逃亡生活①
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この回から3話ほど逃亡生活が続きます。
拙い文章ではございますが、どうか楽しんでください。
あの病院から抜け出し自宅へと俺は向かっていた。
「9歳の体は1歩1歩が短いから時間がかかるなあ。」
しかもサンダル履きである。
また、病院着の貫頭衣に膝までのサーフパンツ状態なので、辛うじて甚平を着ている子供に見えなくはないが目だってしょうがない。丁度季節は夏も終わり涼しくなりかけの9月下旬。
まだ昼は半そで姿の人達が目立ち、冬でなかったことが救いであった。
俺は自宅に向かいながらこれからの事を考えた。
多分俺が逃亡したことによって自宅や仕事先などには手が回っていると考えた方がいいだろう。
だが、着の身着のまま状態でこれからどうすればいいのか途方に暮れているのも正直な話である。
俺は若いころ悪いことを色々していて親族とは既に縁を切られているし、友人と呼べる人もいないので唯一の拠り所は家財道具や自家用車が停めてあるあのアパートの一室のみ。
何とかあのアパートに帰る事が出来れば、それなりの準備が出来るから帰るしかないと心に決め歩を進ませるのだった。
区を2つもまたいでの移動はきつかったが、アパートに深夜になって到着した。
俺は周囲に気を付けながら初めは大きくアパートの区画を見回り怪しい車両や人影がないことを確認しながら正面からは行かず、狭い家屋の間を通りぬけてアパートに到着。
入り口横の表札パネルを外し自宅の鍵を入手して細心の注意を払いながら鍵を開けた。
しかし玄関を開けて入ると家財道具の一切合切がなく、もぬけの殻となっていた自宅に俺は声をあげたくなったが、深夜でどこに追手が潜んでいるか判らないので拳を強く握りながら「グッ」と唇をかみしめて我慢した。
―俺の全財産。やってくれたなくそったれどもめ―
思い出せば、どれも思い入れがあり買った時は喜んでいたっけ。新しいのに買い替えることなく大事に使っていたのに・・・
それでも、ここで呆けていてはまた捕まってしまうと気分を入れ替え行動に移った。
流し台の下扉を開けて下板を外す。
「あった!」
俺は小さくガッツポーズを取った。
財布を落とした時や空き巣、置き引きなどの被害に逢った時のため手提げ金庫を隠しておいてあった。もちろん税金などの支払いはきちんとしていて税金逃れとか隠し財産といった悪いお金ではなく、まっとうな銀行に預けていないお金である。
現金350万円、会社の定款やアパートの契約書など最重要書類と通帳や印鑑、キャッシュカードもある。
俺はそれをすべて金庫に一緒に入れていた手提げ用の巾着袋に入れてアパートを出る準備をした。
そしてアパートを出ようとした所で玄関先でバタバタとこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「もう見つかった!」と舌打ちをしてどうにかできないか室内を見回してみると玄関扉に警備で見掛けるセンサーを発見した。
このアパートには火災報知器以外そういう類は一切なく俺はその存在に気付かなかったことを後悔しながらも逃走方法を模索していた。
多分窓から下に降りても誰かいるかもしれないしガランとした室内には隠れる所もない。
しかし俺は、はたと気が付きベランダへ移動し雨水用の配管を伝って屋上へと登った。
さすが9歳の軽い体は細い配管にしがみついても折れることなく上へと登る事が出来た。
昇っていくうちに段々と握力がなくなっていき、腕も上がらなくなってきたが、「捕まってなるものか」と必死に登った。
何とか屋上に到達した直後ベランダの下に人が駆けつけてきて俺の部屋を見上げていた。
「あぶねえ。ギリギリセーフだったじゃん。」
俺は独り言をつぶやきながら見つからないよう下を覗いていた。
「部屋にはいない!下は?」
「ここにはいない!あ!そこの家の隙間から逃げた可能性が高い!」
「周辺を探せ!まだ近くにいるはずだ!」
やれやれ。どうやら勘違いをしてくれたらしい。上に逃げたとは思っていなかったなと俺はホッと胸を撫で下ろした。
そして屋上から周囲を警戒しながら見回すとまだあちこちと走り回る姿が見受けられた。
ふと駐車場を見ると俺の駐車スペースに我が愛車の姿はなく落胆の溜息をついた。
「ミニバンだったから寝泊まりも出来たのになあ。くっそ限定モデルだったんだぞ!」
危機が去っての安心から心に余裕が出来たのか俺にここまでしてくれる奴等に悪態をついたのだった。
それから周囲を警戒しながらも、ふと駐輪場を見ると自転車があった。
「あれは・・・嫌、もしかして罠かも?」
そこには事件の2日前に購入していた「折り畳み自転車」かあった。
16インチの小さい車輪で小さくなった俺が乗れる高さにまで調整可能なもので自転車があればたいていは逃げ切れるなと思案した。
賭けにはなるが、これから身分証明が必要な購入はガキの俺では不可能に近い。
いざとなったら乗り捨てればいいかと自転車は持っていくことを決意した。
夜も白みなじめた頃、もう一度周囲の警戒を行ったが人影は見当たらず。
俺は先程と同じく配水管を伝って下に降り周囲を見ながら自転車に近づいてダイヤルロックのチェーンを外しにかかる。
チェーンは俺が設定した番号で外れ、念のためチェーンはその場で捨てて自転車を調整し乗り込んだ。
「よし、ここまでは順調。トップスピードで逃げるぞ!」
俺は自転車を思いっきり漕いで勢いよくアパートを離れる。
自転車を走らせながら周りを見るが追いかけてくる人も無し。
一応念のため駅前のコイン駐輪場へ行き、自転車を停めて遠巻きに見る事が出来る自販機群を見つけ監視をした。
自販機で買った牛乳とパンを食べながら見ていたが、近づく人や俺と同じように遠巻きに監視する人も見受けられないので自転車を回収して移動を始めた。
そしてまずは銀行へ行くことjにした。
俺に契約する銀行はATMが24時間開いておりいつでも引き落としが出来る。
ここで計画したのはキャッシュカードを使って引き落としが出来れば全額引き落とすが、出来ない時はそのまま逃走しようと計画した。
いつ資金難に陥るかわからないので、出来れば現金はあるだけ持ちたい。
最悪「地獄に沙汰も~」のそれなりの人達に御厄介になるかもしれないからだ。
そうして銀行へ到着しATMへ向かいキャッシュカードを入れ、暗証番号入力をすると引き落とし可能になっていた。
「やった!天は我を見話していないぞ!」
そうつぶやくと即座に全額引き落とし開始をしたが、引き落とし限度額があって数回の引き落としの時間を要したが、何とか回収に成功。
そのまま銀行を足早に出て離れて置いていた自転車に乗って移動開始。
まずは衣服だ。
俺は羽を胴全体を覆うように貼り付かせ道端に捨ててあった洗濯ロープで胴に巻きつけた。
尻尾は股に挟んで落ちないようにこれもロープで固定。
病院着がぶかぶかだったのが幸いして少々不格好でガニ股歩きはあるが、偽装は成功した。
あまり監視カメラが多い場所は避けて、アーケード商店街にあるカジュアル洋品店に行き下着やタオル、衣服も大きめなのを数点づつ購入し大きめのバックも購入した。
次に同じ商店街にある某靴チェーン店で紳士用は大きかったので女性サイズのトレッキングシューズを2足購入した。
次に家電量販店で安価のタブレットPCを購入。
店員に少し尋ねられたが「お年玉と御小遣いが貯まったから」と言ったら疑いもなく売ってくれた。
タブレットさえ手に入れてしまえば、色々な所で無料Wi-Fiさえあれば色々な情報を入手可能だし、とあるアプリで課金さえすれば電話も掛けられる。
充電はショップなどで可能だが念のためソーラー充電器も購入。
俺はある程度の装備を整えて電車に乗った。
向かった先は都内有数の歓楽街にある不動産屋でそこの抱えている物件は、社長のじいさんが直接持っている物件で身元がちょっと怪しくても家賃さえ払っていれば入居させてくれる。
と言っても、その手の職業や物件を荒らす輩には貸さない為、結構きれいな物件だ。
昔、今のような保証会社もなく入居時は親戚または家族が保証人出ないとダメだった頃に住むところに困っていて偶然見つけてお世話になっていた所だ。
ここなら賃貸ネットワークなどに登録されずに居住可能であり、人に紛れて生活も可能だ。
「おやっさん久しぶりです。またどっかアパートの物件に世話になりに来ました。」
「いらっしゃい。あ~?誰だ君は?見たことあったか?」
久々に見るじいさんは、「俺を見て胡散臭そうなヤツが来た」というような表情をして迎えてくれた。
俺は「見た目が若くて普通のアパートで断られて困っている所におやっさんに助けられた」と胡麻化して説明をすると「ああ、確かそんな奴もいたような気がするな。」と言いながら物件と書かれた書類棚をペラペラと探してくれていた。
うむ、いい具合にボケてくれたなと思いつつも申し訳ない気持ちで物件を紹介してもらうのだった。
紹介された物件は1Kのアパートで風呂もトイレもあり外観や部屋の内装もきれいだったし、他に住んでいる人も学生やサラリマンと言う事もあって俺はここの部屋を契約して隠れ住む生活を始めるのだった。
――――――――――
1ヶ月目
ほとんどのものは通販で買う事が出来たので代引きでおおよそのものは揃えた。
いつ見つかって逃げ出してもいいように着替えやタブレット充電機器は詰め込めるようにしておいた。
そして野宿などもできるようにインターネットでサバイバル生活などの情報をダウンロードしておいた。
一応、故障などで仕えなくなった時の為に予備のタブレットを1台購入。情報なども複数のメモリーカードに入れ込んでおいた。
やはり外に出る事が出来ないというのは、中々にきついものがある。
出たとしても羽などを縄で縛りつけて出なければならず、手間もかかるし、あの連中が何処をうろついていて俺を発見するか分かったものじゃない。
そこでWeb小説を思い出しそれを読む事にした。なかでもファンタジー小説が最も面白く暇を潰す事が出来たが、いかんせん書籍化されると更新が途絶えてしまう作家がおり非常に残念であった。
それでも続きを読みたいと思いウェブマネーというものを購入して書籍版を購読したりもしていた。
また、羽と尻尾に進展があった。
風呂に入ってると邪魔だしどうにかならないものかと羽と尻尾を毎日動かす訓練を始めた結果、洗う時に手を使わずに自分の手前まで動かす事が出来るようになった。
今後はもっと器用に動かす事が出来るようになりたいと訓練を重ねる事とした。
2ヶ月目
隠れ生活も慣れてきて、いよいよ昼間の外に出てみる事にした。
久しぶりの外に排気ガスで汚れているとはいえ爽やかな感じがした。羽も縄から、さらし巻に変わり多少着ぶくれているが、寒くなってきたので誤魔化しは効いた。
なるべく目立たないように、小学生の登下校時や塾帰りを装ってみたりとしながら周辺に変化などがないか警戒しながら近所を歩いたりした。
この時に途中で寄った所謂場末のラーメン屋だが久々の外食で美味しいと感じたし、また社会の中に溶け込んでいると感じて涙を流しそうになりながら食べたラーメンの味は忘れられない。
また、段々とこの羽と尻尾の違和感を感じなくなってきた事に自分は人間じゃなくなってしまったんだろうかと孤独感と恐怖感がこみあげてきていた。
そしてもう一つあの病院での出来事。
逃亡を図った時に発生した電気のスパークを思い出す。
―あれは、もしかして俺がやったのか?―
と思うようになってきた。
その原因としてここ最近読んでいる小説の中に出てくる「魔法」という言葉が頭の片隅に引っかかる。
そしてもう一つ
ゲームや先程の小説に出てくるあるファンタジー世界の生物
―ドラゴン―
巨大な体躯に丈夫な鱗に覆われ、背中に生えた羽で自在に空を飛ぶ事が出来る生物。
「空飛ぶトカゲ」と揶揄する作品もあり、また別の作品では人間に変身している姿。
いやいやまさかなと思いながらも、どこかで否定できない自分がいるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いたします。
次回更新は17時です。