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一人ぼっちの戦争⑦

お待たせしました。


変なところで区切って投稿、変なところからスタートです。

ごめんなさい。

 「離縁もするつもりは無い。子供達に会わせないとは言わない。だが、私の許可を貰わないと会わせる事はない」


 ゴラウシス()より別居を告げられ、バランセ(長兄)からはぐうの音も出ないほどの理由を告げられたエレーナは下を向きながら震えており、上掛けを握る手に汗が噴出す。


 「お、おっしゃる事は理解できました…あなたと兄上の申し出…お、お受け致し…ます…」


 震え、力なく答えるとベットに倒れこみ、彼女(エレーナ)は意識を失ってしまう。

 エレーナはそのまま意識を取り戻す事無く三日間寝込んでしまうのであった。


 「だからあれほど自身の行動を律するように言っていたのだがな…」


 バランセは溜息混じりに呟くと、ゴラウシスと共に病室を後にするのであった。 

 ゴラウシスはリュセフィーヌの見舞いに行くと途中で別れ、一人で別の個室へ到着するとノックする。

 部屋の置くから返事があり、入室するとそこにはレダ・クレールがベットから体を起こしていて(バランセ)を見ている。

 ベットの傍らには姉のシアンが椅子に腰掛けて扇子で自身を扇いでいた。


 「お忙しい中に御足労いただき申し訳ございません」


 「いえいえ、今日の(仕事)は終わりましたし、これから起こる事象の前に済ませておかなければなりませんしね」


 「…と、言う事はバランセ殿のところはもうお済みに?」


 「はははは。ウチの方は義弟に別居を申し付けられて寝込んでしまいました。まあ、アレ(愚妹)はそれなりに頭は回るほうですから、どういう沙汰が下りるか気付いているのではないかと思ってます。シアン殿の方はもう?」


 「はい、つい先程この愚妹(レダ)に申し付けたところです」


 シアンはころころと笑いながら答える。

 レダ・クレールは現在承っている侍女頭を辞する事。

 そして侍従及び侍女といった雑役の総代権利の剥奪、代わりとして先々代の総代が復帰する事と次期総代としては今後の行動次第という事で話がついたと語る。


 「先代の私は軍師長としての務めもあり、伯母上(先々代)に頼むしかなく、愚妹(レダ)に怒り心頭で昨日もここに来て…」


 ぱたりと扇子を閉じると肩を落として愚痴をこぼすシアンに、「それはそれは」と苦笑するのであった。


 ドナクレア家のみならず、古龍の氏族家は子供一人一人に文官と侍従もしくは侍女が専属で就く事になっている。

 当代が跡継ぎとして選ばれると、文官は次期家宰として政、財、司法を取り仕切る事となる。

 そして侍従、侍女はあらゆる雑務を取り仕切るほかに、諜報活動等を行う暗部の運営も任されることとなる。


 「まあ、私も同じく家宰として続投をと評議会からの嘆願が来てますしね。ようやく御役御免となって余生は息子達をリュセフィーヌ様とミノル様との御子の従者として育てようとしてましたのにねえ」 


 そう言いながら胸ポケットから妻と息子二人、娘三人が写った写真を見るのであった。


 「バランセ様…あの…」


 今まで会話に参加してこなかったレダが遠慮がちに尋ねてくる。


 「エレーナ様の御家庭が別居なさるのでしょうか?」


 バランセは質問に無言で肯定の頷きをすると、顔を青くさせて涙を溜めながらシアンに懇願の表情を見せるのであった。


 「貴女だけ例外は無いでしょう?既に貴女の旦那様には詳細は伝えてあります」


 「そんな!まだあの子達は乳飲みを卒業したばかりで、まだまだ手を離せない状態なのに!」


 「叔母様が乳母を手配済みです。今後一切の面会は禁止になっているはずですよ?」


 シアンの言葉に愕然としてしまっていた。


 「まあ、降格等は時間が経てば取戻しが聞くでしょうが、我が子と会うことが出来ないのが一番の罰でしょうな?」


 「そうですわね。私も軍務へ転属間もない頃は激務の連続で、起きている時になかなか会う事も出来ずに、久方ぶりの会話で「おばさん誰?」と言われた時は絶望しましたからね」


 二人は席を立ち、侍女へと交代するように病室を後にする。

 シアンは、ふと思い出したように立ち止まると(レダ)へと向き直して話し出す。


 「そうそう、貴女の旦那様からの伝言です。"莫迦な真似をしてくれたものだ"…だそうです」


 それを告げて病室を後にする。

 ドアが閉まると同時にレダの叫びに似た泣き声が聞こえてくる中、振り向きも立ち止まりもせずに治療院を去る二人であった。



 ◇◆◇◆



 ミノルの創った世界(天地創造)は外の世界と同じく昼もあれば夜もあり、相違点とすれば四季や雨が降らない事と陸地が無く、ただ大小の浮島が存在するだけである。

 現時刻のその世界に夜が訪れ、浮島の一つに古龍の姿のままミノルは丸くなって静かな寝息を立てている。


 少し離れた場所に白い靄が発生すると、その中から一人の杖をつきながら老人が歩み出てくると、黒き龍に近付き立ち止まる。

 静かな寝息は、龍を普仏とさせる激しい風音や唸りも無く、死んでいるのではないかと錯覚をしてしまいそうであったが体の上下の確認で生きている事は確かである。

 その様子を顎鬚を撫でながら、片眉を上げて興味深そうに見ているのであった。


 「トーグレ家の爺さんか。何のようだ?」


 首を擡げる事無く、体を丸めたまま佇む老人に向かって声を掛ける。


 「ふぉっふぉっふぉっふぉ。やはり気付いておったか。」


 「当たり前だ。俺が創った世界だ。それで?俺を討伐に来たのか?」


 「まさか!?若き力を持つ古龍に儂が勝てる訳がない。ただ噂に聞く"狂化"の龍と酒を酌み交わしに来ただけじゃよ」


 大仰しく仕草をとりながら話すメンヘストは溜息一つ吐き、虚空よりゴブレットと酒樽を出現させると2つの杯になみなみと深紅の液体を注ぐ。

 

 「ほれ、毒は入っとらん。………っくう~うまい!秘蔵の葡萄酒じゃ。ほれ!」


 老人の飲みっぷりに喉を鳴らすミノルは、その姿をドラゴニュートモードに変え、その場で胡坐をかくと杯を受け取ると喉を鳴らしながら飲み干すと、その美味さに感嘆するのであった。


 「ほほう…それが報告にあったドラゴニュートモードの展開式か、どれ…」


 メンヘストは実行された展開式を看破すると、寸分違わず実行する。

 その姿は鬣は白く、眉と顎鬚も長くまさに老いた龍人と見えるが、その身から湧き出るオーラは人の姿よりも遥かに高い質を持っていた。


 「さすがは歴戦の古龍様と言った所だな。展開式の開示もせずに読み取るとは…」


 「ふぉふぉふぉふぉ年の功というヤツじゃ。しかしこの姿はいいものじゃ。人の姿よりも湧き出る力と魔力が桁違いじゃわい。これも"理の司"の一端なのかもじゃのう?」


 二人は互いに笑うと、再び酒盛りを始める。

 上空に漂う浮島から流れ出る水は滝となり、月の光を浴びて淡い虹を映し出す。

 ちびりちびりと無言で美酒を味わう2人であったが、メンヘストが呟くような声で尋ね始める。


 「ミノルよ。おヌシ少しも"狂化"しておらぬじゃろ?」


 「…」


 ミノルは酒を口に含んで何も語ろうとはしないが、老体はそのまま離し続ける。


 「姿形は過去の暴虐龍に酷似しておるが、儂が体験したオーラとは全く違うのじゃ。黒き鱗は"闇の司"じゃな?そして――」

 

 トーグレ家は古龍始祖と同じ太古からの氏族で、主に諜報活動や斥候を得意とする一族である事。


 一度"狂化"すれば二度三度と狂化し易くなるとはいえ、今迄に吸収したであろう瘴気と古龍の持つ許容力と自浄能力からすれば、トーグレが持つ情報網からは"瘴気落ち"には遥か先の事である。


 そして瘴気落ちは肉体と瘴気が同化する事によって肉体や生成される魔力は暴走し、脳等の神経系が犯されて理性といった制御が利かない事が原因である事と淡々と語る。


 「つまりじゃ、おヌシ…"理の司"を行使して瘴気を()()()()()()()()()()()()()()()そして今もなお続けておるな?」


 メンヘストの言葉に酒を持つ手が僅かに揺れるのであった。

 ミノルの動きを察すると、大きな溜息を吐いて互いに空になった杯に酒を注ぎながら話す。


 「確かに魂魄は瘴気で穢れるが、ソレは表面を覆うのみで輪廻へと、大地の英霊へと還った時に昇華されるのじゃよ」


 「……」


 ミノルは酒の入った杯を玩び中の液体を回しながら、夜空に浮かぶ月を眺めたままであった。

 

 「ヌシは阿呆じゃの。輪廻にも英霊となる事さえ無く、瘴気に怨嗟に苛まれながら漂い消滅するのみなのじゃぞ?」


 「そうだな…俺って阿呆なのかもな……」


 杯の酒を飲み干し、新しい酒を注ぎながら自嘲するミノルにメンヘストは封蝋で閉じられた手紙を差し出す。


 「魂魄に同化した瘴気が昇華されるか判らんが、皇魔族の皇帝からおヌシ宛に預かっておる」


 「皇帝…もしかして"魔王"から?」


 老体は頷くと、両手で胡坐を叩いて立ち上がる。


 「さて、あと二~三杯は残っておる。読みながらでも消費してくれい」


 そう言って歩き出すと靄に包まれる。メンヘストはその場を離れるのであった。


 「そうだな。此処は()()()()()()()()()()()


 「なんじゃと?」


 メンヘストはミノルに訝しげな表情を向けながら尋ねた。


 「……いや、別に?」


 「…そうか」


 メンヘストは納得いかないと云った表情をしながらも靄へと包まれていくのであった。


 「じゃあな、爺さん。生きていたら…」

 

 風に流れ消え行く靄に向かって呟くが途中で止める。


 ミノルは気を取り直して手紙へと視線を移して中身を取り出す。

 拝啓から始まる六枚の手紙に、挨拶は世界共通だなと鼻で一つ笑いながらも手紙を読み始めるのであった。


 挨拶から始まるその手紙は、実弟のシュリカ・ローグインが王となっているローグイン国西部の解放と、アドラ公国の撃退そして越境門起動での帝国民の救済をしてくれた事への感謝が綴られていた。

 

 そしてドナクレア島の開放を喜び、魔王として瘴気の昇華を換わろうとしてくれた事をトーグレ家からの情報で驚き、気遣い無用との謝辞が書かれていた。


 同じ案件でありながら色々なエピソードも含めた文面に感心しながらミノルは読み続ける。


 古龍が、神魔大戦以前より世界の瘴気を浄化してくれているが瘴気落ち前の自決に失敗した場合の多大な被害を食い止める為であったと理由が一つ。


 次に瘴気落ちの理由で減少してしまい、極端に少ない個体数の保護。

 

 最も大きな理由が魔族生活圏の拡大

 現在魔族が住む魔大陸は、昔から木々や草花が育つ森や草原には適しているが、いくら開墾しようとも品種改良しようが人々が食する作物が全く育たない。

 大戦も終わり太平の世となった今後に増えるであろう人口に対し、食料の自給拡大が必須であった。


 古龍は自身だけなら強大な力で自衛は可能であるが絶対ではない。

 また、眷属も守るとなれば草原などの平地だけを領域としないことは周知の事実で、そんな理由もあって古龍の加護が届く領域は魔大陸全土に及ぶはずも無く、領域外は定住が困難な地域であった。

 

 そこで帝国の開祖が取った方法が古龍が持つ"命を以って瘴気の浄化(昇華)の役務"を肩代わりして、一族が担う事。

 その見返りに古龍特有の"領域者の恵"と同等の能力を分けて貰うと云った契約となって魔大陸全域へと安全に生活圏が広まったことが書かれていた。


 ふと見ると、文章の横に注釈みたいな文章があったので読む。


 ――畏れ多いですが、私達皇魔族は古龍様よりも繁殖周期が多く、純血種出産率も高いんですよ(笑)――


 ミノルは肩肘に入った力が抜けるのを感じる。


 六枚目の便箋に取り掛かった時には杯も樽も空になって少し残念に思いつつも、杯に魔法で水を満たして再び便箋へと意識を向けた。


 古龍を崇拝したが故の自己犠牲だけで"魔王"の称号を受け継いでおらず、むしろ自分の一族が案件によって地位向上と尊敬、一族の繁栄があった事と、今後の先を読めば魔族全体に不利な未来が待ち構えた事で打算的な"魔王"なので気に病むことは無いとあった。


 魔皇族の寿命は三〇〇〇~四〇〇〇年でも子、孫、曾孫の成長と発症が長引けば玄孫の成長まで見届ける事もできて、思い残す事無く旅立てるとも綴られているのだった。


 最後に追伸があった。


 ――他の者が語るミノル様とメンヘスト様から聞いたミノル様を私的に噛み砕いてみました。

 どうか御自身を御自愛ください。

 どうか貴方を愛する者の心を御感じください。

 決して御自身だけを傷つける事だけは御自重なさいませ。

 長命種ならではの時間薬という事象があります。

 ミノル様に御会いできる事と幸せの中で微笑むミノル様を望んで――


 最後まで読んだミノルは目頭が熱く、鼻の奥がツンとしつつも"(笑)"と"追記"に微笑む。

 しかし封筒の表に書かれた宛先に目に溜まる涙が一筋こぼれる。


 ――――これを読めるミノル・カツラ様へ――――


 「何だよ…気を使うんじゃねえよ……」


 そう呟きながらも手紙を抱きしめて眠りに就くミノルであった。






 それから八日が過ぎたある日―――


 古龍分家と放逐古龍率いる龍族の数百体に及ぶ無法者(ヒャッハー)集団がミノルの創造した世界(天地創造)にドナクレア軍の静止も無視して強行突破して突入する事件が発生する。




 史上最悪の虐殺者にして史上最高の英雄として歴史に残るミノル・カツラの英雄譚。

数百冊にも及ぶ彼の活躍を記された書物の中で、最も数種に及ぶ発行数と販売部数を誇った一人ぼっちの戦争の最高潮(クライマックス)の物語の幕が開くのであった。


最後までお読みくださりありがとうございました。


次回が翌日更新できたらいいなぁ…


それでは次回もお楽しみに!

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