使徒対勇者
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「おお!このような戦い方があったのか!敵が散っていくぞ!突然に作戦を変えたいと言うから何かと思えばこういう事か!よし!突撃の笛を吹けえ!」
パーパド王子の指示で兵士が何かの動物から作った角笛を力強く吹く。
すると塹壕に避難していたヘティスハーク軍の兵士が出て来てアドラ公国軍へと突進していくが既に勝敗は決していたミノルとリューの攻撃により敵陣は瓦解、もはや陣形などはなく凄まじい嵐が通り過ぎたような痕跡のみで、突入したヘティスハーク軍に即座に降伏。
多少の抵抗は見せているが、それも無駄であった。
自軍が開戦開始わずか1時間も立たなううちに2匹の龍によって滅多打ちに遭い既に壊滅の一歩手前であった。
目にもとまらぬ速さで飛び去った後に襲い来るすさまじいまでの風に兵は宙を舞い、地を転がり続け巻き起こる石礫や吹き飛んできた樹木に巻き込まれた跡には多数の死傷者だけが残っていた。
総大将ジレンドール・ポンセは戦慄していた。「こんな魔法見たことも無い」と。
しかしそれは間違いである。
現象に至るまでは魔導の力は使ったが、物理現象によるものでそれを知っているのは、記憶を共有したリューそして勇者であろう。
それでもジレンドールは総大将である。
気を取り直し残った兵を再編成して反撃を試みようとしたが、陣形は引き裂かれ再編成にも瓦礫や死体などが邪魔をしてしまう。
そのうえヘティスハークの軍勢が立て直す前に小隊を各個撃破してすぐそこまで迫って来ていたのだ。
「私だけでも本国へ戻りこのことを知らせねば。」
ジレンドールは考えを変えて敗走を選択し自身の飛竜へと騎乗を試みるが、最上位種の古龍に恐れてしまって硬直しており、騎竜も同様。
ならば馬へと考えを移したが時すでに遅し、ヘティスハーク兵に取り囲まれており自身も降伏するほかなかった。
こうしてフォレ平原の戦いはアドラ公国軍死傷者併せて約1万6千人の被害、それに対しヘティスハーク王国軍は死者4名重軽症者18名と圧倒的な勝利をヘティスハーク王国は収めたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
勇者 本条毅
本条毅は焦っていた。
例えエルフ族でも鉄砲と大砲、そして自分たちの強大な力さえあれば何の苦労も無く今回の戦いを終えて妻子の待つ自領へと帰る事が出来ると思っていた。
毅はフィーグルに召喚され、この7年でいくつもの戦争を経験し叙爵される、着々と戦功を挙げてアドラ公国の伯爵の一人娘である令嬢と結婚して2人の子供を授かった。
伯爵の後も継ぎ領地も加増され順風満帆だった。
転移直後は公国兵士とは違って強大な力があり、それに溺れ人を殺しまくり無抵抗の人間でも平気で殺し、嬲り、嘲り笑っていた。
だがしかし転機が訪れた。子供が出来てからだ。それからが死と言うものが怖くなってきた。
そして自領に閉じこもるようになった。
今でもカースト上位の奴等や金魚のフン共は我先にと戦地へ向かい戦果を挙げている。
しかし非道なふるまいや貴族などに対して傍若無人なふるまいから”鬼畜勇者”と畏怖されている噂を聞いたことがある。
2年前など”ドナクレアの魔龍”を討ち倒したと自慢げに首都に凱旋し連日に渡り夜会などを開いていた。
確かにおすそ分けとしてもらった魔龍の肉はうまかった。
家族と共にドラゴンステーキに舌鼓を打ったものだった。
だが毅は知っている。魔龍は勇者3人如きでは絶対に倒せないと言う事を。
多分結城恵一と取り巻き3人の時と同じ何かしらの卑怯な手を使ったに違いないと思っていた。
それからも徹底して自領に閉じこもり家族と共に暮らすことを選んだ。
結婚当時は俺を恐れて殆ど近づかなかったが、今では3人目と言うくらい夫婦仲が良くなっていた。
しかし今回は閉じこもる事が出来なかった。
勇者序列トップの新庄英雄が俺を指名してきたのだ。
「お前暇してるだろ?とっととヘティスハーク滅ぼして来いよ。」
同じ転移したクラス女子侍らして屋敷でふんぞり返ってるお前が行けと言いたかったが、こいつらの能力は俺より上だし、公王から信頼も高いので逆らえない。
御目付け役として金魚のフンの会田昇がつけられ今回の戦争に従軍した。
だがしかしこれは何だ!突然ドラゴンが現れたじゃないか!聞いてないぞ!使者と斥候は何をしていたんだ!
目の前にドラゴンが2匹もいるじゃないか!しかもあの金色のドラゴンは”ドナクレアの魔龍”そっくりじゃないか。
そして銀色のドラゴン。なんだあれは・・・周囲に放つ恐ろしいまでの殺気。足が竦む。
兵士たちが恐慌に陥っていた。
「たかが龍2匹如きに恐れるなあ!我々には勇者が2人同行しているんだぞお!」
ジレンドール司令の怒号が聞こえてきた。
俺は咄嗟に〈ブレイブハート〉を唱えた。
次第に周囲に冷静さと戦への興奮度が上がってきているのを感じた。
しかもドラゴンが逃げていくじゃないか!そうすると魔龍以下の龍族なのか?
そして全軍が前進を始めた。
その後はほとんど覚えていない。ただ、覚えているのはあのドラゴンが音速以上で飛んでソニックブームで俺達を蹂躙し続けた事だ。
そして軍は壊滅、俺も自領の兵を引き連れて敗走していた。
敵軍に削られながらも逃げる事を第一に考えたが、先に誰かいる。誰だ?
金でもない銀でもない虹色に光る鎧。龍の鱗か!しかもあの銀の龍と色合いが似ている。
両手に短槍を持ち俺達を見ている。
俺達が気付くと槍を構えて迎撃態勢を取った。
「タケシ様!ここは我々に任せて早くお逃げください!」
「だがしかし!・・・分かった。無事を祈る!」
そう言って6名の騎兵を先に行かせ数人の兵と共に逃走試みる。
「逃がすと思うかい?」
男は構えを解きこちらに向かって歩き始めた。
「くらええええ!」
騎兵たちは男に向かい槍や剣を振り下ろしたが男は馬と馬の間を流れるように軽やかな足取りですり抜けた。
そして抜けきった次の瞬間6人の部下たちは馬事バラバラに切り刻まれていて後には血の海と肉塊だけが転がっていた。
「無駄な抵抗はよしたほうがいい。抵抗するならば後ろの人たちの仲間入りをすることになるよ?」
男はこのような状況なのに、なぜか優しそうな笑みを浮かべて俺達へ投降するように言ってきた。
「タケシ様だけでもお逃げください!」
そう言いながら俺と従者2人を残して19名全員で男に切りかかったが、同じく血の海に沈んでいった。
「・・・お前は誰だ?ヘティスハークのエルフじゃないし人族と敵対するつもりなのか?」
「第51次勇者とお見受けする。私は元第47次勇者ヤーノ。今は女神メーフェが使徒ヤーノだ。大人しく投降してほしい。」
俺は絶句した。先達の勇者の生き残りが存在していたなんて。確かに数名の生き残りはアドラ公国にはいるがあとはすべて死んでいたはず。
「ヤーノ・・・まさか謀反の勇者!でも送還されたはず!何故ここに!」
「やれやれ、僕はそんなことになってるんですか、まあ確かに裏切りましたけどね。送還を知っていると言う事は以前の僕と同じで還る事を調べた口ですね。ですが戻ってきたんですよ。アドラを滅ぼすために。そして力に溺れた勇者を打ちのめすために、ね。」
俺は従者に手を出さないように命令して、馬から下りて剣を抜く。
抜いた剣は光輝き刀身は光を纏う聖剣の太刀だ。
「俺は確かに力に溺れた!戻りたいとも思った!でももう戻りたくもないし死にたくもない!どうせ捕まれば死刑が待ってる!ここでお前を倒して妻と子供の元に帰るんだ!」
そう言って俺はヤーノに向かって斬りかかった。
だが当たらない!弾かれもしないし、受け流されもしない。何故だ!〈身体強化〉〈能力増大〉まで展開して何故当たらない?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
タケシは斬り込む。何度も斬り込む。
だがヤーノにはかすりもしていない。タケシは剣技に自信があった。
ステータスも剣技レベルと体術レベルは10とカンストしていた。
SPDさはもちろんの事、STRも他の勇者よりも高かった。、
勇者序列上位の者達よりも高く、訓練ではだれにも負ける事がなかった。
そのせいで他の勇者から嫉妬の対象になり仲間外れになった位である。
そして何より〈身体強化〉〈能力増大〉まで展開してである。
変則的な剣筋、剣技を織り交ぜながらの足払いなどの体術も駆使して全く当たらなかった。
そして何よりヤーノがタケシが攻撃範囲で最も得意とする位置にいての攻撃で当たらないのである。
更に付け加えるなら秘技のもう1本の聖剣の短刀を使用しての二刀流を駆使しても当たらないのであった。
タケシは思っていた。何故だ!何故だ!何故だ!何故だ!
息が上がって来て剣筋が鈍ってきた。だが〈治癒〉を展開して体力を回復させてなお挑む。
「・・・これで終わりかな?」
汗一つかかず、息も切れておらず、未だに涼しい顔をしてヤーノが問う。
「まだまだあ!」
とタケシが声を荒げながら答えたが、唐突にその戦いは終了を告げた。
ヤーノが袈裟斬りからの攻撃を躱しながら横にすり抜けた瞬間、タケシの両腕の手首と両足の甲が潰されていたのだ。
タケシは絶叫しながら両刀を落とし痛みから跪く。
「今代の勇者はこんなものか。」
ヤーノはタケシを見下ろしながらそう呟いた。
ヘティスハークの兵士が駆けつけて従者とタケシは捉えられていく。
「頼む!死にたくはない!妻と子供の元に帰るんだ!助けてくれ!助けてくれ!お願いだ!」
兵士にとらえられながらもヤーノに向かって助けを求める。
「僕にはその権利があるみたいだけど、僕はヘティスハークの司法に委ねるよ。」
そう言いながら背中から聞こえてくるタケシに答えるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ジェットエンジン魔導を敵陣に飛ばしてさらに敵の被害を増大させていた俺は近づいてくる大きな存在に視線を向けていた。
「ほう、これだけ殺気を向けても怯まないか、とすれば勇者だな。」
俺は着地してそのまま勇者が向かって来る方向に注視していた。
「ううおりゃああ!」
気合を込めた雄叫びをあげながら俺に斬りかかってきた人族を見た。
掲げる武器はハルバード。
長さは持っている人族の身長と同じ位で刃は1/3くらいの大きさをしておりハルバード全体を白い光が覆っていて斧の腹には赤、青、黒の3色の宝石がはめられており何かの模様が刻まれていた。
俺はそれをデコピンの状態から爪でハルバードを受け止めそのまま指を弾く。
勇者らしき男はそのまま弾かれ何度も地面に打ち付けられ、転がりながらも体勢を立て直し着地をした。
ハルバードを構えながら俺の事を睨んでいた。
「へへへへ!ここで龍族がいるなんてなんてラッキーだこれで俺もドラゴンスレイヤーの仲間入りかな。」
身体を土埃だらけにしながらも余裕の態度を取っていた。
顔はオーソドックスな日本人で可もなく不可もなく特徴も無く、どこにでもいるような顔をしていた。
何かのスポーツをしていたのだろうか?角刈りっぽい髪形に横に稲妻のような短い刈込をしていた。
高校生にしては少し筋肉質っぽいかな?
「それで?俺を倒すって言うのならばそれなりの実力があるし、自信があるってことだよな?」
「なに!喋りやがるのか?このトカゲ野郎。」
「トカゲとはずいぶんな言い草だな。お前よりは知識があると思っているんだがなガキンチョ。」
「なんだと!」
「・・・はあ、リュー、パス。」
ずいぶんな単細胞っぷりが目立つやつだなと俺は溜息をしながらリューに任せる事にした。
《身体構成》を展開してその場を離れ3mの大きな岩の上にのぼり見学を始めた。
「あー!あの時のクソガキ!」
「ん?暗くて顔を確認しなかったがもしかしてちっさい人?」
「うるせー!ちっさい言うな!お前こそちっさいだろうが!」
「お・れ・は・こ・ど・も・だ!」
「・・・・・くっ!」
まるであの時の会話を再現するかのようなやり取りに龍化のままのリューが近づく。
「ずいぶんと余裕なことじゃな。覚悟はできているのかや?」
「へっ。今度はメスかよ!トカゲ同士のつがいって奴か?」
「ほう、口だけは一丁前だな。」
「は!お前らを倒して序列1位の座を獲得してやる!」
「じょれつ?なんじゃそれは?」
「やかましい!今までもこれからも殺して殺して殺しまくって俺がトップになるんだよ!」
俺は今の言葉で少しばかり腹が立ってしまった。こいつ唯の単細胞ではないらしい。
「おいガキ。もしかしてお前らスクールカーストって奴に執着してるのか?」
「ああ?それがどうした!」
「・・・上にのし上がるために殺しをやったっていうのか?」
「それの何が悪い!戦争だろ?戦争だったら何やってもいいんだろ?」
その時だった。リューからものすごい殺気が発せられたのは。
「・・・貴様、正義や大義も無く殺したとは。唯の出世欲の為に?他の命を散らした?」
地面が揺れていた。
そして何よりリューの身体が70mより一回り大きくなったことに俺は驚いていたのだった。
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