(8)
冒険者は馬と共に南の火山を訪れます。
凄まじい熱気を放つ火山は、冬を忘れさせる程暑いです。
思わずローブを脱ぎ捨てながら、冒険者は指輪を取り馬の背に手紙と一緒に持たせます。
馬は火山の入り口で街へと帰させます。
「ありがとな。主人の元に帰れ」
馬は悲しそうな表情をしつつ、冒険者を何度も振り返って見ては帰って行きます。
冒険者は火山へと足を踏み入れました。
しかしその時!
『ソレ以上足ヲ踏ミイレルナ、愚鈍ナ人間メ』
冒険者は鼻で笑いながら進みます。
「一人ぼっちで寂しいくせに……女王に呪いを掛けたのも構ってほしかったからだろ?」
『愚弄スルカ、小サキ人間ヨ。貴様ナド我ノ前デハ塵同然ダ』
冒険者は再び鼻で笑いながら進みます。
しかし奥に行くたびに熱くなっていきます。
汗が止まりません。でもダイエットにはちょうど良さそうですね。
「そんなに太ってないわ!」
火山には木は一本も生えていませんでした。ひたすら岩と石ころの景色。
西の山を訪れた時とは違った景色が見えます。
「これはこれで圧倒されるな……」
ある程度登った所で冒険者は振り返りながら景色を見渡します。
時折地面にポッカリと穴が開いており、中には赤い溶岩が見えました。
まさに火山です。空気もだんだん薄くなってきます。その代わりにと硫黄の匂いが強くなってきました。
冒険者は持っていたハンカチで口を押えながら進みます。
こういう時に使う魔法は無いんですかね?
「あるけど……一応温存しとかないと……」
火山を上り続けると、大きな洞窟が見えます。
恐らくここがファーブニルの巣なのでしょう。中から異様な気配が漂ってきます。
冒険者はステッキを出すと、構えながら中へと入ります。
洞窟の中は溶岩が吹きだし、外とは比べものにならない程高温でした。
そしてその先に光り輝く財宝の山が見えます。
「なんだ、財宝あるじゃないか……」
『ソレ以上ススムナ! 我ノ財宝ニ触レルデナイ!』
突如として溶岩の中から巨大なドラゴンが姿を現しました!
財宝の前に立ちはだかり、冒険者を威嚇します。
『タカガ人間ガ! 我ノ財宝ヲ狙ウトハ! 身ノ程ヲシレ!』
「人間……ね」
冒険者はステッキに撫でるように魔法を掛けます。
ステッキは大きな杖へと変貌し、冒険者の魔力は大幅にアップしました!
『ソノ程度ノチカラデ、我ノ前ニ立ツノカ! 愚カナ人間ヨ!』
「お前も元は人間だろ。あまりデカい口を叩くなよ」
ファーブニルは威嚇するように唸り声を上げ、冒険者はファーブニルに向かって魔法を放とうと魔法陣を展開します。
両者の圧倒的な力は火山を揺るがし、溶岩が溢れだします。
その戦いの余波は王都へも響きます。
王都へと無事に帰還した春の女王。
その姿を見て街の人々は歓喜しました。ようやく春が来ると。
「女王様! おはやく塔へ!」
騎士達が女王を塔へと連れて行こうとします。しかしまだ交代する訳には行きません。
今交代すれば冬が終わり、冬の女王は命を落としてしまいます。
街の外で待機していたクエレブレは、咄嗟に飛び上がり騎士達の前へと立ちはだかりました。
『ハハハハ! 春の女王を寄越せ! 貴様らに春は永遠に訪れない!』
もちろん演技です。春の女王と共に旅をしていたなんて言えませんからね。
騎士達は剣を抜き、クエレブレと対峙します。
トラゴロウもクエレブレと共に時間を稼ぎます。
挟み撃ちにするように後ろから唸り声を上げながら迫ります。
「あ、あいつは……賞金首の……!」
誰かがトラゴロウの賞金を叫びました。
その額を聞いて街の人間は一気に怯えます。金貨百枚が掛けられた賞金首などなかなか居ません。
そうとうのワルです。
「あら、そんなワルい事してないんだけど」
そんなトラゴロウの前に一人の騎士が立ちはだかりました。
「お前……よくもあの時……俺を見捨ててくれたな……あのあと猫に遊ばれて大変だったんだぞ!」
西の山で猫に連れていかれた騎士でした。まだ猫臭いです。
「アンジェロ様! 待ってください! 彼は……」
トラゴロウは春の女王を睨みつけ黙らせます。
アンジェロと呼ばれた騎士は剣を抜き、トラゴロウと対峙します。
その剣は空気を斬り裂き、振る度に周りの雪は刃となりトラゴロウを襲います。
しかしトラゴロウも負けては居ません。大口を開け咆哮するだけで騎士が放つ雪の刃を落としていきます。
「アンタ……この国の騎士じゃないわね……」
トラゴロウはアンジェロを睨みつけながら言いました。
戦い方が周りの騎士達とはまるで違うからです。
「今は旅の途中に立ち寄っただけだ……だが、貴様らの犯した罪は見逃せん!」
アンジェロは再びトラゴロウへと刃を向けます。
その頃、冒険者とファーブニルも戦っていました。
冒険者の繰り出す魔法は吹雪です。寒さに弱いファーブニルを凍えさせようと洞窟の中を、吹雪で一杯にします。
『小癪ナ!』
それに対してファーブニルは口から炎を吐き雪を溶かして行きます。
「チ……もう時間が無い……」
そうです、急いでください。クエレブレもトラゴロウも限界があります。
騎士達が無理やりに春の女王を塔へと連れて行く前に、ファーブニルを倒してください!
「おい! ファーブニル! 最後に一つだけ聞かせろ! 女王は財宝を盗んだのか?!」
冒険者の問いにファーブニルは唸りながら答えます。
『アノ国ノ国王ガ! 我カラ盗ンダノダ! 五百年前ニ!』
それを聞いて肩を落とす冒険者。
「五百年前って……なんで今さら……」
『目ガ覚メタラ無クナッテ居タノダ! コノ恨ミ! 晴ラサズニイラレヨウカ!』
つまり……ファーブニルは五百年眠っていたって事ですかね。
御寝坊さんですね。
「わかった、もういい……人間にも罪はある。だが女王達を泣かす事は許さん。彼女達は自分のしたい事を我慢して人々の為に……って、私らしくないな……」
まったくです。
真面目にお説教できる立場じゃないですよね。貴方好き勝手に生きてるんですから。
「ぐっ……ファーブニル……悪いが全力で行かせて貰うぞ!」
最初から出してください、全力。
冒険者は杖から強烈な光を放ちます。
そのまま飛び上がり、ファーブニルの頭へと杖を突きたてました!
『グアアアア! 貴様……コノチカラ……バカナ……何故……』
ファーブニルは驚愕します。
その「力」は明らかに人間の物では無かったからです。
『何故……何故……バル……クイナ様……』
そのまま光は広がり、火山から溢れだします。
まるで灯台のように国中へと光は広がりました。
王都で戦っているクエレブレとトラゴロウも光を確認し
「合図ね」
『合図か、さらばだ!』
突然退きだしたクエレブレとトラゴロウに首を傾げる騎士達。
春の女王は、騎士達をかき分け塔へと走ります。
螺旋階段を駆け上り、最上階の扉を開け放ちます。
冬の女王が驚いた顔で春の女王を見ました。
「ラスティナ……?! 貴方……なんで……!」
「もう大丈夫だから……冒険者様が……助けてくれたから!」
春の女王は自分の力を解放します。
塔を起点として、春が国中へと駆け巡りました。
雪は一気に消え去り、花々は咲き乱れ、暖かい風が国中を包み込みます。
一年ぶりに春が訪れた国、人々はコートを脱いで喜びました。
ようやく春が来たと。
「やった……やったー! 春だぁぁぁあぁ!」
まるでお祭りです。
塔にはそんな喜ぶ人々の声が聞こえてきました。
冬の女王と春の女王は顔を見合わせ抱き合います。
「ごめんね……ごめんね……一人だけ辛い旅に……」
「大丈夫……皆が……助けてくれたから……冒険者様も……助けてくれたから……」
喜ぶ街の人々、そんな中、酒場の店主は春の訪れた街で立ち尽くしていました。
「あいつは……? あの冒険者は……」
酒場の店主は喜んでいる人々を尻目に街の外へと出ます。
「この春は……あいつが……なんで戻ってこねえ……」
冒険者は、どれだけ待っても戻ってきませんでした。
女王達の前にも、酒場の店主の前にも。
しばらくして店主の馬が街へと帰還します。
その背には冬の女王の指輪と共に、一枚の手紙が添えてありました。
『いつか褒美を貰いに来る』
それを見て店主は笑いだします。
「早く来いよ! まってんからな!」
店主は春が訪れた国中に響き渡るくらいの声で叫びました。
あの冒険者へと、届くように。
んで、その冒険者は何してるんですかね。
「あちぃ……春って……こんな暑かったっけ……」
暖かくていいじゃないですか。
「おい、ファーブニル……遅いぞ」
ファーブニルと呼ばれた青年。え、あのドラゴンですか?! 人間に戻ってますよ?!
「ま、待ってください……バルクイナ様……」
冒険者の荷物を全て持たされています。いじめですか?
「さっさと歩け。それと私の名前はシンシアだ……」
ファーブニルはトボトボと冒険者の後を付いて歩きます。
次は何処に行くんですか?
「そうだな……次は……」
赤髪の冒険者の旅は続きます。
続きますが、とりあえず……
おしまい




