(6)
早朝、容赦なく冷たい空気が鎌倉の中へと流れ込みます。
冒険者はトラゴロウを布団代わりにして寝ていました。
「うぅ……さぶ……っ」
外を見ると真っ白な雪原が広がっています。
「あれ……なんだココ……なんでこんなトコで野宿……」
やっぱり忘れてますね。春の女王と山の主を追ってる最中に酒盛り始めちゃったんですよ!
「あぁ、そうだった……おーぃ、おきろートラゴロー」
ペチペチとトラゴロウの顔を平手打ちする冒険者。
トラゴロウもムクっと起き上がります。
「ふぁ……良く寝たわ。んー……あれ、ここ何処かしら」
「なんだ、忘れたのか? 私達は春の女王と山の主を追ってる最中なんだ、しっかりしてくれ」
貴方も忘れてましたよね?!
そのまま馬も起こすとそれぞれ背伸びしながら外へ出ます。
雪は止んでおり、空気は澄み切っていました。西の山が綺麗に見えます。
「さて……急がないと……」
酒盛りしてた人の言葉とは思えませんね。
冒険者は指輪を確認します。淡く光っていました。
「この光の強さだと……西の山には帰ってないな。まだ湖付近に居るのか」
「まあ、どのみち湖に向かうしかないわね」
馬に跨り、冒険者は太陽の方向へと駆けます。今度は方角間違えないで下さいね。
街を通りすぎ、まっすぐに東の湖へと向かいます。
「あんた、ご飯食べなくてもいいの?」
「あー、私朝食あんまり食べないから……まあ、腹減ったら備蓄の肉も……って無え?!」
昨日全部鍋にぶち込みましたからね。
自業自得です。
「まあ一日食べなくても死にはしないわ」
心なしか冒険者はお腹が空きました。
備蓄の肉が無いと分かった途端にです。食いしん坊なんだから。
「なんだからって……」
そのまま二人と馬は進み続けます。
途中途中で休憩を挟みつつ、半日程度進み……ようやく湖らしき影が見えました。
「蜃気楼じゃないだろうな……」
大丈夫です。もうすぐ到着ですよ。
「ん? おい、あそこ……なんか丸まってる……ドラゴン?」
「山の主っぽいわね。何してるのかしら」
冒険者は丸まっているドラゴンの傍まで馬で近づき、そっと鱗に触れます。
「寝てる……?」
「春の女王が見当たらないわね」
冒険者とトラゴロウは辺りを見渡します。湖の前で丸まってるドラゴンの他に誰も居ません。
「まさか……よっ……」
冒険者は馬からドラゴンに飛び移り、モソモソと丸まってる内部へと入りこみました。
「度胸あるわね……」
トラゴロウと馬は並んで外で待っています。
卵を守るように丸くなっているドラゴン。しかし守っているのは卵ではなく……
「やっぱり居た……」
冒険者はステッキで淡い光を照らしつつ、ドラゴンの膝元でスヤスヤ眠る少女を見つけました。
冬の女王と比べて幼いですが、おそらく春の女王でしょう。
『ん……何奴……』
冒険者がステッキから放つ光でドラゴンが目を覚ましました。そのまま大きな翼を広げて背伸びします。
『貴様……我が姫を襲うつもりか? だが残念だったな。我が名はクエレブレ。お前如きが敵う相手では無いと知れ』
ドラゴンは冒険者を威嚇します。
「おーい、春の女王ー……おきろー……」
しかし冒険者は完全にドラゴンを無視しています。柔らかい春の女王のホッペをつんつんするのに夢中なのです。羨ましい。
『おい貴様! 聞いてるのか?!』
「うるさいドラゴンね、本当に山の主?」
トラゴロウがドラゴンを威嚇するように睨みつけました。とたんにドラゴンは勢いを無くします。
『なっ……何故貴殿がここに……』
「その子に用があるのよ。呪いは解けたの?」
ドラゴンは驚いた顔でトラゴロウを見ました。自分達の目的が綺麗さっぱりバレていたからです。
『そうか……あの時山に入っていたのは貴殿達だったのか……いや、呪い以前に神が姿を現さぬ。以前はウザいくらいに出てきたのだが……』
「うざいって……」
冒険者は春の女王の頭を撫でながらニヤついていました。気持ち悪いです。
「ん……んぅ……」
春の女王は冷たい空気に晒され次第に覚醒していきます。
頭を撫でられながら目を覚ます春の女王。
「おはよぅ……ございまふ……?」
朝の挨拶をしながら周りを見渡しつつ首を傾げました。
目の前にニヤついてる変態冒険者と虎と馬が増えていたからです。
「誰が変態か!」
春の女王はドラゴンに状況の説明を求めます。
「クエレブレさん……この方達は……」
『姫に用があるそうだ。見た目ほど悪い連中では無さそうだから安心していい』
春の女王は虎と冒険者を交互に見ます。
「えっと……ピザの宅配を頼んだ覚えは……」
「ちょっと待て……何処をどう見たら宅配サービスに見えるよ……」
春の女王は虎と冒険者を交互に見ます。
「ん……ぁ、サーカスの虎と奇術師…!」
「ある意味惜しい! でも違う!」
春の女王は虎と冒険者を交互に見ます。
「えっと、何の用ですか?」
「それを最初から聞いてくれ」
冒険者は頭を掻きつつ説明を始めました。
冬の女王に解呪を頼まれた事、そして西の山に赴き情報を得てここまで来た事を。
『なるほど、我と目的は同じか。しかし冒険者よ、お前はどう思う。この季節を巡らせる為に女王達を塔に閉じ込めるやり方を』
冒険者は首を傾げながら即答します。
「嫌なら止めればいい。別にそれで国民がどうなろうが知ったこっちゃ無い。私は飯の礼に解呪をしに来ただけだ」
あと国王からの褒美ですよね。
そんな冒険者の言葉に春の女王は表情を曇らせました。
そりゃそうです。気持ちのいいくらい他人事なんですから。
『やれやれ……我は解放してやりたいのだ、この姫を。お前も同じ考えだと思ったのだが……期待しすぎたか』
「春の女王が望むなら手伝うぞ。どうなんだ?」
春の女王は黙っています。
今にも泣きそうな顔でした。
「黙ってちゃ分からんぞ……お前はどうしたいん……」
と、その時湖の水面が大きく揺らぎます。
次第に揺らぎは大きくなり、湖の底から巨大なビーバーが姿を現しました!
『わぁふー! 可愛い子が居るふー!』
そのまま巨大なビーバーは春の女王……では無く、冒険者を捕まえ頬ずりします。
「うわっ……ぷ……ちょ、やめい!」
『可愛いふー! お嫁さんにするふー』
ポカーンと口を開けて見守る一行。春の女王はビーバーの好みでは無いようです。いや、可愛いんですけどね。なんで冒険者のほうを取るんですかね。
「ちょ……やめろ……って……!」
冒険者は魔法陣を展開して、巨大なタライをビーバーの頭の上に召喚しました!
鈍い音を立てながらタライは直撃して冒険者は解放されます。
『痛いふ……お嫁さんにならないふ?』
「なるワケないだろ! 帰れ帰れ!」
『残念ふ……』
そのままビーバーは湖の中へと姿を消しました。
あれ、でも……今のって……
「ねえ、アンタ……今のがアーヴァンクなんじゃない?」
うん、ですよね。
トラゴロウの言葉にドラゴンは冒険者を睨みつけます。
『貴様! さっさと呼び戻せ! せっかく神が姿を現したというのに!』
「神?! ただの魔人だろうが! あんなのに解呪なんぞ出来るか!」
再び水面が揺らぎ始めます。
次第に揺らぎは大きくなり、湖の底から巨大なビーバーが姿を現しました!
『お嫁さんに……なるふ?』
「聞いてやがったな……嫁にはならん。でも話は聞いてくれ」
相変わらず図々しいですね。珍しくモテモテなのに……。
「嬉しくないわ!」
『残念ふ……』
そのままビーバーは湖の底に姿を……
「ちょ、待て! このパターンいい加減イラっとするわ!」
『なにふ、何か用ふ?』
『湖の神、アーヴァンクよ。我が名はクエレブレ、どうかこの子の呪いを解いてやってほしいのだが』
アーヴァンクは春の女王を見下ろします。
首を傾げつつ、コクンと頷きました。
『いいふよ。でも条件があるふ』
「嫁にはならんぞ」
冒険者の言葉にアーヴァンクは項垂れつつ
『じゃ、じゃあ……なぞなぞふ! 僕のナゾナゾに正解したら解呪してあげるふ!』
なんだか可愛い神様ですね。
あ、魔人でしたっけ……
「なぞなぞ……」
トラゴロウと冒険者は顔を合わせて首を傾げます。
春の女王もクエレブレと顔を合わせ
『では第一問ふ!』
アーヴァンクは可愛く指を一本突き立てます。
「第一問って……何問も出されるのか……」
『ふふふ、上は大洪水、下は大火事なーんだふ?』
お風呂ですよね。
「風呂」
『あぁ! 答え言っちゃダメふ!』
ごめんなさい
『第二問ふ!』
アーヴァンクは可愛く指を二本突き立てます。
『王様が元気よく出かけましたふ! さあ、何をしに行ったふ?』
一同は首を傾げつつも考え始めます。
トラゴロウは目を細めて唸りながら考えます。
「分かったわ、愛人の所に浮気しに行ったのよ」
『ぶー、違うふ~』
冒険者は腕を組みつつ考えます。
「分かった。将棋を打ちに行ったんだ。王を取るためにな」
『ぶー、せめてチェスとか言ってくれればファンタジーっぽいふ』
クエレブレは熱い吐息を吐きながら考えます。
『侵略だ。王とは……そういうものだろう?』
『ぶー、子供向きのナゾナゾふ、そんな物騒な答えじゃないふ』
春の女王は可愛くほっぺに指を当てながら考えます。
「分かりました、きっと可愛いビーバーさんを愛でに行ったんです!」
『正解ふ!』
絶対違いますよね?!
『せ、正解……ふよ?』
「おい、理由は」
冒険者の威嚇にアーヴァンクは怯えます。
『ぶ、ぶー……でも可愛いビーバーは大切にしてほしいふ……』
結局全員不正解です。このままでは解呪してもらえません。
「っち……ここまでハイキングに来て損したな」
冒険者は舌打ちしつつ……ん? ハイキング……ハイ……キング……
元気よく出かけた王様……
ハイ! キング……?
『正解ふ!』
ありがとうございます。




