覚悟と策略
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俺は夜会の中、一人で中庭の噴水を見ながら考えていた。
今日の茶会で言われたアーデルハイド嬢とリューの言葉を思い出していた。
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元々アーデルハイドは聖女ではなかった。
召喚時は女神の加護を何一つ持たない”はずれ勇者”という転生、転送ジャンルの小説で言えば、お荷物勇者だったらしい。
アドラ公国の公王や重鎮そして同じく召喚された同期の仲間たちから次第に蔑まれていくようになったが本人は全く気にせずに、幾多の戦役を経験した戦士や魔法師、上位階級の冒険者などに頭を下げ教えを乞うて実力をつけて行った。
するといつの間にか同期の勇者や騎士達よりも強く、宮廷魔法師をも凌駕する実力をつけていき、一目置かれる存在になっていた。
そして突然の聖女の証となる”不老長寿”の加護が発現した。
世にも珍しい加護の後発的な発現は周囲を驚かせ、そして期待もされた。
しかしここで問題となったのが、加護を授けたのがよりにもよって”平和そして平等と自由”の女神メーフェであった。
アドラ公国ではメーフェ自体マイナーな女神でほとんど知られていないのが実情だった。
しかし聖女の証となる不老長寿の加護を有するアーデルハイドを捨て置く訳にはいかない。
困り果てた上層部は”聖女候補”として扱いドナクレア戦役へと向かわせることになるが、さすがメーフェの加護を持つだけあって互いの主張を纏め上げて戦闘など殆ど起こる事も無く戦役を停戦まで持ち込んだのである。
「そしてこの時に~リューちゃんと~ある約束を交わしたの~。」
間延びな口調で話しは続く。
今回で数える事64回目の会戦であり古参の兵には「もういい加減止めないか?」との声があり、幾度となく会見を重ねて互いを知る仲になっていたリュセフィーヌへこう持ち掛けた。
”今回の戦役終了以降に、戦争が起こった場合、殺しあわない形での戦争で勝敗を決める事。もしこの約定が破られた場合、アーデルハイドの名において終結へと導く努力をする。その場合、止むを得ず強大な力が必要となった場合は古龍の眷族として挑ませてほしい。”
と、リュセフィーヌへ提案。
事実この約定をアーデルハイドは確定させ、ドナクレアの戦いは停戦もして約束を果たす。
リュセフィーヌも約束は守られたとして、一族へ報告し提案を受け入れられた。しかも古龍との”盟約”としてドナクレア島の守護龍ドイン・ドナクレアが許可をしたのであった。
最もこの約定が、後のアドラ公国の兵力を拡充、温存の温床となってしまい、約定は破られることとなる。
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「だから~私を眷族として~参加させてほしいの~」
「だから何でそこから嫁の話になるんだ?」
「じゃからな?約束の1つは守られた。じゃから盟約を交わした。そしてもう一つの約束を実行するために盟約を実行するわけじゃ。しかもな?もはや妾の血筋はミノルしかおらんのじゃ。
一族を増やそうにも妾も胎は一つしかない。そこでアディとの盟約で胎を増やそうと考えたのじゃ。
もちろんアディもそれを受け入れると言っておる。妾もアディならば姉妹となっても良いと思っておるしな。
それに2人の妻は常識じゃ。古龍は男が少なく女が多いからのそれに個体数も極端に少ない。」
「・・・俺の拒否権は?」
「ある。眷「族」ではなく眷「属」としてアディへ力を与える事が出来る。その場合、古龍ではなく上位の龍族止まりになるがな。」
「アーデルハイド嬢はどうなんですか?」
「私はリューやミノル君とは、僕たる眷属としてではなく、家族として眷族になりたいと思っている。ミノル君の事も男として感じてるしリューの事も家族と思っている。
それに交渉はないが、同衾しているじゃないですか。僕としてとか、嫌と思う人には私は出来ない。
それで答えにはなっていないでしょうか?」
「・・・わかった。時間をもらうけどいいか?多くの時間を貰うわけではないよ。近日中に答えは出すよ。」
真面目モードに切り替わったアーデルハイト嬢に猶予を貰うよう頼むと、リューとアーデルハイド嬢は頷くのだった。
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「・・・はあ。ったくそれならそれで事前に心構えとか言えってんだ。俺に言葉が足りないなんてよくも言ってくれるよあの姫様は。」
「こんなところで主役が何をしているんですか?みんな探してましたよ?」
溜息をついて愚痴の独り言をしているとヤーノが迎えに来てくれたらしい。ワイングラスとボトルをもって近づいてきた。
「茶会の事ですか?まあ、いきなりで戸惑いますが断る必要はないのでは?ハーレムなんて男のロマンじゃないですか?」
「物語上ではすげえ!なんて思ったけどね。」
「アーデルハイドさんは乗り気だったみたいですよ?」
「いや、受け入れる事は出来るが、まだ覚悟が出来てないな。」
「覚悟?」
俺にグラスの一つを渡して白ワインを注いでいく。赤派のヤーノが白派の俺に気を使ってくれているのだろうか?その何気ない気遣いが身に染みる。
「一夫一婦が俺の中では誠実なんだ。だが古龍の中では一夫二婦が常識で誠実なんだ。そこの折り合いがまだつかないな。」
「・・・そうですか。てっきりミノルはこちらの文化に慣れてしまって複数の女性を持つかと思ってましたよ。」
「フィクションだからこそ面白いし夢があるんだ。現実は違うよ。そう言うヤーノこそどうなんだよ。」
「僕はミノルの先輩異世界経験者だよ?4人いるよ。」
俺は驚いていた。一見真面目で静かで頼もしい方とは思っていたが、既にいらっしゃったとは。
人は見かけによらないものだと心から思った。
「いったいいつの間に・・・どこ?夜会の中にいるのか?紹介してよ。」
「いや、ここにはいないよ。だから帰るんだローグインにね。」
ようやく理解した。ヤーノが地球に帰ってきたにもかかわらず、戻りたがっていた理由が。
「ははは。それもあるけど、まだあるね。戦争の兵器として召喚された僕が見たのは穏やかに暮らして、今ある幸せを享受する人々。それを蹂躙し破壊、地球では他人事だったけどフィーグルでは関係者なんだ。大きな力を持ったがゆえにバカやってるやつらを見て反吐が出そうだったんだ。だから戻ってきた。同じ力を持っている勇者や権力者達を諫めるためにね。」
俺の考えている事に気付いたのか、言葉を付け足してくれた。
ワイングラスを回しながら中で揺れるワインを見る目が真剣であった。おそらく本心なのだろう。
「さて、湿っぽい話はここまで!リュセフィーヌさんに探して来いって言われてたから戻ろうか?
連れて行かなきゃ僕が怒られちゃう。」
そう言ってホールへと向かうヤーノの後ろを見ながら、「そうだな」と俺も後をついていくのだった。
翌日、昨日の軍議の続きが行われた。
議題はもちろんアドラ公国に対抗すべき方法についてである。
先日の戦争から一か月経った現在、間諜からの使い魔便でアドラにも敗戦の報が伝わり、既に次の会戦へ向けて準備が始まったとの知らせだった。
「・・・普通、収穫期に来るのか?」
「ありえん。あの国は何を考えておるのだ?」
「いくらアドラが南寄りとは言え今回の戦で相当の被害があったはず。そこに秋の収穫を目の前にまた戦を起こすとは、常識では考えられん。」
フィーグルの南に位置するアドラ公国は雪も降らず霜が降りる程度で温暖なため年に春と秋の2回の収穫がある。
とはいっても春より秋の方が収穫量は数倍にも違うため通常、秋の時期は収穫の為に人員が不足するので春から秋口までが戦争の時期である。
ヘティスハーク王国のように北寄りの四季がはっきりしている地域は年に1回の収穫で冬は雪深く戦争どころではない。
軍務の人達や貴族達が頭を抱える中、俺はすっかり忘れていたある事を思い出したので、聞いてみた。
「すいませんアドラ公国では国の重要もしくは最重要人物が亡くなった時は喪に服する週間はあるのでしょうか?」
「はい。ありますよ。特に公王の一族や公王、そして教団の聖女や教皇などが亡くなった場合は最長で半年間喪に服します。」
「では、アントニオって人物はどの位置に属しているのでしょうか?」
「アントニオ?もしかして現公王の嫡男のアントニオ・ラドリエでしょうか?それならば王太子としても位がありますから、公王と教皇に次ぐ人物に位置してますので少なくとも4ヶ月は期間を有するかもしれません。」
俺と作戦部長の会話に気にづいたのかリューは席から腰を上げかける。
左手をリューへ差し出し制しながらこう投げた。
「私達は地球でアントニオ・ラドリエと名乗る人物と勇者3名と邂逅しそして戦いました。
更にその4名を討ち倒し現在魔法袋にて保管しております。」
俺に言葉に軍務の人達や貴族達は一気に触箸くなる。
「フィーグルの戦での慣例に伴いアントニオ・ラドリエと勇者2名、1名は跡形もなく消滅させてしまいましたが、今回の戦争での勇者ノボルの遺体をアドラへ送りましょう。」
事情を知らなかった貴族達にアントニオ・ラドリエの地球と言う異世界での事情を伝えた。
「そうか!それならば都合かいいな!異世界にいたはずのアントニオ・ラドリエがフィーグルで遺体となって送られる。公王の嫡男の死亡そして異世界との接点がなくなっていたことによる衝撃も重なる事で目の前に迫った戦の時期を延ばすのだな?」
テンベルト王太子が席を立ち俺に訊ねてきたので、頷いた。
「なるほど、ミノルよヌシの考え読めてきたぞ?喪に服することでアドラの進軍の足が鈍る。そしてその間にどこかと同盟を組むのじゃな?」
「そうです。リュセフィーヌが今言った通りでこれから私達は隣国のフェリエ共和国に行って同盟の参加、そして来るべき戦争への参戦を促して来ます。そして古龍がフェリエ共和国に向かったことを意図的に流し勇者達をおびき寄せます。」
「確かに、そうすればヘティスハーク王国は収穫に専念が出来て、雪解け後の戦争準備に取り組めると言う事じゃな?」
俺とリューの会話をわざと聞こえるように話すと、周囲から感嘆の声が上がっていた。
「よかろう、わしからもその策略に及ばずながら手を貸そうではないか!」
「私の領内にいる隠密に長けた部下たちもお貸しいたします。」
貴族達から続々と今回の作戦への名乗りが上がっている。
そして最後にセルディス王からも告げてきた。
「これこれ、私をのけ者にされては困るのう。それでは私からは金銭面での援助を申し出よう。」
とぼけるように話すセルディス王に周囲が笑いながらも目は真剣そのものだった。
「ありがとうございます。それでは作戦に向けて私達も頑張らせていただきます。」
こうして次の手を打つべく、俺値リューは互いに見合いながら頷くのだった。
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