げ出したいのに、足が竦んで動くことが出来ず、ただ黙ってドラゴンを見上げるだけしかできなかったのだ。
そうするうちに2匹のドラゴンは語り始める。
『せ~の』
「「フェリエ共和国の民に告げる。我々は古龍である。ドナクレアの魔龍と言えばわかるであろう。そしてここに我々の言葉を告げんと顕現した。人族よ、天使族よ、そしてそれに与する愚か者共よ。
ここに我々が顕現した理由は判るであろう」」
古龍と言う名を聞いただけで西エリアの住民たちは汗が噴き出していた。そしてどこからか天罰が下ると呟き始めるものが出始めていた。
そして勇者4人は、はたと気づき4人で力を合わせて広範囲の〈ブレイブハート〉を展開し始める。
尚もリューとミノルの言葉て続く。
「「争いだ。他の種族を虐げ己の欲望だけに忠実で実に愚かな争いだ。フェリエ共和国のルールに従わずに行う争い。これには我々も黙認するわけにはいかない。
そして告げる。
人族よ、天使族よ、それに与する愚か者共よ。明日より1週間の猶予を与える。まずはこのヴォルシナより立ち去れい!そしてそれから1ヶ月以内にフェリエの地からも立ち去るのだ!」」
古龍の告げる言葉に気丈にも正気を取り戻す事が出来た少数の人族達は即座に自宅へと走っていく。
「「1週間後ヴォルシナに残っている輩が居れば我々自ら手を下すことになるだろう。そして1ヶ月後にはフェリエの地を……。さあ、天罰が下る時が来たのだ。疾くこの地より立ち去るがいい!」」
古龍の演説が終わると同時に、身体が動くようになった人々は蜘蛛の子を散らす様に、我先にと走り出し、退去に向けて行動を始めるのであった。
そしてリューとミノルは城壁外へと、羽をはばたかせながら移動していったのだった。
「は、はは、は!はははは!何という幸運だ!僕たちは今まさに魔龍と言う悪と戦う事の権利を得たぞ!」
突然ユウトは笑い出し、悪の権化と決めつけてリュー達を討ち倒そうと決心していた。
「ドナクレアの魔龍の生き残りがいやがったか!腕が鳴るぜ!」
ケンジもやる気満々である。
「ねえ、やめようよ。無理だよ。1匹でソノッチ達3人がかりでやっとだったんだよ?2匹もいたら勝てないよ」
ナオは無理だと引き留めようとする。
「皆やめよう?戦ったって何の意味もないんだよ?人が死んじゃうんだよ?お願いだから平和に解決する方法を考えようよ。」
エリカもユウトとケンジに戦う事を止めようと説得する。
「バッカじゃねーの?園田達3人で1匹がやっとだったって?あいつら序列底辺だぜ?俺達だったら余裕だろうが。
ナオ、お前ヒデオにこれ以上嫌われたくねえんだろ?しかも今回逃せば美結や由紀たちに取られるぞ?いいのかよ?」
「‥‥分かったわよ。やればいいんでしょ、やれば!」
ケンジはナオが序列1位のヒデオに振り向いてもらえなくなると、挑発して参加させることに成功する。
「…エリカ、これ以上勇者としての職務を放棄すると分かっているんだろうな?」
「…わかってる。だからあの子達には何にもしないで」
ユウトはエリカの何かしらの事情を知っていてそれを盾に参加を強制する。
「勇者殿!ドナクレアの魔龍が生きていたとなると、ここを早く避難せねば!ささ、準備もあります。引き続きの護衛を頼みますぞ」
外で顔輪をしていたユウト達に司祭は駆け寄り、自身の護衛をさせるよう促した。
「司祭様、避難は無用です。我々がドナクレアの魔龍など討ち取って見せましょう!ですから司祭様は住民に落ち着くよう説明をお願いいたします」
「そうだぜ司祭さんよ。俺達は、序列3位と5位だぜ?負けるわけがねえよ。それにもし倒せないとしても俺達がいれば、あいつらにはここに手出しは出来ねえ筈さ。魔龍が2匹もいたとあっては残りの勇者が、援軍で来るからよ!まあ、必要ねえけどな。大船に乗ったつもりでドーンと構えていればいいんですよ!」
ユウトとケンジは司祭に魔龍には手出しさせないと誓って安心させようとした。
「おお!それでは私達はここに住み続けても大丈夫と言う事ですな?」
そして司祭も勇者が4人もいると言う心強さから先程までの不安は消えて、勇者達へ全幅の信頼を置くのだった。
「ええ。ですから司祭様は私達の勝利を願っていてくださればいいのです。ですから加護の増幅を祈祷お願いいたします」
「それはもちろんです!それでは住民への通達は近衛と勇者様にお願いして、私達は祈祷の準備に入ります」
ユウトの言葉にさらに自信を持った司祭は勇者の力を何倍にも高めるための祈祷をするために教会へ足早に戻るのだった。
「それじゃあみんな。あいつ等は図体がでかい時はいいが竜人にもなるから気をつけて。城の外は遮蔽物が無いフィールドだから連携を上手く利用して討ち取ろう」
「さて~と。いっちょ一狩り行ってみますか!行くぜ!」
「「…わかったわよ」」
ユウトとケンジの号令の元にナオとエリカは仕方が無しのような返事をして、魔龍討伐に挑むのだった。
この時はまだ、自身の無謀さと愚かさに気付くことはなかったのであった。
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