(3)
酒場で一夜を過ごした冒険者。
大きなアクビをしながら背伸びします。猫みたいです。
「ふぁ……あー……」
「おう、よく眠れたか?」
カウンターでは主人が朝食の用意をしてくれていました。
パンにホットミルク、サラダに卵焼き。
「うお、おっちゃん気が利くな」
冒険者はカウンターに座ると遠慮なく頂きます。
「今日、西の山行くのか?」
ミルクでパンを流し込みながら卵焼きを一口で食べます。
もっと味わって食べましょう。
「んー……うん、一応行ってみる」
酒場の店主は渋い顔をしながら、一枚の手配書を出して来ました。
手配書には虎の絵が書いてあります。懸賞金は金貨百枚です。数十年は遊んで暮らせます。
「ん? なにこれ……討伐依頼?」
「いや……今朝仕入れの時に聞いたんだが……コイツが西の山に向かってるのを見た奴が居てな。行くなら気をつけろよ。コイツだけが危ないわけじゃないが……」
冒険者は渋い顔をしました。
これだけの賞金が掛かっている魔物の情報です。
きっと他の冒険者や賞金稼ぎも西の山に入りこんでいます。
「こんな時に……いや、こんな時だからか? おっちゃん、この手配書貰っていい?」
酒場の主人は頷きながらホットミルクを追加します。
「気を付けろよ。お前さんだけが希望だからな」
冒険者は追加されたミルクの飲みつつ酒場の主人へと微笑みました。
「大丈夫大丈夫、私強いから」
そのまま店主にお礼を言いながら酒場を出る冒険者。
「私、こいつ以上に懸賞金掛けられてるし……」
自分の手配書が、この国に出回ってない事を感謝する冒険者でした。
街から離れて西へと向かう冒険者。一人寂しく徒歩での移動です。
「あー……今日は雪降ってないな……」
でも地面には雪が積もっています。雪原に足跡を残しながら冒険者は進みます。
しばらく進むと、違う足跡がいくつも残されている事に気が付きました。
雪が降ってない為に残されたようですが、まだ新しい足跡のようです。
「人間……5、6人は居るかな……うっわー、しかもこの靴跡……騎士じゃん……」
虎の魔物を討伐する為に騎士が動いていました。
非常にめんどくさい相手です。
「あの懸賞金で六人の騎士って事は……結構な精鋭か……ただ舐めてるだけなのか……」
考察しながら冒険者は進みます。珍しく冒険者っぽいですね!
「うるせえ……」
ようやく山へと入った冒険者。
入った瞬間吹雪いてきました。まるで冒険者を歓迎しているかのようです。
「どう考えても拒否られてるだろ?!」
フードを深く被りながら、我慢できない冒険者は魔法を唱えます。
冒険者を包み込むように赤い球体が現れました。雪が当たると溶けて消えていきます。
「あー、無駄な魔力使いたくないんだけど……」
進むにつれ吹雪は強くなります。大歓迎です。
「はいはい、そうですね! つか前見えねえ……とりあえず何処か……」
冒険者は避難する為の穴倉か洞窟を探し始めます。
しかし山で迂闊に入ってはいけません。もしかしたら猛獣の巣かもしれませんからね。
「だよなぁ……でもこのまま進んでも確実に迷う……」
辺りを散策しながら進む冒険者。
どんどん吹雪が強くなる中、洞窟を見つけました。
「よっしゃー! さむっ……くない……」
洞窟の中に飛び込む冒険者は違和感を感じます。
妙に暖かく、湿気が凄かったからです。
「魔法……じゃないな、奥に何かあるのか……?」
ステッキを構え、先端の宝石で先を照らしながら進みます。
なかなか大きな洞窟です。
「山の中にこんな広い洞窟……もしかして……」
冒険者の脳裏にドラゴンの話が浮かびました。
こんな洞窟は大抵ドラゴンの巣なのです。
警戒しながら少しずつ進むと、開けた空間に出ました。
そしてその空間に暖かさの原因がありました。
「温泉……? 洞窟の中に……すげえ……」
冒険者はドラゴンの気配が無い事を確認すると、真っ暗な洞窟の中を一望できるくらいに明かりを灯します。
しかし温泉の中に
「いいお湯だわ」
虎が冒険者を見ながら温泉に入っていました。
しかも渋い声で喋りながら、なぜかオネエっぽい口調です。
「………何お前……」
「いきなり失礼ね。私は温泉に入ってるだけよ。入りたいならアンタも入ったら?」
冒険者はローブの中から例の手配書を取り出しました。
そして見比べます。手配書に書かれた独特な虎の模様が完全に一致しました。
「お前……トラゴロウか」
「あら、バレちゃったわ。何アンタ。賞金稼ぎ?」
冒険者は頭をポリポリ掻きながらローブを脱ぎ捨てます。だんだん熱くなってきたからです。
「私は冒険者。お前の賞金に興味はない」
「あらそう。良かったわ、シンシア」
冒険者は驚きます。
自分の名を虎が知っていたからです。
「アンタは金貨千枚掛けられてたわね。たいしたワルじゃない」
「別に悪い事したわけじゃないし……」
冒険者はため息を吐きながら服を脱ぎだしました。温泉に入る気マンマンです。
そこでポケットの中の指輪を確認します。
指輪は出発した時より、強く光っている気がしました。
「あら、その指輪……あの子も同じの持ってたわね」
トラゴロウの言葉に冒険者は反応しました。
あの子ってどの子?
「あの子ってどの子?!」
「ハモったわね。んー……実は私も探してるのよ。その子。良かったら手組まない?」
冒険者は服を全て脱ぎ捨て指輪を嵌めながら温泉へと入ります。
「まずは情報よこせ。それから組むかどうか決めてやる」
激しく上から目線です。
「仕方無いわね……アンタ、春の女王探してるんでしょ? あの子、とんでもない呪いに掛かってるのよ。それを解く為に旅してるって聞いたわ」
呪いと聞いて冒険者は眉間に皺を寄せます。呪いといっても色々あるのです。
「どんな呪いなんだ、私なら大抵の呪いは解呪できるけど……」
「無理ね。だってあの子の呪いは冬が終わると死ぬっていう呪いよ」
冒険者は驚きました。
そりゃそうです。冬が終われば死んでしまう呪いです。
つまり、春の女王が塔にはいると
「死ぬ……? いや、でも……」
冒険者は冬の女王が言っていた事を想いだします。
『彼女は……呪いに掛かっています……でも、それを国民や王様に知られる訳にはいきません……』
なんで知られてはいけないのか、が気になりました。
そんな呪いに掛かってしまったのなら、すぐさま王様に報告すべきです。
そうすれば何らかの対応をしてくれるでしょう。
「それで……トラゴロウはなんで春の女王を探してるんだ……?」
「決まってるじゃない。助けたいからよ」
冒険者は迷いました。
春の女王を助ける、はたしてそれが彼女の望みなのかと。
珍しく真面目に悩んでます。
「なによ、アタシの言ってる事そんなに変?」
「いや……旅してるって言ったな。春の女王……。塔にさえ入らなけりゃ……楽しいんじゃないかなって……」
トラゴロウは首を振って否定します。
「春が訪れない国をずっと旅してるのよ。この国から出ても死ぬわ。そんな旅……楽しいわけないじゃない」
冒険者は想像しました。
冬は何もかも白で埋めてくれる季節です。
でも白い大地を延々と彷徨っている春の女王。
「そうだな……どうせなら……もっと楽しい冒険したいよな……」
冒険者はトラゴロウの前足を掴んで握手? します。
「契約成立だ。よろしく頼む、相棒」
「良い顔になったじゃない。裸の付き合いの成果かしら」
トラゴロウとシンシアは協力して春の女王を助ける事にしました。
でも二人は知りません。
冬の女王が同じ呪いに掛かっている事に。




