(4)
長く温泉に入っていた二人はグッタリしていました。
のぼせたのです。マヌケにも程があります。
「ぐぅの音も出ん……」
冒険者はとりあえず装備を整え、トラゴロウはそのまま洞窟の外に出ます。
吹雪きは止んでいました。目の前には美しい雪化粧した山の景色が広がっています。
「あー、すずしー……」
「湯冷めするわよ。アタシは毛皮があるからいいけど……」
冒険者は魔法で自分の体をコーティングします。
とりあえずは多少の寒さなら平気です。
「あら、いいのかしら。そんな魔法常に使ったら魔力尽きない?」
「大丈夫。さっきの温泉にマナ溢れてたから……かなり溜め込めたみたいだし……」
マナとは大地から溢れる魔力の源です。生命の源でもあります。
「さぁてと……まずは春の女王を探すべきだけど……手掛りはあるのか?」
トラゴロウへと尋ねる冒険者。トラゴロウは勿論と頷きながら歩きだします。
「あの子が言ってたのよ。ドラゴンと会えば呪いは解けなくても何か分かるかもって」
それを聞いて冒険者は様子がおかしいドラゴンの話を思い出しました。
おそらくトラゴロウも同じ噂を聞きつけて、この山に来たのでしょう。
「じゃあドラゴンの所に行って張ってれば……」
「来るかもね、もしくは既に居るかもしれないわ」
冒険者はドラゴンの位置なら経験で少しは分かりました。
まず、ドラゴンは暑い所を好む性質があります。もちろん例外もありますが。
「この山で一番暑い所だな。それって……」
「そうね、暑い所ね。そこは……」
二人は顔を見合わせます。
この山で一番暑い所と言えば、さっきまで自分達が入っていた温泉ではないかと。
「…………」
「…………」
二人は黙って引き返します。
しかし……
「迷った……」
洞窟から少し歩いただけなのに、もう何処か分からなくなってしまいます。
「いや、おかしいぞ……足跡はちゃんと残ってるんだ……迷う筈が……」
冒険者は嫌な予感がしました。
さっきまで洞窟があったであろう場所から自分達の足跡が始まっているのです。
「まさか……さっきの洞窟……」
「移動してるわね……生きてるのかしら」
冒険者は辺りを見渡します。心なしか洞窟を出た時の景色とは違う物になっている気がしました。
「山の主に遊ばれてるな。まずは主を探そう……トラゴロウ位置分かるか?」
トラゴロウはクンクン匂いを嗅ぎながら斜面を下り始めます。
「あったわ」
言いながらトラゴロウは地面を掘り返し、冬の珍味「雪キノコ」を見つけました!
美味しそうに雪キノコを頬張るトラゴロウ。
冒険者はトラゴロウの尻尾を思いきり鷲掴みにします。
「な、なによ! いきなり尻尾掴むとかセクハラよ」
「何キノコ掘ってんだ! 主探せ!」
トラゴロウは再び歩き始めます。
クンクン匂いを嗅ぎながら斜面を下り始めます。
「あったわ」
言いながらトラゴロウは地面を掘り返し、幻の漫画「魔法使いは眠い」を見つけました!
笑いながら漫画を読み始めるトラゴロウ。
冒険者はトラゴロウの尻尾に火を付けました。
「な、なによ! いきなり火つけるとかセクハラよ」
「セクハラで済むのか……」
トラゴロウは再び歩き始めます。
クンクン匂いを嗅ぎながら斜面を……
「いや、もうその下りいいから……さっさと主の手掛りを……」
「あったわ」
いいながらトラゴロウは地面を掘り返します。
「なんだ、次はゲーム機か?」
「主の足跡よ、地面にクッキリ刻まれてるわ」
トラゴロウは山の地面に刻まれた足跡の匂いを嗅ぎます。
「ドラゴンね。もしかして……」
「様子のおかしいドラゴンが山の主か……やっぱりさっきの洞窟が主の巣だったのか」
冒険者とトラゴロウはなんとか洞窟に戻れないか考えます。
「ねえ、さっきの温泉マナが溢れてたんでしょ? アンタなら感知できるでしょ」
冒険者は悩みます。そういう細かいのは苦手なんです。
洞窟に入った時ですら気づきませんでしたからね。役に立ちませんね。
「ぐっ……ぁ、そういえば……」
冒険者は指輪を見つめます。昨日より光が強くなっていました。
「この指輪の光が強くなる方に行けば……」
冒険者は辺りをグルっと一周するように歩きます。
そして光が強くなる方角を見つけました。
「こっちだ、行くぞトラゴロウ」
「はいはい」
二人は進みます。指輪の光が心なしか強くなっていきます。
「もう居るみたいだな……春の女王……」
「襲われてなければいいけど……」
二人の歩く速度はどんどん早くなっていきます、しまいには走り出します。
山道で走るのは危険なので止めましょう。
「はぁ……はぁ……お、だいぶ近い……と思うけど……」
「居ないわね……っていうか、もう山頂よ?」
二人はそのまま山頂へと昇ります。
太陽の光で雪がキラキラと輝き、山々の景色を見ながら二人は感動を覚え……
「いやいや、居ねえじゃん……感動してる場合じゃ……」
冒険者は指輪の光を確認します。光はどんどん失われていきました。
「ど、どうなってんだ……?」
「その指輪バグってるんじゃないの?」
電子機器じゃないんだからバグるなんて言葉は止めてください。
トラゴロウはクンクン地面の匂いを嗅ぎながら辺りを見渡します。
「さっきまでここに居たみたいね。匂いがまだ強く残ってるわ。まさか……」
二人は手で眩しい太陽の光を遮りながら空を見ます。
太陽の中に影が見えました。大きなドラゴンのようです。
「飛んだのか? いや、まて……あの方角……」
「こ、国境じゃない?! まずいわよ、ドラゴンに春の女王が乗ってたら……隣りの国は今春よ?!」
春の女王は冬が終わると死ぬ呪いが掛かっています。
国から出ても冬が終わってしまうのと同じ事です。
魔法使いはステッキを出して空に巨大な魔法陣を展開させます。
「ちょ! なにするつもり?!」
「打ち落とす。死にはせん……たぶん」
魔法陣はドラゴンが飛んでいる方角へ合わせるように動き、太陽の光を吸収して輝き始めます。
「ま、まちなさい! あんた手加減とか知ってる?!」
「問題ない、春の女王が死んだら元も子もない、ちゃんと死なないように……」
その時、魔法陣を剣が貫きました。
割れたガラスの様に魔法陣はバラバラに消えてしまいます。
「げ……まずい……」
冒険者は嫌な予感がしました。魔法陣を貫いた剣は明らかに騎士の物だったからです。
「そこのお前! 何してる!」
一人の騎士と思われる男性が冒険者の方へ走ってきました。
思わず冒険者は逃げてしまいます。
「ちょ……なんで逃げるのよ! 理由話せばいいでしょ!」
「お前追ってきたんだぞ! あの騎士……! あぁ、私も賞金首ってバレちゃうじゃないか……」
冒険者とトラゴロウは騎士から一目散に逃げようとしました。
しかし……
「う、うわぁー!」
さっきの騎士の悲鳴が後ろから聞こえてきます。
二人は振り返ります。
「あら……魔物……」
騎士は木に擬態していた巨大な猫の尻尾に捕まっていました。
「うお、珍しい。木の精霊だ……。あの騎士戦わないのか?」
「たぶん、さっきアンタの魔法陣に剣投げたせいで武器がないのよ。マヌケね」
二人は太陽を見ました。ドラゴンの影はもうありません。
その代わり指輪の光は淡く光り続けています。
「指輪が光ってるって事は……無事……だよな?」
「たぶん……」
「た、たすけてくれー!」
二人が冷静に分析している間に、騎士は猫にじゃれつかれていました。
尻尾で包まれながら頬ずりされています。
「仕方ないわね……」
トラゴロウは騎士で遊んでいる猫へと近づきます。
近づいてきた虎に猫はちょっと警戒しています。
「ほら、下ろしてあげなさい」
『うにゅぅ……そっちのお姉ちゃんで遊んでいいにゃ……?』
冒険者は首を振ります。
遊んでもらったらいいじゃないですか。
「ダメに決まってんだろ!」
『残念にゃ……』
猫は素直に騎士を解放しました。
トラゴロウはついでにと、猫へと聞きます。
「あんた達の主は何処? 一緒に女の子も居なかった?」
『主様は……えっと、言っちゃダメっていわれてるにゃ……』
猫は可愛らしく首を傾げながら言いました。
「よし、分かった」
冒険者は猫の前に出ます。
「話してくれたら幻の珍味。猫も大好きな雪キノコをあげようじゃないか」
『毎日食べてるにゃ』
ガクっと肩を落とす冒険者。
『言っちゃダメって言われてるんにゃから、言わないにゃ』
「よし、わかった」
冒険者は再びローブの中から漫画を出します。
「幻の漫画、『魔法使いは眠い』を進呈しようじゃないか」
『全巻持ってるにゃ』
ガクっと肩を落とす冒険者。
『言っちゃダメっていわれてるんにゃから、いわないにゃ』
「よし、わかった」
このパターン多いですね。繰り返すだけなんですけどね。
「そこの騎士……あげるから」
『わかったにゃ、にゃんでも話すにゃ』
「おい!」
騎士は慌てて逃げ出しますが、猫の尻尾に捕まってしまいます。
「それで? お前らの主は何処行ったんだ」
猫は騎士に頬ずりしつつ答えます。
『主様は最近、女の子にゾッコンにゃ。でもその子は呪いに掛かってて国から出れないにゃ』
うんうん、と冒険者とトラゴロウは頷きます。騎士はバタバタ暴れています。
『だから主様は湖の神様に頼みに言ったにゃ。呪いを解いてほしいってにゃ』
「湖の神様……」
冒険者はこの国に来るのは初めてです。でも神様と聞いて良い印象はありませんでした。
『じゃあ僕はお家に帰るにゃ』
言いながら騎士を連れて帰る猫。
騎士は助けを求めながら連れていかれました。
「いいの?」
「悲しいが仕方ない。彼の犠牲を私は忘れない」
次の日には絶対忘れてますよね。




