ピアノ発表会
マンション内で歩いていると親子連れとすれ違った。
「おはようございます」
爽やかなお母さんの笑顔とは対象的に子供達は強ばった表情をしている。姉は長い髪を後ろへきちんと束ね、赤いドレスを着ており、弟は真っ白なカッターシャツに黒の蝶ネクタイで正装している。
「結婚式ですか?」僕は微笑ましく尋ねた。
「今日はピアノ発表会で特に息子が初めてで緊張してるんですよ」
なるほどそれで仏像みたいな無の顔をしてたのか。
「頑張りやー」
励まそうと小さな肩にポンと手を叩くと、泡がパチっと弾けるように、少年はびっくりした。その様子を見て、昔自分が発表会前にゲロを吐いた淡い記憶を思い出す。
「少年よ、大志を抱け」
あの頃の自分に言い聞かせるように、僕はそっと呟いた。