(2)
冬の女王様の元を訪れた冒険者。
テーブルの上には豪華な食事が並びました。冒険者は遠慮もせず口に運びます。
「うっま……ナニコレ……」
ガツガツ食べやがります。
それに対して女王様は食事を摂っていませんでした。ココアを一口二口飲んでいるだけです。
「ん……? 食べないの……?」
「いえ、私は……」
女王様は一日に最低限の物しか食べませんでした。
もしかしたら責任を感じているのかもしれません。冬を続かせているのは自分なのです。
自分だけ食事を満足に摂る事に罪悪感があるのでしょう。
「なるほど……」
でも冒険者はお構いなしにパクパク食事を摂ります。
「でもそんな事気にする必要ないだろ。そもそも……こんな塔に閉じ込めて季節を巡らせるって……言い方悪いけど生贄だろ」
言い方悪いですが、その通りです。
女王様はココアのカップを握りしめながら、冒険者を見ました。
今までこんな事を言ってくれる人が居なかったからです。
「貴方は優しい方ですね……。今までも貴方に救われた人が大勢いるんでしょうね」
「えっ……いやぁ、どうかなぁ……」
自分の冒険譚を語り始める冒険者。
色々な国を渡り歩き、様々な不思議と出会い、この世の物とは思えない綺麗な景色を見た事を語ります。
女王様は興味深そうに耳を傾けていました。
「それで―……喋るクマが居て……ぁー、あの時食べた魚旨かったなー……今度持ってこようか?」
「魚をですか……? 私としては喋る熊さんの方が気になるのですが……」
女王様にとっては夢のような話でした。
どんどん冒険者の話に夢中になってしまいます。
でも夢中になればなるほど、とても悲しい気持ちになってしまいます。
冒険者も悲しそうな顔をする女王様に気が付きました。
「どうした……? つまんない?」
「いえ……とても面白いです……面白いんです……でも……」
冒険者はなんとなく察します。
女王様はしたくても出来ないのです。
この世界を冒険することは敵いません。
「連れてってやろうか。私と一緒に冒険しよう」
冒険者の言葉に、女王様は微笑みながら首を振ります。
「私は……ここから離れる訳には行かないのです……きっと……春の女王も同じ気持ちです」
「ぁ、そういえば……春の女王は何してんだ?」
女王様は目を反らしながら呟きました。
「彼女は……呪いに掛かっています……でも、それを国民や王様に知られる訳にはいきません……」
「呪いって……どんな……」
女王様は意を決して冒険者を見つめながら言い放ちます。
「冒険者様……どうか……彼女の呪いを解いてあげてください。そうすれば……私と彼女は交代することが出来るでしょう」
漠然とした依頼に、冒険者は腕を組んで考えます。
そもそも春の女王は何処にいるのでしょう。
「うん……春の女王って何処にいるんだ?」
冬の女王様は人差し指の指輪を取り、冒険者へと手渡しました。
「その指輪の宝石は春の女王と共鳴します。春の女王に近づけば近づくほど宝石は光を強くするでしょう」
冒険者は淡く光る宝石を見つめていました。
間違っても売っちゃいけませんよ。
「んなことしねえよ……」
冒険者は食事を終え立ち上がりながら
「ご依頼、お受けいたしました。女王様。報酬は……この食事ということで……」
珍しく礼儀正しく、そのまま冒険者は出て行きます。
残された女王様は小さく呟きました。
「ごめんなさい……」
塔から帰ってきた冒険者は、再び酒場へと戻ります。
もう酒場は真っ暗でした。それでも遠慮なく鍵を魔法で開けて中へと入りこみます。
「おっちゃーん! 酒ー」
「おい、ふざけんな。もう店じまいだ、帰れ帰れ」
冒険者はポケットから淡く光る指輪を取り出し店主に見せました。
「春……くるかもよ?」
酒場の店主は目を疑いました。
冒険者の持つ指輪は季節の女王がそれぞれ付けていた物だったからです。
「おま……それ……マジか?」
「マジマジ。と言うワケで情報収集したいんだけど……なんか妙な噂とか聞いた事ない? どんな事でもいいから」
冒険者は店主がしぶしぶ出したエールに口を付けながら聞きます。
店主は腕を組み、他の冒険者から聞いた話を思い出しました。
「そういえば……西の山に様子のおかしいドラゴンが居るって聞いたな。数か月前に……」
「西の山……どんな風に様子がおかしかったんだ?」
酒場の店主は首を傾げながら
「さあな。様子がおかしいって聞いただけだしな。詳しい事は知らねえ」
「分かった。あんがと」
冒険者はエールを一気飲みすると料金を多めに渡します。
「今夜だけ寝床貸してくれ。宿屋はどうせ一杯だろ」
「仕方ねえな……暖炉に火つけてやるから、ここでいいか?」
冒険者は十分だと頷きながら今夜はここで寝る事にします。
一応女の子なんですから、ちゃんとした所で寝ましょうよ。
「一応って……」




