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一人ぼっちの戦争⑥

お待たせしました。


ようやくキーボードを叩くてが動き出しました。

このままでは一万字行きそうだったのでここで一旦投稿します。

 ドナクレア騎士団と近衛騎士団が"狂化"した古龍に敗れた上に全滅してしまった。


 このニュースは瞬く間に広がり、狂化、暴虐龍に対するセーフティとして機能していないじゃないかと言った話も飛び交っていたが、一般の住民にとってはさほど問題とならなかった。


 ここに龍族という長命種ならではのエピソードがあッたのは言うまでもなく、各町村には必ず長老といわれる存在があり、トーグレ家メンヘストやドナクレア家ドインと共に神魔大戦を経験した軍属出身者や、体験したものが未だ存命である事が起因であった。


 「最近の若い連中はなっとらん!」


 といった御老体を中心に良く聞く言葉であるが、実際に体験してる者達だからこその言葉で、近衛や騎士団の訓練風景を見る経験者達の目は厳しく、ミノルの事件が発生した時は騎士達が出征する前から教会や墓地の予約といった葬式の準備まで始めてしまうという"縁起でもない"事が起きていた。


 「あら?おじいさん。昔着ていた官服なんて取り出してどうしたのですか?」


 「おお、ちょっと(ほつ)れたりしているが、虫干しと繕いを頼むぞ?年金暮らしも良かったが、最後の御奉公せにゃならんのでな?」


 「あらあら!足腰は大丈夫ですか?周りの御迷惑にならなければ良いのですが」


 「何、後進の教育だけじゃて。ほれ、目は良く見えるし声も出る、槍も持てる!それにまだまだ若いもんには負けてはおらん!がははははは!」


 ドイン(前当主)が若かりし頃から末席であったが自身の引退まで仕えていた。

 引退後は市井に降りて田畑と共に余生を送っていた騎士夫婦の会話であった。


 近衛と騎士団全滅、そして世間の噂も相まって家族、親族が悲しみながらも葬式などの準備が進んでいく中事件が起こる。

 とある田舎で同じように騎士達の合同葬儀が行われる中、ひょっこりと出征した騎士全員が村へと帰還してきたのだ。

 これには村長や村民そして家族が驚くが、生きて帰ってきた事の喜ぶのであった。

 良くぞ無事で帰ってきたと家族に抱きつかれるが、帰還した騎士が語り始める。


 ミノルを見た時にはその漆黒の龍の姿に"狂化"の恐ろしさに、長老達から叩き込まれた"騎士の矜持"を支えとして挑もうと決意。


 しかし蓋を開けてみれば、強大な魔力と一撃一撃が強力な龍語魔導に為す術がなく、一方的な蹂躙劇に一人また一人と屠られ、遂に自分も七色に光る蝶が全身に纏わりついてそれが爆発。

 そこから意識が途絶えたと語る。


 目を覚ました時には、野戦病院のベットの上で生きている喜びを噛み締めたという。

 だが、どうして自分は生還できたのかという疑問が生じ、近くで手当てをしていた戦士団に事情を聞くことになる。


 どうやらミノルの創った世界から光る球体が出てくると、つい先日に全滅した第二から第四騎士団と同様に近衛と騎士団全員を目の前に転送させたのだという。


 そこにはゴラウシス軍団長とシアン参謀長に担がれた瀕死のリュセフィーヌ様と、騎士団に同行した戦士団と同じく瀕死のレダ様とエレーナ様もいたと語る。


 転送された騎士団の中にまだ息があるものを発見すると戦士団が、野戦病院のテントへと運び治療を施そうとしたが、全身の欠損や火傷が酷く光の玉(ミノルの意識体)が「介錯してやれば?」と語った事もあり、苦しみを続けさせるより楽にさせようと準備に取り掛かる。

 しかし、納得できない衛生兵の一人が火傷に《魔導:治癒》を施すと、あっという間に回復したという。

 不思議に思い何人かの治療を施してみたところ、同様の回復を見せたという。


 もしかしてと思い、欠損部だけ治療して火傷の部分を見ると、見た目が酷いだけで内部にまで達していない事が判明した。

 通常の強力な爆裂系の魔導ダメージは内部まで火が通ったウェルダン状態に衝撃で内臓や骨がボロボロになっている筈なのであり、介錯を施すことは最善の手段といっていいほどであった。


 だが、近衛騎士団と三分の二に当たる騎士団は即死状態であったという。


 「俺もじっさま達に言っていた通り古龍様は物凄い能力を持っていたよ。でも即死させる程の力を持って何で俺達が生きているのか…」


 「きっと古龍様の御慈悲じゃよ」


 老齢の龍種の一人がそう語る。


 「でもじっさま、"狂化"した古龍様って無慈悲なんだろ?」


 「そうじゃワシが若い頃に見た"狂化"した古龍はそれはもう無慈悲で恐ろしかったわい」


 「じゃあ何で俺達が生きているんだろ?狙い損ねたのかな?」


 「さあのう?」


 長老を始め村人達も首を傾げるばかりなのであった。


 ◆◇◆◇


 ドナクレア城下町の中央にある評議会も、ドナクレア島解放後の事件について頭を悩ませていた。


 中央に勤める騎士団もごく僅かであるが生還して来た者達がいて、そのものから聴取した内容の真偽に無視できない内容が含まれていたからであった。


 「隔意を持っていた者、敵愾心を持っての行為、若しくはそれらの意思をリュセフィーヌ様の命の恩人にして婚約者にぶつけた者のみ戦死した可能性ありか…」


 妖狐族の議員の一人が呟く。


 「まあ、領域守護者の婚約者への行為に及んだ者達は反逆罪の適用となりますが、それ以外の者達が…」


 「それに過去の文献を調べても"狂化"や"暴虐龍(瘴気落ち)"は見逃す等の手加減はしないと記されてますし、龍種以下の研究も進んでいますので、打ち漏らしたとしても…」


 各街町村の代表者達も腕を組んで唸るばかりであった。

 

 既に生還した騎士達からの聴取も終わり、第二から第四騎士団の全滅した経緯、第一騎士団ロードレック・カシウスを始めとした軍上層部と上級文官達の勅命、公文書の偽造という大罪を犯しており、戦地へ直接赴いてミノルの手によって処刑されていた。


 しかし、近衛騎士団は全滅し、騎士団は壊滅状態。

 戦死とするべきか、罪人の死として処理するかが問題となっていた。


 生き残った騎士の証言は世間にあっという間に広がり、"あれ?もしかしてリュセフィーヌ様の婚約者は"狂化"していないんじゃないか?じゃあ、古龍様に隔意を持っていたのは反逆したのと同じ!天罰があたったのだ死んで当然!"という噂にまで発展していた。

 しかし、"狂化"していないのであれば何故未だにレニウス台地に篭ったままなのかに説明がつかない。


 "軍上層部と上級文官達の勅命、公文書の偽造及び一部の騎士団はそれを「幇助」した罪"として世間の噂通りに処理をすれば簡単なのではあったが、ここは評議会。

 民意を大事としているが、公平公正を喫する場所で民意や感情だけで結果を出してしまっては、今後の評議会として存続させる為には(いささ)か問題がありすぎるのであった。


 「評議会議長殿、同じ龍族としてミノル・カツラ殿の"直感力"は、やはり相当なものなのでしょうか?」

 

 蜥蜴人族の評議員が尋ねる。


 「うむ。古龍となられたミノル殿は儂等のような属性龍種よりも鋭く正確だな。とはいえそれが証拠として成り立たせるのは難しい所ですな。認めてしまうと『こいつが隔意を持っている!不敬だ!』と嘘でも言ってしまえば罪になるからな。あの馬鹿(ロードレック)共は普通にそれをやるがな」


 議長は追加として国外(ヘティスハーク)から来たミノル殿を知るマコーメ商会というエルフ達(既出話参照)が語るミノルの人為は、根が正直で心根の優しい御仁であったと聞いている事を語るのであった。


 確かに崇拝にも似た思想を持つフィーグルの民は、古龍を蔑ろにしたり侮蔑等の思いを持つ事がタブーであっても、もしも古龍自体から理不尽を突き付けられたら思ってしまうのは仕方のない事。

 そして今回のような案件を前例としてしまうと、極論として"思っただけで罪になる"と云った事例も発生しかねないという事で結審となった。


 「それでは近衛及び騎士団の扱いは、罪は問わず不問とする。だが通常の戦死であれば"名誉ある戦死"を今回の紛争につき、名誉は無いとして"戦死"と扱う事とする――でよろしいかな?」


 各評議員に異論の挙手も無く、今回の結果が執行部へと上申されるのであった。

 

 後日、遺族達には寛大な処分に感謝され、遺族年金も毎年きちんと支払われる事となる。

 しかし、当の本人は一応、一族の眠る墓に弔われるのだが、"一族の恥さらし"として二度と名前を呼ばれる事が無かった事はまた別の話―――


 ◇◆◇◆


 ミノルが創った世界(天地創造)から帰還して二週間が過ぎようとしていた。


 リュセフィーヌを始めレダ、エレーナの三人は瀕死の状態から回復したとはいえ、未だに病の床から出る事が出来ていなかった。


 「おお、医愈長(いゆちょう)殿、リュセフィーヌ様、いや、主様の具合はいかがですかな?」


 ゴラウシスは彼女(リュセフィーヌ)の寝室から出てきた治療院院長に診断の結果を聞く。


 「だいぶ良くなって来ていますが、奥方(エレーナ)共々まだ痛みがあるようでして、匙すら持つ事が出来ずにいます」


 「そうか…。早く良くなってくれればいいのだが…」


 「身体的には日々回復しているのですが、御心の方が未だに沈んだままで…」


 「結局は鎮める事も出来ず、外に放り出されたからなあ。許してもらえなかったのがよほどショックなのだろうな……」


 ミノルの攻撃は凄まじく、古龍である彼女(リュセフィーヌ)を瀕死にさせた上に龍族の力の源である"魔晶石"にまで傷をつけていた。


 通常、魔晶石は本人が死亡しない限り、傷をつけることは出来ない。

 もし傷がついても、魔力行使に影響がある程度で、時間は懸かるが修復して元通りになる。


 しかしミノルは魔晶石傷つけた時に何らかの作用が加えられた為に、全身に激痛が走り、発作的に内臓まで激痛が走る状態となっていた。


 発症初期は衣服の擦れや布団の重みにすら激痛に身を捩じらせる程であった。

 勿論食事も喉を通すことができず、本人達は「殺してくれ」とさえ懇願する時もあった。


 かくも彼の御仁の怒りは凄まじいものだったのか、騎士達も愚かな事をしたものだと城内では話されていたが、これを重く見た上層部は緘口令を敷いたのだが、人の口には戸が立てられないとよく言ったもので、あっという間に城外に出て市井に広がったことは言うまでも無い。


 ゴラウシスは医師に用が済んだら見舞いに行くと言って、その場を去るのであった。


 ◆◇


 「………どうぞ」


 治療院の個室ドアのノックに反応するがその声に力は無く、付き添いのエレーナの母が代わりに開ける。

 

 「おお、義母上(ははうえ)様、御壮健で何より。エレーナの具合はどうですか?」


 「痛みはあるようですが、以前よりはマシになっておりますわ」


 「あなた……」


 目の下には隈ができて(やつ)れはいるが、夫の見舞いに弱弱しくも笑顔がこぼれる。


 「それは何より、ところでエレーナに話がありますので、暫くは席を離れていただけますかな?」


 「私がいては不都合な事でも?」


 「いえ、不都合というわけでは…」


 エレーナの母の言葉に少し言い澱んでしまうが、助け舟とばかりに前に出て話し始める。


 「不都合というより、込み入った話になるのですよ母上」


 「バランセ?」


 「兄上、なぜ…」


 「まあ、何れは知ることですから同席しても構わないでしょう」


 ゴラウシスは義兄に頷くと、エレーナの元へと歩いて傍らにある椅子に腰掛けて話し始める。


 「エレーナ。病が全快したら実家へ帰るんだ。暫くは別居としたい」


 「なにを…なぜですかあなた!?なぜそんな事を言うのですか!?」


 (ゴラウシス)の言葉に目を丸くすると、痛みを忘れ上体を起こして問うのだった。


 「お前も分かっているだろう?何らかの責任は必要だからだ」


 「だからって…。子供は?子供達はどうするのです?」


 「子供達は暫く母上(実母)が見てくれる事になった。兄上の子供(甥や姪)達は手を離れているからな」


 エレーナはその言葉に震えながらも食い下がろうとする。


 「婿殿!?それはあんまりにも…下の子とてまだ五つになったばかりではないですか!?それはあまりにも無体では…」

 

 「母上は黙っていてください。確かに評議会では形式上不問とされましたが、事が大きくなりすぎているのです。現に騎士は戦での死は誉れとされているにも拘らず、ただの戦死とされているのですよ?であれば上に立つものとしての責任は必須なのです」


 「理由は判ります。この子(エレーナ)はそれだけの罪を犯したのですから・・・ならば傍付きの文官職を剥奪させればいい話じゃないですか!?それでバーンシュタインとしての責は充分のはず!子まで奪うのでしょうか…」


 バランセは溜息を吐く。

 バーンシュタイン家の六人兄妹の年が離れた末っ子であったエレーナは(バランセ)に次いで優秀。

 リュセフィーヌの幼馴染という事もあり、専属文官として任命されて両親からもかわいがられた。

 多分本人も気付いていないが、多少の我侭さがあったのではとバランセは推察した。


 「義弟(ゴラウシス)も悩みに悩んで私の処へ相談に来たのです。子供には不憫な思いをさせてしまう。子供も一緒に送ったらどうかと…」


 義兄の語る言葉に俯き、歯を食いしばる姿が義母の目に映る。


 「エレーナそして母上。ミノル殿にこう言えますか?"あなたの幸せを奪ってごめんなさい。職は失うけど私達は家族仲良く幸せに暮らします"とね?」


 その言葉に二人は押し黙ってしまうのであった。




最後までお読みくださりありがとうございます。


とりあえず、多くの感想にあった「けしからん!もっとやれw」のリクエスト第1弾です。

死人に鞭打ち、精神的ショックを加えてみましたw


補足

龍族やフィーグルの民には特に縁起や験担ぎといった風習はありません。


教会はありますが、今の礎を築いた先祖や志半ばで病気や怪我などで死んでいったものが無事に輪廻の中に入り新しい命として生まれ変わる事。

英霊となった龍(既出話参照)に日々の糧を恵んでくれる事に感謝。

と云った宗教観?が形にした教会です。

まあ、どの種族でも慶弔時には何らかの物が必要だろうと人族を真似たと云ったほうが早いでしょうね。


次回(只今連続執筆中)も楽しみにしていただければ幸いです。

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